13 戦いのあと
「セン!」
「センさん!」
ケイとコウは、センのもとへと走った。
そのコウの視界の端を何かが走った。
オレンジ色のその物体は、ケイたちを追い越しセンのほうへ飛んでいった。
コウがとっさに槍でその物体を振り払ったが、物体は何事もなく空間を裂きながら飛んでいった。
センの傷口へ向け進んで行ったその物体は、吸い込まれるようにセンの体へ入っていった。
「センさん!」
「・・・むぅッ、うッ、うッ・」
力なくぐったりしていたセンが、ゆっくりと立ち上がり自身の右胸に刺さった剣を自ら抜き取った。
辺りは黄昏近く、心地よい風がセンの髪をなびかせていた。
「チハ、チナ、離れろ!」
ケイは、そう言うとチハとチナの手を取りその場から離れた。
『影』が乗り移ったセンは、ケイに向け剣を振り下ろした。
―ガキッ―
コウの槍が、その剣を受け止めていた。
コウは、センの剣を振り払うと迷うことなくセンの胸へ向け槍を突き付けた。
センは、かろうじて槍先を逃れコウへ剣先をあわせた。
何十合と二人は剣先を交えた。
ケイは、その光景を不思議に見ていた。
―なんでや、なんであんなに戦えるんや。センは、『影』やっちゅうても実体はセンやぞ。俺でも躊躇してるのに・・・―
空は、茜雲の向こうが薄い群青に変わってきていた。
その時、
センは、コウの槍先を力強く跳ね上げると突然走り出した。
ケイや他の者に目もくれず、森の暗がりを目指して走っていった。
「逃がすかー!」
コウが、大きく叫び追いかけていった。
ケイはその声に驚いた。
コウの怒りを込めた叫びを、初めて聞いたのだった。
その叫びに動かされ、ケイも走っていった。
―キーン―
センが、突然地面に転がった。
離れた場所には長い棒が地面を跳ねていた。
不意の出来事に驚いたセンが辺りを警戒している間に、コウはセンの足元に立っていた。
「もう逃げられへんぞ!」
ケイも追いつき、剣をセンの目先へ向けていた。
「ふ、ふ、我を殺すことができるのか。」
突然、『影』が言葉を発した。
恐ろしく低く野太い声が、空気を震わせた。
「なんだとー」
「この人間を切り刻みたいのなら切り刻め。ふ、ふ、それでも我は死なんぞ。どうする。」
「う・・」
―影を殺さな、終われない・・・でも・・でも―
ケイは時間が過ぎるのを待っていた。
時間が何とかしてくれるだろう、と。
「出来るさ。」
コウが、槍を構え言った。
「お前を消し去ってやる!」
コウは、そう言うと躊躇なく槍先でセンの胸を貫いた。
「えッ、コウ!」
ケイが驚いて叫んだ。
「ギュエッ・・」
センの口から小さな喘ぎ声が漏れた。
コウは、センの肩を押さえゆっくりと槍を引き抜いていった。
剣先がセンの体から抜き出ると、ジワジワとオレンジ色の物体が滲み出てきた。
薄暗くなり始めた景色の中で、まばゆく光るオレンジ色が広がり始めた。
その物体は、センの頭上空間に集まりだんだんと異様な形を現していった。
「ふっ、ふっ、我は死なん。無駄なことよ。」
空間の中を『影』の無気味な声が響いた。
コウは、じっとセンの体から出続ける物体を睨んでいた。
全ての物体が抜き出ると、センは力なく地面に崩れ落ちた。
「我は、再び帰ってくる。楽しみにしておれ!」
オレンジ色の物体が空間に広がり始めた。
「・・・?」
―コウは、何を見てるんや?―ケイ。
ケイがコウの視線を追っていくと、そこはオレンジ色の物体の下先だった。
よく見ると、そこには何かが赤く滲んでいた。
その色は、生地を染め上げるように上へ上へと侵食していった。
「うッ?ぐほッ・・貴様、何をした―。」
赤色は、迷うことなくその勢力を拡大していった。
やがて、オレンジ色は物体の最上部を残すのみとなった。
「ぐふッ・・・きさまー、我に勝ったと思うなよ・・・これが・・終わりの始ま・・・ぐうォー・・・」
赤色は『影』の全てを覆いつくすと、一瞬小さな光を放ち無数の粒子となって空間に消えていった。
「やったか?」
ケイが、不思議そうに空間を見上げてつぶやいた。
「うん。」
コウは、力なくつぶやくとセンのもとにかがんだ。
コウは、その手をセンの胸に当て、手当てを始めた。
―大丈夫、大丈夫、守られてる、守られてる・・・―
チハとチナも駆け寄ってきて静かにその光景を見守っていた。
やがて、コウは立ち上がるとヒミとココのもとへ行き同じように手当てをし、その夜は、皆、シン家でセンの回復を見守った。
夜空には、大きな月が黄色い光をあたりに放っていた。
ケイは、一人道端の椅子に座り空を見上げていた。
―終わったのか・・・―
―変な体験やったなぁ・・・―
―コウは、大丈夫かなぁ・・あんなに血を見てもたからなぁ・・―
―そやな・・・もう、帰ろう・・今度こそ・・コウに悪いことしたなぁ・・・―
―キーン・コーン・カーン・・―
ケイが一人考え事をしていると、聞き覚えのある金属音がケイの耳に入ってきた。
「ばばぁ、か。」
「ひゃッ、ひゃッ、ひゃッ、物思いかえ。」
ババ様が、ゆっくりとケイに近づいてきた。
「おまえ、いったい何者や?」
ケイが、鋭く問い詰めるように言った。
「何者?ひゃッ、ひゃッ、ひゃッ、ワシはただのばばぁじゃよ。」
「・・・」
「よう、勝ったもんじゃのう。」
「お前も、俺らと同じ世界から来たのか。」
ケイは、ババ様を睨みながら言った。
「同じ世界?何のことじゃ。」
ケイは、視線を夜空に戻し話し始めた。
「お前も、俺らと同じ世界、いや同じ時代から来たんだろ。」
「・・・」
「お前の杖の音、いやに聞き覚えがあるんだよな。そう、小学校のチャイムと同じだ。そうなんだろ。」
「小学校のチャイム?似てる音などどこにでもあろうが。聞く者によっては、そう聞こえるかものう。」
「・・・」
ケイは、少し唇を緩めた。
「?何がおかしい。」
「・・・ふッ、ふッ、うれしいよ。違和感なく会話が続くのが。」
「?」
「小学校・・・この世界にも同じもんがあるんか?学校ならあるかもしれんけど・・・小学校なんてな・・・」
「!」
ババ様の表情が変わっていた。
「それに、そんな杖に効果音を入れるなんてこの世界の技術じゃないやろ・・・ばばぁは、ナウエの民じゃないんやろ。」
ババ様は、ケイの元へ近づき一つの椅子に腰を掛けた。
心地よい夜風が、ババ様の杖に付いている小さな飾りを優しくなびかせた。
「ひゃッ、ひゃッ、ひゃッ、『満る知』じゃなぁ・・・『影』を倒すことも出来たしのぅ。よぅ分かったのぅ。」
以外にも、ババ様は嬉しそうにこたえた。
「『ミツルチ』?・・・『影』を倒せたのは、コウのおかげや。『影』の正体はウイルスかなんかやろ・・・コウの血が倒したんやろ。ヒミやココは、コウが手当てしたから手下の爪でやられてもオレンジ色のヤツが出てけえへんかったんやろ。そして、コウの血が付いた槍が『影』を貫いた・・・そうなんやろ。」
ケイは、月明りの家々を見ながらつぶやいた。
「ひゃッ、ひゃッ、ひゃッ、よう分かったのぅ。その通りじゃよ・・・・ここは今1012年じゃ・・・ここの世界の年じゃがな・・・おぬしは、何年から来た。」
ババ様が、杖の飾りを手で揺らしながら聞いた。
「俺らは、2023年から来たんや。お前は。」
「2082年じゃ。」
「2082年?・・それじゃ、俺らよりだいぶ未来やんけ・・・そっから来たんか。」
ちょっと戸惑いながら、ケイが聞いた。
「わしは、おぬしらのように時間を飛び越えて来たんじゃないぞぇ・・・時を経てここにおるんじゃ。」
ババ様は、杖の飾りを優しく見つめながら話し出した。
ババ様の話と言うのは・・・・
―2082年、ババ様は8才だった。
その数十年前から、世界は二つの覇権国家により支配されていた。
一方のA国は自由と協調を旗印にし、他方のB国は独裁者利益追求国家だった。
A国では、その自由な空気のもと技術力と経済力とが発達し、軍事・資本の両面から世界を率いていた。
B国では、厳しい統制のもと軍事力を大幅に伸ばしA国をも凌駕する力を持つまでになった。
そんな中、日本で画期的な発明がなされた。
それは、半永久エネルギー『KAGE』と言われるものだった。
『KAGE』は、10㎝程の大きさながらエネルギーを生み出し続け、また逆に電気的エネルギーを無制限に吸収することができるものだった。
発明した科学者『K』は、『KAGE』を平和利用することを考えたが、不安定な世界情勢のもとこの発明を公表することをためらっていた。
しかし、A国・B国ともその諜報機関によりその情報を察知されることとなってしまった。
この発明を押さえることにより、世界のエネルギーを支配することができると考えられたからだ。
この発明の争奪を機に、両国は軍事的衝突を開始した。
20世紀の大戦後は核による抑止力と言うものがあったが、21世紀には核を超えるといわれる爆弾が開発されていた。
それは、放射能を出さず衝撃波だけで半径100キロ四方を壊滅させる威力のある超小型爆弾『ONB』だった。
核兵器は、放射能による地球規模の汚染を危惧するためにその使用には人道的抑制が効いていた。
しかし、限られた範囲にのみ被害を抑えられる新爆弾にはそのような抑制は必要がなかった。
そしてついにB国は、その兵器を使用した。
その頃、月には両国により研究施設―軍事施設であろう―が作られていた。
B国は、A国の施設にあろうことか『ONB』を数十発使用した。
それにより、B国優勢のもと地球規模の戦争が始まった。
科学者『K』は、『KAGE』を壊しそのデータとあるプログラムを安全と思われる場所へ移した。
月にあるB国の施設へ。
戦いはほぼB国が制圧しかけた時、ある事故が起きた。
北極圏にあった、ある実験施設が誤爆により破壊されてしまった。
そこでは、地球上に現れたあらゆるウイルスの調査研究をしていた。
事故により漏れ出たウイルスは、ウイルス同士の相互作用により変異し拡散していった。
その時、科学者『K』は孫であるババ様をある装置に入れ守った。
地球では、その後人類の大半がウイルスに倒れ、何故か幼小児だけがウイルスの脅威に耐え生き延びることができたが、その後、すべての文明がリセットされてしまった。
それから人類は少しづつ成長をしてきたが、100年ごとに天罰のように民が滅亡する危機が繰り返されるようになった―
ケイは、歴史の授業を聞くように話を聞いていた。
「そして、ワシはこの時代に目が覚めたのじゃ。」
ババ様は、杖の飾りをいとおしそうに見つめながら言葉を終えた。
そして、大きな月を悲しそうな瞳に映した。
-to be continued




