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69.罠にかかったジンスケ

真夜中だというのに宮中の騎士団長室に人間が集まっていた。


騎士団長ネティルのほかに軍総司令官のマドリナと国防長官のセラ・イリディア・マルヴェインだ。


辺境からの早馬の知らせに叩き起こされて、ここにやってきたのだ。


マドリナがニヤニヤと笑いながら言った。


「ベリタス王立大学主席卒業の経歴はダテではないというわけだな」


「こんなに見事に獲物が罠にかかるとは、私でも思いつかなかった悪だくみだ」


国防長官のセラ・イリディア・マルヴェインは若干23歳の若者だが、マルヴェイン家の伯爵位を継ぎ、国防長官としての実績は天才の名を欲しいままにしていた。


騎士団長のネティルも苦笑している。


「あんなド田舎の誰もいない所で朝昼晩と3回も船を林から出したり、海から引き揚げて林にいれろとか何を言い出したかと思ったが、よくあの『男』たちがひっかかるとわかったな?」


セラは微笑しながらそれに答えた。


「裏街道の陸路を行くだろうことは予想していましたが残念ながら検問にはひっかけられませんでしたね」


「ですが辺境まで言ったとして山岳地帯の街道は限られていますから、きっと水路に切り替えるだろうと思いました」


「あとは相手が一番望む物を用意してやっただけです」


「人目につかない場所。速度の出そうな船、絶対に国に告げ口しない密輸団の船頭」


「用意しておいてやりさえすれば、きっと向こうの方から見つけて食いついてくれると思っていました」


マドリナが気を引き締めるようにして言った。


「ところで偽物の密輸団だとバレて逃げられないだろうな」


セラは笑って答えた。


「大丈夫ですよ、あの部隊の隊長はもともとあの辺りの出身なんです。それに船の操作もうまい」


「部下も水上警備が専門の奴らばかりで、密輸人やあのあたりの船乗りがどんな感じか良く知っている者ばかりですから、真似をするくらいは朝飯前です、万に一つもバレることはないでしょう」


ネティルが呆れたように言った。


「まったく若いくせに油断のならない奴だな。敵に回さなくて良かったよ」


マドリナが先を促して聞いた。


「それで船に乗せた後はどうなるんだ? 上流へ向かう筈の船が川を下り始めたら流石に気づくだろう」


「もし武力で制圧されてインフルアへ行けと言われたら厄介なことになりそうだが…」


セラは微笑みを保ったまま静かに答えた。


「あの船ではインフルアには行けません。川を遡って進むにはそもそも燃料が足りないのです」


「出航したらすぐにエンジンが故障したことにします」


「船の燃料は魔物から取った魔脂が一般に使われていますが、密航者とかは安物の粗悪品の燃料を使って故障を起こすことが良くあるのです」


「エンジンが停まれば船は下流に流されるだけですからね、後は最寄りの川港に着けて待機していた者で出迎えるだけです」


マドリナが不審そうに言った。


「そうなれば川に飛び込んで逃げるんじゃないか?」


セラは小さく頷いた。


「その可能性はあります。ですが最初の川港のあたりからちょっと下ると、そこから先は両岸が断崖絶壁です」


「それに実は故障は偽装で全速力で下流に向けます。素人には川の激流のせいなのかエンジンがかかっているのかなんてわかりません」


「どうするか考えている間にあっという間に最初の川港は抜けて断崖絶壁地帯。それまでの本当に短時間に決断して川に飛び込むことはないというほうに金貨100枚賭けてもいいですよ」


「その先は次の川港ですが、そこには我々が先回りして待機しているというわけですね」


ネティルがまた笑った。


「本当に悪い奴だな。 こんな悪い奴が国防長官でプロスペリタは大丈夫なのか?」


ネティルの軽口を聞き流してセラが真剣な表情に戻って言った。


「一番重要なのはあの『男』と話して謝罪して誤解を解いて和解すること。国外に出る気をなくさせることです」


「あの『男』はザカトとかいう町をいたく気にいっていると聞いています、誤解が解ければ態々そこから出て国外に行くこともないでしょう」


「問題はあの『男』をちゃんと説得できるかですね、それは両閣下とレイラ王女にお任せいたします」


ネティルが不服そうに言った。


「君が説得してくれるんじゃないのか? セラ」


若干23歳の若者はニッコリと笑って言った。


「あの『男』と揉めたのは塩を盗んだマドリナ閣下と、軟禁して襲ったネティル閣下の騎士団でしょう?」


「ご自分たちでケリはつけてください。私に振られても困ります」


マドリナは溜息をついて言った。


「セラの言う通りだな。いったん種付けの件は保留にして、あの塩も返してやるしかないかもしれない」


「我が国に恨みを持ったまま他国に行かれるのだけは、何としても防がねばならないからな」


ネティルも頷いた。


「部下の不始末は私の責任です。きちんと謝罪してなんとしても誤解を解いてもらわねば……」


セラがパンパンと手を叩いた。


「決まりですね、それではさっそく出かけるとしましょうか」


「朝が来る前に断崖地帯の下流の川港に着いている必要がありますからね」


マドリナが念のためにと聞いた。


「覚悟を決めて断崖絶壁地帯でも構わず飛びこんで崖をよじ登るという可能性もゼロではないぞ」


「常識は通用しない相手だからな」


セラは微笑んで答えた。


「その時は船から狼煙の信号弾をあげるように命じています。移動して崖から登ってくるのをお待ちしてお話しをしましょう」


マドリナとネティルは顔を見合わせた。


どうやら、この若者には何も心配する必要はないようだと二人とも思った。




リフィアが合流地点へと戻るとジンスケとリゼリア王女はまだそこに留まっていた。


リフィアは二人にことのあらましを報告した。


「密輸人を仲間にしてというのはお気に召さないかもしれませんが、どうか気を悪くなさらないでください」


リゼリア王女は微笑んで言った。


「ジンスケ様はどうか判りませんが私は全く問題ありませんよ、むしろこの際は密輸団のほうが密告される可能性が少ないというリフィアさんの判断に私も賛成です」


二人はジンスケの顔を伺った。


「拙者も異存はありません、しかしその様な野盗のような輩だとすると乗船したとたんに豹変して我々を襲って金品を奪おうとするということはありませんか?」


前世のジンスケの世界では大きな川に禁令がかかっていて幕府から認可を受けた荷渡し人に荷物や籠を担いで貰わなければ渡れない川があった。


その荷渡し人が川の真ん中あたりで難癖をつけて値上げを要求するというような強盗まがいのことが横行していたのをジンスケは思い出していた。


リフィアは頷いた。


「ありえますね。その時はこちらも腕に物を言わせるしかないでしょう」


「密輸団も勝てない相手に歯向かうより仕事をして金を得るほうを選ぶと私は思います」


リゼリア王女が厳しい顔で聞いた。


「その密輸団、それに見せかけた罠ということはないですか?」


リフィアが頷いた。


「私も考えましたがそれはないと思います。誰もいないところで私が現れる前から船を林間に隠そうと大仕事をしていましたから」


「それに最初は私を騎士団だと疑って暴力沙汰に出そうなくらいでした」


リゼリア王女は頷いた。


「なるほど、それでは罠の心配はなさそうですね」


「出発はいつですか?」


「明日の朝です。役人の見回りなどがあるといけないので、近くまで移動しておいて船には出航直前に行きましょう。」


リフィアの答えを聞いてジンスケも大きく頷いた。


「インフルアというのはどんな国なのでしょうね? 少し楽しみです」


リゼリア王女が微笑した。


「活気があって中々いい国ですよ」


ジンスケが真顔で聞いた。


「フォルティアよりも……ですか?」


リゼリア王女は大きく笑って言った。


「いえ我がフォルティアが一番のいい国です、是非おいでください」


そうしてリフィアが先導して待ち合わせ先へと三人は移動を始めた。


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