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8 ハタマの地


「!」


ケイとコウは、声のしたほうに目を凝らした。


―ザザッ、ザザッ

少し離れた林の木々の間から、音が近づいてきた。


「ぐふッ・・うう・・」


よろめきながら、人が現れた。


頭にはヘルメットのようなものをかぶり、顔は、仮面だろうか緑色の被り物でおおわれていた。

体も緑色の皮のようなもので包まれている。


その人物は、日の当たる草地まで来ると崩れ落ちていった。


「大変だよ、ケイちゃん・・・どうしよう。」

コウはそう言うと、その人物へ近づいて行こうとした。


「ちょっと待て、なんかおかしいぞ。」

ケイは、コウの腕をつかみじっと倒れた人を睨んでいる。


「何とかしてあげなくっちゃ。」

「待て。あの体の周りのオレンジ色のものはなんだ?」


そう聞いて、コウもじっと目を凝らすと確かに何かがある。


倒れた人を包み込むように、体からオレンジ色の何かが出ているように見える。

その色は濃さを増してその人物を包み込むと、やがて色が薄くなりはじめ消えていきそうだった。



その時。


「大丈夫か。」


仲間だろう、緑色に包まれた二人が倒れた人に近づいて行った。



「ちょっと待て。」

ケイが声をかけたが、聞こえないのか二人はまっすぐに仲間に近づいて行った。


「おい、しっかりしろ。」

一人が、倒れた仲間を抱き起した。


その時、消えかかっていたオレンジ色が、スゥっと抱き起している人間にも広がっていった。


「ぐッ・・・」


すると、助けに来た者も力なく地面に吸い込まれていった。

その瞬間、オレンジ色のものがその景色から消えてしまった。


もう一人の仲間が、二人のもとへ行き体を2~3度ゆり動かすと、顔を横に振った。


やがて、何人もの仲間が現れ、ケイとコウは取り囲まれてしまった。


ケイとコウは何が起こっているのかもわからないまま、山の岩場にある建物へ連れていかれた。


連れていかれた部屋には、緑色に包まれた何人もの人間がいた。


ケイとコウは、部屋の中心に座らされた。


両側に座る人間は、皆、顔を仮面でおおわれており、体格はそれほどガッシリしていないが筋肉質のようだ。


やがて、一人の人物が現れ正面の席に座った。


緑色に包まれたその体は他の皆と同じだったが、その顔には仮面は付けていなかった。


サラサラとしたその髪の下には、鋭いまなざしと通った鼻すじ、固く結ばれた口が見てとれた。

それらを納めた輪郭は細く、褐色の肌は遠くからでもそのきめ細かさがわかるようだった。


―女?―ケイ。



「ヒミ様、この者たちです。」

そばの一人が言った。


「お前たちか、民を殺したのは。」

ヒミ様とよばれた人物が言った。


「殺したって?」ケイ。


「民の体から、オレンジ色のモノが出てきたとか申したそうだな。そんなもの他の者は誰一人見ていないぞ。お前らは、何者だ!。」

大きく険しい瞳が、ケイとコウを睨んだ。


「俺らは、ケイとコウだ。ナウエから、ババ様っちゅう人を探しに来ただけだ。」

不機嫌そうに、目の前の人を睨みつけながらケイが言う。


「ババ様ぁ・・フン。それで、オレンジ色っていうのはなんだ。」

「オレンジ色はオレンジ色や。」


「誰も見ていないんだぞ、そんなウソを何のためにつく。」

「お前らに見えないだけだろ。」


「なんだとぉ。そんな言い逃れが通ると思ってるのか。真実を話せ。そっちのお前はどうなんだ。」

ヒミは、コウのほうへ瞳だけを動かして言った。


「えっ、そう言われても・・・」

コウは、他人から高飛車に話されるのが苦手だった。

自分が叱られているような感じがして、うまく話をするのが出来なくなるたちだった。


「嘘のなら嘘とはっきり申せ!」


コウは、うつむきながら言葉を振り絞った。


「嘘は言ってません・・オレンジ色の何かが・・体から出てきたんです・・・みんなが見てないって言っても・・・本当です・・・。 ・・・事実は、事実だから・・・僕は、自分に嘘はつきたくない・・・嘘は、嫌いだ!」


「コウ・・・」


ケイは、優しくコウを見た。

いつの間にかケイの中のいら立ちは消えていた。


「ふんッ、お前らに見えて、われらに見えないモノか・・・。」



「ココ殿が来られました!」


遠くから、大きな声が聞こえた。


―ココ?―コウ。


しばらくすると、部屋の入り口に足音が近づいてきた。


すると、ケイとコウの両側に居並んで座っていた者たちが、すっと立ち上がった。


足音が、ケイとコウの横を通り過ぎていく。



―小さい―ケイ。


その足音の主は、ヒミの傍らに立ちケイとコウを見つめていた。


背は150センチもないかもしれない。

緑色の服を着たその体は、見るからに華奢だった。

そして、他のものとの絶対的な違いは髪の毛だった。

腰まで届きそうな髪の毛を頭の後ろで括り、自慢するかのように風になびかせていた。


ココと呼ばれた人物が、ヒミの前で声を発した。


「『影』自体がこちらに向かってきている。」



周りにいた者たちがざわめきだした。


「『影』自体ということは、ワタが来るということか。」

「他の奴らなら何とかなるが・・・ワタ自体が相当強いのに、『影』が乗り移ってるとなると・・・」

「総力戦になるな。」


ケイとコウの眼前にいるヒミは、落ち着いて座ったまま周りを見渡していた。


ココと呼ばれた人物は、静かにケイとコウを見つめていた。


「ココ、ここに残っている者を集め谷の入り口を強化しろ。」ヒミ。

「おう。」


「こ奴ら二人も連れて行け、ナウエから来た者だそうだ。」

「ナウエから?・・・」



ケイとコウは、緑色の集団とともに谷の入り口を目指し林の中を歩いていた。

林の中には家が点在し、大きな広場には子供たちが走り回っている。

ケイとコウの周りの戦士たちは、みな無言のまま歩いている。


いつの間にか足元の影は身長以上に伸び、道を先導していた。

空に浮かぶ雲の輪郭も、茜色に輝きだし、いつものようにいびつな月が空を支配していた。


ケイとコウは、集団の中でトロトロと歩いていた。


「緊迫してると思うんだけど、みんなそう見えないね。」

コウが、なんとなく思ったことをケイに聞いた。


「あぁ、緊張感はあるんやろうけど、全然急いでへんもんな。・・・こんなトロトロ歩いとったら、ほんまに日暮れるで。」

「だよねぇ、ゆっくり歩くほうがしんどくなってきちゃうよ。」


やがて、あたりは薄暗くなり空に星が瞬きだした頃、集団は谷間にたどり着いた。

遠く先―谷の入り口だろうか―には、煌々と炎が灯っていた。


ケイとコウは、ココに連れられ他の戦士4~5人とともに一つの小屋に入った。


「明日まで休むぞ。よく寝ておけ。」

ココが、指示を出した。


―明日まで休む?―ケイ。


周りの戦士たちは、静かに体に着けていたものをはずしだした。


「おい、おい、明日までゆっくりしていてええんか?」

ケイが、ココに話しかけた。


「どういう意味だ。」


「夜に襲われたらどうすんねん。」

「襲っては来ん。」


「襲っては来ん? どういうこっちゃ。」

「奴らは、夜は行動せん。それだけだ。」


「夜は行動しない?・・・ふーん、まっ、それはよかったな。」

「お前らが、エアイのケイとコウか?」


「そうみたいやけど。エアイなんて何で知ってんねん。」

「ババ様が、話してた。・・・あまり信用するな、とな。」

「・・・」


―あのババぁ、気分悪い奴やな―ケイ。


「頼りにはしないが、もう休め。」

そう言うと、ココは部屋の隅へ行ってしまった。



「ケイちゃん、僕らも休もうか・・・!」


と言い、コウは横にろうと周りを見て戸惑ってしまった。


「ケイちゃん、・・・」

「どうしたんや。」


ケイは、コウの視線を追うように部屋の中を見回した。


「!」

「ど、どうしよう。」

「お、おう。」



ケイとコウを取り囲むように寝ている戦士たち。

武具を外し、仮面を外したその姿は明らかに皆女性だった。



二人の眠れない夜が明けた。


ケイとコウは、他の皆とともに狭い谷間にやって来た。


そこは、櫓が立ち大きな杭が地面に埋め込まれ、外部からの侵入を遮っていた。

櫓の向こうからは、すでに戦闘状態なのか雄たけびや駆け回る足音が聞こえてきた。


ココは、ケイとコウを櫓の上へ連れて行った。


「見るがいい、あれが『影』だ。」


そこには、緑の戦士と戦っている『モノ』の姿があった。


体つきは他の人間と同じであったが、首から上は明らかに異形を呈していた。

目は小さく、口は顎からまっすぐに前方へ突き出しており、その顔面は灰色の毛でおおわれていた。


明らかに、ネズミそのものであった。


「あれが『影』?」

コウは、一歩下がりながらつぶやいた。


「そうだ。正確には『影』の手下だがな。」


「『影』は、武器を持ってないんか。」

ケイが、冷静に聞いた。


「あぁ。奴らの武器は、あの牙と鋭い爪だけだ。けどな、ひとたび体を傷つけられたら終わりだ。」

「毒でもあるんか。」


「わからん。イッサツニサンとよばれている。」

「イッサツニサン?」


「一人が傷つけられたら、2~3人犠牲になるんだ。」

「?」


―呪いでもかけられるのかな―コウ。


「ケイちゃん、あんまり近づかないほうがいいよね。」

「う、うん。」


櫓のすぐそばでも戦いの音がした。


近くの木々の間から、戦士が飛び出してきた。

戦士の剣が『影』を切りつけるが、影は容赦なく戦士に襲い掛かっていた。

ケイとコウには、その光景が異様に映っていた。


「なんやろな?なんか、いまいち、緊迫感がないよな。」

「うん。なんか遊んでるみたい。」


二人には、戦っている姿がとてもゆっくりにみえていた。


その時、その戦士の背後から別の『影』が現れた。


「あぶない!」

ケイは、そう言うと櫓から飛び降り戦士のそばへ駆けて行った。


一瞬の出来事だった。

ケイは戦士の後ろへ回り込むと、持っていた剣で一撃のもと『影』を切り落とした。


「すごいや。」

コウは、ケイの強さに感動した。


ケイは、もう一体の『影』を戦士とともに追い詰め、最期は戦士の一突きで『影』を倒した。


「ケイちゃーん、すごいよ。」

コウが手を振ると、ケイも笑顔で応えた。


「おう。こんな・・!」


ケイの顔が、突然歪んだ。



ケイのそのふくらはぎに、『影』の爪が食い込んでいた。


―to be continued




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