第7段 或る貴族、内裏へ行く。
今回は少し分量多目です。
読了までなろう基準で5分程度でしょうか。
どうも。まだ6歳の竹千代です。
実は、今日もまた遊びに行こー!と思ってたら、実資が「今日はさすがにダメ」と言うので今日はあきらめた。まあ、貴族の身分でここまで自由に外出してたから、まあ今日ぐらいいいかって感じです。
で、どうするかって言うと、今日は内裏に行くらしいです。行きたくなーい!だって面倒くさそうじゃん。
でもまあ、仕方ない。これも父親孝行の一環で。
「わが子よ。準備は良いな。では参ろうぞ」
いつもは馬だが、今日は牛車らしい。大体、小野宮第から内裏まではたいした距離じゃないんだから馬とか、歩くとかすりゃあ良いのに。体に良くないよ。
「ねえ、今のお上(天皇のこと)は何というの?」
「永延帝さまだな」
永延帝いや、後世では一条天皇と呼ばれているが、生まれたのは980年。つまり俺とは6歳しか違わないのだ。いやあ、立派だねえ。だって、6歳からずっと国家元首でしょ。
すごすぎぃ!
内裏には一度だけ2歳かそれくらいに来たきりだ。この建物、いや内裏というもの全体がものすごいオーラを発していて、飲み込まれてしまいそうなくらいだ。
俺は実資に従い、清涼殿の東孫廂に向かった。そこには御簾が掛かっている。その向こう側に帝と摂政の藤原道隆が来るようだ。
藤原道隆。いつか滅ぼすべき、藤原北家九条流のボスだ。
『おぬしは、前にもここに来たのを覚えておるかね?』
いきなりにして久しぶりに登場した俺のひいじいちゃん実頼にびっくりした。
『うわ!何だよ今頃!』
『久しぶりなのにその言い方は無かろう!おぬしが参内するというから来てやったのに』
『わかったから、少し黙ってて』
間もなく、帝とその摂政・藤原道隆が来た。俺と実資は頭を下げた。
先に口を開いたのは、道隆だった。
「実資殿、そして竹千代殿、よくぞおいでくださいました。特に竹千代殿、帝はあなたに会うことをとても楽しみにしていらっしゃったのです。今日はぜひ、あなたの筝を聞かせていただきたい」
「はい、ありがとうございます」
「よぉ来たな。竹千代!お前のことは女房たちが噂しとってな、筝を聞かせてぇな!」
ふーん。仮にも一国の元首ともあろうお方がそんな言葉遣いを・・・。
ていうか!なんで俺の話が内裏にまで伝わってんだよ!
は!・・・さてはこのクソ親父!
『実資が言いふらしておったぞ・・・』
死ねーーー!このクソ狸親父め!
「はい・・・。ありがたき幸せと存じます」
この後、実資(クソ親父)と道隆が他愛の無い会話をした。まあ、一応、ライバル?敵な関係だし。三位と一位では階級差がありすぎる。込み入った話は出来ないだろう。
「なあ、道隆。ほな、そろそろ筝に移らへんか?」
「ああ、そうですねえ。よろしいですかな、実資殿」
「ええ、構いませんよ!」
クソ親父め!てめえがやらねえからって、勝手なこと言ってんじゃねー!
「竹千代!何か聞かせてくれ!お前は普通とは違う曲を奏でるそうじゃないか!」
ええ、そうでしょうね。だって、雅楽なんか知らないから、俺の時代のヒット曲垂れ流してるだけだもん。そりゃ、この時代じゃ聞けない曲でしょうね。
しかし、選曲に迷うのだ。いつも弾いてるような、ポップな感じでいいのか、それともバラード調の静かな曲で行くのか。
個人的にはポップなやつでいきたいのだが、それにしてしまうと、弾きながら歌ってノリノリという、貴族としてあるまじき行動をとってしまうのだ。
ドウシヨウ・・・。
あ!そうだ!帝に聞いてそっちをやればいいんだ!それなら、「帝のご意向に従ったまで」って言い訳できるし!
「あのお・・・。帝は調が早い曲がよろしいか、それとも調の遅い曲どちらがよろしいでしょうか?」
「うむ・・・。道隆はどないに思う?」
「私は調の早いほうを聞きたいですねえ」
こいつ!笑いやがった!俺がどうなるかこいつ知ってんぞ!
「道隆もそうなら、せやな。調の早いほうな!」
マジですか。仕方ねえええええ!
俺は「ミコミコ動画」にうpされていた、黒ねずみPの「千本橘」を弾いた。曲的には、和楽器でのカバーも比較的多い曲なので、不自然な感じはしなかっただろう。
あとな、出来るだけノラないようにがんばったよ。つらい。
「へー!なかなかおもろい曲やなぁ!これ、竹千代が全部曲作ったんか?」
「え、え・・・。ま、まあそのようなものですな・・・。はははは・・・」
まあ、バレないよね。
と、その時。
ばっさー!
「なあ、竹千代!俺に筝を教えろや!俺、笛は少し出来るんけども、筝がまったくできんのや!」
「帝・・・。」
「なんや」
「出てきちゃ、だめっしょ・・・」
「・・・」
「帝!何やってるのですか!御簾の中にお戻りください!」
「うるせー道隆!さあ、竹千代!教えろ!」
マジですか。(2度目)
「仕方ありませんねえ。竹千代殿、いいかな?」
俺は実資に助けの視線を送る。
「わが子よ!せっかくの機会だ。お教えなさい!」
クソ親父めええええ!
「わかりました。お教えしましょう・・・」
「おう!頼むで!」
こうして、俺と一条天皇は週に二度、直接対面して昼座所で筝を教えることになった。
確かに帝は、筝に関しては全くダメだった。しかし、笛に関しては、まさに当代一といっても過言ではないくらい上手だった。
しかし、教え初めて半年。帝は教えても一向に上達しなかった。
「帝、そろそろ筝はあきらめたほうがよろしいのでは・・・?」
「竹千代!おま、おめーなんちゅうこと言うんや!」
「筝はここまでやって出来ないのなら、これから出来るとは失礼ながら思いません」
「だからって、やめろて言うんか」
「帝の笛はいま、この世にいる者の誰よりもお上手だと私は思います。私はぜひ帝は笛で、私は筝で、共に同じ曲を奏でてみたく存じます」
帝が考え始めた。さすがに、臣下の人間、しかも年が6歳も下の子供からそう言われているのだ。しかし、筝を教えてきたが、才能がないようにしか見えない。でも、笛はさっきから言ってる通りだ。帝の笛と俺の筝でタッグを組めば、この時代では最強の2人組アーティストが出来る気がするのだ。
「よし・・・。せやな!いっしょにやろうぜ!」
いきなり俺に抱きつく帝。・・・苦しいですから離れて・・・。
「は・・・はい!よろしくお願いします・・・。くるじいい・・・。」
「お。すまんな」
「それから、お前に『帝』とか言われると気持ち悪いから、懐仁って呼んでいいぞ!」
「そ、そうですか」
何はともあれ、ここに日本初のJ-POPミュージシャン×2が誕生したのだ。
じゃ、また。