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救えた者と失った芋

宿に戻る途中、普段さほど人通りの多くない十字路で思い切り誰かがぶつかって来たのだ。ぶつかって来た相手共々転倒してしまう。


チッ!油断した。なけなしの夕飯!俺の夕飯の芋とパンは無事か!?


と意識を先程購入した夕飯に向ける芋3つにパン1個。芋が見事に道端に転がっている。ただでさえ傷んでいて形の悪い芋が、さらに小石がめり込むトッピングがされていた。


「あ~・・・俺の夕飯・・・はぁ・・」


丁寧に小石を取り除けば芋はまだ食べれるだろう。

とりあえず面前で未だ転倒している奴に向けて手を差し出す。


「あ~、えっと。大丈夫?」


そう言ってぶつかって来た奴を起こそうとするが、差し出した手を無視して自分で起き上がり、開口一番。


「た、助けて下さい!私っ悪い人に攫われそうになってっ!お願いします!!助けてください!!」


「・・・はい?どう言う事?え?人攫い?」


突然の事でいまいち状況が把握出来ないが、目の前で自分を助けて欲しいと懇願する少女がいる。パッと見俺よりは年下の雰囲気だが、12~14歳くらいか?


ラ・ハーンに多いやや色黒の地肌に黒髪ではなく、透き通る白い肌によく手入れされているであろう、美しい金髪の少女。


見た目で全てを判断する事は滅多に無いが、この状況だ。

子供が助けて欲しいと言っているんだ。助けない訳もいかないだろう。


いやあまり関わり合いにならない方が良いのかもしれないが、この中途半端な倫理観を持つ俺は目の前の少女を助けてあげて、さっさと宿で芋を頬張りたいのだ。


それに人攫いの類は、攫われた者は大抵は悲惨な最後になる。

非合法にて非人道。人そのものが商品である『奴隷』だからだ。


労働力にされる者、貴族等の上位身分達の慰み物にされる者。


用途は様々だ。

決して多くは無いが、現実に存在する反吐が出るこの世界の暗部だ。


この少女がそう言う類にされるのかどうかも俺にはわからないし、助ける行動自体が正解なのか不正解なのかもわからないが、助ける助けないで言えば助けるに決まっている。


「事情はわからないけど、俺は君を助ければ良いんだな?」


「…!!いいのですか!?見ず知らずの私に関わればあなたにも危険が来る可能性が高いのに!」


「いや、見ず知らずの俺に救いを求めている時点で君も充分に危険な賭けだよ」


「そ、それはそうですが…」


少女が言い終わる前に、建物の影からすっと男が数人現れた。ざっと見て3人か。

3人共に頭から顔が見えないようにご丁寧にフードを被ってお揃いの服装だ。

ふん。身元が割れないように対策もしているのか。


「小僧…その娘をこちらへ渡せ…」


顔の見えない男の一人が俺に向かって続けて抑揚のない言葉を投げてくる。


「お前には関係ない事だ。無事に帰りたいのならこれ以上関わるな・・」


無事に帰りたいなら。関われば命の保証はしないと明確に忠告してくれている。

脅しでも何でもないんだろう。その気になれば俺を殺してでも娘は連れて行く。


それだけの明確な殺意がじんわりと滲み出ている。

ただ、それは俺にとってはあまり意味が無く、感覚が以前の様に鋭利に研ぎ澄まされていくだけだ。


「悪いけど、おたくらとこの子を見てどっちが加害者で被害者かは誰でもすぐにわかる」


そう言うと話しかけてきた男の傍で様子を見ていた2人の男がすっと構える。

1人には短刀が握られている。


「もう一度だけ言う。…その娘を渡せ」


俺の背中に隠れている少女の方をちらっと見る。不安そうな表情で怯えている。


「はぁ~…」


大きくため息を一つする。

こんな顔されたら、なんとかしてあげたくなるだろう。


「少し離れていて」


少女にそう言うと、頭をワシャワシャと掻いて男達に向き合い言い放った。


「無理」


と言った瞬間、人攫いだろう男3人は襲いかかって来た。



まず狙うのは先程まで話かけていた正面の男。一気に間合いを詰める。

くっ!と言いながらも構え、的確に俺に向かって拳を放つ。

前に打って出たのが意外だったのか他2人もほんの少しだが初動が遅れている。


前に出ないといけなかったのはすぐ後ろにいてる少女が俺の背中からあまり離れてくれなかったからだ。


正面の男が振り抜いた拳を出来るだけ最小の動きで躱す。躱してなお間合いを詰める。

拳から腕へ、懐へ詰めた時、右手で思い切り腹を打ち抜く!


「がぁっ…!!」


男はそう声を漏らし、その場で崩れ落ちた。

休む間も無く、右側の男が短刀を逆手に持ち替えて、俺に向けて振り下ろそうとしている。

振り下ろされる短刀の軌道は一線上。しっかりと目で捉えていなす。


態勢を崩された男はそれでもなんとか態勢を保とうとし、踏ん張る。

振り向きざまに短刀を一文字に放つ。薄暗くなりつつある夕暮れの隙間から、短刀が鈍く輝いていた。


感覚が久しぶりに研ぎ澄まされる。

命を懸ける戦い。

思い出す記憶。


男が振り抜いた短刀は俺にかする事はなかった。

大きく出来た隙を見逃さず左膝をグッと落とし、直様落とし込んだ左膝を一気に伸ばす事で勢いを付け、地面を蹴り上げながら右足で男の腹を打ち抜く!


さながら投擲される槍の様に。


ドスっと言う鈍い音と共に吹っ飛ぶ短刀の男。

気絶したのか動かない。いや動けない様にしたのだ、動かないで欲しい。


「いやっ!離してっ…!」


残りの男に意識を移そうした矢先、その声は聞こえた。


男が少女の手を捕まえ連れ出そうとしていたのだ。

もしかしたら予め役割を決めていたのかもしれない。

必ず1人は少女を捕獲すると。


抵抗はしているだろうが男と少女との力の差は歴然だ。男が何か唱えている。

魔術師!?転移魔法の類か?だとしたらいけない。

最初の男2人に時間をかけ過ぎたか。


ヒュっ!!


っと風切り音が少女には聞こえた。

その瞬間、何かが砕け、自分の手を掴んで攫おうとしていた男が一言叫んで目の前で沈んだのだ。

私は事態を把握出来ないでいた。


あの青年を見る。

とても悲しそうな目をしていた。

思わず吸い込まれそうになる位に、夕暮れに浮かぶ力強く光る瞳はとても悲しく見えました。



この都市にこんな静かな場所があったのでしょうか。

ここにいるのは得体のしれない男3人。

私を救ってくれた青年と、助けられた私だけ。


夕暮れが迫る。


私の脅威はとりあえず去り、青年をもう一度見て初めて安堵の溜息を吐いたのでした。


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