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星空の誓い

 生まれを望まれなかったからと、開き直って決定的な悪事をやらかす道を歩まずに済んだのは、何のおかげだったのか。自分がその刹那に飲み込まれなかったのは誰のおかげか。


 それはきっと──あの子のおかげだ。


 だから、自分はあの子に恥ずかしくない自分になりたかった。あの子を追い越して、隣で一緒に走れる自分になりたかった。


 生まれを望まれなかったからと、開き直って決定的な悪事をやらかす道を歩まずに済んだのは、何のおかげだったのか。自分がその刹那に飲み込まれなかったのは誰のおかげか。


 それはきっと──あの子のおかげだ。


 だから、自分はあの子に恥ずかしくない自分になりたかった。あの子を追い越して、隣で一緒に走れる自分になりたかった。


 けれど──伸ばした手は星には届かなかったのだ。


「お前の夢を聞いてなかったな、鷲宮」

「何度も言ってるけど、俺は大将を自分のものにしたいんだ。大将がお嬢のせいで構ってくれなくて寂しかったんだ」

「だからって、他人を傷つけてまで夢を目指して何になる? 他者が絡む以上、拒絶されるかもしれない可能性を考えなかったのか?」


 鷲宮は、俺と同じだ。俺がセイに憧れたように、こいつは俺に憧れてしまった。

 だからこそ、道を踏み外して、今がある。


「大将と同じだよ。誰だって、大好きな人の特別な何かになりたがる。けれど大人になるに連れて気づくのさ。自分は正道や王道では憧れた人の特別にはなれないってね」


 目を伏せて語る鷲宮の言葉に心当たりがある。だけど、俺は彼女に誇れる自分でいたかったから踏みとどまれた。そこが俺と奴との決定的な違いだ。


「だから、外道でも手段があるなら──手を伸ばしてしまうのが凡人なんだよ」


 寂しげに口にした言葉を置き去りに、鷲宮の踏み込みが大地を砕いた。

 瞬間、脚を振るい、受け止めんとした相手の腕を真っ向から打ち砕く。手首、肘、そのまま肩まで一瞬でへし折った。だが、瞬く間に逆再生するように戻っていく。ならば、


「だとしても、諦めなければきっと!!」


 畳み掛ける。苦鳴を間に合わせない。絶叫を上げかける横っ面に足裏を叩き込み、のけ反らせる。無数の蹴撃を全身に撃ち込まれ、鷲宮が血反吐を吐いて吹き飛ぶ。それを追いかけるために、俺は足裏から炎を噴出、高々と跳躍する。


「傲慢だよ、大将"信じれば夢は叶う""努力は裏切らない"それで励ますのはいつだって夢を叶えた人間だ。現実に折れた者が、叶えた者より弱かったはずがないでしょ」


 俺を迎え撃つように、宙へ打ち上がる鷲宮が黒く巨大化した炎を振り回した。直後、2連撃が突き刺さり、そのまま地面に叩き落とされる。砂煙を引き連れて、立ち上がる鷲宮の口から赤黒い塊が飛び出し、彼の体を汚していくが、まだ目だけは死んでいない。


 あの時と同じだ、300人にまで膨れ上がった夜叉烏の前身に当たる半グレ集団に乗り込んで壊滅させた時と同じ目だ。


「俺はただ、大将をずっと見ていたかった。そばにいたかった。強くて、かっこよくて、俺を輩から助けてくれたあの時の大将を。八咫烏の総長だった貴方が好きだったから」


 唇の端から飲み込めなかった血が滴り落ちていく中で、鷲宮は両手を広げてそう言った。受け入れてほしいと、願うように。だけど、俺が好きなのはお前じゃない。


「悪いな、鷲宮。俺は──セイが好きだ。あいつの顔も声も不器用な優しさも、全部大好きだった。だからお前の気持ちには答えられない」


 なあなあにしてたから、鷲宮が暴走したと言うならば明らかにしなければいけない。返答を聞いた鷲宮は両手を下げて、自らの肩を抱いて、


「『毒を持って毒を制す、不良もそうだろ?』俺はその言葉に救われた。だからこそ、貴方の言葉通りにもっと沢山の悪人に鉄槌を下せば、貴方は戻って来てくれると思ってた」

「それが麻薬って訳か?」

「そうだ。麻薬なんて代物、善人は手を出さない。だが俺達みたいな社会の屑は手を出す。中毒性が高いから、勝手に破滅するし、金も入る。でも貴方は帰らなかった」

「帰るわけないだろうに。麻薬なんて悪党が善人を利用するのが目に見えてる。それに俺は彼女から逃げて、タカやルリからも逃げていたんだ。お前達にも関わる余裕もなく、正しく磨耗していただけだ」

「だから、もう力尽くしかないんだよ。大将………俺のモノになってくれよ」


 恋願うような言の葉を前にして、返答は言葉の刃で。


「俺に勝てたら、お前の男になってやるよ」


 幾ら夢双が使えようと、鷲宮自体は問題ない。問題は自らの肉体だ。覚醒前に攻撃を受けすぎた。気力でどこまでやれるか。


「げほっ………言質取ったよ、大将」


 10代の全能感溢れた肉体を貫いて骨や臓器に損傷を与えている。その事実は認めないわけにはいかない。鷲宮の夢双が『悪夢を見せる』となれば、戦闘中に使ってくるかも知れない。体は流しすぎた血から震えているが、体を休める余裕はない。短期決戦だ。


「なんだ? 口から血を吐いて。トマトジュースが咽せたか?」

「大将こそ、膝が笑ってるよ。怖いの?」

「そっくり返してやるよ。俺の恐怖、思い出したか?」


 口の血を拭って、太腿に拳を叩き込んで、焼けつく空気の中で両者が足を踏み出した。

 眼前に迫る焔。黒炎でリーチを稼いだと気づくと同時に頭を下げて前転しながら、踵落としを狙う。


「怖くないよ。大将の恐怖は俺にはお化け屋敷みたいなもんさ。興奮するよ」

「なのにお前は俺を第一優先の癖して、俺が好きだった女を守ろうともしなかったな。セイの始末を彼女の両親に頼まれた時も、捕まっても、恋敵は庇わないってか?」


 迫る黒炎刃を滑らせてガラ空きの胴体に前蹴り、頑丈だろうと衝撃までは消せず、吹き飛ばされたのを見て追撃に入る。


「もし、お前が………セイを助けていたら。今頃、お前と酒を酌み交わしてたかもしれないのにな」

「………それでも、貴方が奪われるくらいなら。俺は何度でもお嬢を殺すよ。大将」


 体を震わす鷲宮に足を向けるが、邪魔するように炎槍の横なぎ、真正面から真紅の炎脚で受け止め、鉄のような音を立てて、跳ね返すが、


「大将わかってるんだよ。アンタとなあなあの関係でいたいなら、お嬢を助けるべきだった事も! だけど、成長すればするほど、自分や社会の限界が見えて来る。根拠のない夢が入り込む余地がなくなる。少なくとも、お嬢が生きていたら、アンタの隣に俺がいる未来が見えなかった!」

「じゃあ、尚更だ。お前は楽な道を選んだ。本当に相手の幸せを願うなら、自分から身を引くのが当然だ」


 気づけば頭上を夜が越していた。いや、正確には黒。自分の背丈を越す狼の巨体が、教会の天井を破壊して見下ろしていたのだから。


「黒鴉王の顎!!」


 灼熱の牙から自分を守る為に脱兎の如く、飛び跳ねるがそれを狙っていたのか一軒家でも丸ごと呑み込みそうな足が上げられ、プレス機のような足裏が落ちてきた。


「──俺はそうだったよ」

「………もう遅いんだよ」


 受け止めることは不可能。足裏を爆発させ、爆風で空を翔けることで回避。そのまま爆風によって空高く舞い上がり、黒鴉と対峙する。


「貴方を振り向かせるのは──もうやめだ。俺以外、見なくていい体にしてやる。大将」

「現実に負けたくないから、人は夢を見る。ただお前は夢を見据えた努力の仕方を間違えたんだ………ここで終わらせるぞ、因縁を! 鷲宮!!」


 唾棄する物言いに、最後の一撃を準備する。

 黒鴉の咆哮、開かれた口に集まる膨大な熱量。さながら太陽のような灼熱を前に、俺は更に跳躍。

 黒鴉と影に隠れる鷲宮に向けて、足裏から炎を噴出して加速する。重力と加速の影響はこの肉体で無理矢理踏み倒し、さながら隕石のように炎の鴉となって敵を討つ!


「黒鴉王の咆哮!!」


 放たれる赤銅色の熱線。闇夜を切り裂くエネルギーが、堕ちる鴉を貫く為に迫ってくる。加速は充分、後は野となれ山となれ、必要なのは踏み込む勇気。


「八咫烏の………流星!!」


 流星の如く、堕ちてきた俺の脚と光線が衝突。

 流星は地球に衝突する前に消えるけれど、そうなってしまえば望みは果たせるが約束は守れない。


「焼き消えてしまえ!! 何もかも!! 貴方を縛る恋模様さえも! 全て消え去れええええええ!!」


 叫びながらも力を増す鷲宮に対抗して、こちらも最後まで無理をしなくてはならないだろう。

 男の子の意地と惚れた女の子にかっこいいところを見せたいと、あと一つは、


「セイと約束した夢を守るために!!」


 足裏に黒炎を焦がす真紅の炎が再び宿る。流星に願いを込めたように、おおいぬ座を撃ち抜く弾丸となって、爪先に全てを込めた先、光線を貫き、開けた視界に恐怖に顔を歪めた鷲宮がいて。


「なんで………消えない! その体はなんだ! まさかお前が、あの人が言ってた」

「何者だろうと構わねえよ。俺はただの夢追い人──星に夢を託された『挑戦者』だ」


 立ち塞がる黒鴉ごと巻き込むように真紅の炎脚が叩き込まれて、大地を滑る。スポンジ生地の壁すら焼き焦がし、香ばしい匂いを漂わせて、開けた空間──祭壇中腹に鷲宮の体が着弾する。


「あっ! ボス!! 助けに来てくれたの!? このがちがちな縄解いて! 縄!」


 祭壇天辺に降り立てばタカが生贄のように燭台に載せられていた。意識を失ってそうだが、元気そうだ。疑問に答えている暇はないので、手早く足を奮って解放。

 同時にちりん、と何かが転がり落ちる音がして、慌ててキャッチした掌にあるのは透き通る色の小さな鈴。これが船長が言っていた『駒の鈴』なのだろう。


「ルリ。タカを背負って先に降りてろ」

「待って、ボスはどうする?」

「少し、話したい事があって。すぐに追いつく」


 後は脱出するだけだが、俺は何故か祭壇を下っていた。登った先にいるのは、真紅の炎に灼かれて呻く鷲宮の姿で。ゆっくり近づく足音に、閉じていた目が開いた。今にも灰へと姿を変えようとする中で、


「大将……いや……こちら、を……見て、鴉間……」


 その瞳だけは今でも生きていた。


「ああ………やっぱり、貴方の目に………俺は、写って………いないんだね」


 彼の瞳に映る俺がどんな顔をしているかわからない。仲間であった、仇であった。それでも道を間違えなければ今も共にいられたかもしれない未来があったかもしれないから。


「ずっと………わかって、た。認めたく、なかったん、だ。それでも………貴方を、探し続けた。その為に生きて来た………外道でも、惨めでも、地に堕ちようとも」


 あり得たかもしれない未来の姿が鷲宮だったのかもしれない。セイの陽炎だけを追い求めて、道を踏み外した自分が用意に想像できるから。


「鴉間………俺は貴方を………ずっと………見て、いたかっ………た。貴方が──すきだから」


 だからこそ、今の鷲宮を俺は責められない。夢のこいつが現実に影響しないとしても、伝えなくちゃいけないことがある。


「俺は──お前を許すよ、鷲宮」

「………大将?」

「だから、罪を償え。償い終わったら、また昔みたいにラーメンでも食いに行こう」


 完全に燃え尽きる前に届いた言葉に鷲宮は憑き物が堕ちたように笑って、光の粒となって消えていく。生まれた意味に楽な答えを見出していたら同じようになっていたかもしれない自分に思いを馳せて。


「ってやべえ! 壊しすぎた! くっそ、脱出しなきゃ!!


 だが、長く余韻に浸る暇もない。鈴も手に入れた、鷲宮も倒した。後は逃げるだけだ。

 走り出す。落ちる瓦礫にぶつからないようにしながら城への出口を目指し、加速する。下に落ちる岩石に足をかけ、力を入れて乗り移りながら出口へ向かう。


「はあっはあっ!…よしっ!」


 甘く淀んだ空気を肺に詰め入れて額を流れる汗もそのままに踏みしめた大地を強く蹴り、前へ前へと進んでいく。

 先ほどの戦闘の疲れか、又は全力疾走により開いた傷口から流れ出る血のせいか、若しくは麻薬によって頭に靄がかかったような感覚に囚われている。


「鈍った体にはちょうどいい!!」


  楽になりたいと折れそうになる己の心を鼓舞しながら飛ぶように走り続け、辿り着いた出口には、


「近づくな!! 私の恋人に指一本触らせないんだから!」

「んがっ! お菓子の兵ども! 全然見当たらねえと思ったら! 伏せてろ、ルリ!!」


 出口の前にロビーを埋め尽くすほどのお菓子の兵達。全てがこちらを血走った目で見ている事から素直に通してくれない事は明らかで。

 ルリが威嚇に巨大なポッキーを振り回す中でも近づくお菓子達目掛けて、炎による一閃。焼き尽くされた一瞬の道をタカを抱えて、ルリの体を片腕で肩に担ぐ。


「ちょっ! おろしてよ、ボス!! この格好、恥ずかしいって!!」

「んなこと、言ってる場合か!! もうまともに走れないだろ!!」

「だって……っ!! ボス!! 目の前!! 道がないよ!!」


 押し黙ってしまった彼女を抱えたまま、お菓子たちの包囲網を抜けて前を向けば、崩れた天井が出口までの道を破壊していて。目の前に広がる深い闇の底に足を止めるが、後ろから光に集まる蛾のようにどんどん数を増すお菓子の人形たち。

 どうやら命の捨て所はここらしい。俺の夢双伝播はまだ未完成だが、あのお菓子たちすべてを壊すことは可能だろう。そう考えて、抱えた腕の2人を下ろそうとして、その腕にストップがかかる。


「ボス、ダメだよ。命を捨てるなら、まずはうちからだって」

「ダメだ。これはボスの命令だ。お前は安全なベッドの上でタカに看取られるんだ。道半ばで無様に死ぬのは俺だけで……」

「いい加減にしてってば!! 言葉にしても分かんないの!? うちはボスに死んでほしくないし、セイだってボスの死を望んだりしてない!! どうして、分かってくれないの? そんなにボスは死にたいの?」


 いくら言われても無駄だ。誰かが死ぬくらいなら、俺は自らを犠牲にする。だから、彼女を投げ飛ばそうとして、その腕が止まる。なぜなら抱えている彼女の腕が色落ちしたように点滅しだしていて。


「泣きたくなるほど笑えた。楽しいくらいに泣いていた。うちが死ぬってなったら皆がきっとうちの為に手を握ってくれる──”また明日って”言い合える。普通の人生を送れない無機質な私の部屋を、乱雑だけどセピア色の思い出で埋めてくれたのはボスたちなんだよ? 」

「ルリ……」

「今のボスに何を言ったって無駄なのは分かってる。だからこれは私のわがまま。ボスが嫌がることを全力でやるのが私達両翼の役目なんだから!!」


 彼女が強く吠えた瞬間、突如として彼女の腕から放たれるのは正方形をベースに凹凸を付けたような形はジグソーパズルのピースそのもので。ピースはお菓子たちが走ってくる床に張り付くと、その部分をピースとして吸収し、小さな穴が開く。

 その吸収したピースは空を舞うと、目の前の穴をどんどん埋めていくではないか。まるで空間ごと組み替えるようにして、逃げるための道が作り上げられた。


「子供の頃、考えたことがあったんだ。星空を切り取って自分だけの星空が作れないかなって……今更になって、夢が叶うなんて思わなかったなあ」

「お前ならやれるさ。つかまってろ」


 開けた道を走りだす。出口すらも蹴り破り、後ろから雪崩のように迫るお菓子の人形たちの圧を感じながらも目の前のゴールを見つけて更に速度を上げた。


「よっしゃ! コルセール号だ! このまま走れば!」

「やめてっ! 手を離して!」


 しかし、すでにお菓子達が燃えながらもルリやタカに手を伸ばしていたが、船から弾丸が飛来。お菓子の人形の頭蓋を撃ちぬいた。狙撃手は分かっている。その人に感謝を伝えるためにもラストスパートをかける。


「走りなさい! アンタら! 飛び乗れ!」

「「う、うおおおおおおおおおおおおっ!!」」


 ゆっくりと浮上していく海賊船目掛けて、2人を抱え、大地を蹴って飛翔。そのまま甲板に顔面を叩きつけるような着地をして、悶絶するが、背中のタカ達が壊れてない事に一安心。

 安堵の息を吐いたところで、世界が歪む。呼吸がままならず、手足が言う事を聞かない。立ってることもできず、気づけば瞬く星空を見上げていて。


「アレ………体が、動かな………」

「麻薬の過剰摂取の症状みたいね。よく、やったわ。ルリとホークを下ろして、パロット、治療して! アンタなら出来るでしょ!」

「あいあいキャプテン!」


 元気な羽ばたき音で、やってきたパロットは信じられない強さでタカとルリを俺から引き剥がし、甲板に寝かせる。


「治せるのか? 治療出来るのか!? 頼む! 何とかしてくれ!」

「うんうん、ちょっと静かにしてろ。集中の邪魔」


 有無を言わさぬ覇気に退けば、薄暗い炭の色をした2人と俺の周囲を星の煌めきが祝福する。砂時計の砂が戻るような回帰を見せて、血色のいい肌へと逆戻っていく。

 まるで魔法のような煌めきが収まり、パロットさんが小さく頷けば呼応するように小さな声と、うめき声。


「ふふ………川の向こうで手を振る両親が見えましたよ」

「うちはママに殴り返されたんだけど??」

「タカ! ルリ!」


 紛れもなく叶った奇跡に突撃した俺を華麗に2人は回避して、船の縁に頭をぶつけて、またもや悶絶。蹲る俺に2人は背中に座って。


「助けてくれてありがとうございます、総長」

「そう思うなら尻にしかないでくれね?」

「今までのうちらの気持ちを考えたら仕方ないじゃん。それで? 顔つき変わったね、ボス。昔みたいになってるよ。何も考えてない馬鹿の顔」

「お嬢との約束を思い出したようですね。それでどうするんですか?」


 ルリとタカからの罵倒混じりの問いただしに俺は覚悟を持って頷けば、2人は俺の背中から降りて、膝をつき、手を差し出した。

 見上げるように見た顔はこれ以上なく、嬉しそうで。あの頃のようにただ毎日を走り続けた充実した日々を思い出しながら、俺は2人の手を取った。


「今までの貸しはこれでなしです」

「これからはボスもうちらに力を貸す事」

「「誓える/ます? 星空に?」」


 それは解散の日に言われた時と同じ言葉。だけど違うのはその返答。


「誓うさ。星空に」


 彼女と約束したその夢を今度こそ叶えるために。


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