第20段 武術訓練!・・・と何かが起こる予感。
「えー、今日から皆さんには侍従として必要な武術を身につけていただきます」
大内裏・中務省前。ここに新任の侍従を含めて数人の新人官人たちが武術訓練のため、集められていた。
今日は俺達がどれほど動けるかを見極める日らしい。イカツイおっさん達が新人指導の清原元輔の後ろに立っていた。聞くところによると、近衛府や兵衛府などからきているプロの武人らしい。
「えー、ではまず剣術の審査を行いますので皆さんこちらに集まって下さい!」
いつもだったら、清原さんの話なんてまったく聞かないデブガキ共もおっさん達の前では素直に従っていた。まあ、逆らったら身分関係無くやばいことになりそうな雰囲気は出ている。
「まあ、見てな。この俺があんな老いぼれすぐに倒してやるから」
「おお!さすがは道継さま!期待しております!」
そう大口を叩いて取り巻きを付けているのが藤原道継年は俺より4つ上の16歳。右大将・藤原道綱の記録に残されていない子供だ。
俺ははっきり言ってこいつが苦手だ、と言うかうざい。どうも天下人・藤原道長殿の甥であることを言って、派閥を形成しているらしい。
しかし・・・
「ひいいいい!助けてえええ!」
と、悲鳴を上げて審査役の武官・大成本重の所から敗走してきた。俺は笑いそうになるのを必死に堪えた。
「次!藤原資平!入れ」
ああ。やだなあ。めんどくさい。帰りたい。さっさと決着つけよう・・・。
俺は支給されたいた太刀ではなく、使い慣れたS&W製のコンバットナイフを腰から取り出した。
「俺はこれを使わせてもらいますよ・・・」
「ほお、ガキのくせに随分と余裕だな」
ああ、怖い。大成さん、俺達に対して敬意が一切無いでしょ!・・・まあ、子供だしなめられて当然ではあるが・・・俺までなめると痛い目見るよ?
「坊ちゃん、早く終わらせよう?」
「そうっすね」
「はあああ!」
さすがはプロ。あのときの盗賊みたいな無駄な動きは無かった。すばやい動作で太刀・・・の代わりの木刀を振り下ろしてくる。何とか避けた。
しかし、その分振り下ろすために一旦腕は上がるので、そこは明らかな隙になる。俺は2度目に腕を振り上げようとした時、一気に懐に潜り込み、脇腹に肘打ちを食らわせた・・・そして。
「大成さん。人は見た目で判断しないほうがいいよ?」
「く・・・」
そこには、大成さんの首筋に刃を当てる俺と、木刀を振り上げたままの大成さんがいた。
「今日はこれにて終業とします!お疲れさまでした!」
「ういーっす」
今日は藤原道長殿に呼ばれていた。俺はそのまま土御門第に向かう。
「失礼します・・・」
と、その時
「遅いわよ!何やってたの!?今まで!」
道長殿の長女、わがままガールこと、彰子さまだった。
「申し訳ありません・・・仕事が・・・」
「うるさいわね!さっさとしなさいよ!」
「すみません・・・」
今からこの調子で、将来あなたは帝を尻に敷くつもりですか?
しかし、彰子さまの筝の腕は見事だ。筋がいい。しかしやはり遺伝なのか、従兄弟の懐仁さまみたく、そこまで上手にはならない。
しかし、天下人の娘なので、そこはとにかく持ち上げておいた。とそこに、藤原道長殿が現れた。
「やあやあ、資平殿。久しぶりだねえ」
「は。ご無沙汰でございます」
「侍従になったそうじゃないか。あそこは忙しいからねえ。がんばりなさい」
「はい。ありがとうございます」
「まあ、何かわからない事があれば相談に来なさい」
「はい、お世話になります」
今のところ、道長殿からのポイントは高いから、このまま現状維持ですな・・・。
俺は小野宮第に帰った。
「ただいま戻りましたー」
「お帰りなさいませ」
と奥から、実資が何やら慌てながら出てきた。
「おい!資平!大変だ!」
「何事ですか!?」
「帝に内親王が誕生したぞ!お前にすぐ参上するよう馬が来ている!」
「はい!わかりました!」
実は前々から中宮さまが懐妊しているのは知っていたのだが、懐仁さまの長女は史実通りなら中宮定子さまの出生で脩子内親王となるのだが、生まれるのは本来なら1年早い996年のはずなのだ。
・・・少しずつだが、歴史は変わっているようだ。
俺はそんな気持ちで馬に乗った。外は夕焼けがだんだんと夜の闇に呑み込まれていくところだった。




