第2段 或る庶民大学生のその後
※歴史的に間違いな部分もありますが、フィクションとしてお楽しみください。
※平安時代、人を名前で呼ぶのはタブーでしたが、ここでは便宜上、名前も使っていきます。
目が覚めた。視界がぼやける。ああ、そうだ。俺はなぜか時代劇のセットでいきなり刀で斬られたのだ。
目が覚めたと言うことは、きっと最新医療の整った病院で大手術の末、目を覚ましたんだろう。
それにしてもこの病室はやけにうるさい。宴会でもしてるのか?注意しなきゃ、っと頭を上げようとしたが上がらない・・・。頭がやけに重いのだ。仕方がないので手を使おうとしても、手が頭に届かないのだ。と、言うよりかは手足の感覚はあるのだが思い通りに動かないのだ。
仕方が無いかとも思った。俺を斬った刀は明らかに俺の首筋を狙っていた。もし綺麗に首に入ったなら即死コース、運よく入らなくても相当重傷なはずだ。
俺は叫びたかった。気がつけば知らない場所で重傷を負ったのだ。しかし、声を出しても思い通りの声も出なかった。
「うばぁ、はっぎゃあああ!あぎゃあああ!」
まさしく赤ん坊の声、ザ・赤ん坊の声だった。近くに赤ん坊がいるのかと思った。しかしその声は明らかに俺自身から出ていた。
「あら、御子がお目覚めですわ!」
「元気だこと!」
色とりどりの着物を着た女たちが俺を取り囲んだ。だが、顔までは良く見えない。ただ、強烈にくさい。
なに、ここは病院ではないのか!?しかも『御子』と呼ばれた。事態を飲み込めなかった俺だが、自分の手を見て納得した。手が赤ん坊の手なのだ。ここで俺は2つの可能性を考えた。
1、実は植物状態。
2、オタク的な考えだが転生しちまった。
だが、植物状態はないと思った。さっきから感覚がやけにリアルなのだ。植物状態で感覚があるとは思えない。ドラ〇もんは実はの〇太の植物状態のときの夢だったみたいな都市伝説でもあるまいし。
そうすると転生しかないのか。まあ、納得できないわけでもない。手足の感覚から、俺の体は赤ん坊なのだ。それは認めざるを得ない。
俺は母親と思しき人物に抱き上げられた。こいつもくさい。
「よかったわ。わが君もさぞ喜ぶことでしょう。」
と、そこに足音を立てながら一人また近づいてきて
「おお!これがわが子か!良い目をしておる!実資や高遠が早く顔を見せろといっているからなあ!」
俺はもう我慢できなかった。あまりに皆がくさいのだ。あまりにもくさいので、また泣いてみると、
「あらあら、もうお腹が空いたのかしら?」といって、着物からおっぱいを出してきた。くさいが仕方が無かった。現状赤ん坊の俺は、このおっぱいから吹き出る白濁した液体を飲まねば生きていけないのだから。
俺はそのおっぱいに吸い付いた。さすがに乳までは臭くなかった。俺は妙な安心感に包まれていた。前世ではまだ、カノジョのおっぱいも見ていなかった。一応母親なのだろうが、他人のおっぱいをここまで間近に見るのは初めてだった。
やがて、腹が満たされておっぱいから口を離した。もう一度抱きかかえられて背中を叩かれた。ゲップを出そうとしているのか。そういえばテレビで見た気がする。
そういえば、実資や高遠って誰?
俺はそのまま抱きかかえられた。と、俺の目の前におじいさんが現れた。おかしなことに、普段はピントが合わないのに、この爺さんだけはなぜかハッキリと見えた。
「うばあ、だっ!?(なんで、あんただけ見えるんだ!?)」
「おお、やはりお前、このわしが見えるか!まあ、おぬしをこの世界に連れてきたのはワシじゃからなあ!」
よく、赤ん坊はユーレイが見えるなんて話があるが、それだろうか?
しかし、この爺さんはさっきの男によく似ていた。
「ふぉ、ふぉ、ふぉ!やつとわしが似てるとでも思ったかな?まあ、やつはわしの孫じゃからのう」
「だあ、だあ。むきゅ、ばあ(あんたは誰ですか?て言うか、あなたもしかしてユーレイですか?誰もあなたに気づかないようですが?)」
「おお、そうじゃったなあ。わしは藤原実頼といってな、おぬしの曽祖父じゃ。じゃから、そこにいる男の祖父じゃ。もう16年も前に死んどるがのう。まあ、ユーレイじゃな。」
俺は愕然とした。このユーレイが言うことが本当なら、予想通り平安時代に転生したようだ。しかも、この実頼が本当に俺の祖父なら俺はバリバリの平安貴族、と言うことになるのだ。
「うば!あ、ぶー(と、いうことは私の父親は藤原懐平だよな?)」
「おお!そうじゃ!やはり違うのぉ!頭の回転が早い!」
「だ、だ。うばぁ(俺を未来から連れてこられるなら、未来へも連れて行けますよね?もとにもどしてくださいよ!)」
「うーん?それは無理じゃなあ。出来ても5年ぐらいが限界じゃろうか・・・」
「ばあ、だだ(じゃあ、5年だけでいいから俺の人生を早送りしてくださいよ!)」
そうなのだ。こんな満足に動けない体で過ごすよりとっとと5歳くらいになって好き放題やりたいのだ。
「まあ、そこまで言うなら仕方ない。じゃあ、準備はよいかの?」
「あーうば。(準備たってわかんないすけどね)」
と言った矢先、俺は白い光に包まれた。
どうやら俺は平安の時代に来てしまったらしい。
父親の名前は藤原懐平と言うらしい。もし、ひいじいちゃんの実頼
の言うとおり、俺が過去にタイムスリップした上で転生したなら、俺の部屋が残っているはずだ。まずはそこに行ってみたかった。
こうして俺は、平安貴族として人生をスタートさせた。ただ、目覚めたら5歳だけど。
じゃ、また!
そういえばあの二人は誰なんだろうね・・・。