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夢冒険  作者: 如方りり
2/8

第2話「森と湖」

外に出ると、そこは森の中だった。


まるで別世界に来たみたいだ。

僕んちの裏なのかな?と一瞬考えてみて、それは違うような気がした。引っ越して来たばかりで近所のことはよくわからないけど、直感てやつだ。


辺りに建物はない。

僕らがたった今出て来たところを見ると、緑色の丘にぽっかりとあいた穴があった。

家の近所にこんな所があるなんて考えにくい。


森といっても人が全く入って来ないような険しい自然ではなく、ハイキングコースみたいな、少し人の手が加えられた緑だった。鳥の餌台や大きな巣箱が木に掛けられている。


「カブトムシいるかな。ヘラクレス」


ユウタがきょろきょろしながら言う。

そんなのいるかよ、と思いながら僕もわくわくしていた。


見慣れない緑に目を奪われながら森の中を歩いて行くと、道案内の表示が立てられているところに出た。

僕らが今いるところは、“まよいのもり”らしい。


「ゲームに出てくるみたいな名前だな」


「でも迷わなかったよね」


このまま真っ直ぐ森を抜けると“みずうみのさと”。

湖なのか?里なのか?とりあえずそこを目指してみることにした。


“みずうみのさと”に向かう途中も、木には大きな巣箱が掛けられ、きれいなリンゴやオレンジが丸ごとぶら下がっている。

果物の木があるわけではない。鳥の餌としてぶら下げられているのだろう。


「だれ?」


声のした方を見ると女の子が立っていた。

年は僕と同じくらい。病院のパジャマみたいなへんてこな服を着ている。


「緑の穴から、来たの?」


緑の穴というのは、僕らが出てきた穴のことを言っているのだろう。


「そうだよ」


「“みずうみのさと”に行くの?」


「そうだよ」


「暗くなる前には、帰るの?」


質問ばっかりしてくる女の子だな、と思いながら答える。


「たぶん」


「懐中電灯は、持ってるの?」


あれ、と考えて思い出した。

しまった。さっき通路の途中で靴を履いた時、机の上に置いたまま忘れて来たらしい。


女の子は、それだけ質問するとどこかへ行ってしまった。


何だったんだ?

「へんな子」とユウタも首をかしげている。


そんなことより、僕らは“みずうみのさと”へと急ぐことにした。分かれ道はなく、真っ直ぐの道のりを進むと、どうやら到着したらしい。


目の前に湖が広がっていた。


“みずうみのさと”は、湖だったみたいだ。

辺りは静かで人っ子ひとりいない。


おだやかな水面に、浮かぶように小屋が建っているのが見える。

ボートや桟橋は見当たらない。

あれは何のための小屋なんだろう?どこからあの小屋に入るんだろう?


「ユウタ、ちょっと待ってられるか?」


僕は小屋のあるところまで泳いでいく気満々だった。


「えっ、やだよ!」


「お前はあそこまで泳げないだろ」


「そうだけど…」


岸からの距離は、学校の25mプールより少し長いくらい。

深さのわからない湖を泳ぐのは初めてだけど、波もないし行けそうな気がする。

僕は服と靴を脱ぐと湖に入った。


「そのへんのリンゴでも食って待っててよ」


「あれは鳥の餌だよ!」


3月の水温は思ったよりも低く冷たかったけど、弟の手前もあって後に引けない僕は小屋に向かって泳ぎ始めた。


プールと違って水が重たく感じる。バタ足をしている両足がすぐに疲れてきた。あとどれくらいで目的地の小屋に到着するのか?夢中で手足を動かしていると右手が小屋の縁に触れた。


「すっげー!」


顔を上げて振り返ると、岸でユウタが飛び跳ねているのが見えた。

得意になってピースサインを送る。


僕らが見ていたのは小屋の裏側の窓で、入り口は反対側にあった。

よじ登ってドアを開け、髪の毛とパンツから雫を滴らせながら中に入ってみる。


木のテーブルと椅子が一対置かれているだけの小さなつくりだ。僕の部屋よりもうんと狭い。

窓からユウタの姿が遠くに見える。


ふと、窓の横に掛けられている空き缶に気が付いた。

果物の絵がかいてある缶詰の空き缶に、針金を通して壁のフックに引っ掛けてある。簡易的なタバコの吸い殻入れだ。

そこから、細く煙が出ていた。


まだ火が消されてそんなに経ってない。

ついさっきまで誰かいたのか…?


泳いで来た方と反対側の岸を見渡しても、水面はおだやかで誰かが泳いで通ったような気配はない。

どこに行ったんだろう?


ぽた、ぽた、ぽた。

僕の身体から落ちる水滴が小さな水たまりを作る。

ユウタが何か見たかも知れない。


「おーい!ユウタ!」


窓から叫ぶ。

あれ?さっきまで岸にいたユウタの姿がない。


…くそっ、待ってろって言ったのに!


僕は再び湖に入り、来た道を慌てて戻る。

息継ぎの度にちらちらと変わる景色に目が回りそうになりながらやっとのことで岸に着くと、ユウタが待っていた。


「お兄ちゃん、リンゴとってきたよ!」


肩の力ががくっと抜けた。


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