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電脳聖女 ジャンヌ・ローゼ  作者: 月織


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8/8

第8話:鋼鉄の壁!破壊の舞踏者は止まらない

月織--広大な物語の世界を縦横無尽に駆け巡る、新進気鋭の物語紡ぎ手です。


ジャンルを問わず、読者の心に深く響く「希望」と「葛藤」、そして「成長」の物語を描き出すことを信条としています。特に、全年齢対象作品においては、子供たちの純粋な心にも、大人の複雑な感情にも寄り添い、ページをめくるたびに、新たな「光」を見出すような感動体験をお届けすることをお約束します。

すべての作品が、読む人の明日を照らす一筋の光となることを願って、今日も筆を執ります。

ネットを駆け巡るデマの嵐は、まだ収まる気配を見せなかった。私の心は、嘘と真実の境界線が曖昧になる中で、まるで泥沼の中にいるかのような重苦しさに沈んでいた。ユリの言葉だけが、私を信じる心の灯火として、か細く瞬いている。ジャンヌ・ローゼとして、人々の希望を守りたい。ローゼとして、みんなに笑顔を届けたい。その強い願いが、情報汚染という見えない敵の前で、もがき続けていた。


「ほのか、精神活動データは昨日より微増。しかし、エネルギー残量ゲージは低迷したままです。無理は禁物ですよ」


ピュールが、いつものように私の体調を気遣う。自室のヴァーチャルミラーに映る私の顔は、やはり、どこか疲れ切っていた。


「分かってる。でも、ピュール。私、このままじゃダメだ」


私は、スマホを握りしめた。画面には、私を中傷する書き込みと、活動停止を告げる事務所からの通達。


「私が何もできないままだと、みんながもっと信じなくなる。ジャンヌ・ローゼとしても、ローゼとしても、私はみんなの希望を奪う存在になっちゃう……!」


その時、ピュールが緊急警告を発した。


「ほのか! ホープタウン中央エリアに、未知の強力なエネルギー反応を感知! これは、ヴォイド・ネメシスによる、大規模な物理的破壊行動と推測されます!」


「物理的破壊……!?」


私は、はっと顔を上げた。情報戦を仕掛けていたコード・カイオスとは、また別の幹部だろうか。


「データ照合! 敵は、ヴォイド・ネメシス最強の戦闘兵器、コードネーム『ヴォルテックス・クラッシュ』! ヴァーチャル空間の質量を歪曲させ、巨大な衝撃波を発生させる能力を持ちます!」


ピュールの声が、かつてないほど緊張している。最強の戦闘兵器。質量歪曲。衝撃波。その言葉は、私の心をざわめかせた。今、私の精神状態は、決して万全ではない。この状況で、最強の敵と戦うというのか……。


しかし、躊躇している暇はなかった。物理的な破壊は、人々の日常を直接奪い去る。それは、私が絶対に許せないことだ。


「行くよ、ピュール! みんなの日常を、絶対に壊させない!」


「正義と希望”の結晶!」


眩い光が私を包み込み、甘美な痺れと、内側から燃え上がるような力が全身を駆け巡る。


「電脳聖女!」


光の粒子が弾け飛び、純白の聖衣が私の身体を包む。黄金の髪、翠の瞳。私は今、ジャンヌ・ローゼとして、ホープタウンへと急行する。


「ジャンヌ・ローゼ!!」


ホープタウンの中心部に降り立った瞬間、私の五感を襲ったのは、轟音と、地面を揺るがす強烈な振動だった。街のホログラムは、まるで巨大な拳で殴りつけられたかのように、歪み、崩壊していく。人々の叫び声が、空間に響き渡る。デマによって心を閉ざしていた人々も、この物理的な破壊の前には、恐怖と絶望の表情を浮かべていた。


そして、その破壊の中心に、奴はいた。


それは、見る者を圧倒する、巨大な破壊者だった。全身を覆う漆黒の装甲は、ヴァーチャル空間のあらゆる光を吸い込み、鈍く輝く。その両腕は、まるで巨大なハンマーのように肥大化し、わずかに動かすだけで、周囲の空間を歪曲させるほどの質量を誇っている。その姿は、まさしく「鋼鉄の壁」。コードネーム「ヴォルテックス・クラッシュ」。


「愚かなる光よ。お前たちの、この脆弱な空間も、偽りの希望も、全て私が粉砕してやる」


ヴォルテックス・クラッシュは、機械的な、しかし底知れない悪意を孕んだ声で、そう告げた。その巨大な身体から、ヴァーチャル空間そのものを軋ませるかのような、重い圧力が放たれている。


「みんなの日常を、破壊なんてさせない!」


私は、ローズブレードを構え、ヴォルテックス・クラッシュへと肉薄しようとした。


その瞬間、ヴォルテックス・クラッシュが、ゆっくりと右腕を振り上げた。その動きは、巨大な身体からは想像できないほど、流れるように、しかし圧倒的な質量を伴っていた。


「……!?」


次の瞬間、私の全身を、巨大な衝撃波が襲った。それは、目に見えない、しかし物理的な暴力。空間そのものが、ねじ曲がるかのような圧力。


「きゃあああッ!」


私は、為す術もなく吹き飛ばされ、近くのビルの壁に叩きつけられた。全身に激しい痛みが走る。聖衣の輝きが、一時的に鈍る。


「ほのか! 危険です! ヴォルテックス・クラッシュの能力は『質量歪曲による衝撃波』! 彼の動きは遅く見えますが、その一挙手一投足が、周囲の空間に物理的な衝撃と質量変化をもたらします!」


ピュールの警告が、脳内に響く。私の優雅な動きや、剣技も、その圧倒的な質量と衝撃波の前には、無力なのか……?


私は、何とか身体を起こし、再びローズブレードを構える。


「くっ……! ならば、私の歌声で……!」


私は、必殺技「ローゼ・シンフォニー」を放つべく、ローズブレードを胸元に抱きしめた。私の心の歌を、光の波動へと変換する。


しかし、ヴォルテックス・クラッシュは、私の行動を予測していたかのように、その巨体を僅かに揺らした。


ゴオオオオッ!


周囲の空間が、さらに大きく歪曲する。まるでヴァーチャル空間そのものが、巨大な水圧で押し潰されるかのような感覚。私の心の歌は、その圧力に抗いきれず、ローズブレードの中で、か細く震えるだけだった。


「私の必殺技が、起動できない!?」


「彼の『質量歪曲』は、空間内のエネルギー変換効率を著しく低下させます! あなたの歌声エネルギーを光の波動へと変換するプロセスが阻害されています!」


ピュールの分析に、絶望が胸をよぎる。歌声が届かないエコー・ミゼリア。必殺技が起動できないヴォルテックス・クラッシュ。私は、またしても、手も足も出ないのか……!


「無駄だ、光の乙女よ。お前の力は、全て私には通用しない。お前がそのか細い腕で、何を守れるというのだ?」


ヴォルテックス・クラッシュは、巨大な右腕を再び振り上げた。その腕が、ゆっくりと、しかし確実に私へと迫ってくる。空間が軋み、周囲のビルが、音もなく崩壊していく。


「やめて!」


私は、必死に光の障壁を展開した。しかし、障壁は、ヴォルテックス・クラッシュの放つ衝撃波によって、いとも簡単に打ち砕かれた。


「ぐあああああッ!」


再び吹き飛ばされ、地面を何度も転がる。聖衣が破れ、身体のあちこちに激しい痛みが走る。こんなにも、圧倒的な力の差を感じたのは、初めてだった。


「ほのか! このままでは危険です! 防戦一方では、あなたの体力が持ちません!」


ピュールの声が、焦りで震えている。


「分かってる……でも……どうすれば……!」


私は、立ち上がろうとするが、身体の自由が利かない。ヴォルテックス・クラッシュは、まるで踊るかのように、しかし破壊的な動きで、私へと迫ってくる。その一歩一歩が、大地を揺らし、私の心を恐怖で満たしていく。


「お前の脆い身体では、私を止めることなどできぬ。このホープタウンも、お前たちの希望も、全て私が粉砕してやる!」


ヴォルテックス・クラッシュが、とどめとばかりに、両腕を振り上げた。周囲の空間が最大に歪曲し、巨大なエネルギーの塊が形成されていく。


「こんなところで、終わらせない……!」


私は、必死に力を振り絞り、身体を起こした。体力の限界は、とっくに超えていた。全身の細胞が、悲鳴を上げている。


「ほのか! 現在、ヴォルテックス・クラッシュのエネルギー出力が最大に達しています! これをまともに受ければ、あなたの存在そのものが消滅する可能性が99.9%です!」


ピュールの警告が、私の脳内に、絶望的な数字と共に響き渡る。


しかし、私の瞳は、目の前の巨大な敵を、真っ直ぐに見つめていた。人々の恐怖に歪んだ顔が、脳裏をよぎる。デマによって、私を疑っている人々も、今、目の前で破壊に怯えている。


(私は……みんなの希望を、絶対に守る……!)


私は、震える手で、再びローズブレードを掴んだ。力は出せない。必殺技も使えない。それでも、この剣だけは、私と共にある。


私は、渾身の力を込めて、ローズブレードを敵に向けて突き出した。それは、物理的な攻撃ではない。ただ、私の揺るぎない決意の、光。


「正義と希望”の結晶!」


私の心の中で、強く、強く名乗りを上げる。


「電脳聖女!」


光は、わずか。しかし、その光は、周囲の闇に抗うかのように、確かに瞬いていた。


「ジャンヌ・ローゼ!!」


私の名乗りが、ヴォルテックス・クラッシュの放つ巨大なエネルギーの塊に、ぶつかる。それは、まるで、か細い糸が、巨大な鉄骨を支えようとするかのような、絶望的な光景。


「無駄な抵抗を!」


ヴォルテックス・クラッシュの放った衝撃波が、私を飲み込もうと迫る。私は、その衝撃波の直撃を、光の障壁でなんとか受け止めた。全身が、激しい痛みに包まれる。骨が軋む音が聞こえるような錯覚。


「くっ……!」


押し潰されそうになる身体。意識が遠のきそうになる。

それでも、私は、歯を食いしばり、必死に耐え続ける。


その時、ヴォルテックス・クラッシュの巨大な身体が、僅かに揺らいだ。

「何……? この光は……」

彼の悪意に満ちた瞳に、微かな困惑が浮かんだように見えた。私の光は、彼の予想を超えて、粘り強く、その存在を主張し続けている。


「ほのか! 彼のエネルギー出力に、一時的な過負荷を検知! 短時間であれば、彼の衝撃波を凌ぎきれる可能性が……!」


ピュールの声が、希望の光を指し示す。チャンスだ!


私は、残された全エネルギーを光の障壁に集中させた。全身の細胞が、燃え尽きそうになる。


「うおおおおおッ!」


私の身体から放たれる光が、ヴォルテックス・クラッシュの衝撃波を、一瞬だけ押し戻した。その隙に、私は、渾身の力で、彼の攻撃範囲から飛び退いた。


ヴォルテックス・クラッシュは、私の動きに、追いつけない。

彼は、不満そうに、しかし、これ以上の追撃は不可能だと判断したかのように、巨大な身体を転回させた。


「愚かな光め……だが、次はないぞ。必ず、この世界の全てを破壊してやる!」


憎悪に満ちた言葉を残し、ヴォルテックス・クラッシュは、大地を揺るがす足音と共に、闇の中へと消え去った。


私は、その場に崩れ落ちた。聖衣は破れ、全身は痛みで麻痺している。体力の限界を、はるかに超えた戦いだった。息が荒く、意識が朦朧とする。


「ほのか! 大丈夫ですか!? 即座に、空間転移で脱出します!」


ピュールの声が、耳元で聞こえる。私は、かろうじて頷いた。


「うん……みんなの日常……守れた、かな……」


目の前には、破壊され尽くした街並み。しかし、人々は、生きている。恐怖に怯えながらも、希望を完全に失ってはいない。


(私は……まだ、弱い。でも、絶対に、負けない……)


暗転する意識の中で、私は、鋼鉄の壁のような敵の姿と、自身の無力感を、深く、深く心に刻んだ。

この圧倒的な力。

私は、これを、どうすれば打ち破れるのだろう。

新たな試練が、私を待ち受けている。


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