第10段 或る貴族、正体がバレる!?
久しぶりに、庶民のお友達が登場します。
ただ、やらかしました。
翌日。
「父上!今日も遊びに行ってまいります!」
「うん、気をつけるのだぞ」
ここしばらく、歌会だなんだと言って、遊びに行くことができなかった。俺は今にも馬を走らせたい気持ちを抑えて、あくまで冷静に八条に着くのを待った。
しばらくして・・・。
「あれ!?あれってもしかして竹千代くん?」
え?文乃ちゃんだ。やべえええええええ!見つかった!
「早く!隠れろ!」
隠れた先で俺は馬を降りて、つかいの舎人に、また後で来るように言って待機させた。いや、危なかった・・・。見つかったかもしれないが、何とかごまかせるレベルかな・・・。
呼吸を落ち着けて、俺は普段の遊び場所に行く。
そこには・・・。うん。いつも通りの面々に加えて、しばらく来ないうちにプラスαがごちゃごちゃといた。
「みんな!久しぶり!」
「あ!竹千代だ!久しぶりだなあ。どうしたんだよ?」
「ちょ、ちょっと事情があってな」
最初によってきたのは、でっけえの、こと国昌。おれがちょっと遊んでやったヤツだ。
次に、「よう!げんきしてたか」と来たのが源。体格は俺より少し大きめ。ひょろひょろだが。
さらに「心配したぞ」と来たのが師巳。顔が特徴的。うん。それしか言いようが無い。
・・・。そして最後に。
「久しぶりだね・・・。心配したよ」
キター!俺のアイドル、文乃ちゃあああああん!ああ、惹かれますねえ。超清楚キャラにまだ年相応の棒な体つき。そして、この時代のものとは思えない、美しい顔・・・!
おおおおおおおおお!
ふう。疲れたぜ。
「いやあ、ごめんな。それより今日は新しい遊びを考えてきたぞ!」
「お!待ってました!」
「おまえがいないと、それが無くてつまらないんだよな」
う、嬉しいっ!俺、感激だ!
ちなみに、俺は何度か遊びに来たが、毎回、現代の遊びで比較的簡単にできるものを毎回1つ持ってくるようにしている。
今までは、サッカーもどき、ドッジボール、ドロケイ・・・みたいな感じだ。そして、今回は・・・。
「野球って言う遊びだ!」
「おい、何だそれ?」
まあ、知ってるわけも無い。大体、考案元はアメリカ人だし。と、言うことでルールを説明する。
「そういえば、誰か、少し小さめの鞠持ってないか?」
と、見慣れない・・・というか初めて会う子が持ってるといって、戻っていった。
「おお、ありがとな!」
しばらくして、さっきの子が戻ってきた。
「ああ、ありがとう。それよりきみ初めてだよね。俺は竹千代っていうんだ。きみ、なんて言うの?」
「え!?ぼ、ぼくは惟平っていうんだ」
「惟平くんか。よろしく!」
「うん!」
ああ。いい子だ。
「じゃあ、説明すんぞ!」
かくかくしかじか。
まるまるもりもり。
てくてくぱちぱち。
「へえ。それは・・・。やってみないとわからなそうだ」
「じゃあ、やるか」
人数はもともと5人だったところに6人ほど入っただけなので当然人数的には成立しないのだが、俺がチームを6人と5人に分けた。当然、文乃ちゃんは同じチームだ。
ベースとラインを引く。幸いにして、京の道は慨して広いので、子供用のフィールドくらいだったら何とかなる。
「よし、試合開始だぁ!」
今回の試合は、キャッチャーなし、外野は1人ないしは2人。ボールは鞠。大して弾まない。バットは少し太めの木。
まあ、平安時代ならこんなもんだな。
しっかし、みんな身体能力が高いのなんのって・・・。
国昌はその体どおり、豪快なボールを打つ。
源はひょろだが、足がべらぼうに速い。
師巳は顔が特徴的・・・。そうじゃなくて・・・。当てるのがうまい。しいて言えば。
さっき、鞠を持ってきてくれた子はピッチャーとしていい玉を投げる。
そして・・・。
「おい、嘘だろ・・・」
「やっべえぞ!」
「文乃って」
「やっべえぞ!」
文乃ちゃんには驚いた。投げてはマジ上手いし、打っても国昌ほどではないが飛ばす。
「おい、文乃ちゃん・・・。」
「やばいな」
「ねえ、文乃ちゃん、すごすぎでしょ」
打席を終えて帰ってきた文乃ちゃんに声をかける。
「うん・・・。ありがとう」
心なしか、悲しそうな目をしてる気がした。
五回マッチのゲームは文乃ちゃんの活躍で俺たちのチームの圧勝で終わった。
終わったので。帰ることになった。
「タケ!楽しかったぞ!またやろうな!」
「おうよ!」
「じゃあな!タケ!」
俺たち5人を残してみんな帰っていった。俺たちは遊び場目の前の文乃ちゃんの家に行った。庭でみんなで座り込んで、しばらく話していた。
「あれま。こんな時間だ。そろそろ帰るわ!」
「お、そうだ」
「ん、じゃあな!」
そう言って、国昌、源、師巳は帰っていった。
そして、庭には二羽にわとりがいる・・・。じゃなくて、俺と文乃ちゃんだけが残った。
今日、文乃ちゃんは様子がおかしかった。俺の呼びかけにも元気が無い。何故か目をそらす。会話でも直接応じようとしない。
もしかして、俺が馬に乗ってるのを見たから?とは口が裂けてもいえない。
「ねえ、文乃ちゃん。どうしたの?様子、おかしいよ」
「うん・・・。なんでもないのよ・・・」
「なあ、理由があうんだろう?言ってくれよ」
あれ、いま俺、地雷踏んだ気が・・・。
「じゃあ、竹千代くん。なんで馬に乗ってたの?」
痛いとこ突かれたああああ!
「そ、それは・・・。何のこと?きっと人違いだよ」
「そんなこと無い!私の目が節穴だとでも言うの!?あんな距離で間違えるはず無いでしょ!」
そりゃそうでしょ。俺でもほぼハッキリ視認しましたから。
さすがにもう誤魔化せないか。
俺は腹をくくった。家に連れてくしかないな、と。
「文乃ちゃん、ついてきて」
「おかあさん、ちょっと文乃ちゃん借りてきますね」
「あら、おでかけ?行ってらっしゃい」
「ねえ、どこ行くの」
「来ればわかる」
と、その時だ。
「竹千代様、お帰りですね」
「ああ、っと。その子も一緒だ」
「え!?よろしいのですか?実資さまがなんと言われるか」
「もういい。俺が説得するから」
「と、いうことで。文乃ちゃん、俺の前に乗って」
「え!?馬に!?そんなの無理だよお」
「早く!俺がいるから大丈夫だ」
「うう。わかったよぉ・・・」
俺の前に、実は3歳年上だった文乃ちゃんが乗る。
「よし行くか」
俺たちは俺の家につくまで誰も一言もしゃべらなかった。




