『槍を拾う者』
■ 戦場の朝
霧が薄く立ち込める丘陵地。
昨日までの戦で、草も土も踏み荒らされていた。
敵は歩兵隊。重装の盾を揃え、ゆっくり前進してくる。
周囲の味方は、まだ息を整えている。
彼だけは、軽く肩を回し、短槍とジャベリンを手にした。
「一本目は挨拶や」
自分に言い聞かせる。
■ 開幕
右手のジャベリンを投げた。
狙いは…感覚任せ。
盾の縁をかすめ、
敵の肩を貫く。倒れた。
だが、まだ密集は崩れない。
一歩進むと、左手の短槍が自然に構えられた。
突く。間合いを削る。
敵が避け、盾を振る。
でも、距離は詰まったまま。
■ そして拾う
倒れた敵から、ジャベリンを抜く。
血で滑る。
感覚が覚えていた。
投げて、突いて、拾う。
「まだ一本ある」
このループが、戦場で最も怖い行為となる。
■ 周囲の声
歩兵の誰かが、叫んだ。
「あいつ、抜きやがった!」
「背中からまだ持っとるぞ!」
「槍を回収する者や…!」
その瞬間、
自分の動きに名前がついた。
『槍を拾う者』。
■ 隊列崩壊
味方は距離を置きつつ支援。
敵は間合いに戸惑い、盾を重ねる位置が乱れた。
一本目で牽制
二本目で刺す
三本目で心理を揺さぶる
敵の歩兵は、隊列が壊れる感覚を初めて味わった。
■ 回収と撤退
数分の激闘。
体力は減ったが、槍はすべて回収。
後退しつつ、背中の予備ジャベリンを再装填。
再び備え、息を整える。
「まだ、戦える」
■ 戦後の評判
味方からは囁き
「双槍の風走りがやった」
敵は恐怖
「あの野郎、槍を拾いやがった」
酒場での噂
「三本目を抜く男」
まだ戦士本人は、
名前の重さを理解していなかった。
■ 夜の思索
焚き火の前で、槍を磨く。
血と泥を拭いながら考えた。
一本だけじゃ、迷う
二本あれば、間合いを失わない
でも、三本目を抜くと、戦場に名前が残る
槍は道具やない。
間合いを支配する意思。
■ 最後の一文
戦い方に名前はついた。
だが、戦士はまだ、走り続ける。




