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電脳聖女 ジャンヌ・ローゼ  作者: 月織


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7/8

第7話:データ汚染!嘘と真実の境界線

月織--広大な物語の世界を縦横無尽に駆け巡る、新進気鋭の物語紡ぎ手です。


ジャンルを問わず、読者の心に深く響く「希望」と「葛藤」、そして「成長」の物語を描き出すことを信条としています。特に、全年齢対象作品においては、子供たちの純粋な心にも、大人の複雑な感情にも寄り添い、ページをめくるたびに、新たな「光」を見出すような感動体験をお届けすることをお約束します。

すべての作品が、読む人の明日を照らす一筋の光となることを願って、今日も筆を執ります。

あの「絶対静寂」の悪夢から数日。私の心は、まだ深い傷を抱えたままだった。エコー・ミゼリアの圧倒的な力の前に、私は手も足も出ず、人々の希望が消えゆくのをただ見ているしかなかった。ジャンヌ・ローゼとしての無力感。ローゼとしての存在意義の揺らぎ。それは、冷たい霧のように私の心を覆い続けていた。


「ほのか、顔色が優れませんね。精神活動データも低調です。やはり前回の戦闘で受けた精神的ダメージが、まだ癒えていないようですね」


自室のクリスタルから、ピュールの声が響く。彼女のホログラムは、いつもより少し心配そうに、私の顔を見上げているように見えた。


「大丈夫だよ、ピュール。……でも、本当に私、ジャンヌ・ローゼでいいのかなって」


私は、ベッドに腰掛け、膝を抱えた。胸元のクリスタルは、今は静かに輝きを潜めている。


「歌声が通じない、剣も効かない。私の力って、一体何なんだろう」

「ほのか。あなたが絶望の淵に立たされた時、その心の光は最も強く輝きます。それは、あなた自身の成長に繋がるものです。そして、あなたの歌声は、必ずや人々の心に届くと、私は信じています」


ピュールの言葉は、いつも的確で、私を励まそうとしてくれているのがわかる。でも、今の私には、その言葉さえ、遠く霞んで聞こえた。


その時、私のスマホがけたたましく鳴り響いた。画面には、マネージャーのサトミさんの名前。嫌な予感がする。


「……はい、サトミさん」

「ほのか!? 今すぐネットニュース見て! 大変なことになってるわ!」


サトミさんの声は、尋常じゃないほど焦っていた。心臓がドクンと嫌な音を立てる。私は、言われるがままにニュースサイトを開いた。


そこに表示されていたのは、目を疑うような見出しだった。


『人気ヴァーチャルアイドル「ローゼ」に不倫疑惑!? 業界大手プロデューサーとの密会をスクープ!』

『ローゼ、実は裏で不正行為か? 内部告発で囁かれる黒い噂』

『清純派イメージ崩壊! ローゼの「本当の顔」とは?』


記事には、私が知らない誰かの写真や、加工されたと思われるボイスデータ、さらには全く身に覚えのないチャットのスクリーンショットが、それらしく並べられていた。全てが、嘘。全てが、デマ。


「な、これ……! 嘘よ! こんなの、全部でたらめだ!」


私の頭の中が、真っ白になる。手が震え、スマホを取り落としそうになる。


「ほのか! 落ち着いてください! これは、ヴォイド・ネメシスによる情報汚染です! 敵幹部『コード・カイオス』の仕業だと推測されます!」


ピュールの声が、脳内に響く。コード・カイオス。その名は、私の年間エピソードタイトルとあらすじの記憶にもあった。情報戦を得意とする、もう一人の幹部。


「情報汚染って……こんな、こんなひどいデマを、みんなに信じ込ませるってこと!?」


私は、震える指でSNSを開いた。そこには、私のファンだったはずの人々からの、心無い言葉が溢れていた。


「ローゼちゃん、信じてたのに……」

「清純派って嘘だったんだ……がっかり」

「もうローゼの歌なんて聞きたくない!」


数日前まで、私に「元気をもらった」「大好き」とメッセージを送ってくれたファンたちの言葉が、見る見るうちに憎悪の言葉へと変わっていく。心の奥底が、ひどく締め付けられる。


「嘘だ……! みんな、こんなこと、信じないで!」


私は、何とか反論しようと、震える指でコメントを打ち込もうとする。しかし、ピュールがそれを制した。


「無駄です、ほのか。このような情報汚染は、単なる否定では鎮火しません。むしろ、あなたが反論すればするほど、火に油を注ぐ結果になります。コード・カイオスは、その心理を巧みに利用しています」


「じゃあ、どうすればいいの……!? このまま、みんなが私を信じなくなっちゃうなんて……!」


自分の潔白を証明できない。真実を訴えても、誰も耳を傾けてくれない。この理不尽な状況が、私の心を深く深く傷つけた。


その日、私の元には、事務所からの連絡が殺到した。全てのヴァーチャルライブやイベントは、一時中止。新曲のプロモーションも停止。雑誌のインタビューはキャンセル。


「ほのか、こんなことになって、本当にごめん……。でも、事務所としても、事態が収束するまでは……」


サトミさんの声は、申し訳なさで震えていた。彼女も、私のことを信じてくれているのは分かる。しかし、このデマの勢いは、彼女のコントロールを超えていた。


「大丈夫です、サトミさん。私が、何とかしますから……!」


私は、作り笑顔でそう答えるしかなかった。何とかする、なんて、一体どうすればいいのだろう。何もできないまま、ただ、デマが拡散していくのを見ているだけなのか。


「コード・カイオスは、ヴァーチャル空間の基盤システムに侵入し、情報フローそのものを汚染しています。真実と虚偽の境界線を曖昧にし、人々の認識を歪めることが目的です」


ピュールの分析は、冷静だった。だが、その冷静さが、私の焦りをさらに増幅させる。


「真実と虚偽の境界線……?」


私が信じていた、このヴァーチャル世界の秩序。そこには、常に「真実」があり、それが人々の「希望」を支えていると信じていたのに。


夜、自室のベッドに横たわる。眠ろうとしても、頭の中には、デマの記事と、ファンたちの心無い言葉がぐるぐると渦巻いていた。目を開けば、天井のヴァーチャル空間の光が、まるで私を嘲笑っているかのように、冷たく瞬いている。


(私の歌は、誰にも届かない。私の真実も、誰にも信じてもらえない。……こんな世界で、私は何ができるの?)


絶望が、再び私の心を覆い始める。エコー・ミゼリアとの戦いで感じた無力感とは、また違う種類の、精神的な痛みが私を襲う。それは、信頼していたものに裏切られるような、深い孤独感だった。


その時、スマホにメッセージが届いた。ユリからだ。


「ほのか、ニュース見たよ。すごく心配だよ……。でも、私はほのかのこと信じてるからね! ほのかがそんなことするわけないって、知ってるから!」


ユリのメッセージ。それは、デマと憎悪の嵐の中で、たった一つ、私を信じてくれる、温かい光だった。


「ユリ……」


私は、スマホを胸に抱きしめた。涙が、頬を伝う。


「ほのか。これが、コード・カイオスの狙いです。あなたの『心の光』を揺るがし、孤立させること。そのことで、ジャンヌ・ローゼとしての力を奪おうとしているのです」


ピュールの言葉が、私の心を打ち抜いた。孤独。これこそが、奴らの狙い。私の「歌」の源は、人々の希望であり、人との「絆」だ。その絆を、嘘とデマで引き裂こうとしているのだ。


「そんな……! 私の、大切な絆を……!」


私は、スマホを握りしめた。ユリの言葉が、私に力をくれる。

しかし、どうすれば、この情報汚染を止められる?

どうすれば、みんなに真実を届けられる?

ジャンヌ・ローゼとしての力は、サイバー空間の情報戦には不向きだ。

物理的な攻撃では、コード・カイオスが放つ「嘘」を消し去ることはできない。


真実と虚偽。その境界線が曖昧になる中で、私は、何が正しいのか、何が間違っているのか、見失いそうになっていた。自分が信じるべきものは、何なのか。


サイバー空間の闇は、今、私の心の中にも深く、深く侵食してきていた。


(このままじゃ、ダメだ……。私は、絶対、負けない……!)


私は、震える身体を奮い立たせる。

たとえ、世界中が私を疑っても、たった一人でも信じてくれる人がいる限り、私は立ち上がれる。

私の歌声は、たとえ音にならなくても、想いとなって人々の心に届くはずだ。

この嘘と真実が入り乱れる情報戦の渦の中で、私は、自分自身の「真実」と「希望」を、見つけ出さなければならない。

この絶望の淵から、私は必ず、新たな光を掴み取る。

それが、私、ジャンヌ・ローゼの、揺るぎない使命なのだから。

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毎日の楽しみになっています。無理せず執筆頑張ってください。
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