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第16段 また一人生徒が増えました。

 ある日、俺が懐仁やすひとさまとじぇーぽっぷの練習をしていた時のこと。

 そこに、左大臣で内覧の藤原道長が姿を現した。


「竹千代殿、少しよろしいか?」

「は?ああ。懐仁さま、少しよろしいでしょうか?」

「おお、かまへんで。そのあいだ、こんところ練習しとくわ」


 珍しい・・・。というか、俺の父親である藤原実資さねすけと道長は確か仲が良いわけではない。むしろ、『小右記』なんかを見ると、実資は道長に否定的だったと思う。

 

 だから・・・。




 道長さん、何か企んでます?

 俺が訝しげな視線を向けていると・・・。


「ど、どうしたんだよ。ただ、君に頼みたいことがあるから来ただけだよ」

「なんですか?」


 ここは、無下に断らないほうがいい気がした。何せ相手は天下人、藤原道長。ここで、彼とのパイプを太くすることができれば、この後何かいいことがあるかもしれない。


 ・・・もちろん、使い捨てにされる危険性を孕んでいるわけだが・・・。


「私の娘の彰子は知っているだろう?娘に筝を教えて欲しいんだが」



 まあ、頼みごとって言った時点で大方の想像はついてましたが・・・。

 どうするか・・・。

 権力を選ぶかなあ・・・。

 ま、いいか!



「いいですが・・・。私も時間が無くてですね・・・。何せ、今の時点で筝を3人に教えておりますし・・・」


 その他にも、皇族や貴族、さらには後宮の女性たちに、『藤原の栄養学特講』という講座を開設してるし、週に1回は遊びに行かないと体がもたないし。


 案外私、時間が無いんですよ。

 しかも、なまじ栄養学とかについて、講座を開いちゃったもんだから、天才児、神の子扱いですよ。



「だからこそだよ!みんな、週に1回なんだろ?同じでいいからさ!」



 みんな、って言ったってあなたどうせ、その内2人しか知らないでしょ・・・。




「で。彰子さまはどのくらい筝がお出来になるのですか?」

「い、いやあ・・・。私はそれほど関わってないから・・・」



 やばい。これ、意外とできないパターンだぞ。


「まあ、良いでしょう。明日は時間が空いておりますので、土御門殿に参りましょう」

「おお!よろしく頼むぞ!」



 これ、下手に教えられません、が通用しない相手だからなあ・・・。

 もうこれは彰子さまの筝のセンスがいいことを願うしかない。


 

 で。懐仁さま・・・つまりは一条天皇には現時点で中宮、定子さまがいる。もちろん、筝の練習のときにいらっしゃることもあるのだが、俺は基本的に関わらないことにしていた。


 なぜか・・・。定子さまの兄、藤原伊周これちかがそのうち没落していくのを現代の知識で知っていたからだ。下手に没落貴族に関係していることがわかれば、いくら有識故実の名家、藤原北家小野宮流の嫡子とは言えいい処遇を受けられるとは思わない。


 特に、あの藤原道長に限って・・・。




 ということで翌日。藤原道長の邸宅、土御門第にて。


「よろしくお願いしますよ」

「はい」


 俺が、名家の出身と言うこともあり自己紹介などはスムーズに行われた。ちなみに、彰子さまは俺よりも2歳年下・・・なのだが、さすがに藤原道長の娘なので、軽い敬語で喋ろうかな?


 さて、教えるか・・・。


「彰子さま、筝はどれくらいお出来になるのですか?」

「え?何言ってんの?全然できないわよ!聞いてないの?だからあんたに頼んだんでしょ!?」


 おいおい、キレたいのはこっちだよ。できないことを威張るな。

 文乃ちゃんは出来なくても、俺が好意を持っているし、相手も彼我の実力差を理解しているし、年上だから、こっちも気分よく指導できるのだが・・・。


 年下、生意気・・・。今すぐにでも辞退したい・・・。


 俺はそんな気持ちを必死に抑えて、一回、何か弾いてもらった。まあ、なんだかんだ出来るんじゃね、という期待込みで・・・。


 いともあっさり、その期待を裏切られました。

 まず、筝を弾くのに『爪』をつけないで弾き始める人をはじめて見た。


 筝は基本的にというか絶対に演奏するときに、指に硬い『爪』というものをつけて弦を弾いていくのだ。

 まず、きほんの「き」の字も知らないとは・・・。


 俺は、「練習するところを見たい」と言っていた、道長と彰子の母、源倫子りんしを半分あきらめの目で見た。

 2人とも目が合うと、顔を真っ赤にして下を向いた。

 


 おい!知ってて俺に押し付けたのか!

 

 仕方が無いので、基本の基本から教えていくしかないだろう。

 まあ、何も知らないぶん、センスはあるかもしれない。


 俺はそこで、道長さまを呼んだ。


「道長さま!俺と帝、春宮さまの練習がどういう感じで行われているか、ご存知ですよね?」

「あ、ああ」

「その通りにやらせてもらいますので」

「え!?いや、それは・・・」

「上手くならなくても知りませんよ?」

「わかった・・・」


 『その通り』と言うのは、まあつまり、練習のときに俺が荒れる、それだけだ。

 例の「違うつってんだろうがああ!」のくだりだ。


 


 まあ、俺の生徒がまた1人増えたわけだが。まあ、がんばります。

 ただ、筝が出来る人を大量生産しても仕方ないので、俺は筝、懐仁さまは笛なので、それ以外の楽器を担当してもらいましょうかね・・・。


 じゃあな。

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