17 see you again
ケイは、灼熱の溶岩の中に閉じ込められていた。
身を動かすこともかなわず、全身が焼けただれていくように感じていた。
ケイの口から漏れ出る嗚咽さえも、炎に焼けつくされた。
コウは、声も発せずにいた。
荒れ狂う感情の渦の奥底深くに、言葉という存在は飲み込まれていた。
どれほどの時間がたったのだろう、カプセルの中の霧はなくなりハルカが身に着けていたものだけが静かに残されていた。
「ハルカ・・・」
ケイは、透明な障害をさすりながら言葉を発した。
「なんでこんなことに・・・なんでや!・・一人ぼっちで・・・寂しかったやろう・・なんでや・・・・俺か、俺が変なもん発明したから・・・か。・・俺のせいで・・・」
とりとめのない言葉を口から流し出していた。
「ケイちゃん・・・ケイちゃんのせいじゃないよ。・・・・ケイちゃんは、ハルカ・・ちゃんを守ったんだよ。・・・戦争から・・・」
「でも、俺が・・・・・・そうや、戦争さえ・・・戦争さえ起きなかったら・」
ケイが、振り返りコウを睨んだ。
「戦争を止めるんや。そうすれば、ええんや。」
「うん・・・そうだね。」
「そうや、そうすれば、ハルカもこんなとこに来なくてよかったし・・・文明のないこんな世界にもならんかったやろうし・・・」
「うん、そうだね。みんな温かい布団で寝れるし、槍で人を突き刺したりしないで済むし・・・」
「あぁ、夜も明るいビルが沢山立ち並んでな。民たちも今ほど貧しい生活をしなくてもええしな。」
「うん、そうだね。みんな幸せになるね。」
「あぁ。・・・幸せ・・・幸せ・か。」
ケイの口調が小さくゆっくりとなった。
「幸せ・・か。文明さえあれば、幸せなんか?」
「・・・えっ?」
「貧しくなかったら、幸せなんか?・・・ハルカは・・・この時代が幸せやったって言ってた。・・・・楽なことが幸せとはちゃうねん・・豊かなことが幸せとはちゃうねん。」
ケイは、力強く話をつづけた。
「豊かさ、平和が幸せ。俺は、そう思っていたけど。2度目の世界でチハやチナと再会した時、俺が『影』の手下にやられてコウが手当てをしてくれた時・・・あれが幸せなんやろな。確かにこの世界は原始時代と一緒や、でもこの世界に生きている奴らにとっては・・違うんやろな・・大事な世界なんちゃうか。」
「うん。」
「この世界を、ハルカがいたこの世界を守らなあかん。そうや、俺はこの世界を守ってやるぞ。」
「うん。過去を変えたら、みんないなくなっちゃうかもしんないしね。」
「あぁ、そうやな。」
ケイはそう言うと、カプセルの端のほうに手をやりカプセルを開けた。
中に残された衣服を丁寧にたたむと、静かに横たわったままの杖を手に掴んだ。
そして、カプセルを壁に戻した。
「さあ、いくぞ。」
―キーン・コーン・・―
地面を力強く突き刺す杖の音に導かれ、ケイとコウは大木のトンネルを出口へと向かった。
まぶしい光のカーテンの向こうに3つの姿があった。
チハとチナ、そしてセンであった。
悲しみをたたえた二人の瞳とセンの厳しい視線があった。
「お前ら知っていたんか。」
ケイは、横を向いたままぶっきらぼうにつぶやいた。
「・・・すまん。」
センの声の横で、チハとチナが下を向いたままじっとしていた。
大きな空を見上げるケイの肩が、一つ大きく動いた。
「もうええわ・・・俺らはもう決めたんや、この世界を残すために戦っちゃるねん。」
確固たる意志を含んだケイの瞳が3人に向けられた。
「さすがケイ、それでこそエアイ様だね。」
チナが、笑顔を取り戻した。
「ふん、俺らはエアイなんかやないぞ。あんな悪魔みたいなんと一緒にすんな。」
「悪魔?どういうことなんですか。」
チハが、眉を開き困った表情になった。
「月に人工知能があるのは知ってるよな。『影』を作った大本や。俺らの世界じゃな人工知能の事を『AI(エーアイ』って言うねん。『AI』は人間を超えるって言われてて、万能と思われていたんや。どうせ、『AI』ちゅう言葉を覚えとった人間が、神様の事をエアイって言ったんやろ。」
―そうか・・・確かにそうかもしんない・・ケイちゃん冴えてるな―
コウは、尊敬のまなざしでケイを見ていた。
「だから、俺らの事をエアイ様なんてクソが出るような名前で呼ぶなよな。」
―もうちょっとマシな言葉は知らないのかな・・・僕まで恥ずかしくなっちゃうよ―
コウのまなざしは軽蔑へと変わっていた。
「エアイとは、人工知能の事か・・・だが、人工知能とやらが悪とは限らんと思うがな。」
センが、言葉をつづけた。
「お前たちが『ワタ』に倒されたとの知らせを聞いた時・・・その時、ババ様と一緒にいたのだが・・月から一筋の光が地上に降りてきたのだが、その後だお前たちがまた我らの前に現れたのは・・・それは、月からの意志ではなかったのかと思っておる。」
ケイとコウが初めて聞いた情報だった。
ケイの表情が、難しいテストを解く子供のようになっていた。
「それよりも、これからは私たち姉妹もお手伝いいたしますわ。」
チハ目が輝いていた。
―・・・姉妹・・・―コウ。
「そうよ、私と姉さんはねぇ、昔とは違うのよ。あんたたちを守ってあげられるからね。」
「何言うてんねん。そんなんいらんわ。」
「あんたねぇ、私たちの力を見くびったら後悔するわよ。」
―・・・姉妹・・兄弟・・・・・・・・・・・!―
「そうや!きっとそうや!」
突然コウが大きく叫んだ。
叫び声とともに、コウは大木のトンネルの中へと入っていった。
残された4人も訳も分からずに後を追っていた。
コウは、大木の中の壁に手を這わした。
そう、ババ様―ハルカ―がしたように。
大木の口が開くと転げ落ちるように地中へと向かって行った。
コウは、幾何学模様の部屋に足をつくとゆっくりと周りを見回した。
そこは、先程までケイやハルカといた空間のままだった。
タッ、タッ、タッ、タ
遅れてきた4人の足音がコウの後ろで消えた。
「コウ、どうしたねん。」
「・・・」
コウは、無言のまま一方の壁へと向かって行った。
そして、さっきハルカが触れた幾何学模様へと手を這わした。
「コウ!何すんねん、やめろ!」
ケイは、怒鳴りながらコウの肩をつかんだ。
―きいぃ―
壁の一部が手前に開きだした。
「なにすんねん!」
ケイが、コウの体を引き寄せて睨みつけていた。
「ケイちゃん・・・この部屋の模様・・変だよね・・・」
「・・?・・あぁ、別にええやろ。趣味は人ぞれぞれや。」
「違うよ、この部屋の模様・・すべて左右対称になってるよね。」
「あぁ、それがどうしたんや。」
「僕が押したこの模様・・・そして反対の壁にも・・同じ模様・・・」
コウの視線が反対の壁の一点を見ていた。
「!」
ケイが、突然目を見開きコウの視線の先の壁へと近づいていった。
ケイの左手が、暗闇の中の物を触るようにゆっくりと震えながら1つの幾何学模様へと伸びていった。
―きいぃ―
壁の一部がゆっくりと手前へと倒れてきた。
そこには、ハルカが眠りについたものと同じような透明なカプセルがあった。
ケイは、そのカプセルに静かに手を置いた。
「ふっ、そりゃそうだよな・・・でも、ハルカにも姉妹がいたんやろな。・・・そいつも、もうおらん・・」
「うん、いなかったね・・・でも・・ここで亡くなったんじゃないよ・・・だから、どこかで生き抜いたのかも・・・」
コウは、はっきりとした口調で言い切った。
「しょうもない慰めなんかいらん。」
ケイは、透明な空間だけのカプセルを見続けながら言った。
「そんなんじゃないよ、ここでは亡くなっていないじゃない。だって、空っぽなんだよこのカプセル・・・ハルカちゃんのは・・・着ていたものが・・・」
そう言いながら、ハルカが入っていたカプセルをコウが寂しそうに覗いた。
ケイもハルカのカプセルを控えめに見た。
「ほんまや!・・と言うことは・・ここにいたヤツはどこかで生きたっていうことか・・そうか・・・そうか・・・・そうや・・きっと、そうや!」
ケイの手のひらが、空っぽのカプセルを力強くたたいた。
「ハルカちゃんが言ってたよね―この装置は、目覚めるべき時に起こしてくれる―って。きっとこの中で眠っていた子は、ハルカちゃんとは違う『時』に目が覚めたんじゃないかな。」
コウは静かに、そして力強く話し続けた。
「だから、きっと、ケイちゃんの子孫がどこかでいるはずだよ。」
話し終えたコウは、自分の言葉に驚きを感じた。
コウは、自分が話下手だから・・自分に自信が持てないから、学校へも行けないと思っていた。
今、何かがコウの脳内のシナプスを走った。
翌朝、ケイとコウ、そしてシン家の3人は小川のそばに来ていた。
近くには、バラの花が静かに風に揺れていた。
そこは、以前センに記憶を消され元の世界へと戻ったところだった。
ケイとコウは、新たな旅へ―『影』が暴れるであろう時代へ―と出かけようとしていた。
「ケイちゃん、次はどんなとこに行くのかな?」
コウは、ちょっとしたワクワク感に浸っていた。
「どこやろな、いっぺん元の世界に戻ったりしてな。」
ケイの瞳は希望に輝いていた。
「私たちも、ついて行ってあげるよ。」
後ろから、チナの声が楽しそうに聞こえてきた。
「そうですわ、力になります。」
チハも笑顔で二人を見つめていた。
「アホか。お前らが来ても足手まといや。」
「チッ、チッ、チッ、何もわかってないわね、あんた達。私と姉さんはすごい力を持ってるのよ。」
チナが、首を少し振りながら鼻を空に向けていった。
「知るかぁ、そんなもん。」
ケイは、すごい力が何なのか聞こうともせず話し続けた。
「俺とコウだけで十分なんや。お前らが来たら、いらん気を遣うやろ。」
「そうですけど、私たち、きっと力になれると思います。」
チハが、さみしそうな表情で小さくつぶやいた。
コウも、チハやチナと離れるのが少し寂しかった。
―でも、連れて行けないよ・・・―
「チハさん、チナちゃん・・嬉しいんだけど、やっぱり連れて行けないよ。もしかしたら、この世界にもう戻れなくなるかもしれないんだよ。センさんは、二人に会えなくなっちゃうかもしれないんだよ。」
そう、コウ自身もこれからどこへ行くのかもわからない。
チハやチナは、今は見た目はコウよりも年上に見えるが、コウにとっては以前の子供の二人の面影が残っている。
兄弟のいないコウにとっては、二人は可愛い妹のようなものだった。
「そうやぞ、俺らは俺らだけで行きたいねん。お前らは、不要やねん。」
不愛想にケイは、きつい言葉を口に出した。
チハとチナは、少しうつむき沈黙を発することしか出来なかった。
朝の陽光が、5人の影を濃く浮き出していた。
「じゃぁ、行こかコウ。」
「・・・うん。」
ケイとコウは、チハとチナを見、そしてセンに顔を向けた。
センは、無言で静かな視線を向けていた。
ケイは、コウの肩を組みバラの木へと歩き始めた。
そして、バラの木の傍らに近づくと二人の姿を木々の景色が溶かし込んでいった。
「いやー。」
突然、チナがチハの手を握りケイに駆け寄り、ケイの袖をつかんだ。
その瞬間、景色が全てを飲み込んだ。
二人の少女を残して。
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