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電脳聖女 ジャンヌ・ローゼ  作者: 月織


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4/8

第4話:歌声よ届け!初めての必殺技

月織--広大な物語の世界を縦横無尽に駆け巡る、新進気鋭の物語紡ぎ手です。


ジャンルを問わず、読者の心に深く響く「希望」と「葛藤」、そして「成長」の物語を描き出すことを信条としています。特に、全年齢対象作品においては、子供たちの純粋な心にも、大人の複雑な感情にも寄り添い、ページをめくるたびに、新たな「光」を見出すような感動体験をお届けすることをお約束します。

すべての作品が、読む人の明日を照らす一筋の光となることを願って、今日も筆を執ります。

ヴァーチャル空間に、再びあの不穏なノイズが満ち始めていた。前回の戦いで、私の歌声に一度は退却したはずのヴォイド・ネメシスの尖兵、「エコー・ミゼリア」。その不定形な塊は、コミュニティ広場の中央で、再び人々の心を蝕み始めていたのだ。


「また、みんなから希望を奪おうとしているの!?」


私は、ジャンヌ・ローゼとして、広場に降り立つ。純白の聖衣が風になびき、黄金の髪が揺れる。胸元のクリスタルが、警鐘を鳴らすように、しかし力強く輝いていた。人々の顔は、前回同様、生気を失い、虚ろな表情で立ち尽くしている。


「愚かなる光よ。お前たちの歌声など、もはや届かぬ」


エコー・ミゼリアは、無数のノイズの粒子をあたりに撒き散らしながら、その歪んだ声で私を嘲笑う。その瞬間、広場を包んでいたノイズとは異なる、異様な「静寂」が、空間全体を支配した。


「これは……!?」


耳を劈くような静寂。それは、あらゆる音を、まるで存在しなかったかのように消し去る力。人々のざわめき、エコー・ミゼリアのノイズ、そして、私の呼吸音すらも、その静寂の中に飲み込まれていくようだった。


「ほのか! 警戒してください! これは、敵の新たな能力、『沈黙』です! ヴァーチャル空間の音響システムに直接干渉し、あらゆる音波、すなわちあなたの歌声すらも、到達を阻害します!」


ピュールの警告が、脳内に直接響く。その声も、どこか遠く、霞がかったように聞こえた。


「歌声が……届かない……?」


私は、唇を開き、歌おうとした。しかし、喉から絞り出されたはずのメロディは、どこにも届かない。空間に吸い込まれ、消滅していく。人々の瞳は、私を映してはいるものの、その表情は「沈黙」によって完全に覆い尽くされ、何の反応も示さない。彼らの心の奥底に、私の歌声が届かない。その絶望が、私の胸を深く、深く抉った。


「そんな……! 私の歌声が、みんなに届かないなんて……!」


ジャンヌ・ローゼとしてのアイデンティティが、根底から揺さぶられる。歌声こそが私の力、私の存在意義だったのに。この「沈黙」の前では、私は無力なのか?


「無駄だ。お前の歌声は、我らが『沈黙』の中では、ただの虚しい空気の振動に過ぎない。希望を奪われ、声すら上げられぬ哀れな人形どもに、お前の光など、何の意味もない」


エコー・ミゼリアが、沈黙の中で、その不定形な身体から、歪んだエネルギー波を放ち始めた。それは、目に見えない圧力となり、広場の人々を地面に押し潰そうとする。人々の身体が、ゆっくりと膝をつき、さらに生気を失っていく。


「やめて! みんなを傷つけないで!」


私は、両の掌から光の障壁を展開する。しかし、沈黙の力は、私の光の障壁をも鈍らせるかのように、その威力を減退させる。エネルギー波は、障壁をすり抜け、人々にさらなる絶望を与えていく。


「くっ……!」


ピュールが、脳内で緊急警告を発する。


*「ほのか! このままでは、人々の精神活動そのものが停止します! 『沈黙』の力は、単なる音波の遮断ではなく、精神の活動そのものを抑制する効果があります! 物理的な攻撃は、相変わらず無効です!」*


「どうすればいいの……! 歌声が届かないなら、どうやって……!」


焦燥と無力感が、私の心を支配しようとする。しかし、その時、私の腰に装着された聖なるベルトの側面が、淡く輝いた。そこには、一本の剣を模したデバイスが収められている。ローズブレード。変身した時に、私と共に現れた、謎の武器。


*「ほのか! ローズブレードに、未知のエネルギー反応を感知しました! これは、『沈黙』の力に対抗しうる、新たな力の可能性を示唆しています!」*


ピュールの言葉に、私ははっと顔を上げた。ローズブレード。私はまだ、この武器を使ったことがない。使い方すらも分からない。しかし、ピュールが言うのなら、そこに希望があるのかもしれない。


私は、迷わずローズブレードを手に取った。ひんやりとした金属の感触が、私の指先を伝う。それは、見る角度によって様々な色に輝く、美しい剣だ。しかし、その刃は、まるでヴァーチャル空間の光を凝縮したかのように、力強い輝きを放っている。


「これが……私の武器……?」


エコー・ミゼリアが、ローズブレードを警戒するように、僅かにノイズの粒子を散らした。


「武器など、我らには意味をなさない。お前たちの、古き戦の形式は、もはや通用せぬ」


敵の言葉は、私の心をさらに揺さぶる。物理的な攻撃が効かないというなら、この剣も無駄なのか?


「ほのか! そのブレードは、単なる物理的な武器ではありません! あなたの歌声、あなたの心の光と共鳴することで、真の力を発揮するデバイスです!」


ピュールの言葉が、私の脳裏に閃光のように走った。歌声と共鳴する……?


私は、ローズブレードを胸元に抱きしめた。沈黙の力が、私の心を圧迫し、歌声が喉の奥で詰まる。それでも、私は必死に、心の奥底で歌おうとした。それは、ローゼとして、みんなに希望を届けてきた、私の歌。


「届け……! たとえ声が出なくても……この想いだけは……!」


心の奥底で、メロディが響く。それは、ヴァーチャル空間の沈黙を打ち破り、私自身の魂に直接語りかけるような、強い、強い歌だった。その歌声は、物理的な音としてではなく、光の波動として、ローズブレードへと注ぎ込まれていく。


ローズブレードが、私の心の歌に応えるかのように、激しく脈動を始めた。刀身が、眩い純白の光を放ち、その光は、沈黙によって奪われた広場の色彩を、まるで元に戻すかのように、僅かに輝かせていく。


「これは……!?」


エコー・ミゼリアが、明らかに動揺した。沈黙の力が、ローズブレードから放たれる光の波動によって、少しずつ薄れていく。人々の表情に、微かな変化が訪れる。虚ろな瞳の奥に、光の粒が宿り始めた。


*「解析完了! ローズブレードは、あなたの歌声という『心の波動』を物理的なエネルギーへと変換し、沈黙の力に干渉しています! さらに出力を上げてください、ほのか!」*


ピュールの声が、かつてないほど興奮している。


「みんなの希望を……! 絶対に、奪わせない!」


私は、ローズブレードを天に向かって掲げた。沈黙の力が、私の身体から離れていく。喉の奥に、再び歌声の源泉を感じる。


そして、私は、全身全霊を込めて、叫んだ。


「ローゼ・シンフォニー!!」


その言葉は、沈黙の空間を打ち破り、澄み渡る歌声となって響き渡った。ローズブレードから放たれる光が、私の歌声と共鳴し、巨大な光の波動となって、エコー・ミゼリアへと襲いかかる。


それは、単なる光の剣撃ではなかった。私の歌声そのものが、形を成し、ヴァーチャル空間のすべての「沈黙」を浄化するかのように、エコー・ミゼリアの不定形な身体を貫いた。


「ぐあああああッ! この歌声は……沈黙を……!」


エコー・ミゼリアは、悲鳴のようなノイズを撒き散らしながら、その身体が光の粒子へと分解されていく。沈黙の力が消え失せ、広場には、再びヴァーチャル空間の賑やかな音が戻ってきた。人々の瞳には、完全に輝きが宿り、顔には安堵の表情が浮かんでいる。


エコー・ミゼリアは、完全に消滅したわけではない。しかし、その力は打ち砕かれ、空間の彼方へと退却していった。


私は、膝から崩れ落ちそうになる身体を必死に支えた。ローズブレードから放たれた力は、私の想像を遥かに超えるものだった。全身の力が抜け、汗が頬を伝う。


「ほのか! 見事なブレイクスルーでした! ローズブレードの力を引き出すことで、沈黙の力を打ち破るとは……あなたの潜在能力は、やはり計り知れません!」


ピュールが、私の顔の周りを嬉しそうに飛び回る。


「私……やったんだ……」


人々が、私を見つめている。彼らの瞳には、感謝と、そして、希望の光が満ち溢れている。私の歌声は、届いたのだ。物理的な音としてではなく、心の光として。


「ねえ、ピュール。私、もっと強くなれるかな?」


私は、ローズブレードを鞘に収めながら、ピュールに尋ねた。


「間違いなく。あなたの歌声と、ローズブレードの融合。これは、ジャンヌ・ローゼとしての新たな戦術の始まりです。ただし、まだその力は不安定。さらなる修行と、実践的な経験が必要となるでしょう」


私は、空を見上げた。ヴァーチャル空間の青い空が、どこまでも澄み渡っている。


初めての必殺技。初めての、歌声の具現化。

戸惑いや不安は、まだ私の中に残っている。

でも、私は、もう迷わない。


この歌声が、この剣が、誰かの希望になるのなら。

私は、何度でも歌い、何度でも剣を振るう。

この電脳世界に、正義と希望を灯すために。

それが、私、ジャンヌ・ローゼの、揺るぎない使命なのだから。

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