第11段 或る貴族、文乃ちゃんを家に連れていきます。
自分の家の実情を見られます。
そのうち・・・。何でもないです。
「はあ・・・」
「俺の家」
「でっかいんだねえ・・・」
俺は馬に乗っているところを見られてしまった文乃ちゃんを自宅に連れて行った。
幸いにして、まだ実資は帰ってきてないようだ。逆に夕方まで何やってんだ。あのクソ親父。
しかし、二人とも泥だらけだったので、まずは体を洗うことにした。ガス湯沸しが無いので、仕方ないが水だ。
「さ、先にいいよ」
「う、うん」
仮にも11歳の女の子だ。裸を年下とはいえ見られるのは恥ずかしいだろう。
「ああ!つめってえええ!」
あ、そういえば。服どうしよう。さすがに、文乃ちゃんの普段着をもう一度着させるわけにもいかないし。
「文乃ちゃん!布かなんか羽織ってこっち来て!」
そう言って、俺は文乃ちゃんを屋敷の中にある俺の自室に連れ込んだ。
「ちょっと待っててな。いま着るもん探すから」
「う、うん」
たしか、2つ目のクローゼットに子供用の浴衣が入ってたはず。あと、妹用の新品の下着があったはず・・・。
読みどおり、ぴったりの大きさの花柄の浴衣と下着類があった。このときばかりは俺の部屋のクローゼットが余計な服置き場なっていたことに感謝した。
「はい、これ着て」
「え?う、うん」
さすがに、いきなりパンツとシャツは衝撃があったか。
「着せてやる。こっち来な」
恥ずかしがりながらも、自分では着られないのだろうか・・・。こっちにきた。浴衣の着付けも、姉と妹にやっていたから、なれたものだ。
着せてみて改めて思った。
かわいすぎでしょ。
紺色に花柄。その地味だが深みのある色がまさにベストマッチしているのだ。
かわいすぎる。
ぜひ嫁にしたい。
心臓止まりそう。
「な、なかなか似合ってるぞ・・・」
「そ、そう?」
似合いすぎて死にそうです。
と、その時。
「竹千代。入るわよ」
「は、母上!なんですか」
「何じゃないわよ。あらあらあら。女の子を連れてきたって女房が言うから来て見たら。なかなかのべっぴんさんじゃない。あら、その紺のものは?きれいだけど、新しい袙(この時代の下着のこと)かなにか?」
「母上!その説明は父上との話が済んでからで!」
「あら、じゃあそんなに時間もかからなさそうね」
「どういう意味ですか?」
「話せばわかるわよ・・・」
え、マジで何なの?
「主人さまがお着きでーす!」
「あら、では私は残って、この方のお相手をしてますわ」
おい六位!勝手なことすんじゃねえ!
ああ、でも時間ねえええ!仕方ねえ。
「文乃ちゃん!ちょっとこの部屋で待ってて!」
「え!?」
俺はそう言って走った。
「お帰りなさいませ。父上。」
なぜかここには俺のほかに、母上、そしてユーレイながら実頼じーさんが同席していた。
「で?話って何だ」
「父上。普段私は・・・」
「嘘を言って八条や九条の辺に行って、庶民の子供と遊んでいます」
「な!?なぜそれを!」
「俺が気づかないとでも思ったか?まったく。最初は正気の沙汰とは思えなかったぞ」
「では、なぜとめなかったのですか?世に知られたら、父上の進退も考えなければならなくなるのに・・・!」
「最初はやめさせようとも思ったがな。婉子が皇室の中で動いてなあ。お前が好きにできるようにしたんだよ」
「だから、あの道隆さまや道長さまも何も言わなかったのですか?」
「まあ、私が言えば・・・。ほほほっ!」
なるほど。たしかに、母上はもと花山天皇の女御だからなあ。母上、恐るべし、です。
ただ、「早く終わる」と言った。なぜだろう。
「まあ、お前の人生だ。この国を支えるのは民が納める税だ。政を行うものが自らが治める民の実情を知る・・・。決して、並みのものではできないことだ。今、権力の中枢にいるあの藤原兄弟だって、恐らくはできたことではない。しかも、お前は帝にもお使えしている。帝と民に同時に付き合えるヤツだ。お前も中々なやつだ・・・」
俺は、安堵した。自分の父親たる実資はこの国を支えるのが庶民であることを理解している。それだけでも大きな支えだった。
「別に、お前がこれからどうしようとは勝手だ。ただ、間違えるなよ。お前はあくまで貴族であって、小野宮流の嫡子であって、従三位参議・藤原実資の子なんだ、ということをだ。それを踏まえて、これからも遊び続けるのならそうしろ。別に咎めたりはせん」
「は、はい!」
なんか、拍子抜けだなあ・・・。チョー怒られて、口論でバトルかなあって、思ってたらあっさり認められちゃうんだもん。
「竹千代。では一度部屋に戻りましょうか」
母上!一体今度は何をするおつもりですか!
俺の部屋には、俺、文乃ちゃん、母上、そして女房の六位がいた。
「さっきも聞いたけど、この着物はなに?」
「うーんと・・・。それは・・・。暑いときに、わざわざ装束を着なくても良いように、考えた「浴衣」と言う着物です」
「確かに、絵はとてもきれいねえ」
「しかし、竹千代様も中々おきれいな方をお連れになりまして・・・」
六位!そこは禁句だああああ!
「そ、そうだ。そろそろ彼女も家に帰らねばなりませんので!話はまた後で!私が送りますので!」
「あら、そう・・・。文乃さま!またいらっしゃてね!」
おいおい・・・。六位。お前どんだけ仲良くなってんだよ。
俺たちは帰るために厩に来た。
「春緋!馬を出してくれ!」
「ええ!今からですか!遅いですし、おでかけは明日に・・・」
「そんなこと言ってられっか!・・・さっきの子を送るんだよ(小声)」
「ああ、そうですか・・・。では警備のものをつけなければ・・・」
と、言うことで。「文乃ちゃんを家まで送り隊」は馬担当2人、警備担当4人に俺たちを加えて8人の結構な大所帯になってしまった。ちなみに今回も、文乃ちゃんは俺の前に乗っている。コーフンがとまりませんぜ・・・。
よし、じゃあ行くか。




