第11話:ヴァーチャル・テスト!戦士の資格は誰の手に?
月織--広大な物語の世界を縦横無尽に駆け巡る、新進気鋭の物語紡ぎ手です。
ジャンルを問わず、読者の心に深く響く「希望」と「葛藤」、そして「成長」の物語を描き出すことを信条としています。特に、全年齢対象作品においては、子供たちの純粋な心にも、大人の複雑な感情にも寄り添い、ページをめくるたびに、新たな「光」を見出すような感動体験をお届けすることをお約束します。
すべての作品が、読む人の明日を照らす一筋の光となることを願って、今日も筆を執ります。
あの夜、私は、親友にさえ打ち明けられない秘密の重さに打ちひしがれ、静かに涙を流した。アイドル「ローゼ」としての笑顔と、ジャンヌ・ローゼとしての孤独。その狭間で揺れ動く私の心は、まだ、完全には晴れずにいた。
「ほのか、おはようございます。昨夜は、深い眠りに落ちていましたね。精神エネルギーも、昨日の比ではありません」
ピュールの声に、私はゆっくりと目を開けた。部屋の明かりは、まだ落とされたままだ。窓の外は、ヴァーチャル空間の夜空。しかし、昨夜の涙が、私の心をほんの少し、浄化してくれたような気がした。
「ピュール……ありがとう」
「いいえ。あなたの精神状態の安定は、私の最優先事項ですから」
ピュールは、いつものように冷静に、しかしその声には、微かな温かさが含まれているように感じられた。
「あのね、ピュール。私、決めたんだ。もう、泣いてばかりはいられない。秘密を抱えているからって、一人で苦しむのは、もうやめようって」
私は、ベッドから体を起こし、窓の外に目を向けた。まだ暗いが、もうすぐ夜明けだ。
「ファンのみんなに、笑顔を届けたい。そして、ジャンヌ・ローゼとして、みんなの希望を守りたい。そのために、私は、もっと強くなりたい」
私の言葉に、ピュールは、満足そうにクリスタルを輝かせた。
「素晴らしい決意です、ほのか。あなたのその強い意志が、ジャンヌ・ローゼとしての真の力を引き出す鍵となります。そして、それをサポートするために、私は、特別な訓練プログラムを用意しました」
「訓練プログラム……?」
「はい。コード・カイオスの情報汚染、エコー・ミゼリアの絶対静寂、ヴォルテックス・クラッシュの圧倒的な物理攻撃。これらの試練を乗り越えるには、単なる身体能力の強化だけでは不十分です。精神力、判断力、そして、あなた自身の『歌声』の可能性を、さらに引き出す必要があります」
ピュールがそう言うと、部屋の隅に置かれていた、普段はただのオブジェにしか見えないクリスタルが、虹色に輝き始めた。
「これが……訓練プログラム?」
「はい。これは、『ヴァーチャル・テスト』。あなたのジャンヌ・ローゼとしての適性を、あらゆる角度から測定し、強化するためのシミュレーション空間です。これまでの戦闘データと、あなたの精神状態を基に、最適化された訓練が展開されます」
ピュールは、クリスタルに手をかざした。すると、部屋の空間が歪み始め、虹色の光が私を包み込んだ。
「うわっ!? な、何これ!?」
光の渦に巻き込まれ、私の身体は、まるでジェットコースターに乗っているかのような感覚に襲われた。そして、気がつけば、私は、全く見慣れない、奇妙な空間に立っていた。
そこは、まるで、巨大なボードゲームの盤面のような場所だった。ブロック状の足場が、空中に浮遊している。ところどころに、光り輝くクリスタルや、不気味なモンスターのシルエットが描かれたパネルが配置されている。
「ここは……?」
「『ヴァーチャル・テスト』空間です。ここでは、あなたの身体能力、精神力、そして『歌声』の潜在能力を、様々なミッションを通じて測定・強化します。最初のミッションは、『リズム・チェイス』です」
ピュールの声が、空間全体に響き渡る。私の目の前に、巨大なモニターが現れ、そこに、複雑なリズムパターンの映像が映し出された。
「リズム・チェイス……?」
「この盤面には、音楽のリズムに合わせて、指定されたパネルを正確に踏む必要があります。誤ったパネルを踏むか、リズムを外すと、ペナルティが発生します。さらに、盤面には、あなたの精神状態を乱すための『ノイズ・モンスター』が出現します。彼らを避けつつ、正確なリズムを刻んでください」
「ノイズ・モンスター……!?」
私は、モニターに映る映像を注視した。それは、まるで、音楽ゲームのような、しかし、遥かに複雑で、危険なものだった。
「ピュール、私、リズム感、あんまり得意じゃないんだけど……」
「心配いりません。あなたの歌声は、リズムと密接に結びついています。この訓練は、あなたの歌声の潜在能力を引き出すための、第一歩です」
ピュールは、そう言うと、私を盤面のスタート地点へと促した。
音楽が流れ出す。それは、ヴァーチャル空間のBGMとは異なり、まるで私の心臓の鼓動のように、力強く、リズミカルなメロディだった。
「よし……! やってみる!」
私は、気合を入れて、最初のパネルへと足を踏み出した。
リズムに合わせて、正確に、次々とパネルを踏んでいく。最初は順調だった。しかし、指示されるパネルは、どんどん複雑になっていく。さらに、盤面のあちこちに、ブツブツとノイズを発する、小さなモンスターが現れ始めた。
「うわっ! ノイズ・モンスター!?」
モンスターに触れると、私の集中力が乱れ、リズムが狂う。ペナルティが発生し、盤面の一部が崩壊する。
「きゃあっ!」
危ない! 落ちそうになる私を、ピュールが間一髪で、光のバリアで支えてくれた。
「集中してください、ほのか! 感情の乱れは、ノイズ・モンスターを増長させます!」
ピュールの冷静な声に、私はハッと我に返る。そうだった、これは訓練だ。感情的になってはいけない。
私は、再度、リズムに集中した。モンスターを避け、正確なパネルを踏む。しかし、モンスターは、私の集中力を狙い、執拗に絡みついてくる。彼らの放つノイズは、まるで、あのコード・カイオスの情報汚染を思わせる。私の精神を乱し、判断力を鈍らせようとする。
「っ……!」
モンスターに接触し、一瞬、リズムが狂う。盤面が崩壊し、私は奈落へと落ちていく。
「ああっ……!」
しかし、その瞬間、私の喉の奥から、自然と、歌声が溢れ出した。それは、力強い、しかし、どこか切ないメロディ。
「♪このリズムに乗って、進むんだ! どんなノイズも、この歌声で、かき消してやる!♪」
歌声が、私の周囲のノイズ・モンスターを、まるで浄化するように、遠ざけていく。そして、私の身体が、空中に浮かび上がり、正確なリズムで、次のパネルへと誘導された。
「え……? 私の歌声……?」
驚く私に、ピュールが答える。
「素晴らしい! ほのか、あなたの歌声には、ノイズを浄化し、リズムを安定させる力が宿っています! それは、あなたの『希望の歌声』の、新たな側面です!」
歌声が、リズムと連動し、私を導いてくれる。ノイズ・モンスターは、歌声の波動に耐えきれず、次々と消滅していく。
最後のパネルへと、正確なステップを踏み込んだ瞬間、音楽が鳴り止み、空間全体が温かい光に包まれた。
「クリアー!」
ピュールの声が響く。私は、安堵のため息をついた。
「最初のミッション、クリアです。あなたの歌声は、リズムと連動することで、潜在能力を発揮することが分かりました。次なるミッションは、『メンタル・ディフェンス』です」
「メンタル・ディフェンス……?」
場面は、先ほどのボードゲーム空間から、一変していた。私は、真っ暗な空間に一人、立っていた。目の前には、巨大なモニターが設置されている。
「このミッションでは、あなたの過去のトラウマや、心の弱さ、そして、ヴォイド・ネメシスによって植え付けられた『恐怖』を具現化した映像を、あなたに見せます。あなたは、それらに動揺せず、精神を安定させ続けなければなりません」
モニターに映し出されたのは、私が最も恐れていた光景だった。ヴォルテックス・クラッシュの圧倒的な破壊力。エコー・ミゼリアの絶対静寂。コード・カイオスの情報汚染。そして、ファンの信頼が失われていく、あの夜の光景。
「う……っ!」
映像が、私の心を激しく揺さぶる。
「私、あの時、何もできなかった……」
「みんな、私を信じてくれなくなった……」
心の中で、弱々しい声が響く。それは、あの時の、私の心の叫びだった。
「集中してください、ほのか! それらは、あなたを動揺させるための、虚像に過ぎません! あなたの心に、真実の光を灯してください!」
ピュールの声が、私を現実へと引き戻そうとする。
「そう、だ……。私は、一人じゃない……」
私は、必死に、あの日のファンからのメッセージを思い出す。ユリの励まし。ルナの、私の心を覗き込むような瞳。そして、ジャンヌ・ダルクの魂が、私に与えてくれた「希望」。
「私の力は、歌声だけじゃない。みんなとの絆、そして、この希望を信じる心……!」
私は、目を閉じ、心の奥底で、静かに歌い始めた。それは、力強い歌ではなく、温かく、包み込むような、穏やかなメロディ。
「♪どんな闇でも、怖くない。私には、みんなが、希望が、そばにいるから……♪」
歌声は、目には見えないけれど、私の心を、ゆっくりと、しかし確実に、覆っていく。モニターに映し出される恐ろしい映像は、私の心の光の前では、その威力を失っていく。
「成功です! ほのか、あなたの歌声は、恐怖や不安といったネガティブな感情をも、浄化する力を持っていることが判明しました! これは、あなたの精神力の高さを証明するものです!」
ピュールの称賛の声に、私は、優しく微笑んだ。
「ありがとう、ピュール。私、まだ、弱いかもしれない。でも……」
私は、顔を上げ、モニターに映し出される、最後の映像――それは、私自身が、ジャンヌ・ローゼとして、人々の希望を守るために戦う姿だった――を、真っ直ぐに見つめた。
「私は、諦めない。みんなの笑顔のために、何度でも立ち上がる!」
その言葉と共に、私の身体は、さらに強い光を放ち始めた。
「最後のミッションは、『模擬戦闘:デュエル・オブ・ソウル』です!」
ピュールの声が、私を現実へと引き戻す。目の前には、黒いオーラを纏った、巨大なモンスターのシルエットが浮かび上がっていた。それは、これまでのモンスターとは異なり、まるで、私の心の闇を映し出したかのような、禍々しい姿をしていた。
「このモンスターは、あなたの精神エネルギーを吸収し、あなた自身の弱さを突いて攻撃してきます。これまでの訓練で得た、歌声による浄化能力と、精神的な防御力を駆使して、撃破してください!」
「分かった!」
私は、ローズブレードを構えた。身体はまだ万全ではないけれど、心は、以前よりもずっと強く、澄み渡っていた。
「私、もう、迷わない! 私の歌声で、みんなの希望を、必ず守り抜く!」
私は、力強く、そう誓った。
このヴァーチャル・テストは、私を、ジャンヌ・ローゼとして、さらに強くするための、試練なのだ。
身体能力だけではなく、精神力、そして、歌声の可能性。
それら全てを極め、私は、真の戦士へと、進化していく。
そう、決意を新たに、私は、最後の戦いに挑んだ。




