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夢冒険  作者: 如方りり
7/8

第7話「二つの月」

僕らは、“みずうみのさと”の入口に立った。

今なら旋回する自転車もいない。


ユウタの持つ鏡が、真上の月を映す。

“二つの月”だ。


その間から見張り小屋に向かって懐中電灯を照らすと、ぼんやりとした光が届いた。

薄いスポットライトに照らされた小屋から、見張り番の鬼が出て来るのが見える。


「こんなんで本当に合ってるの?」


鬼は懐中電灯の明かりに気が付いている。

こちらを見ているようだけど、サイレンは鳴らない。


「見てみろよ!」


どこからか静かに水が流れ出ていた。

それを合図に、鬼たちはバラバラと家の中へ入って行く。


水かさはみるみるうちに増え続けた。

これで鬼たちは追って来れない。


きっとあの暗号を解くことが、スイッチになっていたんだ。

“みずうみのさと”は再び湖の底へ姿を消そうとしている…。


家々の屋根が見えなくなっても、僕らはその場を動くことができなかった。


ものの数分で、湖は昼間と同じ風景になった。

訪れる静寂。

鬼の声も、物音も、聞こえない。


…。


「ユウタ、帰ろう!」


「うん!」


終わった。僕らの勝ちだ。


“まよいのもり”の効力は消えたに違いない。

今度こそ迷わず緑の穴に辿り着けるはずだ。


懐中電灯で照らしながら森を通ろうとすると、霧が立ち込めていた。

せっかく明かりがあるのに、前がよく見えない。


でも大丈夫。鬼はもういないし、何度も往復した道だ。


このまま真っ直ぐ進めば森を抜けられる。

そして緑の穴に…。


ぐわん、と視界が揺れた。

何だろう。目の前が覆われて行く。

霧なのか、僕のまぶたなのか…。


…。

…。


気がつくと僕は自分の部屋にいた。


今日引越しをしたばかりの新しい部屋。

片付けを中断した時のまま外はすっかり暗くなり、ぽっかりと月がのぞいている。


あれ?どうなってんだ…?


隣の部屋に行くと、ユウタが散らかった床で眠っていた。昼間見たときのままだ。

開けっ放しの押入れの中を見ると、きれいに貼られた壁紙は真っ平で扉らしきものは見当たらない。

僕らが通ったはずの隠し扉が消えていた。


「うーん…」


ユウタが目を覚ます。


「あれっ、お兄ちゃん?」


「ちょっとー、静かだと思ったら二人とも寝てたのー?」


お母さんだ。

散らかったままの部屋を見て呆れたように笑う。


扉も無ければ、鍵も無い。

履いていたはずの新しい靴も消えている。


…夢、だったのか?


「お母さん、お腹すいた!」


ユウタが目を擦りながら言う。

そういえばお腹ペコペコだ。


「ごめん、まだこれから支度するのよ。ごはん出来るまでリンゴでも食べる?」


「えぇーっ!」

「リンゴはちょっと…」


思わず声を揃えて却下する。


「なによー」


絆創膏だらけの僕らは顔を見合わせ、声を上げて笑った。

お母さんもつられて笑う。


「なんだなんだ?楽しそうだな」


お父さんもやって来た。


「ほら、ごはん出来るまでに片付けないと、今夜は寝るとこないぞ!」


「ユウタの部屋から一緒に手伝ってやるよ」


「やった!」


まだカーテンのかかっていない窓には部屋の丸い蛍光灯が映り込んでいる。


まるで、月が二つあるみたいだ。





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