表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
派遣魔王アルヴィ  作者: 城見らん
第一章 アダマース攻略編
20/28

第十二話 始動! アダマース攻略作戦(前編)

 見渡す限り青一色。そろそろ、海と空との境界線すら怪しくなってきた。アルヴィは苦笑いを浮かべる。

 アルヴィたちがアダマースに向けて出発し、半日ほどが経った。距離的にはもうじき見えてくるはずだ。


「方角は間違いないよね、タナトス?」


 アルヴィは後ろを振り返る。合計六十名ほどの魔族たちが隊列を組み飛行している。


「はい、太陽の方角と照らし合わせていますので、間違いありません」


 隊列を一番前で牽引しているタナトスが自信有りげに頷いた。さすがは親衛隊長と言ったところであろうか、見るからに重量のありそうな漆黒の鎧を着けているにも関わらず、余裕の表情を見せている。

 アルヴィはあらためて自分の服装を見やる。いつもの黒衣に、黒のズボン。身を守るものなどは一切着用していない。

 一応、出撃前に武器庫は覗いてみたのだが、例のごとく魔王のイメージに合うものが見つからず、断念した。なので、アルヴィは今丸腰の状況にある。


 まあ、丸腰なのは僕だけではないけどね。


 アルヴィは前を向く。はるか先で一人の少女が驚異的な速さで立体的な動きを展開していた。


「おーい、ソフィア! そろそろ作戦地点に近づくから、こっちに戻っておいで!」


 周囲を舞う風の渦にかき消されまいと、アルヴィはあらん限りの大声で叫んだ。

 アルヴィの声が届いたのか、少女は徐々に減速しアルヴィの横に並ぶ。


「やっぱり、空を飛ぶのは楽しいですね! 全然飽きません!」

「ははは、作戦中だということを忘れないでね」


 少女――ソフィアは何も着けていない。もちろん防具をという意味で。

 出撃前に、ソフィアにせめて皮鎧を着けるように指示したところ、『そんな重いもの着て、空なんか飛べません!』と一蹴されてしまった。頑として鎧を着ることを良しとしない彼女に、ついに根負けしてしまったアルヴィであったのだが……


「ソフィア絶対、鎧着けたまま空飛べたよね……」


 はあ、とため息をつき、隣で並んで飛行するソフィアを見やる。

 さすがに今日はスカートではなく、ショートパンツのようなものを着用している。髪は後ろで一本に束ね、潮風で髪が痛むのを防いでいる。いつものような、おしとやかさは消え、活発的な印象を見る者に与えていた。

 アルヴィの視線に気づいたのか、ソフィアが首を傾げる。


「何でしょうか? 私の顔に何か付いてますか?」

「え? あ、いや……その……似合ってるなあって」

「ふえ!?」


 ソフィアは口をつぐみ俯いてしまった。しばらくの間気まずい雰囲気が流れた。後ろから送られるタナトスの視線が、やけに微笑ましいものであったことは、言うまでもない。



 その後もアルヴィたちは飛び続けた。太陽がアルヴィたちの真上に移動した頃、前方の洋上に小さな黒い点が見え始めた。黒点は徐々に大きくなっていく。それが一つの島だと分かるようになったとき、タナトスがおもむろに叫んだ。


「見えましたぞ、魔王様! あれがアダマースです!」


 アルヴィはスピードを落とす。ソフィアたちもそれに倣う。


「これが……アダマース!」


 アルヴィたちの前に天然要塞がはっきりと姿を現す。

 城壁代わりの巨大な崖は要塞を取り囲むように、海面から空に向かって大きく突き出している。正面に見えるのはタナトスの言っていた港であろうか、想像以上にお粗末な港には船が二、三隻停泊しているようだ。アルヴィたちに気づいた様子は無く、アダマースは静まり返っている。


「さすがに向こうも、敵が空から攻めてくるとは思ってもいなかったでしょうなあ」

「そうだね。ならばこちらから挨拶をしてあげるのが礼儀だろうね……ソフィア」

「はい?」


 ソフィアは、なぜ自分が呼ばれたのか分からないような、キョトンした目でこちらを見つめている。


「なんでもいいから、要塞に向かって魔法を撃ってくれないかい?」

「え? わたしがですか!? わたしなんかより、アルヴィ様のほうがよっぽど適任だと思うのですが……」

「僕は、攻撃魔法はあんまり得意じゃないんだ。それに、練習の成果をタナトスさんたちに見せてあげるいい機会じゃないかな? ねえ、タナトスさん?」


 タナトスがその通りであります、と何度も頷く。


「魔王様からソフィア様の魔法の才能について、たっぷりと窺っております。ぜひその一片を私どもも見とうございます」


 なあ、皆のもの! とタナトスは配下に賛同を求める。もちろん全員縦首を振っていた。


「タナトス……みんな……分かりました。その役目、しかとお受けいたします!」


 ソフィアはアダマースに向き直り、両手を突き出す。目をしっかりと瞑り詠唱に入る。


「魔法に型なんてものはない。前にも言ったように全てイメージだ。ソフィアの思い浮かべるもの、それが魔法として顕現される」

「はい」


 ソフィアは大きく息を吸う。彼女の腕の周りには、雷のような魔力の奔流が纏わりついている。暴力的なほどの魔力。ソフィアの体は赤く発光し、魔力による不可視の壁ができあがる。周囲に近づくことすらままならない。アルヴィは思わず身を引いてしまう。

 突如、ソフィアが目をかっと見開き、ソプラノを奏でる。


「クリムゾンフレア!」


 ソフィアの手に巨大な火の玉が現れ、射出される。直径がソフィアの五倍ほどはあろう、その炎弾は放物線を描きながら要塞の真上に飛んで行き、爆散。要塞に炎の雨を浴びせかけた。



 ガガガガーーーーーーン




 要塞に穴を穿つ爆音がアルヴィたちの元まで聞こえてくる。


「ま、まさか……これほどとは!?」 


 タナトスが大きく口を開き呆気に取られている。配下の魔族たちも同じような顔をしていた。

 粉塵から顔を出したアダマースは見るも無残な姿に変わり果てていた。ところどころに蜂の巣のような穴が空き、ひどいところでは、壁が崩壊している。彼女の想像以上の働きにアルヴィは労うことを忘れない。


「さすがだ、ソフィア。君は本当にすばらしい」

「はあ、はあ……お役に立てて光栄です!」


 肩で息をしながらも、ソフィアは笑顔を作る。真っ白な額に汗の玉が浮かんでいる。

 ようやく警鐘が鳴り響き、ちらほらと兵士の姿が現れ始める。


「さあ、次は僕らの番だ! ソフィアの活躍を無駄にするな、全員突撃!」


 アルヴィたちは放たれた一本の矢のごとくアダマースへと急降下し、ソフィアが穿った穴から要塞内部へと進入を開始した。



後編は本日22:00に投稿予定です

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ