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異世界八険伝【旧】  作者: AW
勇者の召喚、そして旅立ち
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8.森のクマさんに注意

レベル2にして既に人類平均値を超えたボク。まずはレベル3、ステータスオール2を目指し、大森林での狩りは続く――。

 森の獣道を、太陽を背に進んでいく。


 最初に戦った場所を過ぎた途端、また例の黒兎さんと遭遇したけど――たった2発で倒せた。


 レベルアップでステータスが上がったせいか、身体は軽いし力も沸いてくる。鉄の棒なんて片手でブンブンできる。なにより、兎さんの攻撃なんて、ちゃんとタイミングを合わせれば余裕で躱すことができたよ!


 これがこの世界の人類平均値の実力なんだね。日本人の中1男子より強いと思うよ? 最低でも高1男子くらいはありそうだ! さすがは剣と魔法のファンタジー世界ってところですね。



 それと――要検証事項の1つにさっそく結論が出たよ。

 経験値を積みながらコツコツ強くなる説ではなく、ステータスの数値アップによる強さ更新説の方が有力みたい。つまり、基礎能力はステータスに直接依存しているパターンだ。レベルさえ順調に上げていけば、無双も夢じゃないってことなんだね!


 ってことは――逆に考えると、同じ数値でも慣れば慣れるほど強いということも確かな事実だ。だって、同じレベル1でも、最初のバトルと最後のとではかなりの差があったんだから。


 婆さんが言ってた、『たかがステータス』ってのはこのことか。勿論ステータスが高ければ高いほど良いのだろうけど、“ステータスが低いのに強い”とか、逆に、“高いのに弱い”ということもあり得る訳だね! 簡単に言えば、数値に表れない戦闘経験や慣れという感じかな。まぁ、そういうのはあって当然の要素なんだけど、肝に銘じておこう。



 レベルアップまで、あと3匹かな~、4匹かな~、早くお風呂に入りたいな~。もう面倒くさいからさぁ、ザコは纏めて掛かってきなさい!





 な~んて、ボクにも甘い夢を見ていた時期がありました――。


 彼(彼女)に遭うまでは。



 15メートルくらい前方、大木の木々の隙間に聳え立つ黒い影――見間違えではない、あれはクマだ。


 二本脚で立つその身長は、3メートルくらいか!? 一般家庭の家の天井より高いくらいをイメージしてほしい。



 やばい。

 でかい。

 こわい。



 およ?

 しゃがみましたよ。

 頭が草の上からちょっとだけ拝めます。



 どうする?

 どうする?

 君ならどうする?



 ポーションは僅かに2本。

 ステータスは人類平均値+α。

 当然、鑑定眼は効かない。



 奇襲か!?

 クマだけど、トラトラトラ?



 何かのアニメで見た気がする。

 獲物を仕留める瞬間こそ最も大きな隙ができる?

 漁夫の利作戦、もうそれしかないでしょ!



 どうやら、状況はまさにそんな感じ。

 異世界人生、最大のラッキーチャンス到来だ。

 と言っても、まだ始まったばかりだけど――。



 どうやら、クマさんは獲物を見つけたみたい。


 あ、獲物=ボクじゃないよ? 流石にまだバレてはいないはず。まさか、魔物同士が結託して善良な勇者の卵を倒すための作戦会議中――というトラップカードでもないはず! クマさん、ボクはあなたを信じてるよ。


 見つからないように後ろから近づき、後頭部をバチコーンする、そうすれば必ず勝てる、そんな気がする。見つかったら負け、見つかったら死ぬ。いや、死ぬ前に逃げよう。獲物よりボクの方が美味しそうに見えなければ――きっと大丈夫なはず。


 こういう場面に遭遇しちゃうと、キャラ設定が正しかったのか自信が揺らぐ。やっぱり加齢臭漂う好好爺然としたキャラを作れば良かったのかってね。いや、敏捷0.15じゃ村に戻るのにも数日は掛かりそうだし、却下だ!



 よし、警部!

 尾行を開始します!



[ステルス!]


 あれ?



[光学迷彩!]


 あれれ?



[隠術!]


 あれれれ?




 そっかー、そうだよね。

 そんな先天スキル覚えて無かったし!

 てへっ!



 差し足、抜き足、忍び足――だっけ?

順番が分からないけどいいや。


 銀髪は森の中でも目立つかもだけど、フードを下ろせばこの土っぽい感じの地味系な服がカバーしてくれる。そう、ボクは地味人間。今は芋女として、まさに自然と一体化している。だから誰にも気付かれない、きっと大丈夫だと思う。



 あっ!!


 クマさんが兎さんと見つめ合っている!


 これは――不倫現場?


 いやいや、今にもお互いに命の奪い合いが始まりそうだよ!



 普通、兎は逃げるよね。

 だけど、逃げる気配がないぞ? 勝算があるのか? それとも逃げるという選択肢を魔物は有していないのか!?


 気が強いと言うか、蛮勇と言うべきか――胆力がハンパない! ボクより弱いはずの兎さんがあの巨大クマに挑む姿は、あの伝説の大相撲対決、“〇錦VS舞の〇”戦を彷彿とさせる。どうしても、“兎さん頑張って”と応援したくなる!



 下草を掻き分けて慎重に近づく。


 あと5メートル――。

 よし、気付かれてない。



 あと4メートル――。

 この木の裏で待機だ。

 これが限界、もう無理、怖い!



 一発で仕留める!

 ボクの一撃はドラゴンの鱗をも貫くんだ!!

 そんな気持ちでいく、気持ちだけ勇者になれ。




 兎が先に仕掛けた!


 クマはカウンターで右フック!


 兎がサイドステップで華麗に躱す!


 クマはバランスを崩しながらも、体当たりを仕掛ける!



 ちょっ、待った!


 いろんなケースをシミュレーションしておかないと!


 まずは、最悪なケース。決着がつく前に仕掛けて、一撃で仕留められなかった場合――ボクは大小2匹の魔物を相手にすることになる。パワー型のクマ、敏捷型の兎――この1対2のパターンは危険だ!


 次に、ラッキーなケースだ。十中八九クマが勝つとは思うけど、万が一兎が勝ちそうなら、クマへのラストアタックはボクがいただこう。多分、2連戦になっても大丈夫なはず。


 まぁ、順当にクマが勝つようなら、兎がやられる瞬間ではなく、兎がやられて安心しきったところを強襲するのもありだね。運良く兎のトドメがさせればなお良し!



 ボクが両手でグーパーしながら脳内シミュレーションを繰り広げている間も、クマと兎の戦いは続いている。


 

 クマの体当たりが全く当たらない!


 兎はやっぱり敏捷が高いんだね、ボクの攻撃も最初は全く当たらななかったし。


 兎がクマの脚に噛みつく!


 ボクもそうやって手足を狙われたな――。


 あ!

 でも、それは今、悪手だ!

 もっとヒット&アウェイを徹底させないと!



『バキーンッ!! 』


 クマの左爪が兎を捉える!


 兎はこっちに向かって吹っ飛び、ボクの前にある大木に当たってダウン――。



 ――まだ分からない!


 クマの攻撃直前に、兎が自分から吹っ飛んだように見えたんだけど――よくある、“相手を油断させて大逆転を狙う”起死回生の作戦だ! 魔物って、意外とクレバーなところがあるんだね!


 ボクは冷静、ボクは冷静――まだ仕掛けない。


 兎がクマを追い詰めた瞬間こそが狙い時だ。



 クマは、チャンスと見るや、一気に首元へ噛み付いた!


 兎は――。


 あれ!?

 ガツガツと喰われちゃってるよ?



 まずい、タイミングが遅れた!!


 漁夫の利作戦が台無しじゃないか!!


 もう、一か八か、仕掛けるしかない!!



 クマは食事に夢中だし、斜め後ろの死角は確保できる。



 手汗を拭う。


 息を殺してそっと後ろから回り込む。

 

 彼我の距離は2m!


 鉄の棒を大きく振り上げ、一気に踏み込む。


 そして――クマの後頭部目がけて全力フルパワーで振り下ろす!!



『ガツン!! 』


 当たった! センター前にクリーンヒット!!

 どうだ、ドラゴンの鱗をも貫く会心の一撃の味は!




 頭から血を流したクマさんが、真っ赤に充血した眼でボクのことを睨んでますよ――。


 足りない!?

 何が?

 パワーだ、パワーが足りないんだ!!


 やばっ!


 もう作戦変更だ、ヤンキースキル発動!!


 2発目!


『バキンッ! 』


 3発目!


『ズゴンッ!! 』


 4発目!!


『バコンッ!! 』




 クマの口がゆっくり開く――どちらかの血で真っ赤に染まった牙がちらりと覗く。


 これで滅多打ちにしてるのに、タフ過ぎでしょ!?


 逃げるべき!?

 もう、逃げるしかないよ!!



 ボクは振り返らずに、走る、走る、走る!


 追ってくる声は?


『グァ! ギャオ~!! 』


 ある!!



 木々を縫うようにして走ると、前方が木漏れ日で明るくなってきた。木々が疎らになってきたんだ。森が切れる、もしかして逃げきれた!?


 違う!


 期待が、絶望に変わる――。


 ヤバイ、崖だ! 崖に出ちゃったよ!!

 誰だよ、こんな所に崖を置いたのは!!



 駄目だ、逃げられない――もう戦うしかない!


 背水の陣で頑張るんだ、後ろ崖だけど。

 もしかして、うまく誘導すれば崖から落とせる?

 どうだろう、あんまり端っこに寄りたくないな!



 クマは瀕死、クマは瀕死……。

 あと1発当たれば倒せるはず!!

 やるしか、もう、殺るしかない!!



 向き合い足を止めたボクを見て、ボクが諦めたと思ったのかクマもゆっくりと近づいて来る。


 間近で見ると本当にデカい!

 直立した姿は3mよりもっと大きそうだ!



 動きを見て、冷静にカウンターを狙うんだ――。



 クマの右フックがきた!


 ふっ、予想通りだ。

 サイドステップで躱す。

 兎さんありがとう、君の死は無駄にしない!



 クマはバランスを崩しながらも、体当たりを――。


 えっ、仕掛けない!?


 あれ!?

 

 ゲームAIじゃないんだから、さすがにワンパターンじゃないか!!



 クマの、踏み込みからの左ストレートがきた!


 クマパンチ速いっ!

 サウスポー? それは予想外!!


 ボクは咄嗟にしゃがんで回避!


 うっ、肩が痛いっ!

 パンチ当たっちゃったかも!



 緊急事態――。

 無我夢中でポーションをがぶ飲み、アドレナリンどっぷりの我ながら凄い判断力!



 クマはチャンスと見るや、口角をグワッと広げて噛み付きにきた!


 3m超の巨体が跳ねる!


 凄いド迫力!!



 カウンター、狙うのは今だ!!!



 ボクは左手でクマの鼻目掛けてパンチを放ち――いっ、手が痛い!!


 勢いを削がれたクマを右ステップで躱して、両手に持ち替えた鉄の棒を振り上げる!


 そして、全力全開フルパワーで――振り下ろす!!



『ガキーン!!! 』



 側頭部に強烈な一撃を受けたクマは、その場に蹲るようにして正座――白目を剥いて気絶している。


 残酷だけど、トドメをさそう。




 消えたクマの後には、[初級魔結晶]と[グリズリーの毛皮]が残っていた。


 これがグリズリー?

 ヤバつよ! 死ぬかと思った!

 兎VSクマを観てなければ、初見であんなに動けなかった――あれは危険すぎる!



 おっ!?

 レベルアップしてる!


 安全地点まで下がってステータス上げよう――。


 大分走ったみたいだったけど、聖樹結界からはそんなに離れていないことが分かった。偶然、村方面に向かって走っていたようだ。迷子の状態で夜を迎えていたらと思うと――背筋がぞくぞくっとした。




 ★☆★




[ステータスオープン]


 レベル3

 攻撃:1.50(+2.00)

 魔力:1.35

 体力:1.20

 防御:1.20(+1.50)

 敏捷:1.10

 器用:1.00

 才能:3.00(ステータスポイント2.00)



 あ、攻撃が0.5も増えてる!

 体力と防御が0.2、敏捷が0.1アップだ。

 

 フムフム――とりあえず、全部1.50に揃えてみるか。



 レベル3

 攻撃:1.50(+2.00)

 魔力:1.50

 体力:1.50

 防御:1.50(+1.50)

 敏捷:1.50

 器用:1.50

 才能:3.00(ステータスポイント0.35)



 おぉ、綺麗な数字~!

 よし、余りは全て魔力へドーン!

 いつの日か魔法が使える日が来ますようにと、祈りを込めて。



 レベル3

 攻撃:1.50(+2.00)

 魔力:1.85

 体力:1.50

 防御:1.50(+1.50)

 敏捷:1.50

 器用:1.50

 才能:3.00(ステータスポイント0)



 これで完成!

 レベル2のときより、1.5倍強くなってる?

 もうグリズリーにも楽勝かな? いやいや、あれは無理です。しばらくは避けるようにしないと。命はたった1つしかないんだよ!!


 黒兎さん、もう死んでるかな~。ドロップを取りに行く元気が沸かないや。うん、諦めよう。



 手がヒリヒリすると思ったら、血が出てる!


 とりあえず、ポーションをかけてっと――おぉ!?

 ポーションって、傷跡も綺麗になくなるんだね。さすがは異世界、素晴らしきかなファンタジー!



 クタクタなボクは、崖下の川の水をアイテムボックス収納ギリギリまで入れた後、日が傾きかけた森を歩きに歩き、やっとの思いでエリ村まで帰還したのでした――。


 よし、お風呂に入るぞ!!

『森のクマさんの歌に全力でツッコむ』に挑戦。


【ある日森の中クマさんに出会った】いきなりピンチって計算高いシナリオだね


【花咲く森の道クマさんに出会った】ピンチのはずがメルヘン感沸いてきたよ


【クマさんの言うことにゃお嬢さんお逃げなさい】クマ喋った!? 食事衝動を我慢してるのか!?


【スタコラサッササノサスタコラサッササノサ】本気で逃げてる様子が全く想像できない


【ところがクマさんが後からついてくる】危ないから逃げろって言っておきながら追いかけて来たよ


【トコトコトコトコとトコトコトコトコ】スタコラより遅いから追いつけないだろうね


【お嬢さんお待ちなさいちょっと落とし物】交番に持っていきましょうね


【白い貝がらの小さなイヤリング】よく森の中で見つけたね、本当にお嬢さんの物?


【あらクマさんありがとうお礼に歌いましょう】まさか、ジャイ〇ンコンサートじゃないよね


【ララララララララララララララ】まぁ、クマ相手だから歌詞が不要だとしても適当過ぎでしょ

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