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3歩あるけば 異世界だった  作者: 倉崎 町羽


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14 別れ


ケイは、いぶかしそうな眼をしてババ様を見た。


「8才で・・何でそんなによう知ってんねん。」


ババ様は、優しい目で応えた。


「ワシは、寝たままずっとその時その時の出来事を記憶させられておったのじゃ。目覚めた時に、ワシが不安にならんようにかのぅ。」


ババ様の目は、優しくケイの瞳を眺めていた。


「そうか・・・よかったな。」

ケイの心は、何故かババ様を優しく受け入れ始めていた。


ババ様は、ケイから目をそらし杖の飾りを見つめていた。


「100年ごとに・・か。それは、もしかして・・・月にあるヤツが原因か。」

「それは、わからん・・・ただ、おじいさんが月にある人工知能に、あるプログラムを送ったことは確かじゃ・・・でも、おじいさんは、皆を苦しめるようなことは絶対せんよ。」

月を眺めるババ様の髪に、小さな蝶がとまっていた。


「また、100年後におんなじことが起こるんやな・・・」

「そうかも知れんのぅ。」


「最後に『影』の奴が言ってたやろ、「終わりの始まり」ってな。あれは、もっと強毒化するってことやろ。」

「わからんのぅ。じゃが、今までよりも大きな試練になるかもなぅ・・・相手は、人工知能じゃからのぅ。」

「人工知能・・か。今も動いてるってことは、自力で『KAGE』を作って動き続けてるんやろなぁ。」


月の光は、柔らかく家々や小道を映し出していた。


「ところで、おぬしの名はなんじゃ。」

ババ様が、ふと話をそらした。


「名前?・・知っとるやろ、ケイや。」


「いぃや、苗字じゃよ。」

「苗字・・・『クザ』やけど、それがどうした。」

「そうか・・いいや、この時代じゃ苗字なんてないからのぅ。聞いてみたかったんじゃ。」


「お前の名前は?」

「名前なんか忘れてしもたわ。目覚めてから口に出したこともないからのう。」


月明りのもと、ババ様はそっと目を閉じた。



「ババ様は・」


突然、路地のほうから落ち着いた女性の声が2人の耳に届いた。


「ババ様は、昔『ハルカ』と呼ばれておりました。」


その声は、センのものだった。

センのそばには、チハやチナ、ヒミやココ、そしてコウも静かに立っていた。


「大ババさまが、いにしえの語り人と言っていたのは、そういうことだったんですね。」


「ひゃッ、ひゃッ、ひゃッ、そうじゃ『ハルカ』・・そんな名じゃったなぁ。」


「ハルカ・か。」

ケイは、妙に共感を感じていた。


「ババ様、『影』の元凶である月にあるものを壊す術はご存じですか。」

チハが、不安を浮かべた表情で聞いた。


「いいや、わからんよ・・・月に行くことも出来んしのぅ。」


「!・・・」

チハの後ろで、センが月を静かに眺めていた。


「少しはケイも休んだほうがよいだろう。皆、話はまた明日にしよう。」

そう言うと、センは皆を促し家へ向かった。



陽が上がり、新しい朝がナウエの里を包み込んでいた。


センの意見により、ケイとコウは元の世界へいったん戻ることとなった。


センとチハとチナ、ヒミとココ、ババ様とケイとコウ、一同は一時の別れの食事をし、夕方には出発するために村はずれの川のそばにあるバラの木の所へ来ていた。


「ココでええんか。ここに来た時の場所と違うぞ」

ケイが、いぶかしげに聞いた。


「心配はいらん。」

センが、はっきりと応えた。


「そうか。まぁ、前の世界に戻ったらこれがあるし大丈夫やろ。」

と言って、ケイはポケットからぐちゃぐちゃになった荷造り紐を出した。


「なんじゃな、それは。」

ふと、興味を持ったババ様がケイに近づきながら聞いた。


「ん、これか、これは道しるべになる紐や。」


「ちょっと見せてくれんかぇ。」

ケイは、ぐちゃぐちゃに丸まったままの紐をババ様の手にのせてやった。

ババ様は、紐を伸ばし空の光にかざしながらじっと紐を見つめていた。


「懐かしいのぅ・・・」

「そうか・・今の世界にはないからな・・・。」

ケイは、優しい目で呟いていた。


「いいもん、見せてもろうたわぃ。」


そう言うと、ババ様は杖についていた飾りを取り外した。

飾りのように見えたものは、細かな刺繍の入った小さな布袋だった。

そしてその布袋に荷造り紐を入れた。


「ここに入れておけば無くさんじゃろぅ、ほれ。」

そう言って、ケイの左手をとりその手のひらに布袋をのせた。


ケイがそっと布袋をつかむと、ババ様の手がケイの手を包むように覆った。


ケイは、戸惑っていた。

年老いているとはいえ、女性にこのように触れられるのが初めてだった。


「おッ、おう。・・・世話になったな・・・コウ、行くか。」


「うん。」

語彙力の少ないコウは、どんな言葉を口に出したらいいのかわからなかった。


ただ、なぜか悲しいものがこみ上げてきていた。


「何しんみりしてんのよ、コウ。お兄ちゃんになりなさいよ。」

チナが、ちょっと睨むような表情で声をかけた。


「そうですわ、私たちはいつまでも待っていますから。」

チハも、自分の寂しさを紛らわすように言った。


「う、うん。そうだね。」


「そうじゃ、二人には世話になったから、全ての民を代表してシン家から祝福をやろう。」

センが、急に声を発した。


「祝福?」ケイ。


「そうじゃ、二人が幸せでいられるようにな。シン家の秘宝じゃ。」


「秘宝?」

コウは、なぜかドキドキしながら聞いていた。


―秘宝・・・―

チハとチナは、その言葉を耳にするとその瞳に潤いが襲い掛かっていた。


センは、静かにケイとコウのそばに行き二人の肩に手を置いた。



センは、ふと何かを思い出したかのようにババ様のほうへ瞳を向けた。


「ババ様・・・よろしいですか。」

ババ様は、静かに瞼を閉じ頷いた。


すると、センは静かに口の中で何かを唱えだした。


しばらくし、センは二人の肩から手を下ろした。


「終わったぞ。」


「・・・?」コウ。

「終わったんか。なんも変わらんけど、なんかええ事が起きそうやな。」

ケイは、少し気を使って言った。


その光景を見ていたチハとチナは、夕日に照らされた頬を涙が伝っていた。


「さっきは僕にあんなこと言ったのに・・・チナちゃん、何泣いてんの。」コウ。


「・・う、うるさい・・・なに・なんでもない。」チナ。


「はは、辛気臭いのは嫌やな。コウ、行こか。」


「うん・・・じゃあね、みんな。」


「うむ。」

「・・・」

「さようなら。」

「早く行っちまえ!」

「元気でな。」

「おぬしらに会えてよかったぞ。」


「お前らも元気でな。」

ケイはそう言うと、コウの肩を組みバラの木のほうへ歩き出した。


ケイとコウが数歩あゆみを進めると、突然景色が2人を上塗りしてしまった。

そこには、真っ赤な花をつけたバラの木だけが佇んでいた。


「お母様、これでよかったんですね。」

チハが、涙に手のひらを置いたまま聞いた。


「何がよ!何がよかったのよ。」

チナは、感情を解き放っていた。


センは二人を一瞥すると、少し離れて杖を握りしめて立っているババ様のほうへ瞳を移した。


「ババ様、本当によろしかったのでしょうか。」

「あ奴らは、まだ子供じゃて。嫌な出来事は忘れるに限るじゃろぅ。」


「いえ・・・ババ様は、本当によろしかったんですか。」

「・・・なにがじゃ。」


「ババ様・・・いいえ、クザ ハルカ様。」

「!・・・気づいておったのかぇ。」


「!クザ・・って、ケイの・・名前と同じ・・・」

チナが、夕日を取り込んだ大きな瞳を向けた。


センは、優しくチナとチハを見て頷いた。


「ババ様・・・ケイは、ババ様のお父様ですか。」


「・・・いいや、おじいさんじゃ。あの優しいおじいさんじゃ。口は悪いが、おじいさんの瞳はこの世界でもワシを優しく受け入れてくれた・・・嬉しかったぁ・・・それでいいんじゃよ・・・おじいさんが、この世界の事を忘れてしまっても、ワシが一生覚えておる・・・それでいいんじゃ。チハ、チナよ。お前たちは、あの二人の事を忘れはせんじゃろ。それでいいんじゃ、お前たちの心の中であの二人はずっと生き続けるからのぅ・・・そして、子や孫に伝えていこうではないか・・我等は、種を残すために生きているのではない、誰かのために何かをなすために生きている、ということを・・・」



はるかな世界からたどり着いたであろう風が、優しく木々の小枝を揺らし時を動かしていた。

空では、バラの花からこぼれ出たのか深紅の模様が雲たちを包み込みはじめている。

ケイとコウが溶け込んだ景色の中で、真っ赤なバラの花が枝をゆりかごに眠りにつこうとしていた。




「やった。ゲットしたぞ。コウも取れたか?」


「うん。」

コウはスマホの画面を見ていた。

今まで取ったことのないアイテムだった。

画面には『時渡のチップ』と書かれている。

効果は

『?』とあった。


「任務完了。コウ、チキン買いに行くか。」

ケイが歩き出そうとしたとき、「痛っ。」ケイのズボンにバラの枝が絡みついていた。


「えっ、最悪こんなに枝が絡んでる。コウ、ちょっと後ろの枝取ってや。」

「オッケー。」

コウは、ケイに絡みついた枝を恐る恐るはがしていった。


「痛っ。」

「なんや、コウも棘刺さったんか。どんくさいなぁ。」

「うっさいな。取っちゃってんやろ。ほら、終わったで。」


太陽の透き通る光は、2月の冷たい空気を暖かく感じさせていた。


「あれッ?」

ケイが、ポケットに手を突っ込んだ瞬間何かに触れた。


「どうしたん?」


「なんや、これ。」

そう言うと、ケイはポケットから細かな刺繍の入った小さな布袋を取り出した。


「なに、それ・・・お守り?」

「わからん。」


「お守りやん。ケイちゃん、愛されてるー。」

「うるさいわ、間違って入っとったんやろ。」


ケイは、こっぱずかしくなり急いで布袋をポケットに押し込んだ。


そして、ケイとコウはコンビニでチキンを買い、頬張りながらそれぞれの家へ帰っていった。


その日の夕方、コウは居間でゲームをしていた。

意味もなくつけられているテレビからは、世界中に流行しているウイルスの話題だけが流れ出ていた。


ピーヒョロピー・・ピーヒョロピー

ゲームに夢中だったコウのスマホが、突然着信音を鳴らした。


「どうしたん、ケイちゃん。」

「おう、ちょっとな面白そうなことがあってな。」


「なに?」

「昼間の布袋あったやろ。」


「お守りの?」

「お守りとちゃう・・・あの中にな、ちっちゃなUSBと紐入ってたねん。それでな、父さんのUSBかもって思って中覗いてみたねん。」

「えー、怒られるよ。」


「ちゃうねん、中に入ってたのんて、なんかの日記みたいやったねん。それも、ありえない日付でな。」

「ふーん。でも、ほんまに怒られるよ。」

「ええから、ええから・・・これから一緒に見ぇへんか。今からお前んとこ行くよってな。」

そう言うと、スマホからケイの声が消えた。

 

―勝手に他人のUSB覗くの嫌やな・・・―

コウは、そう思いながらもケイに逆らえない自分が分っていた。


-to be continued



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