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救われた私と悲しみの真実

私の名前はマリーベル・フェイメール・リングベル。14歳。

ベイオール大陸西側に位置する魔術王都「ゼオングラーダ」の生徒です。


数日前より南部貿易国家ラ・ハーンへと公務の為赴き、ラ・ハーンでの公務を済ませ貿易都市ラ・シーンに戻って参りました。


西の海洋都市から海路で7日かけて、南部ラ・ハーン領へ。


そして貿易都市ラ・シーンに寄港した後、陸路で王都ラ・ハーンへ入城して用を済ませたその帰りにラ・シーンで今回の騒動が起こった次第です。


だってずっと公務ばかりで飽きてしまいましたし、せっかくラ・シーンへ戻って来たのですからゼオングラーダへ戻る前に都市ラ・シーンを散策したかったのですもの。


護衛の目を盗んでほんの小一時間だけと決めて今日1日滞在する館から抜け出して

改めて目に映る街並みに胸を躍らせていました。


童話に出てくるこっそりお城を抜け出すお転婆な姫君の気分になったのかしら。

心躍る高揚感は進む足を軽やかにしてくれる。


キョロキョロと周りの風景を楽しみながらどれほど歩いたのか気付けば人の往来が少ない場所に足を踏み入れたようでした。一瞬薄気味悪い感覚が体を走り、背筋が寒くなる。


気のせいね。と今起きた不安を一蹴しようと歩き出したその時建物の影からフードを深く被り、顔が見えない怪しい男が3人現れ何も言わず突然私に襲いかかって来る。


直感的に感じました。


(アレに捕まってはダメ!逃げないと、全力で逃げないと!!)


直様踵を返し私はその場から駆け出していた。


無我夢中で何度も路地をでたらめに曲がり、走る。

出来るだけ人が多そうな場所を目指して走る。


しかしどれだけ走っても、自分の足音ではない複数の足音が後方から確かに聞こえてくる。


(すぐ後ろに迫る足音が聞こえる!ダメ!もっと逃げないと…!)


捕まれば私は終わる。

そんな嫌な予感はきっと現実になる。

どれだけ走ったのだろう、息も絶え絶えだ。

しかも土地勘のある場所ではない。


私は人の多い所を目指していたつもりだったのに、知らない内に人の往来があまり無さそうな路地に迷い込んだようだ。


絶望的な感情の中、何度目かになるだろう知らない街の路地を全力で駆けた時に私の運命は絶望から希望へと変わった。


「あ~、えっと。大丈夫?」


私の置かれた状況とは、かけ離れた間の抜けた声でそう言った。

あの男達は私が見ている夢ではないの?

そう思えるくらいに今の私の状況とはかけ離れた呑気な言葉だった。


しかし今来た道からはっきりと聞こえて来る足音にそれは夢ではなく現実だと無情にも理解させられる。

もう後がない。私も走り続けて息を切らし、これ以上逃げ続ける事は難しい。


私の不注意で出会い頭に転倒させてしまった、間の抜けた声の青年に最後を賭けてみた。


これで青年が無関心を通したり、逃げてしまったら私はもう終わり。


また青年仮に助力してくれても、万が一命を落とす事になってしまってら結局は捕まり私はどこかへ連れていかされる。


本当に最後の賭けであり、一類の希であった。


「た、助けて下さい!私っ悪い人に攫われそうになってっ!お願いします!!助けてください!!」


「…はい?どう言う事?え?人攫い?」


青年に私は心から懇願した。


(お願いします!私を助けて下さい!)


例えば10人に同じ事を言えば10人が怪訝な顔をするだろう。

そして関わり合いにならないように去って行くだろう。


無情かもしれないけど、それは仕方のない事だと理解出来る。


突然出会い頭にぶつかって来た者に助けを求められる状況なんて日常ではありえないからだ。


だからきっと断られる。そして無関係を通して去って行くのだ。


しかし私の耳に聞こえた言葉は意外なものだった。


「事情はわからないけど、俺は君を助ければ良いんだな?」


青年は私の事情も知らず聞かず、自分が危険な目に合うかも知れないのにそう言った。


どれほど嬉しかった事か。そしてどれほど心強かった事か。


私の絶望的な状況の中、自分の状況も把握していないのに助けると言って手を差し伸べてくれた青年。


直後に迫る男達。

不気味な声で私を引き渡せと言っている。

恐怖で足が震える。


青年にすれば道に迷ったから案内をすれば良い程度の認識だったのかもしれない。


まさか不気味な格好の男達から追われているなんて思わなかっただろう。


「もう一度だけ言う。その娘を渡せ!」


フードの男の容赦ない言葉。

青年の背に隠れても聞こえる恐ろしい声。


きっと青年は危険な目に合う。

自分のせいで名も知らない人が傷いてしまう。私は馬鹿だ。


何故この人を頼ってしまったのだろう。

何故この人に賭けてしまったのだろう。


何故この人だったのだろう…。


青年が少しだけ振り向き、私の顔を見た。

私はどんな表情をしていたのだろうか。

恐怖だろうか。後悔だろうか。


青年の表情は見えなかった。

私が俯いていたから。


瞼をギュッと閉じた。

そしてこの後、閉じた闇の中から聞こえて来た言葉に私は震えたのでした。


「無理」


自身に怪我を負ってしまうかもしれない。

いや怪我どころか命すら危険かもしれない。

それを承知で言ってくれたのです。


「少し離れて」


と青年が言うと同時に青年が男達へと駆け出し、あっという間に1人を倒した。


(凄い…!)


彼は戦い慣れているのか、無駄のない動きで男達を翻弄する。

しかも左手には買い物帰りだったのだろうか。


買い物袋を持ったままで。


目の前で起こっている不思議な光景に思わず見惚れてしまう。

それがいけなかった。


惚けていた私を見逃すはずもなく、男の1人の接近を許してしまった。


彼が離れていろと言ったにも関わらず、私は自分が何をすべきだったのか忘れていたのだ。


気づいた時にはもう眼前に男が迫り、有無を言わさず私の腕を掴んで連れて行こうとした。


「汝の求めし贄をもて・・・」


男が何かの魔術の詠唱を始める。

男が詠唱すると同時に淡い光が男と私を包み込もうとしていた。

直感的にこれは危険だと、私の本能が叫ぶ。


「いやっ!離してっ…!」


出来る限りの抵抗を試みたが、恐怖で魔術を使用するどころか

かすれた声で抵抗するのがやっとだった。


ヒュッ・・!!


何かの風切り音。


確かに聞こえた。


その直後、男の顔面で何かが爆発した様に飛散し、男は一言声を漏らしてその場で崩れた。


彼が何かしたのだろうか?いや、きっと彼がしたのだ。


私を助ける為に何かしてくれたのだ!

現に男は倒れて身動き一つしていない。

すぐに男の傍を離れなければいけないのに、私は彼を見続けていた。


なんて悲しい瞳をしているのだろう。

夕暮れに染まりつつある街並みの中吸い込まれそうになる彼の悲しい瞳を逸らす事が出来ない。


お礼を言わなければ、彼は私を救ってくれたのだ。

私の絶望を希望へと変えてくれた救世主なのだ。


「あ、あの!」


私がお礼を述べる前に、彼は一言ポツリと言った。


「俺のなけなしの・・・芋・・・」

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