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ないものねだり

作者: 月目亜夏

 中園光輝。高校一年。1つ上に兄が1人と下に小学生の妹が1人、同じ会社に勤めている両親の5人家族。成績は、どちらかといえばいい方だと思う。性格は良くもなく、悪くもなく。運動は平均的にできる。すごいと褒められるほどではないが、足手纏いになることもない。強いて言えば水泳が好きなくらい。家は貧しくもなければ裕福でもない。好きなことは、いまいち思いつかない。嫌いなことはない。強いて言えば果物を食べることが好きだ。得意教科、と言うほどでもないが、音楽は好きで、よく授業中に鼻歌を歌いたくなる。まぁ、きっと僕のような人間のことを普通というのだろうと、そう思う。 

 学校は家から近い高校の普通科。といってもまだテストすら受けたことがない。家からバスで30分くらい。都会に比べたら便数は少ないが、1時間に最低1本は出てるから十分だろう。人口減少が深刻なわけでもないから、当面便数が減る心配はない、はずだ。クラスの人数は36人。学校には親友が3人と学校でしか話さないた友達が9人。同中の生徒が学年で8人、クラスで3人。普通科だから学級の男女比は半々。他には進学科と商業科だけがある、それほど大きくない公立の学校だ。

「よ、光輝。昨日俺が教えたゲームやったか。」

 いつも学校に着くのはホームルームが始まる30分くらい前。その頃には5人くらい教室にいる。勉強をしたり読書をしたり、それぞれの時間が流れている教室に入る時は思わずすり足になってしまう。カバンから教科書やら筆箱やらを出している間に他の生徒もくる。電車組だ。いつもワイワイ騒ぎながら廊下を歩いてくるからわかりやすい。

「一応ダウンロードだけした。」

 教室に入るなり僕の方に向かってくるハヤトに、てきとうに返事をしながら椅子を引く。昨日の週番が日付を変え忘れていることに気づく。書き直してもいいが、わざわざ1番後ろの席から黒板に行くのは面倒だ。

「お前いつもそうだよな。ちゃんとプレイしてるやつあんの。」

 前の席の椅子に座って、ハヤトは話を続ける。先にカバンを仕舞ってからにしろよ、とも思うがいつものことで注意するのも飽きた。ハヤトとする会話は大抵ゲームのこと。僕はそんなにゲームが好きじゃないが、暇つぶしくらいに教えられたゲームをする。学校では使えないが、スマホには教えられてダウンロードしただけのゲームアプリが大量に入っている。そろそろ容量の整理をしないといけないな、と思いながら面倒でやってない。ゲーム課金勢のハヤトのゲームトークは、時々置いていかれることもあるが、聞いていて楽しい。

「おっはー、こうちゃん。はやちゃん。」

 いつも予鈴ギリギリでくるソウマが今日は珍しく早い。

「おー、爽真。今日は早かったな。ってか、気色悪い呼び方すんなよ。」

 そして当然のように2人して僕の机を囲ってゲームトークをする。この2人とは高校になってから知り合った。夏休みになったら一緒に映画でも見に行こうと話しているが、まだ休日に会うことはない、一応親友だ。

「やべ、先生来てる。じゃぁな、光輝。」

 チャイムが鳴り先生が入ってくると、2人は慌ててカバンを持ち自分の席へ向かう。先生に小言を言われながら教科書を仕舞っている2人を、クラスメイトは日常の一風景として眺めている。

 その後はいつも通りに授業がある。眠たければ一応睡魔と戦い、グループ学習なんかではいい案が思いついたら発言をする。変に目立つようなことはしない。やっと4限目が終われば、クラスメイトたちはそそくさと椅子を動かしてグループを作る。まだ出会って数ヶ月だが、すでにクラスにはいくつかのグループができている。とは言え対立やいじめがあるわけではない。至って平和なクラスだ。こっそりスマホを使っているクラスメートを、注意する生徒もいない。当然僕も見て見ぬ振りだ。

 昼食は弁当。母親が夕飯の残りとか冷凍食品とかを用意してくれているから、僕か兄か両親か、起きるのが早かった人が用意するのだ。まぁ、大抵は両親だ。昨日の夕飯の残りだった肉じゃがを口に放り込みながら、明日提出の宿題を引っ張り出す。僕は昼休みは1人で過ごす。別にハブられてるとかではなく、単純に僕は宿題を昼休みに終わらせる派だからだ。家に帰ってまで勉強をしたくない。兄が遊べる間に遊んでおかないと、学年が進めば勉強が難しくて時間が減ると言っていた。

「おぉ、相変わらず真面目だねー、光輝くんは。こんなに勉強して目指すは東大か。」

 宿題が終わる頃に他の生徒が話しかけにくる。そして興味を失ったらまた他の生徒との会話に戻る。終わったら僕もその会話に混ざって、大したことのない会話をする。

 予鈴が鳴ったらダラダラと掃除場所に移動して適当に掃除をし、ちょっと早めに終わらせて教室に戻る。僕と同じように少しズルをした生徒がすでに教室に集まっていて、担任がいつものように小言を言いながら教室を出て、五限が始まる。午後の授業も睡魔と戦う。でも大抵睡魔に負け、気付いたら放課後で、電車組がガヤガヤと喋りながら駅に向かって歩いて行く。彼らは途中で寄り道をしたりするのだろう。

 僕が向かうのは正門のすぐ横にあるバス停だ。わざわざ歩いて数分のコンビニに何か買いに行く気にはならない。というかバイトをしているわけでもないからそう自由に使えるお金はない。僕の全財産は両親や祖父母が手伝いのお礼にくれた分とお年玉。高校のお金や通学費は両親が払ってくれているけれど、車校の費用ぐらいは自分で払いたいから貯めている。高校になったからバイトも始められる。浪費しなければ余裕で貯まるだろう。そもそも欲しいものもそんなにないし、大抵のモノは兄のお下がりで満足できる性格だ。

 学校が終わって30分くらいでバスは来る。席はいつも適度に埋まっていて、顔ぶれはあまり変わらない。学校帰りの生徒と買い物帰りのおばあちゃん。そんな感じだ。それなりに車通りのある道をいつも通り順調に進み、慣れた手つきでボタンを押す。僕と一緒に学生が3人降りる。全員他校の生徒だ。

 方向はみんなバラバラで、川沿いの道を通るとすぐに僕の家が見えてくる。赤い屋根にちょっと汚れた壁、築15年のこじんまりとした一軒家だ。僕が生まれたことをきっかけに買ったらしい。母はローンがなんたらとよく言っているが、ローンの支払いができないほど貧しいわけではないだろう。僕たちを脅すための文言だ。

 鍵を開け、誰もいない家にただいまと言いながら自分の部屋に向かう。正確には僕と妹と兄の部屋だ。そう聞くと窮屈な空間を想像するかもしれないが、十分な広さはある。両親がどちらも4人兄弟の末っ子だから、3人の学習机はどれも親戚のお下がり。妹は新品がいいと文句を言っていたが、あまり使ってない。ベッドは2段ベットと普通のベッドが壁の両側に離れて置かれていて、毎日どこで寝るかをジャンケンで決めるのが僕ら兄妹の習慣だ。

 カバンを机に置き、明日の教科書と入れ替える。弁当を食洗機に突っ込み、制服も着替える。宿題は終わっているから自由時間だ。スマホを取り出し、リビングのソファに寝転んでゲームをする。最近ハマってるRPGのゲームだ。週1くらいでプレイしている。課金はしない。課金したらなんかに負ける気もする。

「ただいま。」

 ちょうどクエストを終えた頃に兄が帰ってきた。農業高校に行ってる兄は、普段は僕より帰りが早い。ただ当番があるようで時々こうやって帰りが遅くなる。そのうち僕にも補習やら何やら始まるのかと思うと少し気が重い。

 日が落ちる少し前には両親が妹と一緒に帰ってくる。なぜか僕の役目になっている風呂掃除を済ませ、またゲームに戻る。兄は洗濯物、妹は料理の手伝いがそれぞれの役目だ。特に話し合ったわけでもなく、なんとなくそんな感じでいつもやっている。みんなが風呂に入り、あたりも暗くなった頃に夕食だ。テレビをつけ、みんなで一緒に食べる。

「ちょっとお兄ちゃん、それ私のお皿。」

「あぁ、ごめん。ほら、詫びのからあげ。」

 なんてことない会話が飛び交う。テレビは、ついてるだけで見たり見なかったり。今流れているのはありきたりなバラエティ番組だ。パーソナリティの言葉に観客から笑いが漏れている。料理の味は、まぁ、家庭の味といったところだ。バランスは考えられているのだろう。

 大抵、食後に母が作ったクッキーやケーキのデザートを食べる。既製品のこともあるが、僕には味の違いがわからない。どちらも美味しいことに変わりはないからいいだろう。今日は市販のプリンだ。妹は一口だけ口にいれ、部屋に行ってしまった。いつものことで、すぐに戻ってくる。手には宿題用のファイルが抱えられている。

「お兄ちゃん始めるよ。」

 僕の隣の、さっきまで兄が座っていた椅子に座り、ノートを広げる。宅習とドリルが今日の宿題のようだ。音読と合わせて一時間弱といったところだろう。小学校の内容だから難しくはないが、一時間もただひたすら妹の宿題を見るだけなのは正直退屈で、それでも、妹が学校の話をいつも一生懸命してくれるのでやめられずにいる。来年中学生になったら終わってしまうかもしれないが、妹がやめるまでは続ける予定だ。

 終わる頃にはいいかげん眠くなるっている。そのままベッドに潜って兄がくれた漫画を開き、いつのまにか眠りにつく。これが僕の1日だ。平凡で、特別なことの何もない、なんてことない日常だ。けれど何者にも変え難い日常で、こんな毎日が僕は好きだ。だから、こうした日常のふとしたときにとても幸せだと感じる。


「今週から考査期間です。初めての期末考査が来週から始まります。そのため今週と来週は部活動はできません。注意してください。」

 終礼の最後に担任がそういう。教室に緊張と億劫さが入り混じった空気が流れる。

「考査期間の時間割はすでに掲示してありますので、各自確認をして勉強に励んでください。」

 それで担任の挨拶は終わる。委員長が号令をかけ、放課後だ。ざわざわと教室に声が響く。

「考査か、ちょっと緊張するな。」

 数日前の席替えで前の席になった生徒が僕に話しかける。名前は、確かユヅキ。女子がかっこいいと騒いでいた、気がする。あまり共通点もなく、時々こうやって会話するくらいの関係だ。

「僕はそうでもない。赤点取らなければ親も何も言わないし。」

 答えながら少し意外に思う。ユヅキは頭がいいからだ。考査はまだだからクラスや学級内での順位はわからないが、それでもこの数ヶ月でなんとなくわかる。普段先生に当てられた時の態度、先生からの扱い、休み時間の過ごし方。ちょっとしたことに知能の違いは表れるものだ。

「とかいって、ちゃんと勉強してるんだろ光輝。」

 いつのまにか他の生徒が集まっている。ユヅキは見た目や頭の良さ以前に、誰でも分け隔てない性格だからクラスの中心だ。

「でもテストだるいよな。」

 誰かが発したその言葉に、みんなが頷いている。正直、俺はどうだっていい。それよりも早く帰らないと、今日は妹が学童を休んで友達と公園に行くと言っていた。僕が家に着くくらいの時間には家に帰ると言っていたから、バスに乗り遅れるわけには行かない。

「なんだよ、中園はテスト好きなのか。」

 そんな僕に気づいたのか、誰かがそういう。僕の知らない人だ。他のクラスの人だろう。一体なぜ、僕の名前を知っているのだろうか。

「そういうわけじゃ。別にきらいでもないけど。」

 一応否定する。テストは自分の実力がわかるから嫌いじゃない。ただテスト好きな真面目だと思われるのは心外だ。そんな風に思われて宿題を見せてとかいわれても面倒だ。

 そんな僕の反応になぜかみんな笑う。

「いいな、お前の頭の中、お花畑かよ。」

 また知らない誰かがそう言う。どういう意味だろうか。

「お前悩み無いだろ。」

 さらに知らない誰かがそう投げかける。悩みないだろ。

 きっと、たいしたことのない会話の延長戦で言った、ただの言葉だ。深い意味はない。そうわかっているけれど、どうしてもそれに囚われてしまう。自分の表情が硬くなっているのを感じる。

「な、中園。お前もそう思うだろ。」

 名前を呼ばれ、慌てて意識を会話に戻す。

「え、ごめん聞いてなかった。」

 そういいながら時計を確認する。いつの間にか20分経っている。ギリギリだ。

「ごめん。僕バスが来るから、また明日。」

 慌てて会話から抜け、カバンを掴んで走る。そう急がなくても大丈夫だとわかっているが、余裕を持って行動したくなるのが僕の性格だ。

「ただいま。」

 案の定、バス停で少し待つことになった。待っている間も、バスに揺られている間も、ふとした時にさっきの会話が流れる。

『お前悩み無いだろ』

 言った相手がどんな表情をしていたのかも、どんあ声音だったかも覚えていない。ただ、そう言われたという事実だけがまとわりついている。きっと、他の人にとっては大したこともない、聞き流してしまうような言葉だろう。ただ、僕はそう思われるのがすごく、ひどく、嫌だ。

 そいつのいうとおりだからだ。僕には悩みがない。勉強の悩みも、人間関係の悩みも、家族の悩みも。どう頑張ってもそれらしいものは思い。ただ、そう見抜かれることが、悩みもなくノウノウと生きているように見られることが、僕は嫌だ。

 だから、強いていえば。

 強いていえば、ひとつだけ、誰にも相談できない、相談したところで笑われるのがオチの、自分でもなんでこんな悩みがあるのかわからない、たいしたことのない悩みがある。

 僕には()()()()()

 強いていえば、それが悩みだ。


 悩みがないことが悩み。

 そうきくと、いいことじゃないかと思うかもしれない。僕だってそれがすごく幸せな、ぜいたくな悩みだってことはわかっている。僕は幸せだ。5体満足で、精神的・身体的な障害は自分自身にも周りの人にもない。金銭的に不自由するわけでもなく、家族みんな仲良しだ。成績の面で何か他人から注意を受けることもないし、友好関係もそれなりに築けている。

 人によっては喉から手が出るほど切望する幸せ加減だろう。非の打ち所がない幸せな人生だ。深い悲しみも、深い苦しみも、人生が一変するような挫折も、性格が変わるほどの屈辱も味わったことがない、ひどく幸せな人生だ。そんな幸せな、ある意味味気ない人生が僕にとっては少し苦しい。

 味気ない、こう表現すると贅沢を言っているように感じるかもしれない。実際そうなのだろう。すごく贅沢な悩みなのだ。不幸になりたい、など。苦しみを知りたい、など。


「あ、お兄ちゃん。私の方が一足早かったね。」

 玄関を開けると、ちょうど妹が靴を脱いでいるところだった。本当に僅差だったようだ。公園で遊んだせいで、制服は少し汚れている。流石にスカートではしゃぐことはないだろうが、一体何をしたのだろうか。

「あ、お菓子あるって、アイス。お兄ちゃんイチゴとグレープどっちがいい。」

 手を洗ってリビングに入ると、妹が冷凍庫に顔を突っ込んでいる。僕は消去法でいちご味を選び、いすに座る。

「お兄ちゃん、聞いてる?」

 アイスを齧りながら妹は宿題を広げる。アイスがノートに垂れないように気をつけながら、器用に鉛筆を走らせている。兄は今日も当番で帰りが遅い。普段はお菓子なんて用意されてないから、兄が帰るまでに証拠を隠滅しないとウジウジと嫌味を言われそうだ。

「きいてる、きいてる。」

 そう答えるが、正直聞いてなかった。妹も言っただけで返事など期待していないだろう。俺の返事を聞くとまた話に戻る。担任の先生がうるさい、という話をずっと続けている。

 このくらいの年はまだそんなものだろう。大抵の子はたいしたことない悩みを持っている。すぐに解決するような、存在自体も忘れてしまうような悩みを、たくさん持ってちょっと大人ぶったりする。けれど中学生くらいになって、思春期が始まると親と喧嘩したり、勉強や進路のことで悩んだり、悩みの内容が変わってくる。けれど僕はそうじゃないから、実際のところはわからない。ただ、ニュースや、友達の会話や、漫画や、兄と親の関係や、そういったものを見ているとなんとなくそう感じる。

 悩みなんて人それぞれ。別に僕は、今のこの、悩みが発生しない幸せな状況を壊したいわけじゃない。むしろこの状況は大好きだ。願わくば一生こんな人生を、と思う。まぁ、どうせ、そのうちどこかで何か課題が現れる。そんなこともわかっている。それでも悩んでしまうから、少しだけ自分が嫌いになる。


 妹が宿題を済ませる少し前に兄が帰ってきた。当番がある日は、兄はいつも少し汗ばんでいる。今は夏に入りかけているから尚更だろう。それを見越して早めに風呂の用意をしたら喜んでもらえた。両親もすぐに帰ってきて。妹は台所へ向かった。僕は部屋に向かう。兄の棚から漫画を何冊か借りて居間に戻る。母と妹の楽しそうな声を聞きながらソファに座る。横では父がテレビを眺めている。政治のニュースだ。

「そろそろ考査期間だろ。大丈夫そうか。」

 (おもむろ)にそう投げかけられる。父は普段すごく無口で、1週間の間で数回会話をするかしないか、と言ったところだ。それでも、僕の歳だと反抗期とかで全く会話をしないことも多いらしいから、喋っている方なのだろう。

「ん、まぁ赤点は取らないかな。まだ全然簡単な内容だし。それに、一応学校では勉強してるし。」

 漫画に目を向けながら答える。嘘ではない。学校で昼休みに宿題をしている。ちなみに、両親は俺の学校は宿題のない学校だと思っているらしい。宿題のほとんどない農業高校に行っている兄のおかげで、今時の高校はそんな感じだと思っているようだ。

 視線をずらすと父は特に気にした様子もなく、またテレビに集中している。僕も漫画に集中する。

 今読んでいるのは前世で孤児だった子どもが異世界に転生して無双するという、まぁ今時ありきたりな内容の異世界ファンタジーだ。漫画は嫌いじゃない。スマホにもひとつだけ電子コミックのアプリが入っている。お金は払わないで、セコセコと毎日一話ずつ読んでいる。それで僕は満足だ。

 僕の趣味が偏っているせいかもしれないが、最近の異世界ファンタジーは似た話ばかりだ。元々は色々と苦労する生い立ちだった人間が転生や召喚、回帰して成り上がりや無双をする。いわゆるシンデレラストーリー。読者も作者もこの手の話が好きなんだろう。漫画が好きだと言いながらも、正直一歩引いた目線で漫画を読んでいる。いわゆるオタクのようにハマることはない。いつも、ただ漫画を機械作業のように読むだけだ。

 だから、今も、漫画を読みながら頭の中には疑問符と不安が浮かんでいる。

 主人公が孤児院を訪れ、彼らの様子と自分の過去を重ねて孤児院の再建を決意する場面だ。

 なぜ、他にも苦しい環境に置かれる立場にある人がいる中で孤児院、自分の過去に似たそこを選んだのか。理屈では理解できるのに、心が理解できていない。だって、僕は他の選択をするから。

 けど同時にすごいなと感心する。僕はきっとそんな境遇を見ても主人公ほどの積極性を発揮できない。僕はその状況に、切迫いた気持ちを感じることはできない。そう思うと不安と、焦りと、申し訳なさと、その他の暗い感情が広がる。

 僕は飢えを知らない。僕は親のいない悲しみを知らない。僕は自由がない環境を知らない。僕はこの漫画に出てくる主人公や孤児の苦しみを知らない。それを知っている主人公は、知っているからより積極的に助けたいと思う。でも知らない僕には、何ができる。お金は出そうと思えば出せる。でも、何が必要で、何に困っていて、何が助けになるのかを、僕は知らない。知らない僕ではできないことを、主人公はできるのだ。そう思うと僕は、少しだけ羨ましくなる。孤児として苦しい人生を歩んだ主人公が、羨ましい。苦しいという気持ちを知っている主人公が羨ましいのだ。

 苦しみを知らないから、きっとこんなことを思えるんだ。でも、仕方がない。知らない僕は想像すら難しいのだ。その苦しみやその悲しみや、その痛さを。

 結局ページはそれほど進まないうちに夕食となった。


「おはよう。いつもくるの早いねー。」

 次の日、いつもの時間に教室に着くと前の席にユヅキがいた。机の上にはノートが広げられている。勉強をしていたのだろう。そういえばいつもより生徒の数が多い気がする。早めにきてテスト勉強でもしているのだろうか。

「僕はこの時間しかバスがないから。」

 返事をしながら椅子を引く。

「中園君バス組か。便数少ないの。」

 いすの向きを変え、ユズキは僕の方を向く。きっと、もう勉強には戻らないだろう。しばらくすれば他のやつも来る。そしたらおしゃべりが忙しくなる。僕はそれまでの暇つぶしだ。

「ううん。まぁ。朝の時間は30分に1本。それ以外は1時間に1本って感じ。ここら辺だとどこもこんな感じでしょ。」

 僕の話を興味深そうに聞いている。ユズキは、電車組ではないはずだ、バスでもなければ、徒歩だろうか。

「そかー、俺はご覧の通りお勉強。」

 体の位置をずらし、俺から机の様子が見えやすいように動いている。

 電車組の声が廊下に響き、面倒さと笑いを含んだ表情はいつものお喋り好きな男子高生の表情に変わる。これで僕の役目は終わりだ。他のやつが相手をするだろう。僕はカバンを棚に運ぶ。いつものように日常が始まる。


「おまえ、なんで勉強してなかったのにそんないい点数なんだよ。」

 初めての期末考査が終わってからちょうど2週間が経っち、成績表が配られた。考査の点数と順位が載ったそれを、みんなソワソワした様子で受け取り、終礼が終わった今互いに見せ合っている。僕はいつものように帰り支度をしていたら捕まってしまった。点数はすでに返却の時にばれている。順位も、知られたからと言って気にすることでもない。だから抵抗することもなく見せた。正直早く帰りたい。今日は兄のレベル上げに付き合う約束をしている。

「これで大体みんなのレベルはわかったな。」

 順位を知って何が楽しいのか知らないが、教室内は賑やかだ。特に、

「けど、まさか佑月が一位とはな。」

 特にユヅキの周りは騒がしい。女子まで集まって成績表を眺めている。

「顔も性格も良くて、頭までいいとか、神様は不平等だよな。」

「順位はクラス内だけだけど、実際は進学科の生徒といい勝負だって先生が言ってたしな。」

 僕の知らないところで会話が進んでいる。僕は耳だけ傾けながら成績表をカバンにしまう。時計を見るとまだ一応、時間はある。

「あ、てか、この話知ってるか。相原ってバイトもしてるらしいぞ、しかも放課後に。」

 噂話が好きなソウマは目を輝かせてそういう。あいはら、は、たしかユヅキの苗字だ。

「へぇ、すごいな。それで部活も入ってるんだろ。どんだけ高校生活満喫したいんだよ。」

 この学校は申請をすればバイトをすることも可能だ。成績が悪ければ注意があるらしいが、基本的には法律内でご自由にどうぞのスタンスらしい。僕は長期休暇中だけバイトをする予定で、今はしていない。学校生活に慣れたら土日も入るかもしれないが、まだ先のことだ。

 僕はそこらへんで会話から抜け、バス停に向かう。同級生のバイトやテストの話なんて、僕はあまり興味がない。それに、どうせユズキとは席替えがあれば話すこともなくなるだろうし。


 それからは特にトラブルもなにもなく夏休みに入った。といっても補習がある。夏休みの始めの1週間、午前中一杯学校に監禁され、詰め込み授業を受けなければならない。商業科は試験対策のための補習。進学科も当然補習だ。しかも僕たちと違って丸1日。普通科を選んでいてよかったと思うが、去年のだらだらとした兄を知っているだけに複雑な気持ちだ。そんな兄も今年は農業の大会やら当番やらで忙しそうにしている。妹は毎日学童だ。

 バイト先は、家の近くのコンビニに決まった。補習が終わって家に帰ると急いでご飯を食べ、バイト先に向かう。まだ仕事にはなれなくて謝ってばかりがだ、止めたいと思うほどではない。無理のない程度で週に4日ほどシフトを組んでもらっている。休みの日は妹と遊び、まぁ、だらけた生活は送っていない。

 そんな感じで夏休みは過ぎる。両親が共働きだから帰省は盆休みの間だけ。特別なこともない毎日だ。中学生までは誰かの家に遊びに行ったりしていたが、距離が遠くなると面倒に感じて結局バイト三昧。これで貯金は貯まるだろう。

「いらっしゃいませ。」

 特別何かがあったとすれば、盆が終わった少し後の日だろう。その日もいつものように少し慣れない手付きでレジをこなしていたら、見慣れた顔が目に入った。

「ハヤト、とソウマ。なんでいるんだ。」

 2人は片手をあげ、いたずらの成功した子どものような笑みを見せる。

「ツーリングついでに働きぶりを確認してやろうと思って。」

 そういいながら持っていた商品をレジに置く。ツーリングをしているのは本当のようで、わずかに汗をかいている。

「他のやつらのところにも行ってるのか。冷やかしはやめろよ、邪魔になる。」

 会話をしながらも間違えないように丁寧にレジを打つ。今は他に客がいないから少しくらいならしゃべっても大丈夫だろう。

「冷やかしなんて人聞きの悪い。でも今のところ行ったのはこことユヅキの店くらいだぞ。俺らだって暇じゃないしな。」

 ハヤトは袋を受け取りながら、ユヅキがいかにかっこよかったかを熱弁している。確か学校近くの飲食店で働いているはずだ。後ろの席だからユヅキの会話は意識しなくても聞こえる。まぁ、あの顔確かに様になりそうだ。

「まじフルで入ってるらしいぞ。時給も悪くないし、夏休みでいくら稼ぐつもりなんだか。」

 嫌味なのか誉めているのかわからない、そんなことを言って2人は帰って行った。一体何が目的かわからないが、知人に働いている姿を見られるのは妙な気分だ。中学の時の文化祭を思い出す。まぁ、笑われなかっただけマシだろう。

 それにしてもさすがユヅキ。僕は飲食店とかの接客は出来そうにない。噂話好きのソウマはよくユヅキの話題を出す。人気者はその分情報も集めやすいのだろう。他にも人気のある生徒はいるらしいが、顔を知っているのはユヅキだけで、他のやつの話はあまり耳に入ってこない。まぁ、正直僕はどうでもいい。彼を羨ましいと思ったことはない。

 僕は優等生に対して劣等感や嫉妬を感じることはない。僕は優れてはいないけれど、現状に満足しているから。


「みなさんお久しぶりです。夏休みはリラックスできましたか。早速ですけど、この後から明日にかけては課題考査があるので気持ちを切り替えてくださいね。」

 いつの間にか夏休みは終わっていた。宿題も順調に終わり、振り返ってみればそれなりに充実した夏休みだったと思う。何よりも通帳の残高が増えたことが嬉しい。大人が必死こいて働く気持ちが、少しだけ理解できた。

「それから、2学期は行事も多いのでクラス全体で団結して取り組みましょう。」

 担任が学期始めの典型的なお話をしている。真面目に聞いている生徒は一体何人いるだろうか。実際僕の後ろの席からもヒソヒソと喋る声が聞こえる。

 そんな感じでロングホームは終わり、それほど難しくない課題考査を1教科して今日は終わりだ。

「それじゃ、みなさん明日の課題考査も頑張ってください。あ、それとバイトをする予定の人はこの後前に来てください。」

 それだけ言って終礼もすぐ終わった。一気に空気が緩み、教室は緩やかになる。教室の所々で形成される集団を避け、教卓に向かう。僕のほかにいるのはユヅキと女子数人だ。担任が名前を呼びながら何かをメモしている。

「みなさんは夏休みにもバイトの申請をしていたメンバーですね。場所の変更はありますか。」

 担任は確認するようにそれぞれの顔を見る。誰も手を挙げる生徒はいない。要件はそれだけのようで、すぐに解散となった。

「中園君もバイトしてるんだ。どこ。」

 少し拍子抜けして教卓の前に突っ立っていた僕に、ユヅキが声をかけてきた。仲間意識でも感じたのだろう。

「家の近くのコンビニ。」

 といってもユヅキは僕の家を知らないから、わからないだろう。わざわざそこまで教える義理もない。

「へぇ、コンビニか。俺はファミレス。ほら学校近くにある。」

 そう言いながら店のある方向を指差している。

「でも、コンビニもいいね。品出しとかするんでしょ、どんな感じ。」

 ユヅキがそう口にしたところで机についた。当然のように人に囲まれ、質問に答えるために開けた口は間抜けに開いたままだ。しばらくして気を取り戻し、カバンを掴む。教科書の入っていないカバンはいつになく軽い。それだけで少し嬉しい気持ちになり、足早にバス停へ向かう。

 家に着くとすでに部屋着へと着替えた妹が迎え入れてくれた。手にはスイカを持っている。祖父母が毎年送ってくれるものだ。

 今日は流石に妹も宿題がない。僕はスイカを賽の目に切り、小皿に持ってピックをつける。これで漫画を読みながらでも食べやすい。いつものようにソファで漫画を見る。この前読んでいたマンガは最新刊まで読破し、今読んでいるのは恋愛漫画だ。これもやっぱりありきたりだ。登場人物は何かしらの暗い過去を持っている。まぁ、それ以前に僕は恋愛に疎い。今回は選択を少し間違えたかもしれない。というか、これは兄のではなく妹の漫画な気がする。そんなことを思いながら読み進める。扇風機だけの回るリビングは生ぬるい空気で満たされている。


「というわけで、夏休みが終わったばかりですが体育祭が3週間後にあります。今日はその競技を決めるので、体育委員の指示に従って話し合いを行なってください。」

 担任にそう言われ、体育員の2人が教壇に立つ。1人が競技名と人数を黒板に書き写す間に、もう1人が競技の説明をしている。教室はいつにも増して真剣な雰囲気だ。まだ今は夏。外は立っているだけで汗をかくほど暑い。こんな中で体育祭をして大丈夫だろうか。

 他人事のようにそんなことを考えていると隣から声がかかる。要約すると、何に出るのかという質問だ。僕以外にも周りの生徒全員に聞いているようだ。

 改めて黒板を見る。内容はありきたりなものばかりだ。もし水泳という競技があったら喜んで出場したいが、そもそもこの学校にはプールがない。となると、できるだけ涼しそうな競技を選ぶしかない。綱引きと長縄はなしだ。二人三脚もやめておきたい。密着したら暑い。消去法で残ったのはリレーだ。

 導き出した答えを隣の生徒に教えると、がっかりしたような納得したような、微妙な表情をされた。

 そんなどうだっていい話をしている間に選手決めが始まり、争うことなくあっさりと決まった。僕は無事、希望通りリレーに収まり、今は走順の話し合いだ。実は陸上部らしいユヅキが指揮をとり、そちらもあっさりと決まる。他の競技はまだ話し合い中で、僕らだけ手持ち無沙汰になってしまった。

「はぁ、体育祭か。だるいな。」

 リレーメンバーの誰かがそう言った。他のメンバーがそれに飛びつき、あっという間にテンポの速い会話が始まる。僕はそんな様子を自分の席から眺める。僕も面倒だと思う。けれどまぁ、運動は大切だ。特に、今の時期にできるだけ運動しておかないと、授業がなくなったらどうせ僕は運動をしなくなる。

「なぁ、中園の家はどうなんだ。」

 父親の体型を思い出し少し憂鬱な気持ちになった僕は、一瞬自分への質問だと気づかなかった。

「なんのことだ。」

 僕の返事を期待するような謎の沈黙が続く。

「体育祭、親は来るのか。」

 さっき質問したのとは別の生徒が口を開く。どうだろうか。日曜だから仕事はないだろう。ただ、この頃に兄の大会があった気がする。妹は来るだろう。

 そのことを伝えると少し期待はずれのような表情をされた。一体どう答えればよかったのか、釈然としない気持ちで会話に耳を傾ける。けれど他も似たような答えだ。まぁ、それほど遠くから来ている生徒もいない。電車組も一駅か二駅程度の生徒ばかりだから、よほどのことがなければ来るだろう。それとも、本当は恥ずかしいから来て欲しくないとでも思っているのだろうか。

「佑月はどうなんだ。俺、佑月の親見てみたいな。やっぱ佑月みたいにイケメンなのか。」

 他の生徒に質問した流れで、1人の生徒がユヅキにも質問をする。その瞬間、一瞬だけユヅキの表情が曇る。

 あぁ。地雷を踏んだな。

 僕は直感した。今の質問のどれが地雷に当たるかは不明だが、とにかく地雷を踏んだのだ。他の生徒は気づいているのか、気づかないふりをしているのか、表情を取り繕ったユヅキに変わらない好奇心を向けている。

「あー、俺の家は来ないよ。多分仕事だから。」

 ユヅキはいつもの笑顔でそう答える。特に目立った反応はなく話題は次に移った。ユヅキもその輪の中でニコニコと会話をしている。

 僕はまた、他のことへ意識を移す。今日は僕が珍しく弁当を作ったのだ。家に帰ったら兄がその感想を聞かせてくれることだろう。


 予想通り灼熱の中で行われた体育祭は、優勝ではなかったが何事もなく終わった。兄の大会は次の週で、家族みんなで応援に来ていた。もうそれを嬉しいと思う歳ではなく、むしろ少し恥ずかしかった。

 そんな感じで2学期のイベントがひとつ終わり。次のイベントは生徒会選挙だ。

 いや、違う。本当は重要なイベントにするつもりはなかった。立候補するつもりなどなく、意識もしていなかった。それなのに、重視せざるを得なくなった。

 今もそのことを思い出すと少し憂鬱な気持ちになる。

 立候補者を決める話し合いがあったのは、体育祭が終わった次の週のロングホームだった。僕の学校ではクラスごとに必ず立候補者を2人以上選出することになっている。

 体育祭も終わったばかりなのにもう生徒会選挙。それほどイベントが好きなのだろうかと他人事のように考え、傍観を決め込んでいた話し合いは、全く順調に進まなかった。生徒会役員になれば内申点があがる。だから普通は内申点ほしさで立候補する生徒が少なからずいる。けれど僕のクラスは1人も申し出る人がいなかった。あげく互いに押し付けあい、部活動やバイトを理由に逃れようとする始末。正直僕はどうでも良く、さっさとジャンケンででも決めてくれと思っていた。そんな他人任せなのが祟ったのかもしれない。誰かが推薦でどうかと言い出し、他の生徒もそれに乗っかった。その結果僕が選ばれてしまったのだ。理由は不明。ハヤトやソウマが好奇心で名前をあげたのだろう。他にも何人か名前が上がっていたが、部活動や勉強を理由に拒否し、僕まで降りたら堂々巡りする気配がして仕方なく受け入れた。ちなみにもう1人の立候補者はユヅキだ。人気者の彼もまた面倒ごとを押し付けられたわけだ。彼こそ部活やバイトで忙しいと思うが、そこを考える優しさはないのだろうか。

 まぁ、というわけで僕とユヅキは面倒ごとを押し付けられ、生徒会選挙というイベントに挑む事になったのである。ユヅキはどうかはわからないが、僕はこういうのは任されたからには全力で取り組みたい性格だ。生徒会が何をするかは知らないが、とりあえず聞かれて恥ずかしくない公約作りと演説の準備から始めている。せいぜい聞き手の心にそれが刺さらない事を願おう。


 と、そんな経緯で出場が決まった生徒会選挙の結果を、色々飛ばして説明すると、僕は選ばれてしまった。悔しいことに。というか、生徒会役員の人数に決まりはないようで、票数の順で生徒会長と副会長が決まるだけで、他の立候補者も基本は役員になるモノらしい。勇気あるものはそこで辞退をするらしいが、僕はそこまでの勇気はなかった。それに断る理由もあまりない。部活にも入っていないし、平日はバイトもない。時々帰りが遅くなる方がちょうど良いのではないだろうか。内申点も欲しい。

 そしてユヅキは副会長になった。ソウマの言っていた『学校の人気者』という言葉は間違いではないらしい。副会長ともなれば選んでくれた人たちへの体裁もあって容易には辞退できない。そんな僕の考えは当たっているようで、ユヅキは少し苛立った表情を見せていた。数の力とは恐ろしいものだ。


 そんなことをしている間に次は中間考査があった。僕はいつも通りの点数を取り、特に変わったことはなかった。その後に生徒会引き継ぎ式があり、正式に生徒会の仕事が始まった。まずは文化祭だ。

 文化祭といっても華やかなものではない。私立でもないので費用は限られる。その中でそれぞれやりくりし、週末に1日学校を開放して楽しんでもらうのである。部門は模擬店、展示、舞台に分かれていて、1年は強制的に展示。各部門を総括し、部屋割りやプログラムの検討を行うのが生徒会の役割である。すでに骨組みは元生徒会のメンバーで検討されていて、僕たち新メンバーは来年に向けて仕事の流れを掴むことための補佐役。それと別に生徒会も何か企画をする事になっている。こちらは新メンバーが決まらないと考えることもできないから、内容はほぼ白紙だ。

 文化祭は11月の中旬、期末考査の2週間前。対して今は10月の中旬になろうとしている。やるべきことは多い。僕と生徒会の面々は週に2回、放課後に集まって話し合いをすることになった。11月になったら学級の方も忙しくなる。放課後は毎日居残りだろう。そのことを考えるとやっぱり気が重い。これをきっかけに妹が1人で宿題をするようになるかもと考えると少し寂しい。まぁ、ハヤトたちにシスコンと言われるようになってたから、ちょうどいいのかもしれない。

 それと同時に考えるのはユヅキのことだ。正直ユヅキの事情は知らないが、1学期からバイトを始めるほど金銭的に切羽詰まっている様子の彼に、生徒会をする暇はあるのだろうか。僕が見た限りでは生徒会には放課後にバイトへ行く役員はいない。部活動と両立している人はいるが、そちらは同じ学校のこと調節も効くだろう。メンバーも全員真面目な感じで、ソウマに聞いた感じでは成績も優秀だ。正直ユヅキがいなくてもなんとかなる。そうは思うが本人が言わないのに僕がそんなことを言うのはおかしいだろう。それに、僕は何も知らない。何も知らない人間は、口出しをしないで遠くから眺めているくらいがちょうどいい、だろう。

 そんなことを考えながら、今日も生徒会室の扉を開く。


 生徒会室。正確には普段使わない視聴覚室を、役員の人数が増えるこの期間だけ模様替えした部屋だ。普段から暗幕で締め切られているその部屋は今、文化祭の準備に向けて盛大に散らかっていた。

 新メンバーが決定してすぐの週に文化祭の説明と話し合いがあり、そこで生徒会の出し物はあっさり決まった。日本でもその名を轟かせているシェイクスピアの名作、ロミオとジュリエット。生徒会メンバーの1人で演劇部の部員らしい2年の先輩が提案した案があっさり通ってしまった。理由は顔らしい。生徒会の役員にはユヅキを始め学校の人気者が集まっている。僕は顔の醜美はわからないが、世間一般的には整った顔立ちのメンバーが揃っているらしい。そんな彼らを引き立てるには劇しかない。というのがその先輩の言い分で、他の人もなぜか納得していた。僕としては話し合いが進むのならなんでもいい。そう言うわけで、その練習や小道具作りに使われている生徒会室は、足の踏み場もない状態なのだ。教室と違って片付ける必要がないことをいい事に、わりと好き勝手使っている。

 そんな部屋に、先客がいた。今日は保健室に呼び出されて遅れたから仕方ないが、いつも1番乗りをしているから少し悔しい。

「あ、中園君。先生なんだって。」

 僕が呼び出されたことを知っているユヅキは、作業の手を止めてこちらに手を振る。

「健康診断の結果のこと。視力が少し下がってたから眼科に行ったら報告してね、だって。」

 保健教諭の声を真似てそういう。今までなんとかBを保ってきたが、今回とうとうCになってしまった。母親と兄が眼鏡だから覚悟していたが、実際になってしまうと結構ショックだ。まぁ、夜遅くまでスマホをいじってる僕が悪いんだけど。

「それより、なんの話?」

 昨日やりかけで終わっていた段ボールを手に取り、僕も会話の輪に入る。ここにいる役員はみんな裏方か脇役だ。ユヅキはメインの役を薦められていたが、猛反対しなんとか脇役で妥協してもらったようだ。役持ちの生徒は別の部屋で練習をしている。一度見に行ったが、優秀な生徒が集まっているのは事実のようで既に全員セリフを覚えていた。文化祭の統括としての仕事も特に問題なく進んでいる。漫画であるような陣地争いやクラスの分裂は、今のところ起こる気配もない。

「ユヅキさんの成績の話です。」

 2年で旧役員でもある先輩が状況を説明してくれる。初めは文化祭後に控えている期末考査の話題が上がり、そこからユヅキの成績、特になぜ進学科を選ばなかったかという話題になったらしい。

 それは僕も多少興味がある話だ。しかし当の本人は困ったように眉を下げている。

 その表情を見て僕の劣等感がむくむくと膨れ上がる。ユズキの家庭が少し複雑なのは感じるが、僕が尋ねることも、ユズキが話題に挙げることもない。本当は、何か聞いた方がいいのかなとも思う。ただ、僕はこういうときの対応が分からない。悩みを根掘り葉掘り聞かれた方が楽に感じる人もいるだろう。でも、何も聞かずほっといてくれた方がいい人もいる。全て僕の想像でしかない。僕は、だから、ユズキにどう接すればよいか少し考えあぐねている。ただ、ユズキが現状で満足しているなら、このままでもいい。正直僕はどっちでもいい。ユズキが口にしない限りは、僕には関係のないことだから。

 そんなことをいって言い訳をするが、実際にユズキの事情を知ろうとしないのは僕だ。知ってしまったらきっと、もっと惨めな気持ちになる。もっと苦しい気持ちになる。自分の無知をさらに呪う事になる。それでも知ったら何か助けになれるかも、と天使な僕がいっている。自分から知ろうとしないのに勝手に羨ましがって、どんだけ傲慢なんだよと、天使な僕が耳元で呟く。

 結局ユヅキは「興味がなかったから」と当たり障りのない返事をして、話題は変わってしまった。今度は恋人の話だ。なぜか最初に僕に矛先が向き、膨らんだ劣等感は押し込むしかなかった。


 けれど、その足掻きも虚しくユヅキの事情を知る事になったのは、文化祭の準備が本格化した頃だった。

 特に暑いわけでも寒いわけでもない、めずらしく過ごしやすい1日。その日ユヅキは学校を休んだ。小中学校なら「宿題を届けてあげて」などということもあるが、高校ではそれもない。ユヅキの欠席はその後数日続き、その間何度か警察が学校に来ているのを見かけた生徒がいたそうだ。人気者なユヅキの突然の欠席と、警察の存在を繋げて考えるなという方が難しい。様々な噂が飛び交った。そして僕の耳にも、ソウマ経由で情報が入ってきた。

 ユヅキの家は父子家庭らしい。小学生の妹もいたようだ。ユヅキも妹もその父親の再婚相手の連れ子。つまり血は繋がっていない。母親は数年前に病死。父親はそのショックで子どもに対する関心を失ってしまった。一応近所の人たちがその複雑な家庭状況を心配し、時々声をかけたりしていたらしいが、今回父親のネグレクトが発覚した。

 というのが今回の騒動の全貌らしい。

 マンガみたいだな。話を聞いた時、最初に浮かんだのはそんなこと。そしてその後に膨れ上がったのは、やっぱり劣等感だった。そんなことを思ってはいけないのに、羨ましいと思ってしまった。そんな自分が嫌で仕方がない。かわいそうとか、もっと早く知っていたら助けられたのに、とかそんな気持ちも湧いてくるが、劣等感に押されてすぐに消える。こんな僕にはユヅキと話す資格もない気がする。

 結局、次にユヅキが学校へ来たのは文化祭を目前に控えた月曜日だった。ユヅキとユヅキの妹は児童保護施設に入ることになったらしい。学校中にその噂は広がり、みんなが腫れ物を扱うようにユヅキと接するようになった、気がする。僕の勘違いかもしれない。

 とにかく、ユヅキの周りは明らかに何かが変わった。ユヅキがする予定だった脇役も、当日の出席がはっきりしてなかったから他の人に代わった。授業の遅れは僕を含め、周りの席の生徒が助けるように言われた。といってもノートを見せるくらいだ。

 はっきり何とは言えない、ただ何かが変わった周囲に、ユヅキは何も言わない。学校や本人に直接聞く生徒はいない。説明もない。ただ日常が続くだけだ。ユヅキは何事もなかったようにお喋りをして笑っている。周りの生徒も変わらず笑っている。ただ、周りもユヅキも家族関係の会話を神経質に避けている。そしてその苦労を隠そうとする。互いに示し合わせたように、何もなかったと見せかけている。

 僕は元々ただの隣人だ。生徒会の伝言以外で会話をすることはない。だから、そんな彼らの情景をただ不思議な気持ちで眺めるくらいしかできない。その度に湧き上がる何とも言えない感情は、毎回僕を苦しめる。

 そんな状態が少なくとも2学期中は続くと思っていた。けれど予想外に早く状況に変化が起きた。


 加入してまだ2ヶ月ほどはいえ、ほぼ毎日のように顔を合わせて話し合いを行った生徒会には、文化祭を目前にして結束と信頼が生まれていた。特に事前リハーサルを終えた文化祭前日の放課後。明日が本番だという緊張感と、今日まで放課後を返上して準備をしてきた達成感でその雰囲気は絶頂に達していた。

 そんな雰囲気に流されたのだろう。ユヅキが初めてそのことを口にした。

「俺の都合で皆さんに迷惑をかけてすいません。」

 苦しそうにそういうユヅキを誰も責めることはできなかった。実際ユヅキに非はないのだ。話ユズキし終えるとその場には、励ましと慰めの言葉が溢れる。けれど表情はなんとなく固い気がする。高校生とはいっても僕らはまだ幼い。人生経験は自分たちが思っている以上に乏しい。こういう現実があることを知っていても、自分たちの身に起こるのは初めてだろう。適当なところで旧会長が話を締め、ユヅキはまだ少し苦しそうな表情をして生徒会室を出た。他の役員も自分の教室に戻るなり、玄関に戻るなり、散り散りに動き始める。僕はユヅキの背中を追って教室に戻る。悩んでいる様子のその背中を、追い越して教室に向かう勇気は僕にはなかった。

 誰もいない廊下に僕とユヅキの陰だけが現れる。他の階から先輩たちの話し声が聞こえてくる。教室の電気をつけ、机に向かう。時計を見るとちょうどバスの時間。窓の外にバスの姿が見える。次は40分後だ。

 ユヅキのため息が耳に入る。時計を見て忌々しげに舌打ちをしている。僕と同じように電車を逃したのだろう。

「次、何分後。」

 どうせ外で待っていても寒いだけだ。諦めて席に座る。ユヅキはいすに逆に座り、僕の机に肘をつく。

「40分後。」

 カバンから漫画を取り出す。漫画の持ち込みは校則違反だが、いつもカバンの底に数冊忍ばせている。バスに揺られている間の暇つぶしだ。スマホだと乗り物酔いをしてしまう。

「それ、面白いか。」

 僕の漫画をのぞきこみ、直ぐに飽きた様子で話しかけてくる。人の足音が廊下に響き、慌てて漫画を隠す。先生は戸締まりのことだけ伝えると直ぐに隣の教室へ向かった。見つかってはいないようで安堵のため息をつくが、また漫画を読む気にもなれずユヅキのお喋りに乗っかることにした。

「ユヅキは、漫画読まないのか。図書館とかにも置いてあるだろ。」

 そう聞きはするがユヅキが漫画を読む様子は想像できなかった。なんとなく、ユヅキは漫画とかアニメとか、そういうものには縁のない人間のように思えた。返事は予想通りのモノだった。一体普段どう過ごしているのだろうか。その疑問の答えはすぐに見当がついた。バイトだろう。バイトと勉強。それだけの繰り返しなのだろう。そういえば、ユヅキがスマホを使っている姿を見たことがない。ネグレクトされていたらしいから、スマホを与えられていないのかも知れない。なら学校の入学費とかはどうしたのだろうか。そういえば、今はかなり遅い時間だが児童保護施設の方には連絡とかしたのだろうか。交通費とかも、今はどうしているのか。

 色々な疑問が頭の中で現れては消える。興味はあったがわざわざ聞くほどではない、むしろ聞くことを少し躊躇うな質問がいくつも頭を巡る。けれど口にしない。口にしたらユヅキは困るだろう。気にしないかも知れないが、実際は分からない。だから口にしなかった。

 けれどそんな僕の様子を察したようで、ユヅキの方からその話題を口にした。

「中園君も聞いてる、俺のこと。」

 その感情は僕には読めなかった。怒っているのか、説明が面倒だなと思っているのか、同情をして欲しくないと思っているのか、僕には分からなかった。いつもの笑顔の絶えないユヅキからは想像できない、見ているほうが不安になるほどの無表情を浮かべている。僕はこんな表情が嫌いだ。苦しんでいます、という表情。僕に何をして欲しいんだ、と不安な気持ちが膨らむ。そして、そんな自分に対して劣等感が膨らむ。そして、僕は彼らが経験する苦しみを知らないという焦りが生まれる。

「まぁ、噂だけなら。」

 そんな僕の感情を悟られないように、曖昧に答える。

「ま、概ね噂通り。俺は父親から虐待を受けていて、今は児童保護施設にいる。」

 ユヅキは自分から色々と話してくれた。父親が虐待を始めた頃の子と、中学の頃のこと、今の現状。それで僕の疑問のほとんどは解消された。だからといって喜べるほど空気の読めない人間ではない。かといってどんな反応が正解なのかも分からず、ただひたすら頷く。本人から聞く話は噂話以上に苦難が滲んでいる。きっと僕の表情もユヅキのように感情が消えていることだろう。

 同情、していないといえば嘘になる。けれどやっぱり、羨ましいという気持ちは大半を占めている。そしてもうひとつ、心苦しさが僕を責める。自分のこの性格があまりよくないことは理解している。けど、本人を目にして罪悪感はいつも以上だ。羨ましいという気持ちを消すことは出来ない。だからこそ罪悪感は膨らみ続ける。

「ごめん。」

 気付いたらそう口にしていた。そんなこと言ったって逆効果で、ユヅキを余計に困らせると分かっていたのに、罪悪感が溢れてしまったようだ。

「なんで謝るんだ。中園君は悪くない、だろ。」

 案の定困った表情を浮かべている。やっぱりそんな反応するか、という諦めの表情なのかも知れない。いずれにしても僕には完全に理解することは出来ない。

「うん。そう、かもしれない。けど、やっぱり謝らないと。ねぇユヅキさ、ついでだから僕の悩みも聞いて。」

 多少強引なのは自分でも分かっているが、もうこれ以上僕1人では抱えられない気がした。それに、この機会を逃したらもう誰かに相談する機会はないかもと思った。自分のことだけでも一杯一杯のはずのユヅキに、こんなことをするなんて最悪だと思う。それでも、1度話し始めてしまうと止めることは出来なかった。

 自分で話しながらも贅沢な悩みだと呆れる。本当に、なんでこんなことで悩んでいるんだと思うような、しょうもない悩みだ。けれど思いのほか、ユヅキは真剣に聞いてくれている。怒りを露わにする様子がないから、ひとまず心をなで下ろす。

「まぁ、そんな感じ。だから、ごめん。ユヅキは真剣に色々悩んだりしてるはずなのに。」

 最後にもう一度謝ってから時計を見る。もうバスの時間まで5分もない。

「って、まぁ、聞いてくれてありがとう。それじゃ。」

 別に何か言葉が欲しいわけでもなかったし、ここで僕が黙ったら返事を求めているように見える気がして、慌てて席を立つ。

 ユヅキに別れを告げ、特に急ぐ必要もないのにバス停に走る。振り返ると裏門へ向かうユズキの後ろ姿が見える。反省の気持ちが半分と、悩みを口にしてホッとした気持ちが半分。暗い気持ちを振り切ってバス停に立つ。兄から連絡が来ている。今日は兄が風呂洗いをしてくれたらしい。帰ったら直ぐに入浴して、夕食。相変わらず幸せな日常だ。

 明日は文化祭。ユヅキと、とりあえず気まずい雰囲気にならなければよいのだが。


 冬休みも終わった。文化祭はトラブルなく終了し、結局、ユヅキとはそれほど変わらない関係が続いている。特別に会話が増えたわけでも、気まずさや恥ずかしさで会話が減ることもなく、ただの同級生としての関係が続いている。時々生徒会で一緒に行動するくらいだ。席替えがあって、隣の席でもなくなった。僕は廊下側の後ろ、ユヅキは窓側の前、ほぼ対角の位置。相変わらず休み時間にはユズキの周りに人の輪ができる。人のうわさも七十五日、別に忘れたわけではないだろうがなんとなく最初のころの困惑や緊張はなくなった。ソウマの話では、児童保護施設からの許可が下りてまたバイトを始めたらしい。前と同じ、学校の近くの飲食店。バイトを再開した初日には、ハヤトたちが冷やかしに行ったらしい。


 結局、悩みを口にしても何も変わらなかった。悩みが解決することも、悩みが小さくなることもなかった。ユヅキにとっても、特に何か参考になることはなかっただろう。ただちょっとした気の迷いみたいな感じで互いの弱みをさらけ出しただけで、何かを求めていたわけではないのだろう。けれど僕の方は、悩みを誰かに話すという、それまでしなかった行動ができた。自分だけ得して申訳ないが、僕はユズキに話せてよかったと思っている。話したからと言ってユズキには何も言われなかったし、何か言われてもきっと僕の心には刺さらない。悩みは、少なくともこの悩みは自分の中で折り合いをつけるしかないのだ。

 それと、ユズキ自身が色々と話してくれたお陰で、漫画とかニュースで見聞きするよりも問題を現実的にと慣れることが出来た。前よりは、少し相手の悩む気持ちとか、自分に何が出来るとか、もっと色々したいとか、そういう気持ちが持てるようになった。別に、ユズキはそれを求めていないかも知れないけど、ユズキのお陰で少しだけあの漫画の主人公の気持ちが、理解できた。もう一度見返したら、前より少し感情移入できた。

 きっと、人は、僕は、経験を積むことしかできないのだろう。今回の悩みを話すという経験は、確かに経験として僕の記憶に残った。それで大きく何かが変わることはなかったが、確かに僕の中に存在している。口に出したら少しスッキリしたし、自分だけで考えているよりも気持ちを整理できた。これがいい経験か悪い経験かは、今の僕にはわからない。けれど、いつかはわかるようになりたい。それは一体、いつになるだろうか。一生わからない可能性もある。でも、少しずつ経験を積めば、近づくくらいは出来るだろう。

 とにかく。とにかく、経験。それしかない。幸せな経験、不幸な経験、甘い経験、苦い経験。僕は経験を求める。自分が経験したことのない何かを求め続けている。きっと、きっと、ほかの人だってそうだ。僕はほかの人の気持ちを覗けないから想像するしかないが、きっとそうだろう。自分にない記憶を、経験を欲する。

 僕らはないものねだりなんだ。ないものを欲して、悩んで羨んで苦しんで、安堵して。そうやって僕らは少しずつ変わる。まだ僕は高校生。世間一般にはまだ子どもだ。僕が大人になるのはいったいいつだろうか。大人だって、きっと何かを欲してる。たった数十年の人生は、すべての経験を得るには長いようで短い。それでも僕らは生きる限りそれを求めるのだろう。大人になることを夢見て。

 僕らはないものねだりだ。夢を見て、憧れて、悩んで。でも結局、生きているのは未来でも過去でもなく、今でしかないのだ。

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