プロローグ
始めまして、城見らんと申します。
今まで、短編、中編小説を書いてきましたが、長編小説は今回が初となります。
温かく見守っていただけると嬉しいです。
誤字、脱字、感想等がございましたら、ぜひお書きください。些細なことでも作者は喜びます。
「ギャアアアアアアアアアアアアア!」
外から聞こえる断末魔の声。金属の擦れあうガチャガチャとした音が廊下中に響き、王の間まで伝わってくる。時折鳴り響く轟音が細部にわたり作りこまれたシャンデリアをカタカタと揺らしている。
そんな中、玉座に静かに座る男がいた。だんだんと近く、大きくなってくる音にまるで興味がないという体で、目の前の巨大な鉄の扉をひたと見つめている。
傍らには全身を黒の鎧で身を固めた男が立っており、小さな少女の手を引いていた。
「タナトスよ、ここが落ちるのも時間の問題だ。お主はそれと仲間を連れ、脱出しろ」
慈悲深く、それでいて冷酷な声。タナトスは思わず身震いをしてしまう。『どうしたの?』 と不思議そうな顔をする少女を静かに抱き寄せ、玉座に座る男に向き直る。
「し、しかし、あなた様を置いて逃げることなどできません! あなた様がいなければ我々は総崩れ、たとえ一時的に逃げ切れたとしても、いずれは追手どもに殺されるでしょう。ならば、私もここで最後まで戦います!」
やや怒号を含んだ声でタナトスは言を漏らす。
「ははは、お主がおったところであの四人には敵うまい。十年、十年間耐え忍べ。さすれば新たな指導者が現れる。それまでお前が私の代わりに指揮をとるのだ。」
「し、しかし……」
「異論は認めん。これは王の命令だ。さあ早くいかんか! そろそろ奴らが来る」
再び轟音が鳴り響く、今度は巨大な揺れを伴い堅牢な石壁に皹が入る。頭上のシャンデリアはついに限界を迎えたのか、大理石の床に吸い込まれるように落下し破砕。ガラスの破片が宙を舞いロウソクの光を反射する。
タナトスは王の顔と扉とを交互に見やる。タナトスの顔にはためらいの色が浮かんでいたが、やがて観念したのか頭を垂れる。
「……かしこまりました。必ずや、必ずやこのタナトス、皆を率い生き延びて見せます。ですから、もしも、もしもご無事であられたのならば――」
タナトスは言い淀む。彼にもそのようなことは万に一つもありえないと分かっていたのだろう。
「――このタナトス、あなた様にお仕えできたこと大変誇りに思っております」
スウッと大きく息を吸い、呼吸を整える。その顔には一切の迷いがない。
「御武運を祈ります“魔王様”!」
タナトスは子供を抱きかかえ、魔王に背を向けると一心不乱に扉へと駆け出し、王の間から消えていった。
一人残された魔王はタナトスが王の間から出て行くのを見送ると、不適な笑みを漏らす。
「ふふふ、さて最後の仕事だ。魔王らしく勇者どもを迎えてやらんとな」
魔王は玉座から立ち上がる。直後に扉が爆ぜ、中に人影が進入してくる。
立ち込める煙の中、魔王は落ち着いた、しかし凛とした声で言い放った。
「よく来た勇者よ。我こそが魔王なり」
第一章までは、毎日更新とします。