「一本目の重さ」
■ 初陣
最初に渡された槍は、
思っていたより軽かった。
軽い、というより
中身が空っぽに感じた。
「これで人を止めるんか?」
そう思った時点で、
まだ戦士やなかった。
戦場は丘の下の畑
石垣もない。
遮蔽物は倒れた麦と、踏み荒らされた畝。
敵は重装歩兵。
盾を前に、ゆっくり詰めてくる。
味方は――
足が止まってた。
二本、持ってるのはお前だけや
左手の短槍。
右手のジャベリン。
周りから見たら、
「欲張り」に見えたやろ。
隊長が言うた。
「一本投げたら終いや。
それ以上は前に出るな」
返事はしなかった。
一本目
風が吹いた。
自分からは分からん。
ただ、身体が前に出た。
投げた。
狙ったんやない。
「歩幅」に合わせただけ。
槍は盾の上を越えて、
男の喉に入った。
倒れた。
それだけ。
間が空いた
ほんの一拍。
誰も前に出ない。
その瞬間に、
左手の槍を右に持ち替えた。
考えたら遅い。
身体が覚えた。
二本目は突き
盾の縁をなぞって、
隙間に滑らせた。
刺した感触はなかった。
ただ、
「槍が軽くなった」。
初めての回収
倒れた男から、
ジャベリンを抜いた。
血で滑る。
それでも抜いた。
その瞬間、背後で誰かが叫んだ。
「あいつ、拾っとるぞ!」
それが、
最初の名前やった。
戦いはすぐ終わった
崩れたのは、人数やない。
間合いや。
一歩詰めるたび、
一本飛び、一本突き、一本抜かれる。
隊列が保てん。
■ 戦いのあと
手が震えてた。
槍やない。
自分が。
隊長が言うた。
「次も二本持て」
それだけ。
■ その夜、酒場で
知らん誰かが言うてた。
「あいつな、三本目を背中から抜くねん」
まだ、
三本目なんて使ってない。
でも、
名前は先に走る。
■ そして残った言葉
槍を拭きながら、
自分に言うた。
「重いのは、一本目だけや」
それが、
双槍の風走りの始まり。




