第14話 尖閣諸島奪還作戦 前編
「中国艦隊を補足しました。久場島を背に展開しています」
戦艦『陸奥』率いる第四護衛隊群は少しずつ速度を落とし、中国艦隊から約200km離れたところで停止する。同時に『陸奥』の第一、第二主砲が中国艦隊へ向けられた。
護衛隊群は尖閣諸島沖で、旗艦『陸奥』を中心に輪形陣を組んでいた。そして『陸奥』の主砲の向く先には、中国の駆逐艦『青島』『哈爾浜』、フリゲート艦『滄州』『安慶』『淮南』『銅陵』が梯形陣で並んでいる。まるで尖閣諸島を守ろうとしているかのようだ。実際その通りなのだが。
中国艦隊でも護衛隊群を見つけているはずだが、まったく動く気配を見せない。
「中国艦隊に警告せよ」
「了解!」
中国艦隊に警告の通信が送られた。撤退しないと攻撃する、といった内容のものである。
もしこれで中国艦隊がこの海域から撤退すれば、日本は被害を受けずに尖閣諸島を奪還できる。逆に警告を無視してこのまま動かなければ、『陸奥』の主砲が吠えるだけである。護衛隊群も多少の被害を受けるだろうが、この戦力差で負けることはないだろう。だが油断は禁物だ。何十発もミサイルを撃ち込まれては、さすがに『陸奥』と『きりしま』がいても対処しきれない。
「中国艦隊から、いまだ返答ありません!」
『陸奥』が警告を発してから約十分が経過した。それでも中国からの返答はまだなかった。
「もう一度だけ警告せよ。それでも退かない場合は威嚇射撃を行う」
今度はすぐに返答がきた。
「ECMでこちらに向かってくる対艦ミサイルを捕捉しました! 距離は120000m、数は八発です!」
『陸奥』の電子的妨害装置がミサイルを捉え、少し遅れてレーダーでも捕捉する。
「みねかぜ、さわかぜはECMをアクティブモードに移行せよ。本艦及び『きりしま』と『さざなみ』は迎撃体制に入る」
対艦ミサイルは第四護衛隊群目掛けて音速に近い速さで飛翔してくる。『みねかぜ』と『さわかぜ』のECMがアクティブモードに切り替わり、ミサイルに向かって妨害電波の発射を始めた。
妨害電波はミサイルを狂わせる。八発のミサイルのうち二発が軌道を外れて海面に落ちた。だが残りの六発はまっすぐ艦隊に向かってくる。
「前部VLS開け! ESSM発射用意、二発ずつ対処せよ」
『陸奥』、『きりしま』、『さざなみ』のVLSがゆっくりと開かれた。ミサイルと艦隊との距離は約100000mまで縮まっている。
「ESSM、撃て!」
『陸奥』『きりしま』『さざなみ』の甲板から炎が上がった。空気を切る音と共にESSMが高速でVLSから飛び出す。六発のESSMは上空で向きを変え、白い尾を引きながら対艦ミサイルへ突っ込んで行った。
「命中まで、あと五秒、四、三、二、一、命中!」
艦隊の正面、約80000mの空間が激しく発光した。ミサイルが命中したのだ。だがその空間を突き抜けて飛んでくる二つの影があった。どうやら二発撃ち漏らしてしまったようだ。
「ミサイル二発、艦隊正面、まっすぐ突っ込んでくる!」
「『きりしま』は主砲で迎撃せよ」
三連装主砲を四基搭載している『陸奥』は、単装速射砲を装備することができなかった。そのためミサイルが近くまで接近してきた場合、迎撃するのは他の艦にまかせることになるのだ。
「撃ちー方始めっ」
命令と同時に、『きりしま』の127mm単装速射砲が火を噴いた。一分間に四十五発ほど発射可能な主砲から撃ち出された砲弾は、的確に対艦ミサイルを貫いた。
「ミサイル全弾、撃墜完了しました」
ミサイルの迎撃は一瞬で終わった。だがそれは、戦いの序章に過ぎなかった。
「対艦ミサイル来ます! 数は十四!」
さらにミサイルが飛んでくる。このままでは命中するのも時間の問題かもしれない。
「機関始動! 本艦、『もがみ』、『きりしま』はVLSを開け。迎撃しつつ最大速力で接近する」
艦隊は急発進し、一気に最大速力まで加速した。
『陸奥』の機関の回転数が上昇する。どうやら最大速力まで到達したらしい。
機関士の秋月将二等海士は額の汗を拭った。『陸奥』の機械室は他の艦艇よりも室温が五度ほど高く、冷房や冷却機も動いているのだがあまり変わらない。しかも今は機関の回転数が増えているので、さらに温度が上がっている。
「あぢぃ……」
将は手で扇ぎながら計器を睨みつける。今のところ正常に動いているので彼の仕事は特にない。
「巡航ガスタービン、異常なし」
将は誰ともなく呟いた。彼の仕事は計器と機関を観察し、異常があった場合にすぐさま報告することである。『陸奥』の二式複合機関は開発されたばかりなので、どんなトラブルが起こるかわからないのだ。
将はもう一度汗を拭いてから計器に視線を戻す。そのとき、艦が左に傾いた。左旋回したようだ。しばらくして傾きはなおり、また普通の状態に戻る。それが何度か続き、その度に機関の回転数も上がる。
「うぉっ」
いきなり傾いたせいで将がバランスを崩した。だが体が倒れることはなかった。誰かに支えられたのだ。将は後ろを向いた。
彼を支えていたのは艦魂の陸奥だった。彼女は将を支えていた手を離すと、右手で自分の帽子をなおした。
「大丈夫ですか?」
「ああ。急に揺れたからびっくりしただけだ」
将は笑って答える。だがそう言ってからあることに気がついた。
「お前、艦橋にいなくていいのか?」
沖ノ鳥島沖海戦のときも将と一緒にいたが、艦橋にいるほうが格好がつく気もする。
「別に問題ないですよ。艦橋にいても私は何も出来ませんから」
「そういうもんなのか」
計器類の変化に注意しながら将は納得したような返事をした。陸奥はその後に付け足した。
「機関をフル稼動させるのは今回が初めてですから、二士のことも少しは心配してましたし」
「おいおい、俺は子供じゃないんだから」
むしろ陸奥のほうが子供だ、というのは言わないでおいた。
「でも、何があるかわかりませんから」
陸奥はそう言ってから目を閉じた。
「二士、そろそろ主砲を撃つみたいです」
「わかった」
陸奥の知らせを聞いて、将は計器盤に手をついた。陸奥が秒読みを開始する。
「五、四、三、二、一、発射!」
陸奥の声と同時に艦が揺れた。将は計器盤に掴まっていないと今度こそ倒れていたかもしれなかった。だが一部の計器が一瞬停止したのも見逃さなかった。
その時、
「ゲホッ……ゲホッ」
突然陸奥が咳込んだ。苦しそうに喉を押さえてしゃがみ込む。将は慌てて彼女に駆け寄り、背中をさすった。
「おい陸奥! 大丈夫か?」
将が背中をさすっていると、段々と陸奥の咳は治まっていった。しばらくたしてからやっと落ち着いた陸奥は、何とか立ち上がった。
「だ、大丈夫です。すみません」
「何があったんだ?」
将は陸奥に尋ねたが、彼女もよくわからないようだ。
「主砲を撃った瞬間、急に息苦しくなったんです。すぐにそれは無くなったんですけど、それで咳込んで……。心配してくれてありがとうございます」
お礼を言う陸奥の顔に浮かぶのは不安。艦と艦魂は一心同体であり、艦が損傷すると艦魂も傷つく。つまり艦魂が体の異常を訴えるということは艦本体にも何らかの異常があるということだ。
陸奥が事故を起こせば乗組員の命を危険にさらすことになる。それが陸奥には怖かった。
だが主砲の第二射の時間はすぐに迫ってきた。陸奥はそっと将の左手を握った。
「……主砲発射まで、五秒前、四、三、二、一、発射っ」
再び、艦が揺れた。今回は陸奥の手を握っていたのでバランスを崩すようなことはなかった。だが、例の如く一部の計器がフリーズした。
将は陸奥の方を向く。そこには不安そうな顔をした陸奥が立っていた。先程のように咳込むような様子はなく、彼はホッとするのだった。
戦闘は、まだ続く。
「本艦左九十度、ミサイル三発、まっすぐ突っ込んでくる!」
『さざなみ』のCICでは、ESSEで撃破できなかった対艦ミサイルを主砲で迎撃しようとしていた。主砲のトリガーを引くのは浅間裕介海曹長である。
「浅間ぁ! 外すなよ!」
「了解!」
砲術長の大声にも負けずに浅間は答える。
「撃ちーかた始めっ!」
「撃ちーかた始めぇー!」
浅間はトリガーを引いた。同時に『さざなみ』の主砲、127mm単装速射砲が連続で火を噴く。撃ち出された三発の砲弾は、的確にミサイルを貫いた。
「対艦ミサイル、全て撃墜」
CICにつかの間の静寂が訪れる。だがそれは一瞬だった。
「『陸奥』、敵艦隊へ砲撃しました!」
『陸奥』が砲撃したという知らせが入った。だが護衛隊群と中国艦隊との距離はまだまだある。いくら『陸奥』が対艦自動砲撃演算システムを持っていても、その命中率は百パーセントではない。せいぜい二十パーセントがいいところだろう。沖ノ鳥島沖海戦では初弾で直撃したが、あれは米艦隊が油断していただけのことだ。
「『陸奥』の砲弾、全て外れました」
やはりそう簡単には当たってくれないようだ。
CICで、新たな標的を捕捉した。
「新たな目標! 本艦正面、対艦ミサイル四発!」
いくら墜としても、敵の対艦ミサイルは止まない。
「ESSM発射用意!」
艦橋から許可が下りたようだ。ESSMの発射ボタンが押された。
「ESSM、撃てぇ!」
『さざなみ』の甲板には、一人の少女が立っていた。艦魂の、さざなみである。
彼女はポニーテールを風に揺らしながら、腰にさした木刀に右手を添えていた。飛んでくる対艦ミサイルを睨みつけている。
さざなみの目の前で、127mm単装速射砲が旋回する。狙うは三発の対艦ミサイル。ミサイルはまっすぐ『さざなみ』に向かってくる。だがさざなみは木刀を抜くこともせず、ただそれを眺めていた。口元に薄い笑みを浮かべながら。
単装砲が火を噴いた。三回の速射に、対艦ミサイルは全て撃墜された。
「浅間の奴、なかなかやるじゃねぇか」
さざなみはポツリと呟いた。
彼女の横で、『陸奥』の主砲が吠える。その音を聞いて、さざなみは腰の木刀を抜いた。視界には四発のミサイルが写っている。
「俺も、負けてられねぇな」
彼女は木刀を一閃した。同時にVLSからESSMが発射される。四発のESSMは白煙を残して対艦ミサイルに突っ込む。
ミサイル同士が激突し、爆風が発生した。一見、全機墜としたように見えたが、そうではなかった。残った一発が爆風の中から飛び出してきた。
さざなみはそれを見ると、転移を使用した。甲板から消え、向かったのはCIWSの横だった。木刀も消し、新たに空間からだしたのは64式76.2mm小銃である。彼女は小銃を構えた。
「弾幕は……」
ミサイルの中央に狙いを定め、同時に引き金を引いた。
「パワーだぜ!」
64式76.2mm小銃とCIWSの銃口から大量の銃弾が吐き出される。時間は数秒程度だったが、ミサイルを撃ち落とすには十分だった。ありったけの銃弾を食らったミサイルは、『さざなみ』の正面で爆散した。
戦闘は、まだ続く。
海上自衛隊艦魂広報課『広報かんこん』 第9版
『ねぶた祭』
サムライ「今日でねぶた祭も終わりです」
陸奥「結果はどうだったんですか?」
サムライ「結果は以下のとおりです
ねぶた大賞(一位)……サンロード青森
知事賞(二位)……ヤマト運輸
市長賞(三位)……日立
ってところです」
おおたか「あれ、作者のとこは~?」
サムライ「九位らしいですよ……。なんでも賞を取れなかったのは五年ぶりだとか……」
きりしま「作者ってどこで参加してるんだったかしら」
さざなみ「確か、青森県板金工業組合囃子方『一心會』だったはずだぜ?」
おきかぜ「囃子のほうは七位だったらしいよ」
みねかぜ「去年は囃子が六位だったらしいな」
陸奥「一番よかったのは一昨年の、知事賞で囃子が二位ですね」
きりしま「それはすごいわね。きっと、もっと頑張ればいけるわよ」
サムライ「そうですかね? まあ、来年は頑張ります」
『たかなみとおおなみ』
サムライ「青森港に、護衛艦『たかなみ』と護衛艦『おおなみ』が来ました!」
さざなみ「マジか!」
おきかぜ「作者、さっきと違ってテンション高いね」
サムライ「本当は一般公開を見るだけだったんですけど、友人と一緒にキャンセル待ちをしたら乗れちゃいました」
おおたか「よかったじゃん~」
サムライ「しかも、受け付けの人に頼んだら、キャンセル待ちの券が貰えることになりました。たかなみの110番とおおなみの111番の券が!」
さざなみ「やるな、作者。で、姉貴には会えたか?」
サムライ「無理に決まってますから。でも、今まで親と一緒でのんびり見てまわれなかったから、いろいろおもしろい物を見ました」
きりしま「例えば?」
サムライ「花嫁募集の貼紙とか、本棚にあったラノベとか。さらに格納庫の機材には『ちょすな(津軽弁でいじるなの意味)』の文字が……」
陸奥「何ですか、それは……」
サムライ「さあ……」
『編集後記』
陸奥「久しぶりの更新ですね。今まで何やってたんですか」
さざなみ「どうせゲームとかやってたんだろ?」
サムライ「そんなことはないはずです。前回お知らせしたとおり、文化祭用の小説書いてました。ねぶたもありましたし」
おおたか「結局、その小説はどうだったの~?」
サムライ「おもしろいとか言われました。ある友人には厨二だとも言われましたけど……」
きりしま「艦魂もの?」
サムライ「艦魂ものです」
おきかぜ「投稿する予定はないの?」
サムライ「今のところ無し。でもそのうち長編に書き直して投稿するかもしれません」
みねかぜ「そうか。図書カードは何に使うんだ?」
サムライ「もちろんラノベを……」
さざなみ「んなことだろうと思ったぜ……」
陸奥「そういえば、結局新しい小説は書かないんですか?」
サムライ「書こうかなとは考えているんですけど、話がなかなかできないんですよ」
みねかぜ「どういう話なんだ?」
サムライ「青函連絡船の八甲田丸の話なんですけど、八甲田丸の資料がほとんどなくて……」
陸奥「頑張ってください。でもそればっかりやってこっちの更新が遅れたら、その時は覚悟してくださいね?」
サムライ「わかってますよ」
きりしま「そろそろ終わったほうがいいと思うのだけれど」
陸奥「ご意見、ご感想待ってまーす」