第13話 作戦前日
「以上が尖閣諸島奪還作戦の概要です。何か質問はありますか?」
戦艦『陸奥』の予備会議室にはいつものメンバーがそろっていた。現在は尖閣諸島奪還作戦についての話し合いが行われている。
「……相手の戦力は?」
珍しくさわかぜが口を開いた。それに答えたのはもがみだった。
「フリゲート艦が四隻と駆逐艦が二隻です」
「その程度か、簡単じゃねぇか」
さざなみは鼻で笑う。中国など敵ではないと考えているのだろう。だが中国は今、空母などで軍備強化をしているので絶対に安全だとも言い切れない。
きりしまはその事を理解しているようで、さざなみの発言でため息をついている。
「まあがんばってね~」
おおたかは今回の作戦には参加しないのだが暇らしく、会議に顔をだしていた。
「おおたか、関係ないやつは入ってくるな」
みねかぜがおおたかに言うがまったく効果はナシ。おおたかは出ていく気配がない。邪魔はしていないので問題はないが、規律に厳しいみねかぜには気になるのだ。
「まあみねかぜ、別にいいじゃない」
きりしまが今度はおおたかの味方についてみねかぜに言った。みねかぜは諦めたようでもう何も言わなかった。ちなみに完全に寝ているおきかぜはもう無視のようだ。
「それで、他に質問はないですか?」
騒ぎがおさまってから陸奥がもう一度全員に聞いた。それにたいして全員特にないらしく、首を横に振るだけだった。
「ではこれで会議を終了します」
陸奥の一言で集まっていた艦魂はみな解散した。
「それでよ、浅間の奴逃げやがったんだ」
「ははは、それは浅間も災難だったね~」
ここは将の部屋で、持ち主の他に陸奥、さざなみ、おおたかが来ていた。
さざなみは昨日あった出来事を全員に話していたのだ。(というか愚痴っていた)
だがそれで言われたのは、さざなみが悪い、ということだった。
かわいいと言われただけで木刀を振り回すのは問題だ。
「かわいいってのは褒め言葉だろ?」
将は不思議そうに呟く。
「さざなみは恥ずかしいだけだよ~」
おおたかが将の素朴な疑問に答えた瞬間、さざなみに首をつかまれた。そしてそのまま締め上げられる。
一瞬でおおたかの顔が青くなった。
「ちょっ! さざなみギブギブ!」
おおたかが悲鳴を上げたところでさざなみは手を離した。
「ったく、何が恥ずかしいだ」
さざなみがつまらなそうに言う。
「じゃあなんで暴れたりしたんですか?」
陸奥がずばりさざなみに聞いた。
「さあな、俺にもわからん」
さざなみはそう言って深くため息をついた。
「いっつもあいつを殴ったりしちゃうんだよなぁ」
普段のさざなみでは見せることのない落ち込んだ表情でつぶやく。
「さざなみに可愛いなんて似合わないもんね~」
「あァ?」
からかったおおたかを一睨みで黙らせる。普段なら首を絞める程度のことはするのだが、今回はそれがなかった。
「ホントにどうしたんですか? 元気ないですよ?」
「それはきっと恋だよ」
いきなり、室内にいるのとは違う人物の声が聞こえた。四人は部屋の中を見回す。部屋には四人しかいない。
その人物を最初に見つけたのは将だった。
声の主は、部屋のドアを開けて立っていたおきかぜだった。
「あれ? おきかぜどうしたの~?」
おおたかが不思議そうに尋ねる。それに対しおきかぜは室内に入りドアを閉めてから答えた。
「さざなみが面白そうなことになってたからね」
おきかぜは空間から椅子を出した。そしてそれに座ろうとしたのだが、そこで将が声を上げた。
「お前らなあ、なんで俺の部屋に集まってくるんだ! ほかにいい場所ないのか!」
もともと狭い個室に入るのは三人くらいで限界だった。それなのに無理矢理四人もいたのだ。おきかぜが入ってくるとかなり狭い。
「そんなこと言われてもなぁ。どっかあるか?」
いつの間にか復活したさざなみが言う。それに陸奥が反応した。
「じゃあ私の部屋に来ませんか? 多分みんな入りますよ」
陸奥の提案に全員から賛成の声が上がった。
「秋月二士もどうですか?」
一人ベッドに入ろうとしていた将に陸奥が言う。将は少し考えたあと口を開いた。
「いいのか?」
陸奥は即答する。
「もちろんですよ」
「じゃあお言葉に甘えて」
将がそう言うと、陸奥は彼の手を取った。そしてそのまま二人は光に包まれ、部屋からいなくなった。同時に他の三人も光に包まれるようにして、消えた。
戦艦『陸奥』の一室に、普通ではありえないような光が発生した。部屋の中全体に広がる光である。
その光が少しずつ弱まっていくにつれて、人影が確認できるようになった。
そして光が完全におさまったころ、室内には五人の人がいた。
先程まで将の部屋にいた五人である。
「へぇ、ここがお前の部屋か」
「はい、どうですか?」
陸奥の手を離した将が部屋の感想を答える。
「…………なんにもないな」
まさにその通りだった。
将の部屋よりは広く、だいたい八畳ほどあるだろう。
しかし、彼は室内を見回す。
何もなかった。部屋には簡易ベッドと机、小さなタンスが置いてあるだけだ。普通の女の子が置くような物が一つもないのだ。
すごく殺風景なのである。
「もう少しなんか飾れよ、ぬいぐるみとか。女の子だろ?」
将は呆れていた。
それにさざなみも同調した。
「俺の部屋でももうちょっとマシだぜ?」
「しかたないじゃないですか。そんなの持ってないんですから」
陸奥は口をとがらせて反論した。
「……私だって欲しいですよ」
陸奥は小さくつぶやいた。だがそれは誰の耳にも届かなかった。
陸奥は拗ねてしまったようで、それっきり部屋の隅で何も言わなくなった。
ここは彼女の部屋なので気まずさは二倍だ。
「あーあ、秋月が怒らせたー」
おきかぜは面白そうに言う。明らかに楽しんでいた。
そんな中おおたかが小声で提案した。
「なんかプレゼントしてあげれば~?」
「はぁ?」
なに言ってるんだ的な感じの目で将はおおたかを見た。
「だ~か~らぁ、陸奥に何かプレゼントしてあげればいいじゃん~。きっと喜ぶよ~。ね~さざなみ~」
おおたかがさざなみに同意を求める。
「なんで俺に振るんだ」
「だって浅間にいつもいろいろ貰ってるじゃん~」
さざなみはそう言われてから、確かにそうだったと思い出した。
「で、何かって何だよ」
「そこは自分で考える~」
そうは言われても将は所詮男だ。わかるはずが無い。
結局、本人に聞くことにした。
「陸奥ー、欲しいもんあるか?」
「カステラと羊羹とお団子!」
『食べ物かよっ!』
即答した陸奥に全員が突っ込んだ。
「そういえばお前はそういう奴だったな」
「陸奥だもんね~」
全員呆れた視線で陸奥を見ていた。彼女はそれに気付きはしたようだが、理由はわかっていないようだった。
「えっ? ど、どういうことですか?」
そんな彼女を見て将は、彼女の頭をぽんぽん叩きながら言った。
「気にするな。お前は本当に甘いのが好きだよなって話だ。じゃあ今度買ってきてやるから」
「ホントですか!?」
目をすごく輝かせながら迫ってきた。二人の距離はかなり近く、端から見れば抱き着いているように見える。
将は顔を反らしながらも何とか答えた。
「お、おう……」
二人の後ろでは三人がひそひそ話していた。
(あの二人ってやっぱりお似合いだよね~)
(少なくとも陸奥は秋月のこと好きっぽいよね)
(どうでもいい)
(さざなみは浅間一筋だもんね~)
(あァ?)
三人の会話はさざなみの振り下ろした一撃によって終了した。
「何やってんだ? お前ら……」
将は呆れた目付きで三人を見ていた。
結局五人は一時間程話していた。
護衛艦『さざなみ』の砲術士、浅間裕介は艦内の廊下を歩いていた。
「ったく、さざなみのやつ本気で追っかけやがって」
浅間は昨日のことをまだ根に持っているようだった。
「さざなみがどうかしたのかしら?」
「うわぁっ!」
いきなり背後からかけられた声に、浅間は驚いて振り返った。
そこには笑顔で立っているきりしまがいた。
「おどかすなよ。びっくりしたじゃねぇか」
「勝手に驚いたあなたが悪いのよ。で、さざなみがどうかしたの?」
きりしまはもう一度同じことを聞く。
それに浅間はうんざりしたように答えた。
「ああ、昨日さざなみに追っかけられたんだ。死ぬかと思ったぜ」
「それは災難だったわね。でもどうせまたさざなみに何か言ったんでしょ?」
浅間がさざなみをからかって彼女に追いかけられるのは日常茶飯事なのだが、いつも以上に彼が疲れていることがきりしまは気になった。
「何も気に障ることは言ってないと思うんだけどなぁ」
「どんな話してたの?」
きりしまに尋ねられ、浅間は昨日の会話を思い出す。
「戦争が好きとか嫌いとかの話をしてた気がするんだが」
「それでどうして追いかけられるのよ」
きりしまの言葉に浅間はさらに記憶をたどる。
「たしか俺は戦争はやだって言ったんだよな」
「それで?」
「そしたらあいつに馬鹿にされてよ、それでも男かって」
「まああの子なら言いそうね」
浅間はさらに続けた。
「それで俺が、黙ってりゃ可愛いんだからそういうこと言うなって言ったんだ」
「それよ」
「へ?」
きりしまがいきなり声を上げたので浅間は驚いた。意味がわからなかった浅間はきりしまに聞き返す。
「どういうことだ?」
「あの娘は恥ずかしかっただけよ。だから顔を真っ赤にしたのよ」
きりしまはそう言ったが浅間には信じられなかった。あのさざなみがそんなことで恥ずかしがるとは思えなかった。
「どうせあの娘が恥ずかしがる事なんてないと思ってるかも知れないけど、それは違うわよ。さざなみだって年頃の女の子なんだからね」
「そんなもんか? 俺にはそうは見えねぇんだけどな。あいつは怖い怖い暴力女だぜ?」
浅間は、怖い怖いと言って肩をすくめた。
「まあいいわ。そろそろさざなみが帰ってくるわね。じゃあね」
「お、おう……」
浅間はきりしまが何をしにきたのかはわからなかったがとりあえず返しておいた。きりしまはそれを見ずに、後ろを向いて手をひらひらさせて去っていった。
「何だったんだ? あいつ」
「よ、よぉ浅間、こんなとこにいたのか」
きりしまを見送った浅間が振り返りと、目の前にさざなみが立っていた。
「おうさざなみ、どうしたんだ?」
浅間はいたって普通に聞いた。
さざなみはしばらく考えていたが、やがて浅間の方をしっかりと見て言った。
「そ、その……、昨日は悪かった……」
浅間は言葉を失った。今までさざなみに暴力を振られることはあっても謝られることはなかったからだ。浅間は一瞬固まっていたが、ようやく口を動かした。
「お、おう……、別に気にしてないからいいけどよ……。でも珍しいな、お前が謝るなんて」
先程きりしまに愚痴ったため彼は昨日の出来事についてはもう本当に気にしていなかった。どちらかと言えばさざなみは彼がその後に言った事に文句を言い始めた。
「うるせぇな。俺だって謝るときは謝るんだぜ」
浅間は意外そうな目でさざなみを見つめる。そう見つめられたさざなみは、不機嫌そうに口をとがらせる。
ずっとそのままになりそうだったので、彼はいきなり話を変えた。
「話は変わるんだけどさ、お前の『俺』ってのはなんとかなんねぇのか? いつも気になるんだけど」
いきなりの話題にさざなみは少し驚いたが、すぐに答える。
「なんないね。これは生まれつきなんだからよ。急にどうしたんだ?」
「年頃の女の子がそんな言葉遣いなのはどうかと思ったんだが、お前だもんな」
「ほっとけ!」
さざなみは心底うるさそうに言う。
浅間はもう少し話そうと思ったが、そこで仕事が残ってあることを思い出した。
「わりぃ、仕事残ってるからまた後でな」
そう言って浅間は去っていった。
ここにいてもすることの無いさざなみは、自室に帰ることにした。
海上自衛隊艦魂広報課『広報かんこん』 第8版
『文化祭まであと少し』
長門「文化祭、ねぇ。作者はなんかやるのかしら?」
サムライ「やらないと思いますよ。多分去年と同じく休憩所でゲームを」
あけぼの「ひどいな」
みくま「でも実際あんまり大きい文化祭じゃないからね! いいんじゃない?」
こんごう「それで、お前のクラスは何かやるのか?」
サムライ「やるみたいですよ。自分は何も聞いてませんが」
ほかぜ「でも友人を売ってた」
長門「なにそれ」
ほかぜ「女装かステージでのカラオケの二択を迫られていた友人を、学級会長に同意を求められた際に売った」
みくま「最低だよそれ」
あけぼの「結局その友人はどうなったの?」
サムライ「クラス展示でハム星人とかいうよくわからない役をやらされることになりました。頭にハムを乗せるらしいですよ」
こんごう「意味不明な役だな。そいつは何と言っているんだ?」
サムライ「『僕には拒否権があるんだ!』とか言ってましたよ。ちなみに彼は厨二と呼ばれています」
長門「かわいそうに。確かに厨二的発言ではあるかもしれないけどね」
サムライ「あとエアガンと軍事が大好きらしいです。いつも軍事の話ばかりしてます」
みくま「厨二乙」
『編集後記』
しまかぜ「最近暑いよねぇ」
サムライ「まだ六月ですけどね。これからさらに暑くなるんじゃないですか?」
長門「クールビズは大切よね。水着にでもなろうかしら」
サムライ「やめてください。目のやり場に困ります」
なだかぜ「まず描写が出来ないでしょ?」
あけぼの「そういう話はやめようよ」
みくま「なんか話があるんじゃなかったの?」
サムライ「すっかり忘れてました」
なだかぜ「おい!」
サムライ「当分の間、小説の更新が遅れるかもしれないです。文化祭前に文学部に小説を提出すれば図書カードが貰えるかもしれないということで、そのための小説を書く時間が欲しいというのが理由です。他にも次の話がなかなか出来ないというのもありますが。読んでくださる方には申し訳ないですが、なるべく早く戻ってきます」
あけぼの「遅れるって言ってももとから遅いよね、この小説」
こんごう「しかも次の話ができてないってのは、完全に自分のミスだしな」
長門「まあ言わないでおきましょうよ」
しまかぜ「それで、なんの小説を書くの?」
サムライ「もちろん艦魂で行きますよ。結構前に考えていた話を使います。ただ、8000文字以内ってのが難しいですね」
長門「新作も書きたいって聞いたんだけど」
サムライ「書きたいけど、それやるとこの小説を完結させれる気がしませんから」
あけぼの「ふーん。そろそろ時間だからね、終わろうよ」
みくま「そうだね!」
みくま・あけぼの「ご意見、ご感想お待ちしています!」