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7 出発


それから2週間、ケイとコウは、センやチハ、チナをはじめ村人からいろいろな話を聞いた。


それによると―


センたちは、『ナウエの民』とよばれ、あの大木を中心に森の中を生活地にしており、ナウエの周辺には『ハタマの民』がいるそうだ。

この星には10の陸地があり、センたちが住む陸地は『ニポキト』と言うらしい。


他の9つの陸地は、大昔からおよそ100年ごとに1つづつ『影』に襲われ、そこに住む民は滅亡していったそうだ。


『ニポキト』には7つの地方があり、それぞれが友好的につながっていた。

―『ニポキト』には、統治する人や国というものが存在していなかったらしい。―


それが、10年ほど前に『ウキウ』という地方に『ワタ』という者が現れた。

『ワタ』は、強靭な体を持ち『ウキウ』の民を従えるようになった。

そして、『ワタ』は、その武力により支配を他の地域にまで伸ばすようになった。


そのようなときだった、『影』が『ニポキト』に現れたのは。


誰もが、『ワタ』がその力により『影』を倒してくれるものと期待していた。


だが、『ワタ』は狡猾な考えにより『マシロ』と『ヨウタ』の2つの地方を無条件で『影』に与えた。


『ワタ』は、『影』を手なずけようとしたのだ。


しかし、『影』にはそのようなものは通用しなかった。


いつしか『ワタ』は『影』に飲み込まれてしまった。

いや、『ワタ』自身が『影』に乗っ取られてしまったのだ。


今、『影』は『ワタ』として実体として存在している。


その脅威が、今ナウエに襲い掛かろうとしている。―



「で、俺たちどうすりゃいいんだ?」


薪が積まれた小屋の傍らの椅子に、ケイとコウは座っていた。


「どうしよう。」

コウが、力なく応える。

コウの視線は、ボンヤリと空の月を見ていた。


「なに頼りないこと言ってんの。」


不意に、チナが現れた。

「あんた達、エアイ様なんでしょ。頼りにしてるよ、エ・ア・イ・さ・ま。」


―バカにしやがって―ケイ。


「じゃぁ、『ワタ』がどういうやつか調べに行くか?」

「ケイちゃん、それは怖いんちゃう。」

もう無茶はしてくれんな、とコウは思った。


「今、ハタマの民が『影』の手先と戦っています。ハタマの民の話を聞いたらいかがですか。」


いつの間にか、チハがコウの後ろに立っていた。


―えー、戦ってるところへいくの―コウ


「そうやな、そうしよか。」

ケイは、簡単に決めてしまった。


「ここの民も、ハタマの民と戦ってるんじゃないの?」

コウは、聞いた。


「なんで?なんでそんなことしなきゃなんないの?」

チナは、不思議そうに聞いてきた。


「だって、ハタマが負けたらここもやられちゃうじゃない。言ってみれば、ハタマはここの為に戦ってるようなもんでしょ。」

「変なこと言うわね、ハタマの民は私たちを守るために戦ってるのよ。それでいいじゃない。」


―?何考えてんだ―コウ。


「なんで、そうまでしてハタマの民はここを守るんや。」

ケイも、気分が悪くなったらしくそっぽを向きながら言った。


「そりゃぁ、あんたたちも一緒でしょ。食料がなくなったらいけないからよ。」


「食料?ここにしかない食べ物があるんか?」


「あるわよ。ハタマはそれしか食べないの。」


「ふーん、それはなんや。」





「ナウエの民よ。」


チナは、表情も変えずに言った。



「!?、ナウエの民?ナウエのみんなが食料?えっ?」

コウは、チナの言っていることがわからなかった。


「それは、ナウエの民はハタマの民の食料で、自分らもハタマの民に食べられるちゅうんか?」

ケイも、驚きを隠せずにいた。


「そうです。」

チハが、顔色を変えずに応えた。




その時、何かを叫んでいる声が聞こえてきた。


「セン様ー、セン様ー。」


一人の村人が、大声を出しながら通りを横切っている。

何か大ごとが起きたようだが、それほど急いでいるようにも見えなかった。


「なんやろ?」

ケイたちも、センの家のほうへ向かった。


「セン様、大変です。ババ様がハタマへ向かわれました。どういたしましょう。」


―ババ様って、あのばばぁか―ケイ。


「慌てることもなかろう。」

センは、落ち着いた表情で言った。



「おい、ハタマへ行ったら食べられちゃうんじゃないんか?」

ケイが、小声でチハに聞いた。


「大丈夫、大丈夫。」

手を振りながら、チナが割り込んだ。


「ハタマの民は、ナウエの民を殺して食べたりしないの。死んだ民を食べるのよ。だいたい、ババ様はナウエの民じゃないし・・・」


「えッ、ナウエの人じゃないの?」

コウは、思わず大きな声を出した。



・・・と、村人が振り返りケイたちを見た。


「ケイとコウじゃないか。いいところにいた、ババ様を呼び戻しに行ってくれ。」


―俺たちは、何なんやろ?エアイ様?・・・あんまり敬われないもんやな・・・―ケイ。


「そうじゃな、お前たち、ハタマへ行くがよい。ハタマで、『影』がどのようなものか確かめてくるがよかろう。」

無表情で、センが言い放った。


―何、勝手なこと言ってんねん―ケイ。


「そうですわ。ケイ様たちが『影』の事を調べいただけたら、私たちにも出来ることがあると思います。」

チハが、目を輝かせて言った。


―そんなこと、言わないでよーチハさん―コウ。


「そうだよね、エアイ様がいて良かったー。」

憎まれ口のチナが、笑顔で言った。


―いったい、俺らは何のためにここにいるんや。こんなとこ、来えーへんかったらよかった―ケイ。



ケイとコウは、渋々ハタマへ行くことを了解した。


「ケイちゃん、えらいことになったね。」

「あぁ。でも、しゃーないな。さっき、行くって話たもんな。行かないっちゅうのもカッコ悪いしな。」


「でも、戦いって・・・危ないよね。」

「・・・何とかなるやろ。」


「大丈夫よ、二人とも御印を持ってるんだから。」

チナが、気軽に言う。


「御印ねぇ・・・」


―こんな武器、使ったことないのに。人なんか殴ったことないのに。切られたら、どうしよう・・・―コウ。


あたりは、木々の影が長くなってきていた。

ケイとコウは、明日出発することにした。



その夜、ケイは眠れずにいた。


―ナウエの民は、死んだらハタマの民の食料になる・・・か。そんなことあってええんか?なんでそんなことが許されるねん。


―自分らは、彼らの食料やから一緒に戦わない・・・か。みんな協力したらええんとちゃうんか。


―センも、「ナウエの民」の為っちゅうて、躊躇なくチハとチナを殺そうとしたし・・・なんで自分の子を殺せるねん。


―「ナウエの民」のため、「ナウエの民」のためってゆうて、「ナウエの民」さえよければええんか・・・個人はどうでもええっちゅう事なんか。


―違うやろ。自分のそばにいる人間を大事にせんかってどうすんねん。自分のために戦ってくれてるやつを助けんでどうすんねん。「ナウエの民」のためなんか関係なく、守るものは守る、助けるものは助ける・・・やろ。


―そやねん。何かの為に何かをするとかとちゃうねん。・・・うーん、なんやこの感情。分からん、わからんけど、絶対そうやねん。


―「ナウエの民」なんかどうでもええ。俺は絶対見捨てへん。チハもチナも、ほかの連中もハタマも・・・絶対に、絶対。そうせな・・・あー、なんなんだよこの感情・・・そうせな、自分が自分でなくなりそうや。理想論なんかやない、いや、理想論かもしれんけど、その考え、無くしたらあかんやろ。



ケイの隣では、コウが静かな寝息を立てている。

窓からは、月の光が木々をシルエットに足元へ射し込んでいる。

虫の音だろうか、懐かしい音が風にそよぐ草の音とともに夜の世界を優しく彩っている。


ケイは、感情を言葉にできないでいる自分にいらだっていた。




鳥の鳴き声が、窓の光とともに入ってくる。

朝が、いつものように平和に始まろうとしていた。


ケイとコウは、森の外れに立ち遠く離れた山のふもとを見ていた。

そこは、V字になった山の切れ目だった。

前の世界で二人が目印にした、あの場所だった。


そこが、このナウエの地とほかの地域とを繋ぐ唯一の場所だそうだ。

そこに、ハタマの民が住んでいるという。


「相当、距離があんな。」

「うん、結構あるね。歩けるかなぁ。」


「はぁ、頼りないこと言わないでよー。」

見送りに来た、チナがため息をつきながら言った。


「ケイ様たちなら、大丈夫ですよ。半日ぐらいで着くと思います。」

チハが、いつものように前向きな言葉をかけてきた。


「まあ、行くっきゃないか。コウ、行こうぜ。」

ケイとコウは、チハ達に見送られながら歩き出した。



「まずは、あそこに見える3本の木の所まで行こうぜ。」

「うん。」


前の世界で見た景色と全く同じようだった。

だだっ広いサバンナが、広がっている。


「ナウエもあと何年かしたら、僕たちがここへ来る前に見た世界みたいになっちゃうのかな。」コウ。

「そうなんやろな、あれが未来なんやろうから。」ケイ。


「僕らで、未来を変えられるのかなぁ。」

「さあなぁ。」


「きれいな空だね。雲一つないよ。」

「あぁ、でっかい月があるだけやな。」


「うん。そうだ、月の事チハさんらに聞くの忘れてた。」

「何を?」


「なんで、ずっとあそこにあるのかなって・・・」


「ああ、その事か・えッ!」

急に、ケイが立ち止まった。


「どうしたの、ケイちゃん?」



ケイは、少し後ろを振り返り指さした。

そこには、3本の木が茂っていた。


「なんでだ、なんでもうこんなところまで来てるんだ。うそだろー、まだ20~30分も歩いてないやろ。」


「ほんとだ・・・ほら、ナウエの森もあんなに遠くになってるよ。話に夢中になってたからかな。」


「そんなことないやろ。」

「でも、この調子で行ったら、すぐにあの山まで行けるね。」

「そうやけど・・・」


ケイは、納得がいかない顔で歩き出した。


それは、不思議な体験だった。

ハタマのいる山までは、どう見ても何キロもの距離があるように見えていたが、10分ほどで山の切れ目に広がる林のそばまで来ていた。


「めっちゃはよ着いてもたな。でも、なんか気色悪いなぁ。なんでこんなに早く歩けんねん。」


「ほんとだよね、足が伸びたんかなぁ。」


「はは、それやったらええな。」


「早く着きすぎちゃったけど、お弁当でもたべよっか。」

「お前、もう腹減ったんか。しゃあないなぁ。」


ケイとコウは、チハたちが用意してくれた弁当を広げだした。


・・・と、その時・・・


「ぐはッ・・・」


林のほうから、少し高い声が聞こえた。


―to be continued


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