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1.プロローグ

宮本武蔵が眼光鋭く二刀流を構えている。


吉岡一門を打ち破り天下無双と噂される武芸者が殺気を全身に漲らせてこちらを睨んでいた。


なぜ自分に果し合いを挑むのか、そんなことを考えている余裕はなさそうだった。


「抜け。森崎殿」


「私は戦うつもりはない」


「この世に天下無双は一人しかおらぬ、この武蔵か、剣聖森崎が上か。我らは戦う宿命なのだ」


どうやら宮本武蔵はどうあっても自分と戦うつもりのようだった。


私は天下無双なんてどうでもいいので果し合いとか迷惑この上ないのだけれど相手がそうは思っていないのは明らかだった。


どうやら嫌でも戦うしかないようだ。


いずれにしても、いくら「抜け」と言われても、私に剣を抜くという選択肢はない。


それは森崎流は抜刀術だからだ。


今まで戦った相手は全てその場で葬ってきたので森崎流が抜刀術であることを知る者はいない。


それに対して武蔵の二刀流は有名だ。


長短の両刀を使う二天一流は長刀に注目しがちだが短刀のほうにこそ注意が必要だと私は思っていた。


打ち込んだ長刀を相手が受けるとつばぜり合いの力比べになりやすい。


その際に残ったもう片方の刀が長刀だとつばぜり合いの至近の間合いでは扱いずらい。


その為の短刀なのだ、つばぜり合いになった瞬間に短刀がブスッとくる。


二天一流は派手なだけではなく実戦に即してよく考えられた流儀だと思う。


ただし、この戦いは流儀を知られていない分だけ武蔵よりも私のほうが有利かもしれない。


私が剣を鞘から抜かないことを見ていながら構わずに宮本武蔵は切りかかってきた。


武芸者の世界では構えてもいない相手に切りかかるのを普通は「卑怯」という。


これが本当に天下無双の宮本武蔵かよ、武士の矜持もへったくれもあったものじゃない。


まあ武芸者なんて所詮はこんなものだ、死人に口なし。


どんな手を使おうが勝ったものが正義ということだ。


武蔵の長刀が私に向かって振り下ろされてきた。


遅い。遅すぎる。


数十年の歳月を抜刀術一筋に修行を続けてきた私の剣技はいつしか人間業を超えていた。


そんな私には宮本武蔵の振り下ろす一撃はスローモーションのように見えていたのだ。


これが本当に天下無双といわれる宮本武蔵の剣なのかと疑うほどだ。


けれども今まで対戦した天下に名を轟かせていた武芸者たちも、みんなこの程度だったからまあこんなものなのだろう。


できれば武蔵は切りたくない。


武蔵は剣の世界では超がつくほどの有名人だ。


有名人を倒せば倒すほど、また勝手に世間での知名度が上がってしまい、それが新たな挑戦者を招き寄せるのだ。


だから殺したくはないのだが、かといって自分が斬られるというわけにもいかないので仕方がない。


武蔵の刀を紙一重でかわしながら、私は抜刀からの必殺の一撃を斜め下から切り上げるように武蔵に放った。


森崎流抜刀術、奥義。一の太刀。 瞬速の太刀だ。


あまりの抜刀の速度にたぶん武蔵の目は私が刀を振ったことさえも認識してはいないだろう。


今まで戦った全ての武芸者も何が起きたのかを察するまでもなく息絶えていた。


武蔵の脇腹のあたりに名刀・鬼丸国綱の刃が食い込み、そのまま両断して抜ける手ごたえを確かに感じたそのときだった。


一刀両断にした武蔵の体の上半分が宙に浮かんでいる。


斜め下から袈裟切りに両断された下半身は地面に立ったままだ。


そして宙に浮かんだ上半身だけの武蔵がニヤリと笑った。


信じられない光景に私は思わず呟いていた。


「化け物か。。」


「悪かったな、俺は転生者なんだ。 そして人間じゃなくて魔王なんだよ」


武蔵は続けて魔法の呪文を唱えた。


その魔法によって私は一切の体の自由を奪われてしまった。


動けないでいる私の首筋に武蔵の短いほうの刀が迫ってきた。


私の首がはねられる。


転生者? 魔王? そんなのありかよ。。。




気がつくと私は地面に転がっていた。


おかしい。


確かに首をはねられた筈なのに胴体と首がつながっている。


というか、全然痛くもないし痒くもない。


けれどもそんなことを考えている暇はなかった。


目の前でこの世の物とも思えないような戦いが繰りひろげられていたからだ。


人の背丈の3倍はありそうな大きなトカゲのような化け物と10人ほどの人間が戦っている。


その者たちは私が見たこともないような異形の鎧を身に着けている。


手には両刃の重そうな剣を装備していた。


(あんなに重そうな剣では小回りがききそうもないから実戦的ではないな)


そんなことを私が考えている間もなく、大トカゲが長い尻尾を振り回し強烈な一撃を放った。


取り囲んでいた者たちのほとんどが、ただその一撃で吹き飛ばされた。


確認するまでもなく、その一撃で全員が息絶えたことは明らかだった。


戦闘能力に差がありすぎる。


残った人間は二人だけ。


銀色に煌めく戦鎧(いくさよろい)を身に着けたいかにも高貴そうな小柄な少年、・・いや女か?


それを守る様に、大トカゲの前に立つ大柄な戦士。


戦士が後ろを振り返らずに言った。


「姫。私が時間を稼ぎます。その間にお逃げください」


しかし大トカゲの巨大さと、それに似合わないほどの俊敏さから見て逃げ切るのは不可能に思えた。


「だめよリンディール、死なないで。一緒に逃げるの!」


姫と呼ばれた少女が叫んだが、大柄な戦士は既に大トカゲに向かって突撃していた。


(あの相手では守っても無駄、渾身の一撃に望みを託す選択は間違っていないが、いかんせん力に差がありすぎる)


大トカゲに向けて大剣を振り上げたところに、大トカゲの鋭いツメの前足が振り下ろされた。


大剣ごと押しつぶすように振り下ろされた一撃に戦死はひとたまりもなく息絶えてしまった。


少女のつんざくような悲鳴。


その様子を見ていた私は立ち上がった、いつまでも寝転がっているわけにはいかない。


大トカゲが倒れている私の気配にも気づいていたからだ。


最初の尻尾の一撃で吹き飛ばされ近くに倒れている戦士の死体から大剣を取り上げていた。


ぐずぐずしていれば死ぬだけだ。 待てよ? 私はもう死んでいるはず。


考えるよりも先に体が動いていた。


(重たいばかりでなんというナマクラな刀だ、これでは突くしかないな)


私は逆手に大剣を構えた。


普通は鞘の側を小指側に刀身のほうを親指側にして刀を持つものだが、刀身を小指側の逆手に構えてバックハンドで肘のあたりに刃がくるような構えだ。


剣が重すぎて両手でないと支えきれない。


全速で大トカゲに向けて踏み出し、ジャンプ。


空中でクルリと横回転して大トカゲに背中を向ける。


そのまま逆手に構えた大剣を裏拳のように半回転しながら突き出していく。


大トカゲがその動きに反応して前足を振り出してくるが、私の動きのほうが一瞬速い。


その一瞬、私の視界が暗転したかのように揺れた。


大トカゲの動きがスローモーションのように見える、首筋あたりの一点が光っていた。


なぜこんなことが起こるのかは判らないが、本能がその光る場所が魔物の急所だと告げていた。


そこを目がけて全力で大剣を突き立てた。


光っている場所に大剣の切っ先が突き刺さり、全体重と回転による遠心力がそこに叩き込まれていた。


ズブリという感触があり大剣の根元まで大トカゲの首に突き刺さったと思った瞬間。


パンっという弾けるような音と煙を残して大トカゲの姿は跡形もなく消えていた。






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