番外編その1 藤原実資
主人公の養父、藤原実資視点での話です。
本編には入っていない情報も少し入っています。
数話の番外編の後に次章に入り、主人公も元服します。
俺には、兄の藤原懐平から養子としてもらった、嫡子の資平がいる。
初めて会ったときはごく普通の赤ん坊だった。
しかし、資平は言葉の習得が異常に早く、2歳の時には敬語も理解し、礼儀正しい子供だった。考えてみれば中々恐ろしい子供だったのだ。
資平が4歳のとき、懐平の元から私のところに養子に来た。その天才振りを見て、兄に頼み込んだのだ。兄は意外と簡単に俺の養子に出してくれた。
まあ、資平には兄がいたし、このまま懐平兄さんのところにいても出世が望めないから・・・と言う理由もあっただろうが・・・。
しかし、資平の才能はそれだけではなかった。
筝がこれまた異常に出来るのだ。これには全く驚いた。なぜなら、筝など一度たりとも教えたことが無いからだ。
自分の子供だというフィルターをはずして見ても驚くほどに上手なので、ちょうど新しい筝の教師を探していた帝に提案した。
すると、まず帝の前で演奏してみて、それで気に入れば迎えよう、と言うことだったので、とりあえず行かせてみた。
・・・結果は皆さんご存知の通りだ。今は帝どころか春宮さま、さらには藤原道長殿のご息女、彰子にまで教えている。まあ、もう1人教えている人間がいるのだが、それは言うとちょっと拙いよな・・・。
帝と一緒に『歌会』で筝を演奏した時にはそれを見に来ていた他の公卿連中や摂政からも褒められて、正直鼻高々だった。
さらに、これまた驚いたのが頭の良さ・・・なのかわからないが、妙なほど、知識が多い・・・というか、我々からすれば寝耳に水なことを多く知っているのだ。
例えば、おしろいの件だ。どこでそんな事を知ったのか、おしろいの粉に含まれる物に毒があること、それによって肌に異常をきたすことだ。さらに、風呂に入らないことで逆に病になることを調べ上げ、帝にその話をしたらしく、2、3年経つと、おしろいをした女がほぼいなくなると同時に、貴族連中の体臭が減り、さらに肌の病で死ぬ人が減ってきたのだ。
そういうわけで、いま資平は健康に関する講座まで開いていて、そこには毎回多くの人間が集まる。
道長殿にも頼りにされているようだし、将来の出世は下手をすれば私よりも順調かもしれない。
私には話さないのでよくわからないが、治部省の雅楽寮、朝廷で演奏される音楽の担当部署にして演奏者の育成を行う機関であるが・・・そこの筝担当の育成主任にもなったらしく、貴族の子供らしからぬ多忙さである。
しかし、そんなわが子にも秘密がある。
それは、京の八条九条の辺りに住む下級官人や庶民の子供達と遊んでいるらしいのだ。格好に気をつけているため、未だ他の貴族連中には気づかれていないようだが・・・。
しかも、そのうちの1人の女に好意を持っているとか何とか・・・。
もう、そこまで来ると半分諦めがついた。
まあ、筝や知識の部分でわが家に多大なる貢献をしているのは事実だし、息抜きも必要だし・・・。
まあ、息抜きの仕方に問題がある気もするが・・・。
そんな、わが子も明年には元服を予定している。帝や他の公卿達との話ではどうも、従五位下・侍従に叙されるらしい。
今は比較的自由だからいいが、元服して職につけばそうもいかない。
どうするつもりなんだか・・・。




