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3歩あるけば 異世界だった  作者: 倉崎 町羽


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15/17

15 常識


外は暗くなり、空は鋼色の雲で覆われていた。

肌寒い風が、コンビニのビニール袋を転がしながら車道の闇へ連れて去った。


コウは、ケイと一緒にパソコンを覗き込んでいた。

パソコンの画面には、無数のアイコンが数字を付されて並んでいた。

ケイが(1)と付されたのファイルを開けると、箇条書きの文字列が映し出されていた。


―2082年9月1日火曜日 起動 H格納 

動作異常なし メモリ起動

『KAGE』連動 書き込み開始

・・・・・・・・・・・・・・



「なッ、アニメの始まりみたいやろ。」

ケイは、適当なアイコンをクリックしていった。


2082年12月2日水曜日 F国機能停止 ゼース67%覆う

1億人を切る

・・・・・・・・・・・・・・


2083年2月25日木曜日 B国機能停止 ゼース100%覆う

・・・・・・・・・・・・・



「なに、これ?」

「やろぉ、何のこっちゃわからんよな。」


「うん。」

「もっと先、見てみようや。」


163年 夏 アリカにゼースの子現る。

・・・・・・・・


「なんでや?163年になっとる。2が漏れたんか?」


371年 春 オラリで地震発生 地中の『ONB』作動 7つの村消滅


「もう、月日の表示もないね。」

「おう、手抜きか?最期のほう見てみようや。」


そう言うと、ケイはパソコン画面を何回もスクロールして一番最後のアイコンをクリックした。


1012年 春 SENに記憶を消されKEIとKOU時を遡る。


「KEIとKOU?僕たちや。」


「おッ、おう。俺たちと同じ名前や。前のやつ見ようぜ。」

ケイの手は、少し震えながらアイコンを遡っていった。


1012年 春 KEIとKOUにより『影』死ぬ。・・・・・・・

1012年 春 KEIとKOU AIが再生する。・・・・・

1012年 春 KOU 死ぬ。・・・


「えー!僕、死んでるよッ。」

コウは、悲しそうな目でケイを見た。


「ほんまや。」

「どうしよう・・・」


「何言うてんねん、おまえここにおるやんか。」

「そうだけど・・・」


自分と同じ名前を見た二人は、ある種の怖さを感じながらアイコンを遡っていった。


マウスを持つケイの右手のそばには、細かな刺繍の入った小さな布袋が静かに時の流れの中横たわっていた。



窓ガラス越しに、夜風に揺れる街路樹のシルエットが写っていた。


壁に掛けられた時計の針は、9時28分を指している。

ケイは、家に電話しコウの家に泊まることにした。


―コン・コン―


「なにー」

コウが、けだるく声を出した。


ドアが開いてコウの父親が入ってきた。


「おう、ケイちゃんこんばんわ。」

「ちぃーッス。」


「なんや、難しそうな・・相談事か?」

「べつに・・なんでもいいやろ。」

コウは、いつも父親にはそっけなかった。


父親が嫌いということではなく、なんでそんな態度をとってしまうのかコウもわからなかった。


「そっか、ま、顔、見に来ただけや。」

そう言うと、父親は二人が座っているテーブルの上を覗き込んだ。


そこには、乱雑に文字が書き込まれたA4の紙が3枚あった。


「何覗いてんねん。」

コウが気分悪そうにつぶやいた。


「友達の名前か?」

「別に・・・」


「ナウエ・・・チハ・・・ヒミ・・変わった名前やな。」

「どうでもええやろ。」


「シン家・・ほぉーシンケか、神の家って書くんか?」

「!神の家・・?カミノイエでシン家・・」ケイ。


「ん?違うんか?」

「い・いや。おっちゃん、そんな名前知ってんの?」


「あぁ、中学の同級生におったな。」


「どうしたん、ケイちゃん。」


「いや、ちょっとな・・・」


ケイの頭の中で何かが引っ掛かった。

大脳の奥底のほうで眠っていた一つの細胞が、コウの父親が口にした言葉に反応していた。


「ナウエって、今に江戸の江か・・・今江でナウエって読ますんかな。きらきらネームか?」

父親は、かまわず好きなことをつぶやいていた。


「ナウエって、地名やで。ハタマもウキウも・・」コウ。

「そうなんか、地名は3文字か・・人の名前は2文字なんか・・おっ、ケイちゃんとコウの名前もあるな。」


「いやっ、これは俺らに関係ないと思うんやけど・・・」

ケイは、何かが引っ掛かったまま応えた。


いつの間にか、父親も胡坐をかいてテーブルに肘をのせていた。


部屋の隅に置かれたテレビでは、NHKのアナウンサーが新型ウイルスの情報を流していた。


<ウイルスが広まったクルーズ船に乗っていた人が、今朝亡くなりました。乗船者では4人目の犠牲者となりました。>



「自分らで考えた名前か?」

父親は、何かを感じたらしく二人に聞いた。


「いや、違うけど・・・」コウ。


「ふーん、ハタマって畑の前とちゃうんか。そうなると、ナウエは稲植とか・・・」

「えっ!」

「えっ!」

2人は同時に声を上げた。


「畑の前って、そこの公園の?・・・稲植って・・・どこ?」コウ。

「はぁー、お前、今日行ってたんやろ・・・稲植神社。」


「えッ、そんな名前?・・・」コウ。

「そうやで・・・ほんまに知らんかったんか?」

「う・うん。ケイちゃんも・・やんな」

「俺は、井上と思っとった。」


ケイの脳を新たな刺激が走っていた。


「おっちゃん、他に何か思いつくことあれへん?」

ケイの目が大きく見開き、コウの父親を見つめていた。


「そうやなぁ・・・」


窓の外は風もなく、誰かがジョギングをしているのか足音が通り過ぎる音だけが部屋の中に染み込んできた。



コウの父親は、ふと傍らにある細かな刺繍の入った小さな布袋が目に入った。


「かわいい袋やな。」

父親は、そう言いながら布袋を手に持った。


「いったい、何が入ってんや。」

「このUSBやねん。」

ケイは、パソコンに差し込んであるUSBを指しながら応えた。


「ふーん、でもまだ何か入ってるみたいやけど。」

「あぁ、紐が入っとった。」


「何の紐?」


「なんのって・・なんのやろ。」

ケイはそう言うと、コウの父親から布袋を受け取り中の紐を取り出した。


それは、ぐちゃぐちゃにまかれたビニール紐だった。


「荷造り紐か・・・何に使うんや。」

「さぁ。」


ケイは、紐をほどき伸ばしてみた。

「結構長いな。なんやろ。」


そう言って、ケイは紐の端を右手で持ちながら立ち上がった。


紐はケイの身長よりも長かった。


ケイは、紐の端が床につく高さまで伸ばした腕を上げていった。

長さは2mほどか、ケイの腕は45度の高さまで上がっていた。


「!」

ケイの体を何かが駆け抜けた。


―俺・・おんなじこと、やった事あるよな・・・確かに・・なんやった・・ ―


ケイが見つめる指先の向こうには、天井に貼られた女の子のイラストが微笑んでいた。


「おっ、コウ、死んどるやないか。」父親。

「それ、俺ちゃうで。」コウ。


「そんなん、わかっとるわ。」

テーブルでは、いつの間にかコウが父親と一緒にパソコンの画面を見ていた。


「もうちょっと、前のほう見てみよか。」

そう言うと、父親は何個か前のファイルを開いた。


1012年 春 KEIとKOU現る・・・


「KEIとKOU現る・・・現る・・・か。」

父親は急に無言になり、パソコンの画面を切り替えファイルをスクロールしていった。


「これが、1番最初のファイルか。」

そう言い、ファイルを開いた。


―2082年9月1日火曜日 起動 H格納 

動作異常なし メモリ起動

『KAGE』連動 書き込み開始

・・・・・・・・・・・・・・


ケイとコウが、最初に見た文字が並んでいた。


「ふーん。」父親。

「何か分かったの?」

コウが、父親の顔を覗き込み、聞いた。


「いや・・・こんなしょうもないもんよう作ったよな・・。」

「しょうもないもんって・・・。」コウ。


「普通、そう思うよな。でも・・・これが、ホンマやとしたらどう思う?」

「えッ。」

コウは、父親の顔をぼんやりと眺めた。


「・・でも、2082年なんて、相当未来やで。」

コウは、あきれるように言った。


「そやで、おっちゃん。なんでそれがホンマやの。」

ケイも、きいた。


でも、ケイの頭の中ではコウの父親の言葉を否定したくない何かがあった。



壁の時計は、11時30分になろうとしていた。


「素直に、本当の事やと思ったらええんちゃうか。」

コウの父親は、真顔で話し始めた。


「このファイル、みんな箇条書きみたいやろ。たんに事実だけ記録していると思えば読みやすいやないか。データとしてな・・・」


コウは、首を傾げポカンと父親を見やった。

「でも、未来の日にちやで。」コウ。

「そうやで、おっちゃん。」

ケイも、そう言うしかなかった。


それが、普通だから。


「お前ら、アホやな。信じたらそれで終わりやろ。」

父親は、訳の分からないことを言い出した。


「パパ、常識ないんか。」


―パパ?・・・緊張感ない言葉吐くなよ・・・―

ケイは、心の中で呆れた。



「常識?常識ってなんや?大昔は、地球は平らと思われていたんやで。今は、ちゃうやろ。」

「それは、そうやけど。」コウ。


「新大陸って、知ってるか?アメリカ大陸の事や。ヨーロッパの人は、最初そんなとこに陸地なんかないと思っとったんやで。でも、陸地があって、人も住んでいたんや。アメリカの原住民をインディアンって言うやろ。あれ、どういう意味か知ってるか?『インドの人』って意味やで。新しい陸地なんか信じられへんかったから、アメリカ大陸をインドと思っとったんや。昔の常識は、今の非常識や。」


「それとこれとは、違うと思うけど・・・」

コウは、何が何だか分らなくなってきた。


コウの父親の唇は、軽やかに動き続けていた。


「『宇宙膨張論』って、知ってるか?」


―雑学話が、また始まった―コウ。


「宇宙は、膨張し続けてるって言うやつやろ。」ケイ。

「そうや。じゃぁ、どこを膨張してるんや?」


「どこって・・そんなん知らんわ。」ケイ。

「おっちゃんもや。でもそれが、今の常識なんやで。おっちゃんの頭ん中じゃ、何かの中で膨らんでいるとしか理解できないけど、じゃあ、何の中で・・・そして、それはどこに存在するんや・・・わからん。理解できないことが、常識なんやで。」


コウの頭は、すでにカオスを通り越していた。

―いったい、パパは何を言いたいんやろ―


「宇宙人も、おって当然やろ。こんなに無数の星があるんやから。」


「パパは、UFOとか信じてんの?」

「当たり前やないか。信じてるというより、それが常識と思うで。地球人かて、地球が出きるまではおれへんかったやろ。星自体がなかったんやから。でも、今は存在してるんやで。・・・これも一緒や。」

そう言って、パソコンの文字を指さした。


「2083年、こんなことが起こるんやろ。1012年 春 KEIとKOU現る・・・『現る』や。『来た』とちゃうんや、現れたんやで。それまでいなかったヤツが現れたんや。1012年 春 SENに記憶を消されKEIとKOU時を遡る。『時を遡る』・・・そのまんまや。・・・・そして、ここに・・・お前らがいる・・・ちゃうか?」


「・・・」

「・・・」


ケイもコウも、言葉という存在を忘れていた。


時計の針が、新たな日にちに足を踏み入れようとしていた。


窓の外は、すべての生き物が存在を消している。

空にあるはずの月も、きっと消えてしまっていることだろう。


-to be continued





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