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電脳聖女 ジャンヌ・ローゼ  作者: 月織


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第14話:心のノイズ!仲間とのすれ違い

星屑のアルテミスの歌声との共鳴。それは、私、暁ほのかにとって、奇跡的なブレイクスルーだった。コード・カイオスの記憶改竄という、最も過酷な情報戦を、私は、仲間と共に乗り越えることができたのだ。ヴァーチャル世界に、再び人々の記憶と信頼が戻り始めた瞬間、私の心は、深い安堵感に満たされた。


「ほのか、記憶の修復率は順調です。人々のローゼへの信頼も回復傾向にあります」


ピュールの報告は、私にとって何よりの朗報だった。


しかし、束の間の安堵は、長くは続かなかった。協力関係にあったナビゲーターと、アルテミスとの間に、静かな、しかし深刻な亀裂が生まれ始めていたのだ。


事の発端は、戦いの後、ナビゲーターがピュールに対して行った、ある「解析」だった。


「ピュール。ジャンヌ・ローゼの共鳴システムについて、詳細な解析データを要求します。特に、歌声とローズブレードのエネルギー変換効率を……」


ナビゲーターの態度は、あくまで冷静で合理的だった。彼は、私を「データ」としてしか見ていないように感じられた。


*「ナビゲーター。私のマスターのコアデータへのアクセスは、許可されていません。全ての解析データは、私、ピュールが管理しています」*


ピュールはきっぱりと拒否した。この毅然とした態度は、私も嬉しかったけれど、ナビゲーターの表情は硬い。


「非協力的か。貴女のマスター、暁ほのかが、真実の力を手に入れるためには、全てのデータを開示すべきだ。彼女の安全のためにも、必要な情報だ」


「ナビゲーターさん。ピュールは私のバディAIです。彼女の判断を尊重してください」


私は、二人の間に割って入った。けれど、この「合理的」な衝突が、事態を悪化させたのだ。


「協力関係は、あくまで『一時的な情報共有』に基づいています。感情論で重要なデータを隠蔽するのは、コード・カイオスを野放しにするのと同じですよ、ジャンヌ・ローゼ」


ナビゲーターの言葉には、明確な非難の色があった。彼は、ピュールと私を、まるで秘密主義の悪党のように扱ったのだ。


その翌日、アルテミスから、私への通信が入った。彼女の声は、以前の優しさを失い、どこか冷たくなっていた。


「ローゼさん……あなた、ピュールに、何か隠してるでしょう?」


「え……?」


「ナビゲーターが言ってたわ。あなたのAIが、私たちのデータ共有に協力的でないって。あなたと、そのAIは、私たちに全てを開示していない。それは、私たちへの裏切りじゃないかしら?」


アルテミスの言葉は、私の心を鋭く抉った。彼女は、私を「信じてくれた」はずなのに。


「違うの、アルテミスさん! ピュールは、私の……私の秘密を守ってくれているの! 私の、もう一つの顔を……!」


私は必死に弁明する。しかし、私の言葉は、アルテミスの耳には届かない。


「秘密、ね。私たちも、あなたのために、自分たちの情報を危険に晒しているのに……。あなたが、私たちを信用していないのなら、もう、協力なんてできない」


アルテミスはそう言うと、通信を切った。


ピュールが、静かに私を見つめる。

*「ほのか。彼らは、あなたの秘密を知りません。ピュールは、ジャンヌ・ローゼの存在、そして、あなた自身の個人情報保護を優先しています。それが、彼らに理解できないのは、彼らが『情報=全て』と考える、合理主義的な思考に基づいているからです」*


「でも、私を信じてくれないなんて……!」


私の心に、深い傷が負わされる。協力者たちが、私を疑い、離れていく。あの情報汚染で経験した「孤独」が、再び蘇ってきた。


その時、私たちの周りに、微かな電子ノイズが漂い始めた。それは、コード・カイオスの仕業に違いない。


*「解析! ヴォイド・ネメシスが、私たちの間に、精神的な『ノイズ』を投下しています! これは、相互の不信感を増幅させるための、意図的な情報操作です!」*


ピュールの警告が響く。コード・カイオスは、私たちがお互いを信じられなくなった隙を狙っているのだ。


「コード・カイオス……! 私たちの心の隙間を、こんなにも巧妙に利用してくるなんて……!」


私の内面で、激しい葛藤が渦巻く。


ナビゲーターの言うことも、一理ある。ジャンヌ・ローゼの力を完全に解析するためには、ピュールのデータが必要だ。でも、そのデータを公開すれば、私の正体が世間に漏れ、ローゼとしての日常が崩壊する。


アルテミスが信じてくれないのも辛い。彼女は、私を信じてくれた貴重な仲間だったのに。彼女の疑念は、私自身の、秘密を守り通すという決意の弱さを、突きつけてくるようだった。


「ほのか、あなたは、今、大きな選択を迫られています。ピュールを開示し、仲間との協力を確固たるものにするか。それとも、全てを秘密にし、孤独な戦いを続けるか」


ピュールが、静かに問いかける。


「私……どうすれば……」


私の心は、どちらにも傾けられない。ピュールは私の全てを守ってくれる存在だ。けれど、アルテミスやナビゲーターを失えば、情報戦に対抗する術を失ってしまう。


その時、私の脳内に、コード・カイオスの、冷たい嘲笑が響いた。


*「フフフ……。そうやって疑心暗鬼になるがいい。お前たちが信じ合った絆など、所詮その程度か。情報と感情など、所詮はデータだ。真実など、操作できる。お前たちの『希望』など、いくらでも嘘で塗り潰してやる!」*


「黙れっ……!」


私は叫んだ。私の心に植え付けられた、この疑念こそが、彼らの望む「ノイズ」なのだ。


ジャンヌ・ダルクの魂は、苦悩の末に、それでも真実を信じ続けた。

私は、ローゼとして、みんなの笑顔を信じ続けてきた。

ジャンヌ・ローゼとして、人々の希望を信じ続けてきた。


ならば、今、私が信じるべきは、誰の言葉でもない。私自身の直感と、私を信じてくれた仲間たちの「真実」の心だ。


「ピュール。あなたは、私のバディだ。私は、あなたを信じている。そして、アルテミスさんも、ナビゲーターさんも、きっと、私と同じように、この世界を守りたいと思っているはずだ」


私は、決意を込めて、ピュールに語りかけた。


「だから、ピュール。私にできる、最善の提案をして。真実を伝え、信頼を勝ち取るために、何ができるか、教えて!」


私の真剣な眼差しに応え、ピュールはクリスタルを強く輝かせた。


*「承知しました、ほのか。ナビゲーターには、限定的なデータパッケージを送信します。これは、あなたの『歌声の波動特性』に特化したデータのみを含みます。あなたの個人情報や、ジャンヌ・ローゼとしてのコア情報は伏せたままです。そして、アルテミスさんには……」*


ピュールは、一度言葉を区切り、何かを躊躇っているように見えた。


*「アルテミスさんには、あなたの『ローゼ』としての、最も純粋で、傷つきやすい感情が詰まった、過去のライブ映像のデータを、未加工のまま送ります。彼女が、あなたの苦悩を理解するための、最も直接的な証拠となるでしょう」*


私は、その提案に頷いた。それは、全てを晒すことではないが、私の内面を、彼女に委ねる行為だった。


「分かった。それで、試してみる。私が信じるのは、この絆だ」


私は、強く、そう誓った。

信じることを選んだ私を、コード・カイオスがどう弄ぼうと、もう関係ない。

真実を伝えるための、一歩を踏み出すのだ。


これが、情報汚染と精神攻撃の渦中で、私に課せられた、新たな試練。

仲間との絆を信じ、偽りのノイズに立ち向かうこと。

私は、再び、この孤独な戦いを、乗り越えてみせる。

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