第21段 脩子内親王が誕生、そしてストリートファイトかまします。
「藤原資平、ただいま参上しました!」
俺は内裏、清涼殿東庇間に着くなりそう叫んだ。
「おお!早く入れ!」
「はあ・・・」
この時代、通常お産は女性が生家に戻ってするのが一般的だったが、懐仁さまたっての希望で、今回は内裏の中で行われた。もちろん、貴族たちからは反対もあったがどうにか押し切ったらしい。
「皇女や。元気な赤子やでえ」
「そ、そうですね・・・」
元気ってか寝てるし!しかも歴史と違うから何か気になって仕方ないし!
「どうした?」
「いえ、かわいいですねえ」
「やろ?もう、嫁になんか出したないわ~」
・・・史実通りにいけば、脩子内親王は生涯独身ですから。安心してください。
「そういえば、御名はどうするのですか?」
「ああ、それなら『脩子』にするで」
生まれた年は違ってもそこは史実通りなんすね・・・。
「なあ、この子にも筝を教えてやってくれ。男はまだしも・・・って言うわけや無いが、女は特に出来とかなあかん。お前にそれを頼みたい」
「承知いたしました」
俺はそう言って、懐仁さまのところから退出した。とそこに、今日の宿直が現れた。
「あ!資平殿!ちょうどよかった。急遽宿直に欠員が出てしまったのだ。君に頼めないかな?」
「えー!?まあ、いいですけど。これは貸しにしときますからね!」
「相変わらずしっかりしてるなあ・・・」
まあ、宿直と言っても、時々起きて順番に内裏の中の見回りをするだけだ。まあ、いい。
俺はそのまま、内裏の隣にある「大宿直」と言われる宿直用の建物に向かった。そこには、今日の担当が何人かいた。
「あれ?資平、今日は宿直じゃないだろ?」
「いやあ、さっき欠員の代わりを頼まれましてね」
「ああ、そうかい。よろしく」
俺の担当は夜10時の見回りらしい。ただ、この時間に皇女が誕生したので、それ程不審者に気をつける必要も無さそうだ。しかし、この時代の12歳ってすごいねえ。真夜中に1人で内裏の見回りだもんね・・・もしかして俺だけ特例だったりする!?
夜10時。俺は油と紐だけと言う小さい灯台と、『部屋』から持ってきた強力な光を発するLEDライト、S&Wのナイフを持って、見回りに出発した。
このライトは点けると強力な光を発するので、相手の目を眩ませることの出来る優れものだ。
俺は詰所を出て、内裏の中を巡回した。今日皇女が生まれただけあって、まだ色々なところから騒ぎ声や灯りが出ている。・・・ここに爆弾でも落とされたら日本終わるな。
ただ、こういう日は内裏の中に入ってくる人間に対して、チェックが甘くなって、刺客が入り込む可能性も高い。人が居るからと言って、見回りに気を抜けないのだ。この時代の人は内裏に犬とか鳥の死骸があっただけで不吉なことが起きる・・・とか言うので、見つけたら基本は放っておくが、今日みたいな日は応援を呼んだりして、秘密裏に片付けてしまう。
全体を回って異常が無いことを確認して、大宿直に戻る。
「ただいま終了しました」
「おう、お疲れさん」
「もう疲れたんで寝ます」
俺はそう言って板敷きの上の布団に横になった。
・・・翌朝。
「お疲れさん。資平は今日の業務は振替で休んでいいぞ」
「うす、失礼します・・・」
俺がそう言って、馬に乗って大内裏の上東門を出ようとしたところで・・・。
「おい!おまえ、藤原資平か?ちょっと止まれや」
誰だ?と言う顔で見ると・・・牛車があるだけだった。
「・・・どなた?」
「ぶ、無礼な!俺は藤原北家九条流・道継だ!」
・・・ああ。あの小心者の派閥野郎か。
「お前、帝になれなれしく近づきやがって!つけあがってんじゃねーぞ!」
何言ってんですか?あんた。僻みは後にしてほしいな・・・眠いし。
「あんな大口叩いて、『老いぼれ』ごとに泣かされてる方に何か指図される謂れはありませんが」
「お前・・・!礼儀をわきまえた方が良いんじゃないか?」
「私の態度が気に入らないのなら、今すぐ私を殺すなり何なりすればよろしいでしょう・・・出来るのであれば、のお話ですが」
道継の使用人たちが臨戦態勢を作っていた。
「おい、ちょっと下がってな。ほう、良い度胸じゃねえか。殺されても文句言うなよ」
・・・道継が牛車から出てきた。
「もう一度聞く。殺されても文句言うなよ?」
その台詞自体は威勢のいいものだが、声は半分上ずった声をしていた。
野次馬も少し出始めていた。
「よろしいのですか?時間が無いのでやることがあるなら早くしてくださいな」
俺は後ろに手を回し、いつでもコンバットナイフを取り出せるようにした。
「うわあああああああ!!」
派閥野郎は太刀を振り回しながらこちらに迫ってきた・・・本当にただ振り回しているだけだが。俺は左右に避けながら言った。
「道継殿、そんな刀捌きでは人なんぞ殺せませんよ」
「ぜえ、はあ・・・うるせえっ!」
太刀を振り回し続け息絶え絶えな道継の脇腹に突きを入れた。うっ、と声を出して、道継が倒れこむ。俺はその首筋にナイフを当てながら言う。
「動いたら、その首から血が止まらないほど流れますよ・・・。さて、でかい口叩くのは結構ですが、実力を熟知されたほうが宜しいですよ。売られた喧嘩は何時でも買いますから・・・。せいぜい強くなってから出直したほうが宜しいかと・・・」
「くっ・・・」
俺はそう言って馬に跨り、その場を立ち去ろうとしたその時。
「このままで済むと思うなよ。俺のおじは道長さまだからな。どうなっても知らねえぞ」
どうせ、裏から手を回すんだろうが・・・。果たしてどうなるか・・・。
いつの時代も関わると面倒な奴っているんだよねぇ。




