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未来の君が泣いている

作者: Seira

「未来の私が、泣いています。」


知らないアドレスから届いた、たった一行のメール。

でも、その文章には、なぜか見覚えがあった。

夢の中で、何度も見た。

雨の中、ぼくの名前を呼びながら泣く、誰かの姿。

――それが、"君"だったんだと、そのとき気づいた。

第一章 春のはじまりに



今年の桜は、なんだか咲くのが早かった。


始業式の朝、校門の前には見慣れた顔ぶれが集まり、クラス替えにドキドキする声が飛び交っていた。ぼく――蒼空そらはというと、少しだけ浮かない顔でスマホを見つめていた。


通知が一件、さっき届いたものだ。


件名:君へ

差出人:unknown-future@time-mail.jp

本文:お願い、彼女を助けて。10年後の未来が壊れそうなの。


差出人の名前は表示されない。迷惑メールだと思えば簡単に済む。だけど、このメールには“何か”があった。言葉にできない既視感。心の奥がざわついて、無視することができなかった。


そんなとき――


「おはよ、蒼空くん!」


ぱっと視界が明るくなるような声。振り返ると、桜色の髪飾りをつけた女の子が立っていた。


「……結衣?」


「うんっ。新しいクラス、一緒だといいね~」


結衣。椎名結衣。

同じ中学に通っていて、1年のときに同じクラスだった。明るくて、誰とでもすぐに仲良くなれる。ぼくとは接点が少なかったけど、あの笑顔はよく覚えてる。


その瞬間だった。スマホが震えた。


新着メッセージ:


「彼女の左手首に注目して。そこに未来の鍵がある。」


ぼくは思わず結衣の左手首に視線をやった。

そこには、小さな銀のブレスレットが巻かれていた。

──見覚えがある。夢で何度も見た。


結衣が泣きながら、このブレスレットを握りしめていた光景を。

まるで、未来から呼びかけられていたかのように。


その日から、ぼくの“選択”は始まった。

第二章:選ばれた過去

未来からのメールは、止まらなかった。


「5月1日、結衣は図書室で泣いている。必ず話しかけて。」


言われた通りの日、ぼくは結衣を見つけた。彼女は机に突っ伏し、小さく肩を震わせていた。


「……どうしたの?」


声をかけると、彼女ははっとして、涙を拭った。


「……なんでもないよ。ちょっと昔のこと、思い出しちゃって」


後日、彼女が語ったのは小学生の頃の話だった。

親の離婚、親友との喧嘩、そして誰にも言えなかった孤独。

ブレスレットは、そのとき唯一もらった“母の形見”だという。


「これがあるから、私は大丈夫って、思えてたの」


だけど、彼女の表情はどこか不安げだった。

未来は、まだ彼女を泣かせ続けているのかもしれない。


第三章:もう一人の未来

ある夜、もう一通のメールが届いた。差出人はこう名乗った。


「私は“別の未来”の結衣です」


そこにはこう書かれていた。


「今、未来は2つに分かれかけている。

 一つは、あなたが彼女を救う未来。

 もう一つは、あなたが彼女を忘れる未来。」


そしてもう一人のキーパーソン――深月という転校生が登場する。


「君、蒼空くんだよね。未来から来た“声”が君を指名してたの」


深月はタイムメールを研究する、未来の技術者の娘だった。偶然にもこの時代に送られてきた試験信号を解析していたのだという。


「未来は一つじゃない。でも“想い”が強い方へ、時間は流れていく」


第四章:運命の分岐点

6月、ある事件が起きる。


結衣が事故に巻き込まれそうになるのを、蒼空が咄嗟に助ける。しかしそのとき、彼はブレスレットを手に取ってしまい、強い眩暈に襲われる。


その瞬間、彼は10年後の未来に“意識だけ”飛ばされる。


そこは、ぼろぼろの街。壊れた教室。そして、結衣の写真が並ぶ献花台。


「……まさか、結衣はもう……」


そこで彼は未来の“自分”と出会う。

未来の蒼空はこう言った。


「お前が何も選ばなければ、彼女は死ぬ。……でも、選びすぎても、壊れてしまう」


最終章:未来の君が泣いている

現代に戻った蒼空は、深月と協力しながら、最後の選択に挑む。


未来のメールは最後にこう語りかける。


「結衣を救うことはできる。でも、その代わり、私の記憶は消える。

 私――“未来の結衣”は、君との想い出をすべて失う」


選ぶか、選ばないか。

繋がるか、手放すか。

そのとき、蒼空はメールに返信を打った。


「それでも、君が笑っている未来を選ぶ」






7月。夏が始まろうとしていた。


「ねぇ、蒼空くん。ブレスレット、つけてみる?」


結衣が笑って、差し出した。

そこには、微かに光る銀の輪――でも、記憶の中のそれとは少し違って見えた。


未来のメールも、深月も、もう現れない。

でも、蒼空にはわかっていた。


あの時、自分は確かに“未来の彼女”を救った。

そして今、となりで笑う彼女が、何よりもその証だった。


「……泣いてる?」

「え?」


「なんでもない。……嬉しいだけだよ」


風が吹いた。

どこかで、桜がひとひら、遅れて舞った気がした。



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