晴天の職歴
憂鬱である。
俺は今、猛烈に憂鬱な気分なのである。
顔を上げれば陽気な陽射しが木々と少し古い煉瓦作りの街を照らしている。
この快晴である。
見渡せば人々も、実に清々しい表情で日常を勤しんでいる。
ガタイの良い男が大きな資材を軽々と肩に担いで運んでいる。
「いや~良いね!実に仕事日和だよ今日は!家の補修かな?」
少し目線を逸らせば女性達が井戸端会議でもしている。
「おっ!?ご近所の奥様達かな?大きな笑い声で楽しそうだ」
すぐ傍で子供達もキャイキャイ叫びながら遊んでいる。
「あの奥様達の子供かな?元気があってよろしい!!」
石畳に座りながら周りを観察していた俺は両手を組んで伸びをする。
あくびと共に少し涙が出た。
本当に天気が良い。快晴にして陽気。
街が暖かい雰囲気に包まれるのも納得の本日の天気模様。
光と笑顔と活気のある一日なんだろう。眩しい。世界が眩しいのだ。
だけど念の為に言わせて頂きたい。
「俺は今。憂鬱なのだ」
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少し時間を遡ろう。
ほんの1時間程前の事である。
「あ~・・・うちそう言うの間に合っているから」
「えっ・・・?」
ベイオール大陸南部に位置する南部貿易国家「ラ・ハーン」
そして今現在いるその領、貿易都市「ラ・シーン」
ここは南に広がる海洋とベオール大陸各国家都市へと繋がる主要貿都市の一つである。
この都市ラ・シーンには多くの生業が存在し、若者で職にあぶれた者達が、一縷の望みに賭けて職業を手にする都市として有名なのだ。
多くの者は就職し、日夜労働に勤しんでいる成長も発展も日々著しい都市なのである。
要は「門扉が広く働きやすい」都市なのである。
「働きやすいって言ったのどこの誰よ…」
思わず思った事を口に出してしまう。
仕事にあぶれて望みを託して遥々南部まで就活遠征に来て見ればご覧の有様だ。
思わず愚痴を滑らせてしまっても責めないで欲しい。
「う~ん・・・君の事情はよく知らないけど、職が欲しいんだよね?」
「それはもう!」
出来る限りの必死さをアピールする。当たり前だ。何の為に遠路ここまで来たか。
食う為生きる為である。なり振り構っていられない。
既に必要が無いと言われたのだ。必死さが伝わっているのだろうか?
職業斡旋所の色黒中年は苦い顔をしながらう~んと唸っている。
ネームプレートには「斡旋員フトゥ」と書かれている。
「あのね、えっと、ディオ君だっけ?」
「はいっ!」
就職に必要な筆記事項があり、ここに辿り着いてから事情を説明し、受け取った登録用紙に一生懸命記入した登録用紙がある。
通称『ジョブカード』
出身地、年齢、特技、前職等書ける所は全て書いた。
その用紙を確認しながらフトゥは尚も苦い表情を崩さない。
「ここに記入してくれた内容なんだけどね、前職『ぱーふぇくと うおーりあ』って・・何?」
そう言って俺が答える間も無く続ける。
「この都市で欲しいのは力仕事が必要な運搬員に繊細な加工職人、筆記帳簿に長けた人間、そりゃ様々な理由の奴らが来ては手に職を付けているよ?今はいくらあっても人手が足らない状況だ。先のでっかい妖魔戦争も終わって各地復興に再興に盛況だ。でもねぇ。それらは未経験でもこれからしっかりと仕事が出来そうな奴か、少しは前職で培った技術や経験を活かせれる奴がやっぱり職に付きやすいんだよねぇ」
「で、でしたら力仕事には慣れていますので運搬員でも!」
話の区切りで必死に食い下がってみる。
力仕事には慣れているのは本当だ。文字も書ける。簡単な計算も出来る。魔術の類は出来ないが。しかしここで諦めたら当面の資金がキツイ!本当にキツイ!!
「この登録用紙はね公式登録したでしょ?登録してから私の所に案内されたでしょ?」
「あ、はい。受付の人に貰って記入して、登録して貰ってから来ましたが・・」
「と言う事はね。この君の経歴はもうラ・ハーンでは公式の物なのよ。わかる?」
「……え?」
フトゥは可哀想な者でも見るような目で優しく説明してくれた。
どこにいるだろうか?可哀想な者は…??
…知ってるよ!目の前だよね!!俺ですよね!!
「だからね、公式に登録したジョブカードには君の前職や特技も公式に登録されているわけ」
「は、はぁ・・・」
我ながら気の抜けた生返事だ。
「問題なのは君の前職『ぱーふぇくと うおーりあ』ってとこなんだよね」
「ちょ、ちょっと待って下さい!何故『パーフェクトウォーリア』で問題が出るんです!?」
頭の中で自分が就職出来ない理由を考える。
『パーフェクトウォーリア』だぞ?みんなの憧れの的の!先の妖魔戦争で10人もいなかったあの!選ばれた本当の一部の者のみが許された冠名『パーフェクトウォーリア』だぞ!そりゃ序列で言えば末席だったけど、何故だ?何故だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?
「で結局、これって何の仕事してたの?」
フトゥの素朴な質問が耳から脳へ突き抜ける。
『何の仕事してたの?何の仕事してたの?してたの・・?たの・・・?』
「ディオ君?大丈夫?」
少しの間意識をどこかへ置いてしまったようだ。フトゥがこいつ大丈夫か?みたいな顔で
見てくる。
正直・・・大丈夫じゃない・・・。
「でね、うちも職の斡旋を受け持っている限り、やっぱり職に就いて欲しいのよ。でもね。誰も聞いた事も見た事も無い前職の人間に斡旋する事は難しいんだよ。ラ・ハーン出身者ならともかく、他所から来た人となると特にねぇ…」
わかる?とでも言う様な仕草をして続ける。
「ここから紹介する仕事は正式に依頼登録した職しか扱っていないし、依頼登録してもらったからには、こちらもそれなりに適正のある人を送り出す義務があるんだよ」
ラ・シーン中央にある正規職業斡旋所『猫の手』は国から認可を受けている
至極真っ当な正規斡旋所だ。
だからこそ仕事を求める者は安心して登録出来る。
国の認可を受けているので勿論、登録する者は嘘偽り無く自分の経歴や特技を記入する義務があるし紹介する側にしても変な人間が雇用先で問題を起こそうものなら、そもそもそんな奴を何故斡旋したのか?とある程度の責任が付いてくる。
「・・・つまり。俺は怪しいんですよね・・・?」
顔を俯きながらこの世の終わりの様な声を出した。
「・・・うん」
その言葉を聞いた後、頭が真っ白になった。フラフラと出口へ向かい『猫の手』を後にした。
色黒中年のフトゥが何か言ってた様な気がするが、それはもう生きる死者さながらのフラフラ感だろう。
気付けば割と見晴らしの良い煉瓦作りの住宅街の一角で腰を降ろして町並みを惚けた目で眺めていた。
天気は素晴らしく快晴である。陽気な陽射しは知らない内に人々を笑顔する。
ガタイの良い男が大きな資材を軽々と肩に担いで運んでいる。
いや~良いね!実に仕事日和だよ今日は!家の補修かな?
少し目線を逸らせば女性達が井戸端会議でもしている。
おっ!?ご近所の奥様達かな?大きな笑い声で楽しそうだよ。
すぐ傍で子供達もキャイキャイ叫びながら遊んでいる。
あの奥様達の子供かな?元気があってよろしい!!
独り言で空元気を装ってはみたものの、必要とされないと言う現実を直視した直後では街の住人の何気ない日常ですら眩しく見えてくる。
キラキラしてやがる・・・。
世界が眩しいぜ。グスン。
もう何度目だろう深い溜息をついて一言ぼやいた。
「俺は今、猛烈に憂鬱だ」
ディオニュース・カルヴァドス17歳。
ただいま就活中である。
千代路 宮と申します。
お初で御座います。
何気なく書き始めて、なんとなく終わるまで
なんとなしに書き綴ろうかと思っております。
なにぶん初めてなので誤字脱字等のお見苦しい点も
あると思いますが、生暖かい目で読んで頂けると
非常にありがいです。