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電脳聖女 ジャンヌ・ローゼ  作者: 月織


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第9話 明かされた伝説、ジャンヌ・ダルクの記憶

月織--広大な物語の世界を縦横無尽に駆け巡る、新進気鋭の物語紡ぎ手です。


ジャンルを問わず、読者の心に深く響く「希望」と「葛藤」、そして「成長」の物語を描き出すことを信条としています。特に、全年齢対象作品においては、子供たちの純粋な心にも、大人の複雑な感情にも寄り添い、ページをめくるたびに、新たな「光」を見出すような感動体験をお届けすることをお約束します。

すべての作品が、読む人の明日を照らす一筋の光となることを願って、今日も筆を執ります。

ホープタウンの瓦礫は、まだ熱を帯びていた。ヴォルテックス・クラッシュの圧倒的な力によって蹂躙された街並みは、まるで巨大な暴力に晒された傷跡のように、痛々しく私の目に映った。全身に走る鈍い痛み、聖衣の擦り切れ、そして何よりも、あの敵に「手も足も出なかった」という、深い無力感。


「ほのか、無事ですか……! 身体のダメージは深刻ですが、幸い、生命維持システムに異常はありません」


ピュールの声が、私の意識を現実へと引き戻した。私は、破壊されたビルの陰で、ずるずると地面に座り込んでいた。ローズブレードは、近くに転がっていた。まだ、その輝きは失われていない。でも、あの圧倒的な力の前では、私も、この剣も、あまりにも脆かった。


「……みんな、大丈夫かな」


瓦礫の隙間から、人々の不安そうな囁き声が聞こえてくる。彼らの声は、まだ完全に元には戻っていない。ヴォルテックス・クラッシュの「絶対静寂」の力は、エコー・ミゼリアのように音波を遮断するものではなかったが、人々の心に深い傷跡を残したことは確かだ。


「このままでは……」


私の心は、再び暗い影に覆われそうになった。ジャンヌ・ローゼとしての使命。しかし、私は、一体何を守ることができるのだろう。あの敵に、どうやって立ち向かえばいいのだろう。


その時、私の視界に、見慣れない人物が現れた。それは、ホープタウンの崩壊したビル群の向こうから、静かに歩いてきた、一人の女性だった。彼女は、上品なスーツに身を包み、穏やかながらも、揺るぎない意志を感じさせる瞳をしていた。


「……あなたは、ジャンヌ・ローゼ?」


彼女の声は、澄んでいて、どこか懐かしい響きを持っていた。


「あなたは……?」


私は、警戒しながらも、その女性を見つめた。


「私は、このヴァーチャル世界の管理者の一人。そして、あなたに、いくつかの真実を伝えるために来たのです」


管理者の女性は、そう言うと、静かに語り始めた。彼女の話は、私が知らなかった、ヴァーチャル世界と、そしてジャンヌ・ローゼという存在の、もう一つの側面についてだった。


「あなた、暁ほのか。そして、電脳聖女ジャンヌ・ローゼ。あなたは、ある特別な使命のために選ばれた存在です」


「使命……?」


「はい。あなたを、ジャンヌ・ローゼへと導いたのは、遠い過去の英雄、ジャンヌ・ダルクの魂です。彼女の魂は、人々の純粋な希望の力と融合し、このヴァーチャル世界を守護する存在として、あなたを選んだのです」


ジャンヌ・ダルク。歴史の教科書でしか知らなかった、あの伝説の乙女。彼女の魂が、私を選んだ……?


「で、でも……私は、そんな英雄の魂を受け継げるほど、強くなんて……。今日の戦いでも、私は、何もできなかった……」


私の声は、消え入りそうだった。


管理者は、静かに微笑んだ。

「英雄も、最初から強かったわけではありません。ジャンヌ・ダルクもまた、苦悩し、迷い、それでも希望を信じ続けたからこそ、伝説となれたのです」


彼女は、ジャンヌ・ダルクの物語を語り始めた。それは、私が想像していたよりも、遥かに苦難に満ちた、そして輝かしい物語だった。


「彼女は、声なき人々の叫びを聞き、絶望に満ちた戦場に立ちました。しかし、彼女もまた、数えきれないほどの敵に囲まれ、裏切られ、孤独に苦しみました。それでも、彼女の心の奥底には、常に『希望』の灯火があった。その希望の光が、人々の心を照らし、彼女を支え続けたのです」


管理者の語るジャンヌ・ダルクの姿は、私の知っている、ただの英雄ではなかった。苦悩し、涙し、それでも立ち上がり続けた、一人の人間としての姿だった。


「彼女の魂が、あなたを選んだのは、あなたの歌声が持つ『希望の響き』、そして、あなたの心の優しさ、そして、何よりも、どんな絶望的な状況でも、人々のために戦おうとする、その『勇気』に、過去の自分を重ね合わせたからでしょう」


私の歌声……。ローゼとしての私の歌声が、ジャンヌ・ダルクの魂に響いた……?


「でも、私は……」


「あなたは、まだ『ローゼ』としての自分と、『ジャンヌ・ローゼ』としての自分を、完全に繋ぎ合わせられていないのかもしれません。しかし、その二つの存在は、決して矛盾するものではありません。あなたの歌声が、人々の心を慰め、希望を与えるように、ジャンヌ・ダルクの魂もまた、あなたに『希望を守る力』を与えようとしているのです」


管理者は、私の肩にそっと手を置いた。その手は、温かく、力強かった。


「ヴォイド・ネメシスは、人々の『希望』を奪うことを目的としています。彼らが最も恐れるのは、どんな闇の中でも、希望の光を灯し続ける存在。それが、あなた、ジャンヌ・ローゼなのです」


彼女の話を聞いているうちに、私の心に、少しずつ温かい光が灯り始めた。絶望の淵で感じた無力感。ヴォルテックス・クラッシュの圧倒的な力。それら全てが、私を打ちのめすためのものではなく、私をさらに強くするための試練だったのかもしれない。


「ジャンヌ・ダルクの魂……過去の英雄の苦悩と希望……」


私は、自身の胸に手を当てた。そこには、確かに、ジャンヌ・ダルクの魂の鼓動ではない、しかし、共鳴するような、温かい力が宿っているのを感じた。それは、私自身の、魂の響き。


「私……もう一度、立ち上がります」


私は、顔を上げた。瞳には、再び、決意の光が宿っていた。


「私は、暁ほのか。そして、電脳聖女ジャンヌ・ローゼ。私の歌声は、たとえ声が出なくても、たとえ剣が通用しなくても、私の心は、人々の希望を信じ続ける。その想いを、きっと、この世界に届けられるはずです」


管理者は、満足そうに頷いた。


「その言葉を、待っていました。あなたは、一人ではありません。あなたの歌声は、あなたの勇気は、確かに、この世界に響いています。そして、いつでも、あなたの力になります」


彼女はそう言うと、静かに姿を消した。まるで、最初から存在しなかったかのように。


「ピュール」

「はい、ほのか。お話は聞かせていただきました。ジャンヌ・ダルクの魂との共鳴、そして『希望の歌声』の重要性。これらを考慮し、今後の活動計画を再編成します。まずは、あなたの精神エネルギーの回復を最優先に、そして、歌声による精神干渉能力の強化訓練を……」


ピュールが、いつものように冷静に分析を始める。しかし、その声には、以前よりも、確かな温かさが感じられた。


「ありがとう、ピュール」


私は、ピュールに微笑みかけた。


「私、分かったんだ。私の力は、歌声だけじゃない。みんなとの絆、そして、ジャンヌ・ダルクの魂が与えてくれた、この希望を信じる心。それが、私の本当の力なんだって」


私は、再びローズブレードを手に取った。その輝きは、以前にも増して、力強く、希望に満ちているように見えた。


「ヴォルテックス・クラッシュの力には、まだ対抗できないかもしれない。でも、私は、諦めない。私の歌声で、みんなの心を繋ぎ、希望を灯す。それが、私に与えられた、この世界の守護者としての使命だから」


私は、決意を新たに、窓の外を見つめた。

夜空には、まだ多くの瓦礫が散らばっている。しかし、その暗闇の中に、私は、確かな光を見出した。


ジャンヌ・ダルクが、苦悩しながらも希望を灯し続けたように。

私もまた、どんな困難に直面しようとも、希望の歌を歌い続ける。

たとえ、声が出せなくなっても、たとえ、剣が通用しなくても。

私の心は、いつだって、みんなの味方だ。


この伝説の力と共に、私は、この世界の未来を、希望の歌で紡いでいく。

それが、私、ジャンヌ・ローゼの、揺るぎない決意なのだから。

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