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派遣魔王アルヴィ  作者: 城見らん
第一章 アダマース攻略編
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第十二話 始動! アダマース攻略作戦(後編)

「物見より報告します。帝国軍はつい先ほど王国領に上陸、その数およそ三万。そして今は北上しつつあり、まもなくアベリア平原に差し掛かるとのことです」

「そ、そうか……ご苦労だったな。下がってくれ」

「はっ」


 伝令は小さく頭を下げ、陣から出て行った。


 ついに来たか……


 ユーレンは神妙そうな顔つきで地面を見つめ、小さく身震いをする。


「どうしたの、ユーレン? 震えたりなんかして…… あ! もしかしてびびってる?」

「ば、馬鹿! 武者震いだ。早く帝国のやつらを叩き潰してやりたいぜ!」

「ふーん。その割には、歯までがちがち鳴らしてるけど?」

「うっ」


 ユーレンたちはカルブンクルスから一万の兵を引き連れ出陣した。今は王都南部の平原にて陣を構え、帝国軍を迎え撃つ形を取っている。

 報告によれば帝国軍は三万。数の上では圧倒的不利に見えるが、実際は陽動部隊との挟撃を行う手はずになっているので、さほど問題ではない。


「別に怖くはないんだが……なんというか、兵の命と国を預かる者としての責任がな……」


 今回がユーレンの初戦である。陽動部隊と合わせ、計二万五千人の命がユーレンの手腕にかかっている。そう考えると、緊張で吐きそうになってくるのだ。ユーレンは青白い顔で嘆息する。


「大丈夫よ! ユーレンの考えた作戦ならきっと上手くいくわ! それに秘密兵器だってあるしね!」 

「秘密兵器って。あれは兵器というか……いや、兵器なのか? 確かに人間ではないしな」


 アミの言う秘密兵器とやらは出撃直前になって教えてもらった。なぜもっと早く教えてくれなかったのか、と問いただしたところ。『だってほら、直前に知るほうが、喜びが大きいじゃない!?』との答えが返ってきた。ユーレンと目を合わそうとしなかったところを省みると、十中八九忘れていたのだろう。

 だが、その秘密兵器が有用なことには間違いない。ユーレンでさえ概要を聞き、嫌悪感と恐怖を覚えたぐらいだ。絶対に、敵として戦いたくはない。


「まあ、秘密兵器とやらは有用に使わせてもらおう。手はずは整っているのか?」

「ええ。帝国軍の後を付けるように指示してあるわ。足が遅いのが問題だけど、少なくとも戦闘中には追いつくはずよ」


 そうか、とユーレンは小さく頷く。

 秘密兵器? は既に行軍中。時間差で帝国軍に攻撃をしかける。

陽動部隊はさきほど伝令から連絡があり、あと少しで作戦地点に到着する見込みだとのこと。


「やるべきことは全てやった。後は帝国軍がこちらに来るのを待つだけだな」

「えー!? 待っちゃうの? 早くやろうよー。

……ユーレンは焦らすのが好きなのね。あたしはむしろ自分からがんがん行っちゃうタイプかな」

「ほざいてろ」


 ぶん殴ってやろうかと思ったが、止めた。彼女なりにユーレンの緊張をほぐそうとしているのであろう。それに、殴ったところで避けられるに違いない。


「あ、そうだ。あたしって前線で戦わなくてもいいの?」


 アミが思い出したかのように手を叩く。


「ああ。お前は俺の親衛隊隊長だからな、俺の身辺警護が仕事だ」

「ふーん、つまらないの」


 アミは口を尖らせる。大人びた雰囲気の彼女が子供のように拗ねるのも悪くない、そのギャップに惹かれるところも多少なりとはある。思わず『好きにしていいぞ』と言ってしまいそうになるのを必死に抑える。

 さすがに王の親衛隊を前線に出すわけにはいかない。ユーレンが前に出て戦うことでもしない限り、出番は無いだろう。まあ、そんなことあるはずはないのだが。


「っていうかお前その格好のまま戦うつもりなのかよ!? 親衛隊の鎧、ちゃんと支給しただろ!?」 


 アミはいつもの下着のような服装をしていた。ユーレンはその姿に慣れきってしまい、気づくのが遅れてしまったが、明らかに戦場には不釣合いの服装だ。どおりで、先ほどの伝令がアミのほうをちらちら盗み見ていたわけだ。


「ああ、あの白銀の鎧? 売っちゃった」

「はっ?」 

「結構高く売れたわ、ありがとうね」

「…………」


 なんとアミは鎧を質屋に売ってしまったのだそうだ。あろうことに、王家の紋章付きの物を。


「だって本当にお金に困ってたんだもの、しょうがないじゃない」


 アミは、何か問題ある? といわんばかりに腰に手を当て、体を反らす。そのドヤ顔が無性に腹が立つ。


「もういい。お前に常識を期待した俺が馬鹿だった……」


 王都に帰ったら、その質屋から買い返しておかなければ、ユーレンはそう心に刻んだ。




 そのまましばらく、陣の中で過ごし、時が来るのを待った。


 ドタドタ、と慌しい足音が聞こえる。伝令が陣幕をくぐり、血相を変えて飛び込んできた。


「報告! 前方に砂煙を確認。帝国軍がまもなくこちらにやって来ます!」

「つ、ついに来たか!」


 ユーレンは陣から飛び出し、伝令が言っていた方向を見やる。もうもうと砂煙が上がる中、黒い集団が確認できる。


「全身真っ黒の兵団……間違いない帝国軍だ! 全部隊に伝令を伝えろ! 陣を引き払い出陣する、陣鐘の合図を聞き逃すな!」

「了解! 陣を引き払い出陣、合図を聞き逃すな!」


 伝令は素早く復唱すると、ユーレンの命令を伝えるため、馬で駆けて行った。


「いよいよ始まるわね」


 アミが手綱を手に軍馬を引いてくる。ユーレンはそれを受け取ると、力強く頷いて見せる。


「ああ。俺の初陣だ。絶対に勝利で飾ってやる! アミ、お前も手を貸してくれ!」

「うーん、無賃労働はしたくないのよね……」

「はあ!? お前今さら何を――」


 言いかける途中で、アミがぐっと顔を寄せてくる。


「だから、今回だけあんたのために働いてあげる。仕事とか抜きにね」

「お、おう」


 アミの呼気を間近で感じ、わずかにたじろいでしまう。なんとか平静を装いつつ、彼女の目を見つめ返す。


「こ、今回だけだからね! 次からは有料よ!」


 アミはそう言うと、ユーレンから顔を離し、ぷい、と横を向いてしまった。頬がわずかに朱に染まっている。照れ隠しのつもりなのか、しきりに前髪をいじっている。


「ありがとう、アミ。頼りにしてるぜ!」

「はいはい、精一杯、陛下に尽くさせていただきますよーだ」


 唇を尖らせ、憎まれ口を叩くアミに苦笑いを浮かべつつ、ユーレンはひらりと馬に飛び乗った。高い視点から戦場がよく見渡せる。


「やってやるぜ!」


 ユーレンは闘志の篭った双眸で、平原を進む黒い集団を鋭く睨みつけ、足で馬に合図を送る。青々とした大地に馬蹄を響かせながら、颯爽と陣を後にした。


次回 アベイル平原の陣(前編)

明日の21:00投稿予定

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