3.魔法が使えない魔法使い
この世界には数値化された能力“ステータス”というものがあるらしい。僕は、まるでゲームのようなキャラクターメイキングを進めていき――リンネという12歳の銀髪美少女に生まれ変わった。
「おぉ、やっとお主の姿が見えたぞ。だが……何とも頼りなさそうなおなごじゃのぅ」
「外見で人を判断してはいけないって、学校の先生に言われませんでしたか? ウフフ? 」
うん、これぞ小学生的な発言。
でも、女の子言葉は――まだちょっと恥ずかしい。キモいと思いながらもしばらくは演じるしかない。いわゆるネカマっぽいけど、そのうち慣れるでしょ。
“~ですわ”、“~かしら”、“~のよね”みたいな、あざとい表現さえ使わなければ、僕の尊厳は辛うじて保たれる、はず。
「ステータスが低いとな? 人類の平均値が1.00だから、その小さな身体なら低くて当然じゃろ。因みに、3が達人、5が超人レベルだと言われておる」
「それにしても、0.25とか――残念過ぎます」
「なに、儂の敏捷なんぞ0.15じゃぞ? 所詮、ステータスなんぞは単なる数字じゃ。強さの基準になるとは言え、1つの目安に過ぎん。大切なのは“スキル”じゃよ。あまり他人にべらべら言わぬ方が良いぞ」
「分かりました、気を付けます。あと、HPとかMPが見当たらないんですが」
「ん? HP? MP? 」
「簡単に言うと、生命力と魔力量ですね」
「そんなもん、あっても当てにならんわ。たとえ生命力が高くても、ハンマーで頭を砕かれたら即死するじゃろ? たとえ初級魔法でも、込める魔力量によって効果は変わるものじゃ。魔力残量が尽きれば気絶するし、足りなければ魔法は使えん。つまるところ、そもそも数字化できぬということじゃよ。
まぁ、その辺は徐々に慣れるんじゃな。数字として見れなくても気にならないというか、見えると油断してしまうものじゃ。見えん方が却って良いこともある」
「そういうものなんですね。あと、才能って何ですか? 」
「才能とは主に成長力じゃな。これも人類平均値は1.0だと言われとる。わしの知っている限りじゃと、下は0.5、上は1.5らしいぞ」
「えっ? 僕は3.0らしいです。才能だけは達人級ってことですかね? 」
「3.0じゃと? それは本当か!? それも召喚による奇跡なのじゃろうが、もしそれだけの数値があれば、1.0を超えた分は自分で好きなステータスに割り振れるようじゃから、ステータスを思い通りに伸ばせるのぅ」
「え、どゆことですか? 」
「まず、1ポイントはレベルアップまでの経験から自動的に割り振られるのじゃ。例えば、剣で魔物を倒し続けても魔法力は上がらん。細かい点は分からんが、魔物の攻撃を躱すと防御や敏捷が上がるらしい。因みに、剣の素振りや対人戦闘でもある程度上がるようじゃが、それは1ポイントの枠内で処理されるらしいから、特に鍛えたいステータスがあるなら修行すると良かろう。残りの2ポイントは自由に割り振ることができそうじゃな」
「何だか難しそうですが、要するに3ポイントのうち、1ポイントは自動で、残りの2ポイントは自由に割り振れると――なるほどなるほど。あと、魔法はどうやれば使えるんですか? 」
「お主、えっと……名前をまだ訊いとらんかったか。魔法もスキルなので、先天スキルで得ていなければ、修練により身に付けるしか――」
「スキルが無いと魔法が使えないってこと!? あ、リンネです……」
やらかした!
既に詰んじゃった予感がする――。
「リンネか。スキルはある意味かなり希少なんじゃ。普通は冒険者ギルドで魔法書を買ったり、魔法が内包された武器や魔道具を使うんじゃ」
「冒険者ギルド!? まさに異世界ファンタジーだ! 」
「ファンタジーと言うほどの物ではないが、冒険者ギルドはある程度の町や王都にはあるぞい。武器や防具、魔法書や基本的な道具の類いが売られとる。冒険者登録をして、該当クエストをある程度こなせば冒険者ランクが上がるという仕組みになっておる」
「なるほど――」
あれ? 落ち着け自分!
魔法書を買うために剣で戦う→剣で戦うから攻撃力しか伸びず、剣で魔物を倒さないといけないから攻撃力にステ振りする→魔法力伸びない→魔法書を手に入れても脳筋扱い――。
これ、いけないパターンじゃん!?
「スキルもお金も無い人が魔法職を目指すには……どうすれば? 」
「1年間くらいここで修練すれば覚えられるかもじゃが、覚える頃に世界があるかどうかが問題じゃのぅ」
あ~、完全に詰んでる。
とりあえずお金を稼いで近くのギルドで魔法書を買うしかないか。
「魔法書はいくらくらいで買えますか? 」
「1番安い魔法書で5000リルくらいじゃな。かなり珍しいが、迷宮の宝箱や魔物のドロップでも手に入ることもあるそうじゃ。儂は少なくとも売り物以外からは入手したことはないがのぅ」
宝箱! ドロップ!
そっちの方ががタダで良いね! 宝くじ大好き! 多分、当たったことないけど。
そうだ!
お金の単位と価値は確認しなきゃ!
「リルってのはお金の単位ですよね? 」
「そうじゃ、銅貨1枚が1リル、銀貨1枚は銅貨100枚分で100リル、金貨1枚は銀貨100枚分、銅貨1万枚分で10000リルじゃ。魔法書を買うなら銀貨50枚以上は必要じゃな。5000リルと言うと、ちょうど中古の家が1軒買えるくらいの値段じゃ。故に、この世界の人類には魔法が使える者は少ない。元々魔法スキルを持って産まれた者か、何年も修練を重ねた者か、もしくは魔法書を買えるだけの裕福な者くらいじゃ。だいたい1000人に1人くらいじゃろ」
中古の家――だいたい500万円くらいか。最も安い魔法書1冊が500万円とか、厳しいぞ魔法!
ちょっと待って!
5000リルを500万円くらいだとすると1リルはいくらになる? 1000円くらい?
じゃぁ、時給1000円のアルバイトを頑張ったとして、1時間1リルを5000時間だから――つまり、1日10時間労働を500日!? そんなの絶対に無理だよ!! 武器なんて使ったことないけど、結局はガチ戦闘をやるっきゃないのか!
「魔法書を手に入るまでは、とりあえず村の外で武器で頑張ってみます――」
「勇者リンネよ、お主に渡す物があったわい! 何よりまずはそのダボダボの服をどうにかしないとな! 召喚した者の当然の責務じゃ。武器や防具、旅に必要な物を渡すので儂に付いて来なされ」
「えっ!? あ、はい! 宜しくお願いします!! 」
HPやMPは脳内ゲージで確認できるのみで数字化されていないようです。一応、該当ステータスに依存して増減しています。