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Il secondo movimento(第2楽章)-b

ベートーベンって魔法使いだったんでしょうかねぇ

「マジで女の子いないの? 好きな子とかいないの?」

「えっと」

どう返答すべきかこたえに詰まっているうち、一希はどんどん挙動不審になっていく。

「あの」

「付き合ったこととか、……もしかして、ない、とか」

「あの、ウイスキー来ましたよ。ボトルで」

「うん、ボトルで飲むのすきだからね、あたし。それはいいのよ。どうなの? 三月田君みたいな子が、女の子いたことないとか理解に苦しむんだけど」

杉本はウイスキーボトルに手を伸ばし、クイッとキャップをひねるとそのまま飲みだした。あ、ヤバイ人だと一希の体がこわばる。

「おっとお行儀が悪かったですねぇ。家にいるとさ、コップ洗うの面倒だからこのままいっちゃってるのよね」

「いや、氷とかいれましょうよせめて。ストレートは体にわる……」

「あーら心配してくれているのね? でもおねえさんはあんたのことの方が心配なんですけど」

からまれた。

困った。

どうしよう。

「声優ファンってこわいのよ? 届かない人を想うってのはねぇ、それはそれは、アカン方向に全力疾走してしまうから。声優に限らないけどね。俳優でも、作家でも、のめりこんだファンは怖い。『ミザリー』って知ってる? ただ、あたしたちにとって声優さんとのつながりは命綱みたいなところもあるからね。声が気に入ったから見るってことも、声優さんが好きだから見るって人も多い」

「キャラデザもな! 俺の結構いけてるだろ?」

「あら、神谷くん」

キャラクターデザイン兼、総作画監督の神谷だ。

「俺の絵が好きだってのがきっかけで見てくれる人もいるし、三月田君の音楽が好きだからって人もいるよねえ」

「そうそう」

「で、なんの話?」

ああ、やめてくれと一希は願う。そして願いはいつも空しい。

「三月田君に女がいない」

「ん? そうだろ。見事に女の影がないよな。三月田君。大丈夫なのか?」

「過去にもいたような感じがしない」

「そうかもなぁ……ありうるかもなあってそうなんか!? マジで? ほんとに?? どうやって生きてきたの」

「やめてください……」

 打ち合わせだ。2期の打ち合わせだって言われて来たのになんてこった。どうしてこうなった。

「いい子知ってるよ? 紹介するよ? あ、もしかして男の子のほうがいい? いいわよ、いくらでも紹介するわよ。どっちでもいいわよ?」

杉本は片手で氷なしのロックグラスに麦茶のようにウイスキーを入れ、あおる。

神谷は首を横に振りながらそっと一希の肩に手を置いた。

「三月田君……、君は魔法使いになりたいのかい」

「はぁ?」

「えーなに、魔法使い? なにハリポタの話?」

「ちがうちがうもっと深刻! なんと三月田君がこのままだと魔法使いになってしまう!」

「ちょ……」

「え、彼、そうなの?」

「いや、その、だから」

店の女の子も興味津々で体を向けてくる。

「魔法使いって……そういうこと?」

「やめてくださ」

「あー、じゃあアタシがんばってみようっかなー」

「マジでー?? アタシもー!」

キャハハハー と嬌声があがる。ああ、みんな自分で遊んでるんだと一希は頭を抱えてうずくまった。

「ヤダァかわいい☆」

「いつでも連絡くださいよぉぉ、なんて。キャハッ」

女性とちゃんと付き合ったことがないのは確かだ。小学生の頃のトラウマが抜けないのか、まだどこかで女とは恐ろしい生物という思いが抜けないでいる。キャバクラに抵抗があるのはそのせいかもしれない。他の男たちは上機嫌だ。監督なんて特に。

嵐が過ぎるのを待つしかないかと、ポッキーに手を伸ばしたときふと頭をよぎった。花の姿だ。

花のことは最初から怖くなかったな。そういえばなんでだろ。

「三月田、今度いい店紹介するから行こう、な」

すごく哀れんだ声で背中を叩かれる。

いや、そういう店に興味ないですからとか言える雰囲気でもないし。そういうことに金をかけるなら、機材欲しいし。

ああ、いっそ叫んでしまおうか。もうどうでもいいや、よし!

一希が決心し、立ち上がろうとした時、監督の大きな声が響いた。

「ココでェェェぇ、発表がぁぁぁぁ! ありまあああああす!」

場が静まる。他のBOXまで静まっている。

「監督、できあがっちまってるな」

三谷が小さくつぶやいた。

「2期を前にしてぇぇぇぇ! コンサートを開催いたします!」

「あ?」

「ファン感謝祭的なものでぇ? オーケストラ呼んで……オラ、三谷も神谷もくるんだぞわかってんのか」

「あ、はい」

「三月田君にアレをぉ振ってもらいますぅぅ、そのぉぉぉナニをぉぉ」

「ナニってなんすか!!」

「やあだ監督サァァン」

一希は叫ぼうとした口そのままに、あんぐりと開け放したまま呆然とつったっていた。

そっとその口にポッキーを突っ込む杉本。

「ああ、指揮! 指揮な! こいつ顔だけはいいし、人気しょーしょーちゅうだしぃ、多分人はあつまる! だいじょうぶ元とれる!」

「え、監督、僕そんな話知らな」

「よろしくな! みつきぃぃだぁぁぁくんんんん!」

女の子の嬌声と、男たちの叫びと、唖然とする一希と、ボトルを飲み干し追加の注文をしている杉本で、しばらく阿鼻叫喚もかくやという時間が過ぎた。


ではまた、次回。

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