番外編その2 一条天皇(懐仁さま)/春宮(居貞さま)
次段から新帖です!資平が元服して本当の一貴族として、政治家として、音楽家として、学者として正式始動します!
どうぞよろしくお願いします!
正直、初めてあいつの演奏を聞いたとき、感動を通り越して何か別の感情があった。
藤原実資の子、竹千代のことや。あいつの演奏は俺が聞いてきたどんな演奏よりも素晴らしかった。貴族連中が天下一だという数々の名人達よりも、や。
俺は、前に習っていた筝の指南役には2年くらい習っていたのだが、一向に上手にならん。だから、そいつをクビにした。そして、新しい指南役を探していたんや。その頃、藤原実資から竹千代の話を聞いたんや。
そして演奏を聴いて思った。こいつなら何とかしてくれるんやないか、と。
そこで、普段は絶対やっちゃあかん、御簾の外へ出ると言うことまでして、俺に教えてくれるよう頼んだんや。
しかし、竹千代は見た目との大人しさとは裏腹に、筝のことになると性格が荒れる。間違えたときには相手が誰であろうとなりふり構わず怒るんや。
でも逆に俺は、自分が帝であろうと、真剣に怒って、指導してくれるこの男を気に入ったんや。
・・・ただ、俺に筝のセンスが全く無いことまではっきり言ってくれるとは思わなかったがな。別に、うすうすは察していたからまあ良いのだが、それが言えるのがすごいやろ、お前。
結局、元々上手な笛に専念するきっかけになったわけだが。
感謝するよ。
まあ、そういう人間だから現状で4人の生徒を抱える、しかもその内3人が帝、春宮、天下人の娘と言う、そうそうたる面々なんやろな。
すごすぎるやろ、お前。
ただ、1人だけが謎に包まれているが。
筝だけなら、これから一流の音楽家になるのやろうなあ、とか音楽の才能があるんやなあ、で済むのだが、それだけですまなかったのがこの男や。
竹千代は、何やわからないが、とにかく知識が多かった。
おしろいの話や風呂の話、食事の作法と病気についての話ほかにもいろいろ、や。
ただ、その話のほとんどが今の常識の逆をいくものだったり、常識の斜め上をいく話だった。
例えば、風呂に入らないのは、風呂に入って脂の落ちた毛穴から怨霊が入ってくるから、と言う理由だったのだが、竹千代は逆に風呂に入らんことが怨霊を呼び寄せ、肌を侵し死に至らしめる、と言うのだ。
確かに、風呂に入らんし、肌の病気も多いんや。それに、説明に何や知らんが説得力があったから、暫く風呂に入ってみるようにしたんや。
そうすると、風呂にはいらんより全然体の調子がええんやな。
いつの間にか、風呂に入らん貴族のほうが減っとったわ。
そんなやから、いつの間にかその方面ではもう崇められとるな・・・。
まあ、政もそこまで上手くいくかは知らんがな。
◆◇◆◇◆◇◆◇
藤原実資の子、竹千代の演奏を初めて聞いた時、なんだかよくわからないが、感動した。
そして、帝と同様に一向に上手にならない筝の指南役にするため、半分強引に連れて来たのだ。
しかし、そんなやり方が気に入らなかったのか、練習で失敗すると3回目には強烈に怒る。それはそれはもう恐ろしいなんてものじゃない。
皇族にそこまで怒れるってなかなかすごいぞ。
しかし、俺の筝の技術は竹千代に習っても一向に上達する気配が無かった。何しろ、帝も筝の才能を認めてもらえず、元々得意だった笛を吹いているのだ。
問題は、俺が笛も琵琶も・・・と言うか楽器が全般的に苦手なのだ。もし、筝がダメだと次に何に手を出せばいいのかわからない。
最近、しきりに鼓をやるよう勧められているが・・・。半分、諦められている気がする。
そろそろ諦めようかなあ・・・。でも、帝とアイツが二人でやる演奏は、面白そうだしやってみたいしなぁ・・・。
俺が練習で使う曲は大体聞き古された曲で、何も新しい感じがしない。アイツ曰く「では、まずしっかり基本を固めてくださいな?」と言われて一蹴される。
そんなアイツにも秘密がある。詳しくはわからないのだが、何でも庶民の賤しいガキ共と遊んでいるらしく、そのうち一人には筝を指南しているらしい。
尤も、公式には親子そろって否定しているが・・・。
しかし、竹千代の知識はすごい。あまりに凄すぎて、貴族達に影響力を持っている。しかも、竹千代信者の中には国母・藤原詮子までいると言うから、下手をすればアイツの実の父・藤原実資はおろか、天下人・道長よりも影響力はありそうだ。
アイツは顔では人のいい、気弱・大人しいキャラだが、腹では何を考えているのかわからない。次が俺の治世だとしても、この男だけには気をつけなければならないだろう。




