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激くすぐり客は権力者なのに技が少ない

作者: 遥(はるか)奏汰(かなた)
掲載日:2026/09/27

東京の夜の街を密かに駆け巡る、ある恐怖の噂があった。

その男が来店すれば、どんな百戦錬磨の嬢であっても絶叫し、涙を流すという——世にも恐ろしい「くすぐり魔」の存在である。莫大なチップと圧倒的な権力を背景に、お店側も決して口出しできないその男のターゲットに選ばれてしまったのは、業界に入ってわずか1週間の新人・立川真織だった。

店内の誰もが哀れみの視線を向ける中、彼女は店の未来と引き換えに、恐怖の個室へと足を踏み入れることになる。

これは、店中を震撼させた「恐怖のくすぐり魔」と、何も知らぬ新人風俗嬢が繰り広げる、緊張と拍子抜けの真夜中の密室劇である。

 最近、こんな噂が東京の風俗街じゅうに流されていた。

 風俗嬢たちは皆、その噂に恐怖していた。くすぐり魔が現れるのは、たいてい十七時を少し過ぎた頃だった。想像の通り その客が好きなプレイは、くすぐりである。それも、最も感じやすい脇の下がターゲットになるのだそうだ。

 くすぐり客は、料金だけでなく様々なオプションを払ってくれるお酒や 飲食 も頼んでくれるので とても 良客 といえた。だから、お店側としても逆に苦情を言ったりできにしたりするという思い切った行動には出られないのであった。

 そんな時、1週間前に初めてこの業界に入ったという立川(たちかわ)真織(まおり)にその噂の人物、くすぐり客が着いたのである。

 店内は一瞬で緊張感に包まれた。オーナ)も店長もどうしたものかと悩むむきもあった。最近入ったばかりのひよっこに任せられる仕事なのだろうかと。噂のくすぐり客に目をつけられたら東京中どこに行っても商売は続けられないかもしれなかった。

 だが、真織を指名した客の強い要望とチップの額に店長は、首を横に来ることはできなかった。これで成功すれば逆に、オーナーからの評価爆上がりだった。

「頼む。今日ばかりは我慢してくれ。大仕事だ」

 店長は、真織に深々と頭を下げた。

「そうだ。特殊勤務手当も出そう。お客のご御機嫌を損ねずに済んだらな」

 真織にも自信はなかったが、そこまで言われたら、と受ける決心をしたのだった。

     ♢ 


男の指先が脇の下の柔らかい皮膚を浅く撫でると、真織の口から「ひっ……!」と小さな悲鳴が漏れた。

指先が優しく円を描くたび、体中を稲妻のような痺れが駆け抜け、必死に噛み締めていた唇が耐えかねて震え出す。男の攻め方は執拗かつ巧妙で、強く揉むのではなく、羽根で撫でるような繊細なタッチで真織の理性をじわじわと削っていく。

「声、ガマンしなくていいんだよ? むしろ可愛い声を聴かせてほしいな」

男は耳元で甘く囁きながら、もう片方の手も繰り出し、左右の脇を同時にくすぐり始めた。

「あっ、ははっ……や、やだ、くすぐったい……ッ!」

逃げ出そうと身体を捩るが、絶妙な力加減で抑え込まれ、身動きが取れない。お店の優良客だからと自分に言い聞かせるものの、脳の芯まで響く狂おしい刺激に、真織の瞳からは自然と涙が溢れ出していた。

「そう、いい表情だ……もっと力抜いて」

男の妖しい笑みが深まり、真織の絶叫に近い笑い声が静かな個室に響き渡る。15分という時間が、まるで永遠のように感じられていた。

「激くすぐり客は権力者なのに技が少ない」の続きと結末

(前回の続きから)

「あははっ! もう、勘弁して……っ、ひーっ!」

真織が身悶える中、15分のタイマーが無情にも鳴り響いた。

「ふう……素晴らしい反応だったよ」

男は満足そうに手を離すと、ポケットから厚みのある封筒を取り出し、テーブルの上に置いた。

「これは約束の特別チップだ。また指名させてもらうよ」

そう言い残し、優雅な足取りで部屋を去っていく男。真織は荒い息を吐きながら、涙目でその背中を見送った。

部屋から出てきた真織を、心配そうに待っていた店長とオーナーが慌てて取り囲む。

「真織ちゃん、大丈夫だったか!? 噂の権力者様を怒らせたりしなかったか!?」

「はい……なんとか耐えました……」

真織が力なく答えると、店長は胸を撫で下ろし、男が置いていった封筒を覗き込んだ。中には驚くほどの万札が詰まっている。

「素晴らしい! さすが権力者様だ! ところで真織ちゃん、あの人はどんな凄腕の技を使ってきたんだ? 噂ではどんな嬢も落とす伝説のくすぐり技術を持ってるって話だが……」

真織は涙を拭い、少し困惑したような表情で首を傾げた。

「えっ……技、ですか? ……うーん、実は……」

真織は言葉を濁しながら、さっきのプレイを思い出していた。

(……あの人、15分間ずっと『脇の下を指でぐるぐる撫でるだけ』だったんだよね……。全然技の種類がなかった……)

権力者という肩書と圧倒的なチップの額、そして「恐怖のくすぐり魔」という大袈裟な噂に店中が勝手に怯えていただけだったのだ。実際のプレイは、技術ゼロの極めてシンプルな「単一技」の繰り返しに過ぎなかった。

「……店長、あの客……金払いは最高ですけど、くすぐりのバリエーション、ひとつしかありませんでした」

真織の身も蓋もない一言に、店長とオーナーはズッコケそうになり、店内の緊張感は一瞬で拍子抜けした空気に変わったのだった。


     【了】


本作をお読みいただき、誠にありがとうございました!

タイトル通りの「大物感あふれる権力者なのに、くすぐりのバリエーションがたった一つしかない」というギャップとシュールさを楽しんでいただけていれば幸いです。

恐ろしい噂に震え上がる店内の重苦しい空気から、最後の身も蓋もないオチへの温度差を意識して執筆しました。圧倒的な金力と不器用な情熱だけで押し通す客と、度胸がついて一皮むけた新人・真織ちゃんの今後の攻防も想像が膨らみますね。

また面白いアイデアが浮かびましたら投稿したいと思います。感想や評価などもいただけると大変励みになります!

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