『二本持つ理由』
■ 戦の翌朝
夜露で冷えた地面に、
槍を立てて置いた。
一本は短槍。
一本は、血の跡が残るジャベリン。
並べると、
長さも、重さも、役目も違う。
それでも――
両方ないと落ち着かなかった。
■ 周囲の目
朝の点呼で、
後ろの兵が囁いていた。
「あいつ、昨日も二本持っとったな」
「欲張りやろ」
「盾持たんのか?」
聞こえてたけど、
振り返らなかった。
説明する気もなかった。
■ なぜ二本か
一本だけなら、楽や。
迷わない
重くない
命令にも従いやすい
でも、それは
止まる前提の武器や。
二本持つのは、
止まらないため。
■ 訓練場で
杭代わりの丸太に向かって、
ジャベリンを投げた。
刺さる。
間を置かず、
短槍で詰める。
突く。
突いたまま、
前に出る。
そして、
刺さった槍を抜く。
この一連が、
一呼吸で終わるか。
それだけを確かめていた。
■ 隊長の視線
遠くで、
隊長が見ていた。
止めもしない。
褒めもしない。
ただ、
目だけ動かす。
一歩、前に出るかどうかを
見極めている目やった。
■ 失敗
投げた槍が、
地面に弾かれた。
外した。
その瞬間、
胸が詰まった。
一本失う怖さ。
でも、
まだ一本ある。
短槍を構えた時、
身体が軽くなった。
■ 気づいたこと
二本持つのは、
攻撃のためやない。
保険でもない。
一本目が失敗しても、
身体が止まらないため。
■ 夜
焚き火の前で、
隊長が言うた。
「お前、
一本やったら考えるやろ」
返事を待たず、
続けた。
「二本あるから、
考えんで済む」
それだけ。
■ 槍を磨きながら
刃についた傷を、
指でなぞる。
投げる槍。
突く槍。
役目は違う。
でも、
判断は一つ。
■ 最後の一文
二本持つ理由は、
強くなるためやない。
迷わず、前に出るためや。




