第6段 或る貴族、庶民の子供たちと遊ぶ。
うっす。お久しぶりでやんす。竹千代6歳です。時は正暦3年(992年)です。
俺の前世は庶民。ごくごく一般的な家計の家です。ハッキリ言って、俺が私立大学に行くとちょっと困る・・・くらい。
だから、現世での貴族の暮らしは少し窮屈です。まあ、好き勝手やってますけど。
さて、俺はまあ、ある意味トンデモな好き勝手をやろうと思い、舎人を2、3人買収した。
その計画は・・・俺、庶民の子供と遊ぼう!計画だ。
拍手!・・・またないの?え、そんなの無理?いや、別にコミュ力は高いほうだから何とかなる。いや、何とかするのだ!
と、言うことで。桜咲く春の早朝。俺は羅城門と東寺を見てくるといって家を出た。
「行ってまいります!」
「なあ、本当に一緒に行かなくて大丈夫か?」
「ええ!頼りになる舎人もいますし、父上は来ないで!」
「お、そうだな・・・」
6歳の子供に来ないで、と言われる親。俺はなりたくない。
ところで、俺はこちらに来てから一般的には『場末』と呼ばれる、八条や九条の辺りにはきたことが無い。聞いた話によれば、とてつもない貧民街らしい。しかし、八条の辺りは現代で言えば京都駅周辺の繁華街だ。時代の差ですな。
現代の京都には通称『通り歌』と呼ばれる歌がある。
まるたけえびすに おしおいけ
あねさんろっかく たこにしき
しあやぶったか まつまんごじょう
せったちゃらちゃら うおのたな
ろくじょうさんてつ とおりすぎ
ひっちょうこえれば はっくじょう
じゅうじょうとうじで とどめさす
丸竹夷二押御池
姉三六角蛸錦
四綾仏高松万五条
雪駄ちゃらちゃら魚の棚
六条三哲通りすぎ
七条越えれば八九条
十条東寺でとどめさす
いい歌だろう。大体、グー〇ル先生に『京都 通り 歌』で調べると聞ける。俺の幼馴染や姪っ子たちが七五三の時に着物に鞠つきをしながら歌っているのは、なかなかかわいかった。それに、なかなかいいリズムの歌なのだ。
しかし、この時代はその通りの名前が違う。だいたい、最初の丸太町通も竹屋町通もないのだ。出鼻くじかれ感半端ないっす。
え、著作権の問題だって?でもこの歌、作者も何も解らないし、相当昔から歌われたてたらしいから、著作権もうないでしょ。
小野宮第(家)から8条の辺りまでは大体3キロから4キロメートル。元の俺なら30分前後で歩くが、6歳児の俺も馬で行ってるので大体そのくらいでついた。
そこで俺は、普段から泥遊びで使ってそこそこには汚い水干に着替えた。
「じゃあ、今巳三の刻(朝10時)だから申二の刻(15時)にまた呼びに来てよ」
「はあ・・・」
俺はそう言って馬から飛び降りて、奥のほうに入っていった。
まさに貧民街といって間違いなかった。この辺りの臭さは俺が前に言っていた臭さとは比にならない。あれは皮脂のにおいだったが、これは汚物と腐敗のにおいだ。
そんな中でもコマ、いやベーゴマか!遊んでいる5、6人の子供たちを見つけた。意を決して、いきなり声を掛けてみた。砕けるならせめて当たってから!
しかし、あのベーゴマでっけえなあ。
「こんにちは!何やってんの?」
「誰だおまえ。なかなか見かけねえ顔じゃねえか」
「ちょっと家が遠いからね。あまりこっちには来ないんだ」
「だったら、何でこっちに気やがった!」
何かそこそこでかい奴が突っかかってきた。身長は目算で俺の1.3倍くらいか。でもうるせえなあ。
「まあ、良いじゃない!ねえ君、一緒に遊ぼうよ!」
俺はそう話しかけてきた女の子を見て呆然としてしまった。
その顔が、あまりにかわいすぎた。でも年は俺より4つくらい上か。なのにチョー大人っぽい。何故かこの時代の彼女は顔がむくれていなかった。いや、ここにいる皆、顔はむくれていなかったが。しかし彼女は俺が前世でタイプだった顔だった。
「どうしたの?私の顔に何かついてる?」
「い、いや、何でもないよ。僕竹千代って言うんだ。きみ、きれいだね」
は!いつの間にか俺はとんでもないことを口走っていた。
「てめえ、何言ってやがる!殺すぞ!」
うっせえなあ。でっかいの。邪魔だったので、足の甲にある「太衝」と「臨泣」という急所を踏んでやった。
「痛ってええええええええええ!何すんだ!」
「あまり、僕に変なこと言わないほうがいいよ」
「きみ、つ、強いんだね・・・」
やべ。完全にひいてるぞ。
「ね、ねえ。今何やってんの?」
近くにいた男の子に話をそらす。
「え!?こまだけど・・・」
「ちょっと見せてよ!」
やり方など名人級に知っているが、最初はこんなもんだろう。案の定、やはり大きいベーゴマに紐をつけていった。
それからが壮観だった。かわいい顔したさっきの女の子がすごい回転でコマを回しているのだ。こんなの前世じゃ見たことがない。いくら名人と言われた俺でもここまでは出来ない気がする。多分、こ〇亀の両さんなら出来るだろうが。
しかし、皆普通に強いのだ。
「だいたいわかった。一回やってみても良いかい?」
「お。お手並み拝見ってとこか」
やっべえ、皆強いなあ。
「じゃ、いくよ。1、2、3、それ!」
勝負は俺の完敗だった。みんな、全然俺より上手い。俺が名人だったら、こいつら一体何になるんだよ。しかし、コマで初めて悔しいと思った瞬間でもあった。こいつらより上手くなりたい!
「ねえ、君の名前はなんていうの?」
名前を聞くのはタブー?そんなの知ったことか!
「お。俺か?俺は国昌っていうぞ!」
おい、でっけえの。お前じゃない!
「私はねえ、文乃っていうの」
俺はまたしても驚いた。名前まで現代風!
「俺は源!」
「俺、師巳だ!」
そうかそうか・・・。みんな元気だな。でも、一応聞いては無いぞ。
「よし!もう一回やろうぜ!」
結局、少しの中断を挟んでずっと遊んでいた。コマのほかにも銭打ち(要はメンコ)だとか、戦争ごっこ的なことをして遊んでいた。
コマもそうだが、何一つとっても勝てなかった。悔しい!
結局俺は3日に一遍くらい遊びに来るようになった。
でも、中々勝てなかった。
俺はどうしても文乃ちゃんとは仲良くなりたかったので、出来るだけ面白いキャラになるようにした。
文乃ちゃんに限らず、国昌、源、師巳。みんなこの時代に来て初めての親友になれるかもしれない友達だ。俺の本当の出自は話していない。貴族だとわかって皆が逃げてしまうのではないかと心配なのだ。
でも、いつかは話さなければならないのだろう。
この身分の差は大きすぎるのだ。
ああ、ロミオ???逆か。
その日がいつになるのかはわからない。でも、俺はあいつらとずっと友達でいたい。
前世も通して、初めてそんな事を思った。