表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/8

林間の小屋

初めまして、作者のゴッドロブスターGodlobster です。

初投稿ですので、ちょっとドキドキしています。

この作品を読んでくださり本当にありがとうございます!

どうぞよろしくお願いします!

北東辺境 ― 禁音帝国の森


深夜の森は、息を呑むほどの静寂に包まれていた。

光の欠片すら存在せず、世界そのものが見えない幕に覆われ、音も希望も飲み込まれたかのようだった。


藤原真光はよろめきながら、禁音帝国の北東部に広がる鬱蒼とした森林へと駆け込む。

木々の影は鬼のように歪み、風のざわめきは目に見えぬ鎖のごとく喉元に絡みついてくる。


彼は目の前の陰鬱な林を睨みつけ、心臓が戦鼓のように激しく鳴り響いた。



「北麗のクソどもめ、俺の使者物資を奪いやがった!

あのデブ王は宴会で盛大にもてなしておきながら、部下に物資を盗ませるなんて……ふざけんな!」


毒づきながら、ぐうぐう鳴る腹を押さえる。

疲労困憊の身体を引きずり、なおも歩き続けた。


「死ぬ前に、何か食わねえとヤバいな……」



北東の森には霧が幽霊のように漂っていた。

湿り気と冷たさに満ちた空気が、閉じ込められた嘆息そのもののようにまとわりつく。


「俺は桜国の堂々たる使者だぞ……なのに、なんでこんなザマだ?

この異世界、俺をなんだと思ってやがる?」


自嘲気味に笑う。

枯葉を踏みしめる足音だけが、不気味に響いていた。


鳥も虫も鳴かない。

まるで墓場のような静寂。



「まさか俺の異世界転移、リゼロより悲惨なんじゃねえの?

主人公は少なくとも白髪の精霊少女に出会ったのに、俺はモブ一人すらいねぇ……」


苦笑しながら歩くと、腹が再び鳴った。

「……マジで食料がなきゃ死ぬ……」


その時だった。



前方に、ほのかな光。

森の奥にぽつんと建つ小屋。


半開きの窓から漏れる淡い灯りは、漆黒の闇に異様なほど目立っていた。

それは同時に、不気味な吸引力を放っていた。


真光が駆け寄ると、枝が頬を裂き、血が滲む。

「この世界、ゲームより容赦ねえな!」



小屋の外壁は苔に覆われ、扉は古びて朽ちかけている。

湿った腐臭が漂い、圧迫感を伴う空気が辺りを包んだ。


深呼吸して扉を叩く。


「失礼します! 誰かいませんか? 食べ物を……俺は通りすがりの使者なんです!」


返事はない。

だが扉は、きぃ……と勝手に開いた。


「……この静けさ、やっぱりおかしい……」



思い切って扉を押し開けた瞬間、真光の瞳孔が収縮した。

心臓が止まったかのように跳ね上がる。


鼻をつく血の匂い。

薄暗い蝋燭の炎。

部屋の隅には壊れた家具。


そこに広がっていたのは、息が詰まる地獄の光景だった。



金髪の獣人の少女――七、八歳ほど。

地面に跪き、震える手で古びた帳面を握っていた。


涙が頬を伝う。

必死に息を吸うが、喉からは一音も漏れない。


声を奪われた痛みが、刃となって胸を切り裂いた。


絶望に染まった瞳は、世界が崩壊したことを物語っている。



その奥。


黒衣の大男が、若い獣人の女性の首を掴み締めていた。

金色の耳が震え、白い首筋には赤い爪痕。


血が滲み、衣を赤く染める。


彼女は声を出そうと口を開くが、もがく息しか漏れない。

恐怖に満ちた瞳が真光に向けられる。


その祈りは、無声でありながら鋭く胸を突いた。



「……何者だ。邪魔するな。消えろ!」


黒衣の男が振り返る。

手袋には血が光り、殺気が溢れる。


「……クソ野郎が! その手を離せ!」


怒りで血が沸騰する。

真光は手を掲げ、魔法を放った。


「星辰の輝きにより、凡人の姿を歪めよ――

《トランスフィギュロ・ポルクス》!」



紫の光が迸り、男を直撃する。


悲鳴を上げた身体が捩じれ、皮膚は硬化し、四肢は縮む。

やがて、一頭の黒豚へと変わった。


ブヒィィ!


甲高い鳴き声が死の沈黙を破る。

黒豚は家具を倒し、闇へと逃げ去った。



少女――小蘭は、涙に濡れた目で帳面に文字を書く。


「父」


震える筆跡が、絶望を語っていた。


母親は赤い痕の残る喉を押さえ、崩れ落ちる。

「……ありがとう、使者様……私たちは呪われているのです。怒りも悲しみも、声にできない……」


掠れた声が途切れ途切れに紡がれる。



真光は額の汗を拭った。

「クソ世界……やべぇくらい不気味だな。

でも……まあ、助けられてよかった」


視線は小蘭の帳面に注がれる。

その奥に隠された呪いの秘密を直感する。


「……もしかして、俺にもついに主人公らしい展開が来たか?」


彼はそう思いながら、この異世界の深淵を改めて感じ取ったのだった。


最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

初投稿なので至らない点もあるかと思いますが、

ご感想やレビューをいただけるととても励みになります。

それでは、また次の話でお会いしましょう!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ