魂等級ゼロと嘲笑された俺は、異世界で規格外でした
初投稿です。
至らない点もあるかと思いますが、楽しんでいただければ幸いです。
注意:暴力・流血表現あり
気がつくと、真っ白な空間に立っていた。
どこなのか分からない。生きているのか死んだのかすら曖昧だった。
透明の柱の前で、奇妙な服を着た男が魂たちを並べている。
「次、天野蓮」
それが俺の名前だとしか思わなかった。
状況を理解する余裕もなく、ただ前へ進む。
男は俺の顔を見た瞬間、舌打ちした。
「……濁ってる。等級測るまでもねぇ。“残りカス”魂じゃねぇか」
周囲が笑い、胸が痛んだ。
生前の記憶がよぎる。
俺は誰も傷つけたことはない。
ただ、人に好かれようとして……裏切られ、損な役回りばかり押しつけられた。
その積み重ねが、間違った恐怖を植えつけた。
――俺と関わると、相手が損をする。
その恐怖は、この正体不明の空間でも消えなかった。
男(その名を知るのはずっと後だ)が杖を振る。
柱が光り――
バキィン!!
水晶が砕け散った。
「魂等級ゼロ。最低。価値なし。次!」
俺は光に呑まれ、意識が落ちた。
その瞬間、小さな声がどこかで囁いた。
――“魂純度、規格外値”。
その意味を知るのは、かなり後だ。
◇
目を開けると木の天井が見えた。
体は動かず声も出ない。赤子になっていた。
ここがどこか分からない。
ただ、俺が泣くと部屋の火がふっと消えた。
「え……?」
父が灯した光魔法も、俺の近くで消えた。
「この子……魔力を飲んでる?」
そんな声が聞こえた。
しかし、両親の体から魔力を奪うことはなかった。
後に分かるのだが、魔力には種類がある。
火や光の魔法は“自然魔力”“精製魔力”で――
魂から切り離された“外の力”。
俺はそれを無条件で吸ってしまう。
だが人の体内にある“生体魔力”は、
相手を怖がったときだけ吸われる。
赤子の俺は両親を怖がっていなかった。
だから吸わない。
ただし村には噂が広がった。
「呪われた子だ」「魔力を奪う」
まだ言葉も話せない俺に石が投げられた。
(まただ……俺は、誰かを不幸にするのか)
前世の恐怖が心に根を張った。
◇
8歳のときだった。
段差から落ちかけた子を助けようと手を伸ばした瞬間――
パシュッ!
光の粒が男の子から吸い込まれ、膝をついた。
「っ……力が抜けた……」
「アイツだ!! 魔力を食ったんだ!!」
「触られたら終わるぞ!」
俺は、ただ助けたかっただけなのに。
(やっぱり……俺は誰かを不幸にする)
村は本気で俺を避け始めた。
だが一人だけ、俺の前に立つ子がいた。
「レンは悪くない!! 助けただけだよ!!」
リナ。
俺を唯一、人として見てくれる存在。
俺は顔をそらした。
「……俺といると嫌われる」
「もう嫌われてるよ?」
あっけらかんと言って笑った。
「だからいいの。私はレンといるから」
胸が締めつけられた。
◇
成長するにつれ、俺の力は異常になった。
薪は触れただけで砕け、
鍬は石を割り、
魔獣は拳一つで沈む。
自分が怖かった。
だがリナだけは隣にいた。
「レンは怪物なんかじゃないよ」
その言葉だけが、俺を繋ぎとめた。
◇
十歳。魔獣の群れが村を襲った。
逃げ遅れた子供をかばい、魔獣を殴る。
地面が割れ、魔獣が沈んだ。
村人は恐怖し、リナだけが泣き笑いした。
「ありがとう、レン!」
俺は気づかないふりをした。
強くなっていくほど、人が離れていく。
◇
十七歳。
山から異様な魔力が迫り、ロックブルの群れが村へ突進する。
「レン!!頼む!!」
「……一人で十分だ」
リナが袖を掴む。
「死んだら許さない」
「死なないよ」
ロックブルを掴み、地面に叩きつけ――
吸った魔力が体に巡り、筋力が跳ね上がる。
群れが吹き飛んだ。
リナが駆け寄る。
「レン!」
空が裂けた。
黒白の光が降り、皮膚を焼く。
聞き覚えのある嘲笑。
「効かない!?なぜだ!? 等級ゼロの分際で!!」
あの声。
忘れるはずがない。
(……あいつだ)
魂深層に刻まれていた“声の記憶”が蘇る。
「お前が強くなると俺の測定ミスがバレるんだよ!!
俺の地位が終わる!!」
エルド――
名は知らずとも、声だけは覚えていた。
俺は手を伸ばし、迫る神力を吸い込む。
骨が焼けるような痛み。
だが――吸える。
吸った神力が俺の魂核で形を変える。
世界を砕く力へと。
そのまま、逆流。
光の鎖がエルドを掴み上げる。
「やめろ!!下等が俺に触るな!!」
「触られたくなかったら、最初から嘲笑うな」
「俺の人生が終わる!!」
「終わらせたのはお前だ」
光が弾け、エルドは消えた。
静寂。
リナがそっと俺の手を握る。
――魔力が吸われない。
「……あれ? 私、吸われてないよ?」
「たぶん……俺が“怖いと思わない人”の魔力は吸わないんだ」
リナの目が揺れる。
「じゃあ……私は?」
俺は手を握り返した。
「俺が……信じた人だ」
リナは泣きながら笑った。
「じゃあ、これからも手、つないでよ。
レンがもう怖がらないように」
俺は頷く。
「……ああ。
俺も、自分を少し信じてみる」
魂等級ゼロと嘲笑された俺は――
初めて、“触れてもいい手”を見つけた。
世界は、少しだけ優しく見えた。
――終わり。
お読みいただきありがとうございました。
初投稿の短編になりますが、少しでも楽しんでいただけていたら嬉しいです。
今回はひとまず短編として区切っていますが、
反応が良ければ続き(学院編・天界側の視点など)も考えています。
もし面白いと思っていただけましたら、
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