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3歩あるけば 異世界だった  作者: 倉崎 町羽


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12 攻防


喧騒から離れた草の上では、2つの体が横たわっていた。

草埃と血でまみれたその体には、幾匹かの蝶が群がっている。


「・・・うッ。」


僅かに動くその瞼に力を入れると、一面が白い光でおおわれていた。


ケイは、何度か瞬きをした。

すると、だんだん視界に色が現れ形を映し出していった。


「・・・はぁ、ええ天気やなぁ。・・・なんで、目が覚めてもたんやろ・・・なぁ、コウ。」

ケイは、仰向けのまま顔を傍らのコウの体に向けた。


「帰ろか・・・うッ!」


ケイは、その両腕に痛みが走ったことにより自分の状態を思い出した。


「はは、なんも出来へんな・・・でも、絶対お前を連れて帰るからな。」


真上の月は、大きなクレーターを二人に向けていた。


「それにしても、この月近いよなぁ。いつから、こんなに近くなったんや。」


「・・・?・・・・・!」


「いつから・・・そうや、俺らの住んでる世界はもっと遠かった。それが近づいている・・この世界は、大昔なんかじゃない!未来なんや!」


ケイは、大きな月をまじまじと見つめていた。

大きくかけた、そのいびつな月はケイの頭脳を揺り動かしていた。


「・・・こんな、なんもない世界が・・未来か・・・」


「俺らも、当の昔に死んでるんやろなぁ。ははは・・」


「未来・・か。俺らの子孫がおったりして・・・・ほんまに・・・」


「コウ、今までありがとうな・・・お前が友達でよかったわ・・・・お前は助けられへんかったけど・・・・お前の子孫はまだ助けられるかもな・・・」


ケイは、横向きになりその額を地面に押し付けながらゆっくりと起き上がった。


「俺の剣は?」


辺りを見回すとケイの剣は、ワタにより遠くへ飛ばされていた。


ケイは、周りを見渡しコウの足元にある槍に目を止めた。

ケイは、その足で槍を引き寄せ、力がわずかに残る右腕でつかむと槍先を天に向け肩に立てかけた。

槍で体を支えながら、蝶がとまっているコウの右腕をつかんだ。


「コウ、俺にも力をくれ・・・この腕を治してくれ・・・頼む・・・」



その時、一つの突風が草波を連れ2人を飲み込んだ。

ケイとコウの周りにいた蝶たちは、突然の嵐に驚き天へ向かい飛び立っていった。

高く高く浮かび上がっていく姿は、いつしか光の中へ消えていった。



ケイは、じっと動かずに祈っていた。


すると突然、ケイの視界が真っ白になった。


強烈な光がケイの視界を支配していた。

それは、まるでスポットライトの中にいるような感覚だった。

ケイは目がくらみ、いつしかコウの体にその体を重ねていた。


2人は、円の中にいた。

そう、円の中に。

2人の周りの草草は、円を描いてすべて倒れていた。

いや、倒れた―というより、枯れしなびいていた。


緑の広がる世界の中で、一つの円が浮かび上がっていた。




陽は、午後の日差しの強さを少し緩めていた。

ナウエの民たちは、幼き者、弱き者たちを先頭に避難を開始していた。


そんな時、ワタの足はナウエの地へと入った。


その足取りは、止まることなくナウエの中心部を目指していた。

中心部、そこはチハやチナが住むシン家だった。


「チハ、チナ、お前たちもこの場を離れよ。」

センは、静かに二人の娘に言った。


「いいえ、それは出来ません。」

チハが、毅然と言った。


「そうよ、なんで逃げなきゃなんないの。」

チナも、母親を睨みながら応えた。


まだ小さな二人であったが、シン家の血か、強い心を持っていた。


「きっと、何とかなります。」

「そうよ。」


「私たちは、守られてる・・・守られてる・・・そう、守られてる。」

「うん、うん、守られてる・・・大丈夫・・・守られてる。」


「お前たちは・・・」

センは、言葉を発するのをやめた。

その唇は、僅かに白い歯をのぞかせていた。



シン家の近くでも、ナウエの民がワタと必死に相対していた。

しかし、戦いを知らない民たちはことごとく手下の爪先に切りつけられていた。


家の前に出たセンたち3人の前に、ワタと3体の手下が立っていた。

セン、チハ、チナ、その3人の手には短刀が握られていた。


「チハ、チナ、急所は胸の中心じゃ、中心を貫くのじゃ。」

「はい。」

「うん。」


3体の手下が、センたちへ近づいてきた。

ワタは、離れたところで、じっとセンを見ていた。

3体が、一斉に腕を振り上げてきた。

センたちは、とっさに後方へ飛びのいた。


ぶしゅッ―


その時、チハの目の前で異様な音がした。


目の前の『影』の手下の胸から、鋭い金属が突き出ていた。

『影』の手下は、ずさり―と崩れ落ちた。


「?」


「なに?」


「だれ?」


センたちは、視線を遠くへ向けた。


そこには、二つの人影があった。


「あと3つ。」

剣を振りながら、ココが呟いた。


「あぁ、やっと終わりが見えてきたな。」

倒れた手先の体から長槍を抜きながら、ヒミが応えていた。




「おぬしたちは・・・」

センが、呟いた。


「よぉ、まだ生きていたか。」

ヒミが、不愛想に答えた。


「無駄口は、後にしろ!」

ココが、手下と剣を合わせながら叫んだ。


「おぉ!」


手下たちは、その鋭い爪先でヒミたちに襲いかかってきた。


ココの剣が、手下の体を刻む。

ヒミの槍が、手下の体を突き破る。

しかし、手下たちは容赦なく襲い掛かってきた。

何十合、武器を打ち付けただろうか、手下たちはよろめきながらも攻撃の手を緩めない。


センたちは、短剣を握りながら戦況を見る事しかできなかった。


ワタは、微動だにせずセンを睨んでいた。


疲れの色が出たココの体を、手下の爪先が襲い掛かった。

ココの剣を持つ上腕から、血しぶきが飛んだ。


「しまった!」

ココは、後ろへ飛退きつつ腕を押さえた。


「ココ!」

ヒミが、ココの加勢へと動いたとき、手下がその体ごとヒミへ覆いかぶさってきた。


「ぐォ!」

ヒミが、手下の体の下でうめいた。


「ヒミ!ココ!」

センが、二人のもとへ駆けていく。


手下が、ヒミの足をその爪先で大きくえぐりセンへ振り向いた。


センは、その迫力に一瞬ひるんでしまった。


「セン、逃げろ!」

手下の爪先に切り刻まれながら、ココが叫ぶ。


しかし、センは戦うことも退くことも出来なかった。


手下は、容赦なくその爪先をセンの両眼に向けて突き出した。



―ぶしゅッ―


宙に、物体が飛んだ。

遠くに落ちたその物体は、大きな爪先を痙攣させていた。


「ギリギリか?」

「うん。」



「ケイ?コウ?」


腕をもぎ取られた手下の背後には、ケイとコウが立っていた。


「ヒミ、ココ・・・大丈夫か。」

ケイは、ヒミとココを見た。


「あぁ、大したことない。」ココ。

「お前たち、どうして・・・」ヒミ。


「ふッ、ふッ、ふッ、復活やー。」

ケイが、大声で怒鳴った。


―恥ずかしー、子どもか・・―

コウは、照れたように笑っていた。


「胸の中心をつけ!」

急に、センが叫んだ。


手下が、ケイをめがけて襲い掛かってきていた。


―ぎゅにゅッ―


物凄い速さだった。

コウが、素早くケイと手下の間に入ると手にした槍で手下の胸を貫いていた。


「くッ、くッ、くッ、俺たちの速さにはついてこれんやろ。」

ケイが、自慢気に言い放ったかと思うと、もう一体の手下の胸を剣が貫いていた。


「ココさん、ヒミさん、大丈夫?」

コウが、心配そうに近づいた。


「まだ、ワタがおる!我らにかまうな!」



ワタが、その巨体をゆっくりとセンたちに近づけていた。


空には、茜色を輪郭に浮かび上がらせた雲が一つ。


夕闇には、まだ時間があった。



ワタが、長剣を振りセンへ近づいてくる。


ケイは、とっさにセンとワタの間に入りこんだ。


ワタの攻撃よりも早く、ケイが剣を振り払った。

ワタの長剣が、それを弾く。


コウも何の躊躇もなくワタへと向かって行った。


速さに勝るケイたちの攻撃が、幾度となくワタの体を捕らえたが、強靭なワタの肉体は動きを止めなかった。

かわりに、強力なワタの一撃にケイとコウは汗まみれになっていた。


数十合の戦いに疲れ、息を整えていたコウへワタの一撃が飛んだ。


コウはとっさに槍で防御したが、容赦なく長剣が打ち付けてきた。

コウは長剣の重い一撃に耐え切れず、吹っ飛ばされてしまった。

コウの体は、近くの井戸の岩に強く打ちつけられ、その頭からは大量の血が流れ出て頬を伝わり滴り落ちていた。


「コウ!」

ケイは、視界にコウを捕らえながらもワタと対峙いた。



―頭がクラクラや、もうちょっとだけ休んどこ。ケイちゃん、もうちょっと待って―

コウは、血だまりの地面に横たわったまま周りを見ていた。


―ヒミさんやココさん、えらい怪我してんな。大丈夫かな?早く治してあげないと・・・?―


―何で?・・・手下にやられたはずなのに・・・―


コウは、体をひねり右手で体を支えながらゆっくりと体を起こし始めた。

そして、おもむろに右手のひらを見た。

その親指には、ネズミだったチハに噛まれた傷が血豆としてまだ残っていた。


―!!・・・そうや・・・きっと・・・―


―僕の血や!ケイちゃんの傷口にも、ヒミさんやココさんの傷口にも、僕はこの右腕をあてた・・・僕の血に、何かがあるんや・・・抗体?・・・ウイルス?・・・『影』は、ウイルスなんか?・・・僕の血・・・でも、なんで?・・まぁ、ええか・・―


おもむろに、地面にたまった真っ赤な自分の血をじっと眺めた。

意を決して、コウは槍先を血だまりに突きつけ立ち上がった。


ふらつく足を槍の柄で叩き、ワタへ向かって行った。


ケイも、ワタの長剣の威力の前に疲れの色を隠せなかった。


コウは、ワタの背後へ迫り槍を突き出した。


―やったッ!―

コウは、その手ごたえを体で感じていた。


しかし、コウが槍先へ目を向けるとそこには大きな腕が槍の柄をつかんでいた。


ワタがゆっくりと顔を向けてきた。


―くッ、しまった―

コウは、大きな腕にはばまれ槍を動かすことができなかった。


ワタが、体をコウに向き変え長剣を大きく振りかざしてきた。


ズギュッ―


コウの目の前に鋭い剣先が見えた。

それは、ワタの胸を突き破ったケイの剣だった。


「グオッ。」


ワタは、大きく呻きよろめきながら長剣をケイに向け振り払った。

だが、長剣は力をなくしたワタの腕から抜けケイの横を飛んでいった。


ワタは、その場に倒れ小さなうめき声をあげ続けていた。


「やったな。」

ケイが、しゃがみ込み汗をぬぐいながら言った。


「うん。」


「お母様ー!」

その時、チハとチナの叫び声がした。


「・・・・?」


その声へ目を向けると、そこには右胸に長剣が刺さったセンがいた。


- to be continued




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