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まどろみのユメ  作者: もちやしき
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第1幕…「全ての始まり」

桜舞う道を1人の少女が走って通っていく。

フード付きの黒いローブをはためかせながら、少女が向かっていった方向には、広場あり、桜の樹の下で待っていた少女2人に微笑みながら寄っていく。


「お待たせ〜」


「大丈夫よ、あたしもついさっき着いたばかりだから」


「わたしも楽しみで早く着いただけで、そんな時間は経っていないわ」


2人の答えを聞いた少女は、嬉しそうにニヤけながら歩き始める。それに続くように待っていた2人も歩き出す。 


「ふふふ、またみのり未來みらいと一緒にいられるの嬉しいね」


少女の言葉に右を歩く実と呼ばれた少女と左を歩く未來と呼ばれた少女が同時に唸り、困ったような表情を浮かべる。


「あの頃はまだ小さな子どもだったし、入ったら駄目な森の中に入って親に怒られたけど」


「そうね、あの時の両親はとても怖かったわ……でも、夢乃とまた一緒にいられるのはわたしも嬉しくて楽しみよ」


「そりゃああたしも夢乃や未來とまた一緒にいれて嬉しいに決まってるし」 


そんな会話を交わしながら歩き続けること15分。

丘の上に見えてきた立派な建物、まるで城のような建物が3人がこれから勉学する学舎の”希望学園“と言う名の3人が暮らす国にある唯一の学園である。

学園に入学する歳は13〜14頃で、それまでは親の教育で育つ。

学園で学ぶ座学は、世界についてや国が防衛又攻めている国についてなど、実技は座学で学んだことを活かせるか又チームワークを試される。

学園の校門近くまで来れば、他の生徒たちが次々と校舎へと入っていく。その流れに3人も乗り、新入生の出入口から入れば、ぽつんっと置かれた一人乗りのエレベーターが横3列並んでいる。

丁度、夢乃・実・未來で3人だったため、スムーズにエレベーターに入り込む。

3人同時にエレベーターに入れば、出入り口は閉じられて動き出す。

このエレベーターは魔法でできていて、クラス分けと識別するセンサーを組み込んでいるため、人が乗れば瞬時に識別、クラスを割り当てて人を運ぶ。

これは入学した日しか魔法で作らないため、通常はエレベーターがある場所はクラスに向うための道があるのだ。

ちなみにではあるが、もし他国のスパイがこの学園に潜入しようとしても、国の登録やクラス分けがエレベーターに登録されていなければ、強制的に牢屋まで運ばれる。という仕組みだ。


「とうちゃ〜く、実と未來はどこのクラスに行ったかな?」


「同じクラスだったりして」


「同じクラスになってたり」


背後からそう言われ、夢乃が振り返る前に抱きしめられる。


「んにゃ〜っ!?」


「あははっ、夢乃は可愛なぁ〜……これからもよろしく未來、夢乃」


「ふふ、はい!これからもよろしく、実、夢乃」


「ふへへ、よろしくね…実、未來」


2人の腕に手を添えながら夢乃は微笑む。

夢乃の返事を聞き、満足した2人は夢乃を放して辺りを見渡した。

黒板に教卓、そして3人がけの長めの机が6脚。

1番後には道具などを仕舞えるように蓋付きの棚、最後に掃除道具が入った掃除箱。

まだ誰も来てはおらず、どうやら3人が1番乗りのようだった。

教室を見渡しながら3人はとりあえず近くにあった席に座る。

少し待てば、誰かが入ってくる。

桜色の髪は左右がミザ編みで胸元まであることから長いことがわかる。左の横髪にオレンジ色のリボンの髪飾りを付けた少女。

辺りを見渡し、夢乃たちに気づけば挨拶をしてくる。


「あ、初めましてぇ〜……想朱そうあって言います、よろしくお願いしますね〜」


「私は夢乃、これからよろしくね想朱ちゃん」


席を立ち想朱に抱きつこうとする夢乃を止めながら左右に座る2人も挨拶をする。


「よろしく、あたしは実」


「わたしは未來よ、よろしくね想朱ちゃん」


「はい、よろしくです」


どこかぽやぽやとした雰囲気を持つ想朱は、3人が座る隣の机の席に座る。それからすぐにまた新たな生徒が続々と入って来ては、適当に選んだ席に座っていく。

そうこうしているうちにチャイムが鳴るのと同時に最後に飛び入りで入ってくる子がいた。


「セーフ!」


エレベーターからぴょんと跳ねて登場したその子にクラスにいた生徒全員の視線を集める。

紫色のショートヘアで、左の横髪には黒い髪留めが2本付けられている。キラキラと輝いて見える綺麗な青い瞳。笑顔が似合うそんな印象を持つ。


「アウトだよ、担任が来てるんだからな」


そう言って紫色のショートヘアの子の頭を名簿で優しく叩く担任が真後ろにいた。


「いたっ」


「ほら、さっさと席に着け……今日中にやることが山ほどあるんだからな」


面倒くさそうな表情で担任は席に着くように促せば、叩かれた子は頭を抑えながら空いている席に着く。それを確認した担任は口を開く。


「今日からお前たちの担任の吹枝ふじだ、じゃあ今から自己紹介をしてもらう、その次はチーム決めな、その後はチーム名に担当決めだな」


「あの、吹枝先生」


「何だ?アホの子」


「あ、アホの子?まぁいいや、いっぺんに言われても忘れるので、とりあえず自己紹介をしませんか?」


「それもそうだな……じゃあそこの席の3人からだ」


さっと見渡した吹枝は、夢乃をたちが座る席を指差す。指名を受けた3人は、すぐに挨拶をする。


「あたしは実、好きな食べ物は辛いもの全般です、よろしくお願いします」


「私は夢乃です、好きな食べ物は甘い物全般です、これからの学園生活が楽しみです、よろしくお願いします」


「わたしは未來と言います、好きな食べ物はいちごショートケーキです、よろしくお願いします」


「ん、じゃあ次はその後の席な」


吹枝の指名により、続けて挨拶を始める。

最初に立ったのはポニーテールをした綺麗な黄緑色の髪を持ち、少し釣り上がった緑の瞳が特徴的な少女。


わたくしは、伽和ときわと言います、好きな食べ物は…そうですね、強いて言うなら梅干しから…私好き嫌いがないですよね、ふふ」


「流石は姉様、わたしは妃海ひなみです、伽和姉様の妹です。好きな人は伽和姉様です、よろしくです」


そう言って伽和と一緒に妃海は座り、その隣の席の少女が少しやりづらそうにしながら挨拶をする。


「みぃは、氷空そらです……えっと、好きな食べ物は氷菓子です、よろしくお願いします」


「はい、次は真ん中の一番前な」


「は〜い、想朱は想朱って言います……好きな食べ物はぁ〜、甘いの全般ですね…よろしくです」


「次はあたしか……麩詠夏ふよかです、え〜好きな食べ物ですよね……唐辛子が好きです、よろしくお願いします」


「初めまして、わたくし美香菜みかな、好きな食べ物はぶどうですの、よろしくお願いしますね」


そう言って美香菜は微笑む。

男がその微笑みを見れば、一瞬でハートを奪っていただろう。それ程までに美しい微笑みだった。

だがそれを受け流し、吹枝は後の席へと視線と挨拶をするように促す。


「ボクは羽歌わか、好きな食べ物は海鮮、よろしく」


「妾は夕凪ゆうなぎ、好きな食べ物は洋食じゃ、よろしくの」


「あ、の……あたしは、双魏ふたぎです、好きな、食べ物は……ココナッツミルク……よろしく、お願いします」


「それじゃあ、最後のそこの3人」


やっと終わりかと言いたげな声音に対し、窓際に座っていた3人のうち1人が元気よく立ち上がる。


「初めまして、わたしは幻華げんか、好きな食べ物ははちみつ、よろしくね」


「あたしは乃宇賀のうか、好きな食べ物は漬物、よろしくお願いします」


「最後はわたしか……わたしは喜尓抓きじつです、よろしくお願いします」


「よーし、自己紹介もやっと終わったな……それじゃあ次はこのクラスについての説明をしよう」


本音を含ませながら、吹枝は教卓に寝そべっていた体を起こし生徒たちを見渡す。

その顔は先程までと違い真剣で、生徒たちは姿勢を正して吹枝の言葉を待つ。


「このクラスの人数が少ないのは、このクラスが他の生徒よりも特殊だからだ

普通、1つのクラスは40人が3クラス合計120人の1年生がいる。が、ここは15人だけ、しかもこのクラスは全学年の中でここしかない特殊クラスだ」


「上の学年にもないのですか?」


それを訪ねたのは乃宇賀だった。

乃宇賀の問いに吹枝は一度頷いてから説明を続ける。


「このクラスは優秀な奴が集められているのと同時に問題児の集まりだ

お前たちは優秀だが魔女になる前にそれぞれが欠けている部分がある、それに気づいている者もいるし気づかないフリをしている者もいる。

それを今から3年間のうちに無くしてもらうのが、お前たちの重要な勉学だ……とりあえず個人にそれらを伝えるために今から順に隣の空き教室に来てもらう、順は挨拶した順でいいか」


そう言って教室から出ていく吹枝の後ろを実はついて行く。実が出て行ってから2分くらいで戻ってくる。


「次は夢乃だね、行ってらっしゃい」


「行ってくるね」


そう言ってすぐに入れ違うように夢乃は教室から出ていく。

隣の教室にノックして入れば、吹枝は窓の外を見ていたが、すぐに振り返り口を開く。


「夢乃か……お前が克服しなければならないのは2つだな、まず1つは許可なしで魔法や人を切れるようになりなさい

そして2つ目、現実と頑張って向き合いさなさい」


「…………」


「どうかしたか?」


「い、いえ……なんでもありません、努力してみます」


吹枝の言葉に夢乃は一瞬だけ違和感を感じたが、それがなんの違和感なのかわからず、「失礼しました」と言ってその場から去る。

そして教室に戻れば、次は未來が隣の教室に向う。

戻ってきた夢乃が席に座れば、実が心配そうに顔を覗かせてくる。


「大丈夫か?夢乃……気分でも優れない?」


「え、なんで?」


「いや、さっきから難しそうな顔してたし」


「ふぇ!?顔に出てたの?!」


ぱっと顔を抑えて実を見て、恥ずかしそうに頬を染める。そんな夢乃の反応を見て実は、イタズラを仕掛ける子供の様な笑みを浮かべ始める。


「うん、すごい顔してたよ……こーんな顔」


「はわわ、そんなひどい顔をしてたなんて」


「あんな顔してなかったわよ、実もおふざけはおしまいよ」


呆れた顔をした未來が夢乃の後ろでそう言う。

そこで2人は、未來が帰ってきたことに気づく。


「あれ、もう戻ってきた」


「ほんとに、速かったね」


「まぁ、言われるだけだったからね……ほら、また次の人が行ったわよ」


未來にそう言われ、2人はいま出ていくとこの伽和の姿があった。


「未來は吹枝先生になんて言われたんだ?」


「……後で言うわ、どうせわたしたちはチームを組むのですし」


「それもそうだね、じゃあまた後で吹枝先生に言われたことを言ってこ」


未來の言葉に大きく頷いた夢乃の言葉に「賛成」と言いながら未來は席に座り、実は辺りを見渡す。 

話しているうちに随分と進んでいたらしく、今はもう最後の1人が吹枝と戻ってくる。

喜尓抓が席に座るのを確認してから吹枝は次の説明をするため口を開く。


「では次に1チーム5人のパーティーを組め、制限時間はチャイムが鳴る30分間、もしそれまでにチームが組めていない者がいれば、私が適当に組ませるからそのつもりで……では、始め!」


開始の合図で吹枝が手を鳴らす。

それと同時にクラスメイトが一斉に動き出す、夢乃たち3人以外を除いて。


「5人で1チームかぁ、後2人どうする?」


「わたしは誰でも、夢乃は?組みたい人とか気になる人はいない?」


「え、私が決めちゃっていいの?実は?いないの?」


「え、あたしは別に…夢乃や未來と組みたかったから、残り2人は未來がいいなら、夢乃の好きにしていいわよ?」


未來や実に譲られ、夢乃はクラスを見渡す。

2人でいる者や3人でいる者、まだ1人でいる者もちらほや。

そこで夢乃は1人でいる者に目をつけ、席を立ち、未來と実に「行ってくるね」と言い残して歩いていく。残されたのは2人は、小さく笑う。


「未來、夢乃は誰を連れてくると思う?」


「さぁ、あの子の思考を読める人がいれば実くらいしかいないから、わたしにはわからないわ」


未來にそう言われ、実は嬉しそうに頬を綻ばせていると夢乃がとある2人を連れてくる。

逃げないようにガッチリと腕を組んで


「ただいま2人とも〜」


「お帰り、あぁこの2人か」


「へへ、初めて見た時にビビッてきたの」


「夢乃、2人にはきちんと了承を得て連れてきたの?それとも強引に?」


「未來、わかりきった質問をしてやるなよ」


ふふっと微笑む未來に呆れ顔の実はそう言う。

何を隠そう、夢乃に連れてこられた2人は少し困った表情で、夢乃だけが満足気な顔をしているのだから


「夢乃、あなたって子は」


「ふぇ、何で未來は怒ってるの?」


「夢乃、こっちにおいで……あたしが守ってやろう」


実が両手を広げながら誘うと、夢乃はすぐさま実に抱きつく。

その光景を未來は溜息をし、夢乃が連れてきた2人に視線を向ける。


「夢乃が失礼をしましたわ、自己紹介でも名乗った通りわたしは未來、わたしたち3人は残り2人を探していまして、夢乃に選択権を渡したのですが……まさか何も説明なしに連れてくるなんて」


「いえいえ、夢乃ちゃんは元気で良い子ですよ……無言ではなく、ついて来てっと一応確認はしてくれていましたからぁ」


「え、わたしの場合は強制だった気がするんだけど」


「あらあら、きちんと来てとだけでも言われてたわよね?幻華」


「別に文句なんか言ってないじゃない……あんたがいるなんて思わなかったけどね」


幻華と想朱のやり取りを聞いていた3人は首を傾げた。話し方、雰囲気が2人が顔見知りであることが物語る。


「2人は知り合いでして?」


代表として未來が気になった事を尋ねれば、想朱は口元を抑えてクスッと笑うだけで、変わりにと言わんばかりに幻華のリアクションが大きかった。


「こいつ…想朱とは幼馴染みたいなものでね、村が隣同士でしょっちゅう村の連中がやって来るのよ……別に村同士の交流ならいいんだけど、絶対にそうじゃないの!!」


熱く語り始める幻華に対し、未來と実は内心では長くなりそうだなっと思いつつ、そのまま話を聞く。

夢乃はうんうんと頷きつつ話を聞いていた。


「こいつを見てくれればわかると思うけど!こいつの村の魔女、魔法少女全員が何故か巨乳で、わたしの村の魔女、魔法少女全員が何故か貧乳なのよ!!おかしいでしょ!?

きっと、わたしたちの村の胸にくる栄養をそっちの村に全部持っていかれてるのよ」


「そんなこと無いと思いますよ、あっ、そんなことは置いといて……想朱は夢乃ちゃんの誘いを受けたいと思います」


「ちょっと、そんなことって何?わたし的には重要なことなのに」


想朱の言葉に幻華は何か言いたげでいたが、口を開く前に実は首を傾げて訪ねる。


「で、幻華は夢乃の誘いはどうする?」


「あ〜、迷惑じゃなければ、わたしでいいなら」


「私は幻華や想朱がいいな」


幻華の手を取り、夢乃がおねだりする様にそう言う。その言葉に空いている手で頬を軽く指で掻きながら小さく頷く。


「じゃあよろしく」


「よろしくお願いしますね」


「うん、2人とも!これからもよろしくね」


「はい、そこまで!今残ってるのは……いないね」


吹枝がそこまで確認したのと同時に、チャイムが鳴る。チャイムの音を聞いた吹枝は、素早く教卓に置いていた荷物をまとめて扉に向かって歩き出す。扉を開けて出ていこうとした時、何かを思い出したように次の授業を行う場所を伝えてから出ていく。


「次の授業の場所は、2階の多目的ホールだ…遅れないように」


吹枝が出ていくとクラス内がざわめき始める。

夢乃たちも移動教室の準備を軽くしてから、吹枝が言っていた2階の多目的ホールに向かい始める。


「あ、そうそうさっき吹枝先生と2人っきりになった時に魔女になる前に直すべき指摘を言い合おうって話てたんだけど、想朱ちゃんも幻華ちゃんもそれでいい?」


「そうですねぇ、確かに仲間と助け合ったほうがいいかもしれないから、想朱は構いませんよ」


「わたしもそれでいいと思う……正直、直せるかもわからないけど」


「大丈夫、直るよ」


困り顔で呟く幻華の言葉に夢乃は微笑みながら答える。そんな夢乃の言葉に実と未來が反応する。


「夢乃のお墨付きなら大丈夫だね」


「そうね、大丈夫そうね」


「そういえば、3人は会った時から仲がよろしいようですが、もしかして想朱や幻華みたいな感じですかぁ?」


首を傾げて問う想朱に「そういえば3人は常に一緒だね」と幻華も反応を示す。

2人のその言葉に、3人は顔を見合わせ、代表として未來が口を開く。


「そういえばまだ話してなかったわね、わたしたち3人は同じ村出身で幼馴染なのよ、だから大体お互いのことがわかるし、癖で一緒に行動しちゃうの」


「そうだったんですね、あ、じゃあここの5人は幼馴染パーティーだ」


「確かに想朱ちゃんと幻華ちゃん、それに私たち3人、楽しそうなパーティーが出来たんだね」


「何言ってるんだ?夢乃は」


「そうよ?このパーティーが出来たのは夢乃が選んだからでしょ」


実と未來の冷静なツッコミに夢乃は微笑みながら「そうだったね」などと口にする。

5人が様々な会話をしながら歩いていると目的の場所。多目的ホールに到着する。

チャイムは約5分後に鳴ることを壁にかかっていた時計で確認し、適当な席に座り待つことにする。

時間になるまで親睦を深めるために気になっていることを1人1つ質問し合った。


「ただ待つのも暇だし、何か質問し合わない?1人1つ、そしたら時間になると思うのよ」


「それはいい考えだな、じゃあまず最初はあたしからね……それじゃあ幻華に質問なんだけど」


「お、わたしか……何が聞きたい?」


「幻華って普段からそんなパワフルなのか?それとも皆がとっつきやすくしてるのか?」


実の質問に微かに反応したが、誰も気づかず、幻華は微笑み質問に答える。


「わたしは普段からこんな感じだよ、そうだろ?想朱」


「確かに昔からこんな感じでしたけど、でも昔はもう少し表情がなかった気がしますねぇ」


「そうだったか?あははっ」


想朱の言葉に笑う幻華を見た実は微笑み口を開く。


「そうだったのか、答えてくれてありがとう」


「じゃあ次は私ね、想朱ちゃんに質問です!」


「なぁに?夢乃ちゃん」


「想朱ちゃんって戦う時は前衛ですか?後衛ですか?」


「あらあら、その質問は今でいいの?ふふっ、想朱は後衛の回復系の魔法を得意としているのぉ

同じ質問になっちゃうけど、夢乃ちゃんは前衛?後衛?」


「私は前衛だよ」


想朱の質問に笑いながら答えた夢乃の言葉に、聞いた想朱も幻華も固まる。その反応を見た実と未來は何度か頷く。


「え、じゃあ実と未來は?」


驚いた表情のまま幻華が質問すれば、2人は素直に答えた。


「あたしは前衛、基本は夢乃をカバーする係かな」


「わたしは後衛、味方にはバフを相手にはデバフを与える魔法を得意としていますの

そういう幻華はどちらですか?」


「わたしは前衛だね、となるとバランスはいい感じだったのか」


答えてからそう呟く幻華に他の4人も「確かに」と共感しながら頷く。その会話が終わるのとほぼ同時にチャイムが鳴る。

気づけば他のクラスメイトもきちんと着席しており、扉が開かれ数人の先生方が入ってくる。

黒板の前に並ぶと、先頭にいる先生が口を開く。


「私の名前は故夜ふるやだ、今回だけの臨時の先生だ…そしてここに並ぶのはお前たちのパーティーに入る、先生方だ」


故夜に促されるように横に整列した先生方が、1人ずつ前に出て挨拶をしてくれる。


「あたしの名前は過夜かや、よろしく」


「私の名前はキナ・フィラ、よろしくね〜」


「わたしは々、よろしくお願いします」


最後の優々が挨拶を終えれば、故夜はすぐに指示を出す。


「お前たちにはこれから、チームで話し合い、この3人の中から1人選べ、物ではないが速い者勝ちだ、では始め!」


故夜の合図でそれぞれのチームが話し合う。

当然夢乃たちのチームも話し合いを始める。


「先生を選べって、どういう指導方法なのか聞いてないのに」


そう呟く幻華に頷きつつも、未來は4人の顔を見渡してから口を開く。


「皆は3人のうち誰が気になりますか?」


「そうだなぁ、わたしは優々先生が気になるかなぁ」


「想朱はキナ・フィラ先生かしらぁ」


「夢乃は誰か気になる人はいますか?」


「私?私は……今回は幻華ちゃんと想朱ちゃんの2人に任せようかな」


一瞬考える素振りを見せた夢乃だったが、軽く左右に頭を振り辞退する。

夢乃の辞退により、残るは実と未來の意見を聞こうと2人を見た時だ。背後から「私達のチームは優々先生を指名致しますわ」などという声が聞こえてそちらを見た。

どうやら優々を指名したのは、伽和のチームだった。


「となると残るは___」


「では妾たちのチームは、キナ・フィラ先生を指名する」


優々先生と悩んでいたのか夕凪がすぐに片手を軽く上げ、キナ・フィラを指名した。

こうなれば自然と夢乃たちの先生は過夜となった。

先生が決まり、故夜はすぐに次の行程に進めるべく指示を飛ばした。


「では、次にチーム名とリーダーを決めろ……それが終われば今日はここまでとする

では、始め!」


再び開始の合図をし、チーム5人と先生を含めてチーム名とリーダーを考え始める。


「チーム名ね〜」


「名前を決めるのって難しいんだよね〜」


開始早々リタイアしそうな実と幻華に夢乃は人差し指をこめかみに添え、少しの間考える素振りを見せた見せて、何かを閃く。


「じゃあ皆の何か共通点とかをチーム名にするのはどうかな?」


「なるほど〜、それはいい考えですねぇ」


「確かに、それだと団結力が強くなりそうですわね、過夜先生は何か他に案はありますか?」


「え、あたしの意見も聞くのか?」


「当たり前ではありませんか、過夜先生はもうチームの一員なんですから」


未來がそう言うと優しく微笑む。

そして他の4人も未來と同じ意見であり、頷いて肯定した。

過夜は少し戸惑う素振りを見せながら、口を開く。


「そうだな、そこの子の言う通りこのチームの特徴を名前にするのもいいかもしれない……例えばぬラビットとかかな」


過夜が例えに出した名前に誰もが首を傾げる。

ラビットの意味は理解している。だが、なぜラビットなのか理解できずにいた。

それを察したかの様に過夜は言葉を紡ぐ。


「ここのメンバーはパッと見ただけども可愛いと感じた、そこで君たちに似合う動物を考えた所、ラビットが浮かんだんだ、単純だろ?」


説明を終えれば過夜は微笑む。


「そんな簡単な理由でチーム名を決めていいんですか?」


想朱の問いに過夜は頷いてから口を開く。


「別にチーム名は誰かに認めてもらうために付けるものではないのさ、いちいち個人名を上げるよりもまとめて呼べる方が楽だろ?

だからせめて、名前を考える時は団結力を上げるためにチームに関わるような名前にしたり、その場で閃いたやつを名前にしたり、記念として何か目新しいやつを名前にしたりするのさ」


「なるほど、参考になるな」


「それじゃあとりあえず名前は各自で考えている間にリーダーを決めてしまいましょう」


「と言ってもあたしと未來の答えは決まってるし、幻華と想朱の意見を聞きたいんだけど」


実の言葉に夢乃が小さく自身を指さしながら「あれ、私の意見は?」と呟くが聞き届けてはもらえなかった。

幻華と想朱は互いに見合ったがすぐに頷いて実の方を見直す。


「これは意見があって当然でしょ、夢乃だな」


「え」


「お、意見も割れてないし決まりだな」


「な、何で!?」


指名された夢乃は驚き、4人を不安げに見つめた。

その視線を受けている1人、未來が夢乃の頭を撫でながら口を開く。


「大変だろうけど、頑張るのよ?リーダー」


「未來の言う通り、頑張れよリーダー」


「よろしくお願いしますねぇ、リーダー」


「頼むよ、リーダー」


「____っ」


「お、おいおいお前たち、流石に勘弁してやりなよ」


少し呆れた顔の過夜はそう言いながらも夢乃を見た。夢乃は頬をぱんぱんに膨らませ、涙目だが泣くのを我慢していた。

そんな決壊寸前の夢乃を見た4人は、あわあわと忙しなく手を彷徨わせる。


「な、泣くな……夢乃」


「悪ふざけがすぎました夢乃、泣かないでくださいまし」


「ごめんなさい、面白うだったもので」


「ごめん、ほらきちんと謝るから」


「いいよ、今度から名前で呼んでね?リーダーって呼ばれたら距離感じて嫌だったから」


「わかった、大丈夫だ……リーダーになっても夢乃に対しての接し方は変わらない」


実がそうフォローし、夢乃を抱きしめながら優しく頭を撫でる。そして視線は未來に向けられ、その視線を受けた未來は頷き、実が何を言いたいのか瞬時に察して口を開く。


「リーダーも決まったことですし、次はチーム名ですね……何か言い案を思いついた方はいらっしゃる?」


「あ、誰もいないならいい?」


最初に手を上げたのは幻華だった。

全員の視線が幻華に向けられる。


「チーム、デーモンはどうだ」


「却下よ」


最後まで言い切る前に未來に却下される。

却下された幻華は立ち上がり、すぐ後ろの角に向かって座り込んだ。

そんな幻華を無視して次に手を上げたのは実だ。


「じゃあ次にあたしから、すずらんってのはどう?」


「チームすずらんですか、他に案はありますか?」


「あ、じゃあ次に想朱いいかしらぁ?」


何か閃くのと同時に想朱が手を上げる。


「チーム、ゆらゆら」


「……なんでその名前が思い浮かんだか聞いてもいいかしら?」


困惑顔で未來が尋ねると、想朱は微笑みながらも夢乃の手を取り、未來を見た。


「想朱と夢乃ちゃんのゆるゆるをゆらにしてみたの、ユラユラ揺れても幻華たちが支えてくれるって意味だよ」


「……却下で」


何とも言えない表情で今度は実が却下する。

却下された想朱は一瞬硬直した後、幻華が座る隣に座り込む。


「デーモン、カッコいいのに」


「ゆらゆらも想朱は可愛いと思っていたのにぃ」


ボソッと呟くが席に座る組には聞こえてはおらず、次に手を上げたのは夢乃だった。


「チーム名、スマイルはどうかな?」


「なぜその名前になったか、聞いてもいいか?」


「え、簡単だよ……笑顔が絶えないチームってことだよ」


夢乃の説明に実、未來、過夜は納得はいっているが微妙な表情をしている。


「夢乃、ごめん…却下だ」


「ふぇ!?いい名前だと思ったんだけどな」


しょげる夢乃の頭を撫でながら実はあることに気づき、未來の方を見た。


「そう言えばあたしたちは提案したのに、未來は提案してないよな?何か思いついてるのか?」


「え、わたしは……過夜先生が提案してくれたラビットを推しますわ」


「ラビット?なんで?」


「わたしたちは先程チームを組みましたが、雑に゙言ってしまえば幼馴染チームと言われても過言ではありません……なので過夜先生もこのチームの一員だってことを忘れないように、だからわたしは過夜先生が提案したラビットを推しますわ」


「なるほどな、いい提案だとあたしも思う……皆は過夜先生が提案したラビット、どう思う?」


未來の言葉に頷き、実は夢乃、想朱、幻華の順で視線を向ける。実の言葉に角で座っていた幻華と想朱は立ち上がり、きちんと前を向き口を開く。


「過夜先生のラビット、想朱もいいと思うよ」


「わたしもそれでいいと思う」


「夢乃もそれでいいか?」


「実は私が反対するとでも思うの?」


ふふっと小さく笑いながら夢乃がそう訪ね返せば、実もクスッと笑い返して未來を見た。


「決まりだな」


「ですね……ではリーダーは夢乃、チーム名は、ラビットで決まりです……故夜先生に知らせてきますね」


そう言って席を立った未來を見送り、実は過夜に視線を向ける。視線に気づいた過夜も実を見つめながら首を傾げる。


「どうかしたか?」


「いえ、未來が戻ってくる前に先にあたしたちの自己紹介を終わらせておこうかと思いまして」


「なるほど、では改めてあたしは過夜だ……よろしく」


胸元に手をそっと置いて、改めて自己紹介をする。それに実が続くように口を開く。


「あたしは実、よろしくお願いします」 


「私は夢乃、よろしくお願いします」


「わたしは幻華、よろしくお願いします」


「想朱は想朱ですぅ、よろしくお願いします」


スムーズに自己紹介を終えると、過夜は復唱するように夢乃たちの名前を呟く。そこに故夜に知らせに行っていた未來が戻ってくる。

過夜と夢乃たちを交互に見た後、すぐになるほどっといった表情に変わる。


「過夜先生、わたしは未來といいます、これからよろしくお願いしますね」


「未來だな、よし…覚えた」


これで全員の自己紹介が終わり、丁度タイミングよくチャイムが鳴る。

故夜は出入り口に向かう前に教卓にとある鍵を3つ置いてから口を開く。


「これはこれからお前たちが3年間暮らす寮の鍵だ、部屋の広さはどれも同じ、部屋はリビング含め7部屋だ、教師と共同生活になる

部屋決めは各チームのリーダーが話し合うこと、以上お疲れさん」


説明が終われば故夜はそそくさと教室を出ていく。

残された生徒たちは、故夜に言われた通り3チームからリーダーが教卓に集まる。


「好きな鍵を取る感じでいいのではなくて?」


「妾はそれでいいと思うぞ」


「私は残った鍵にします」


『せーの』


伽和と夕凪がそっと鍵に触れる。

伽和は自身の前にあった鍵を、夕凪は伽和とは反対側の鍵を、残った真ん中の鍵に夢乃はそっと触れる。

これもスムーズに決まり、夢乃は皆がいる場所に戻る。


「寮の鍵貰ってきたよ、さぁ行こ」


「おぉ、楽しみだな」


「今日はもう授業ないし、ゆっくり行こうよ2人とも」


「そう言えば、この学園カフェがあるそうなんですよ、行ってみませんか?」


「行くわ、過夜先生も一緒に行きましょ」


想朱の提案に未來が瞬時に食いつき、隣を歩く過夜も誘う。断る理由も、結局鍵を持つ夢乃がいなければ寮には入ることができないため、その誘いを受ける。

当然先頭を歩いていた夢乃も食いつき、想朱に近づき手を取りぐいぐいと進み始める。

夢乃の瞳は爛々と輝いており、顔には早く食べたいと書いてあるように見える。


「そんな急がなくても大丈夫よ、夢乃ちゃん」


「カフェ楽しみ〜」


「夢乃が楽しそうで何よりだ」


先頭を歩く夢乃と想朱の様子を見ていた実がそう呟き、実の隣を歩く幻華は小さく「はちみつケーキあるかな」などと呟くのが聞こえたが、実は聞こえていないフリをして歩き続ける。

更にその後ろを歩いていた未來と過夜は、軽く会話をしていた。


「過夜先生は好きな食べ物はなんですか?」


「あたしか?あたしは和食かな……特に海鮮系がすきだな、未來は甘い物好きか?」


「はい、わたしは特にショートケーキが好きです」


「お、昔と同じならカフェに置いてあるよ」


「!!本当ですか!?それは嬉しいです」


過夜の言葉に頬を赤く染め、普段見せる微笑みを超える程の美しいと言える程の笑みを見せた。

その笑みを見た過夜は一瞬ドキッと胸が高鳴ったが、すぐにその感覚を振り払い歩き進めた。





カフェがあったのは、学園を出て寮のすぐ近くの所だった。

外見は落ち着いた感じで、外壁はモノクロ。窓には植物の蔦が垂れていて良い雰囲気を醸し出していた。

先頭を夢乃から想朱、実、幻華、未來、過夜の順で入店する。

扉を開ければカランコロンと扉に付けられいたベルの音の後に若い女性の声も聞こえてくる。


「いらっしゃいませ……あら?見たことない顔ね、新入生?」


右肩に軽く縛ったウエーブのかかった茶髪をポニーテールで流し、優しく微笑むの女性の問いに夢乃が答えた。


「そうです、私たちは今日この学園に入学しました」


「あらあら、じゃあ貴方たちは今日だけ1品無料にしちゃうわね」


楽しげに笑いながら、右手の指を1本立てて女性は宣言した。

その言葉を聞いた夢乃たちは「お〜!!」と声を揃えて言った後、カウンター席に座り始める。ただ1人、過夜を除いて

カフェに入ってからの過夜は、まるで信じられない者を見たような驚愕の表情で店主の女性を見ていた。その視線に気づいた女性も先程の笑みとは違う、まるでこれから悪戯をする子供様に微笑みながら過夜を見ている。


「まさか、お前がここの店主をしてたなんて」


「何でそんな絶望したみたいに言うのよ、失礼じゃない?久しぶりに会った元チームメイトとして」


『えっ?』


「もう昔の話だ、夢乃たちは今日だけ1品無料なんだからこの店で1番高いのを選べよ」


「ちょっと潰すつもり!?」


「……過夜先生、そちらの方は?」


メニュー表を持ちながらチラチラと過夜と女性のやり取りを見ていた夢乃が絶えられなくなり、過夜に尋ねる。


「え〜と……元チームメイトのルティ・アルバンスだ、昔は料理が苦手だったはずの彼女がまさかカフェをしてたなんて思わなかった

店も外見が変わっててビックリした……元店主は歳からの引退か?」


「そうなのよ、たまたま遊びに来たらスカウトされちゃったの、元店主は今街に行ってるわ

ということだからこれからもよろしくね、雛鳥ちゃんたち」


疲れたような表情で説明をした過夜の腕を引きながらルティは夢乃たちにウィンクしながら言う。

過夜が席についた事により、夢乃もメニュー表と向き合い、悩み始める。


「ルティさん、あたしはブラックコーヒーで」


「じゃあわたしは、ショートケーキで」


「わたしははちみつたっぷりのホットケーキで」


「想朱は、フルーツてんこ盛りパフェで」


「私は……私もフルーツてんこ盛りパフェで」


写真付きのメニュー表を端から端まで見て悩んだ末、想朱が頼んだものと同じにする。

注文を受けたルティは、サラサラっと紙に書き込みながら「かしこまりました」と言って作業に移る。

最初に出されたのは実のブラックコーヒーだった。

白いティーカップに入れられたコーヒーを一口飲み、「美味しい」と小さく呟く。

次に出されたのは幻華のはちみつたっぷりのホットケーキ。

花柄模様の皿に2枚重ねられ、その上からたっぷりとかけられたはちみつ。

一口サイズにフォークで切り、パクッと口に入れれば頬を押さえて幸せそうな表情をしている。

その次に出されたのは、未來のショートケーキ。

同じく花柄模様の皿の真ん中に置かれた純白の生クリームの上に置かれた真っ赤ないちご。

外見を見ているだけで普段は見せない、瞳を輝かせている姿。

ゆっくりと先端をフォークで切り離し、そしてゆっくりと口に入れて味わう。


「ん〜まぁ」


とろけた表情でそう言う未來を想朱と夢乃の2人が見ていると、2人の目の前に大きなフルーツパフェが現れる。

フルーツパフェを見た夢乃と想朱は、2人して「お〜!」っと感激しながらスプーンで一口でいける量を掬い、生クリームとフルーツ1つを口に入れる。


「ん〜っ、うまぁい」


「美味しい、これだから甘いものは辞められないの」


「実も一口食べてみて、旨いよ」


スプーンで一口分掬い、隣の席に座る実に向ける。

実も嫌がる素振りは見せることなく、夢乃が向けてきたスプーンに乗った生クリームとフルーツを食べる。


「甘………でも、確かに旨い」


「へへ、良かった」


口元を隠しながら感想を述べた実に夢乃は微笑む。

そんな4人の様子を見ていた過夜とルティだったが、いまだに注文をしていない過夜にルティはそっと視線を向ける。


「過夜、貴方も何か頼めばいいじゃない」


「いや、あたしは」


「ほら、何が良い?」


抵抗をしようとした過夜を無視して、メニュー表を持ち上げて見せる。

そこまでされて、頼まないのも申し訳なく感じ始めた過夜は仕方なくメニュー表を見始める。

少し悩んだが、名前しか書かれておらず写真の載っていないメニューに気づき、これにすることにする。


「じゃあこのスペシャル裏メニューで」


「ふふ、懐かしいでしょ?その名前」


「あぁ、昔一度作ってくれた唯一のまともだった料理の名前だ……この名前を見た瞬間にやっぱりお前は変わらないなって安心した」


過夜の言葉に反応を見せたのは実で、メニュー表を見つめながら尋ねる。


「過夜先生、そのスペシャル裏メニューとはなんですか?」


「これは昔、チームで他国に偵察しに行った時にルティが作ってくれた料理でな……あたしは食べれたけど、他のメンバーが断念する程の激辛スイーツだ」


「激辛……ルティさん、それあたしもいいですか?」


「いいけど、本当に辛いのよ?」


本当に心配そうに見てくるルティに対し、実は笑みを見せる。


「あたしは辛党です」


「よし!なら、これを食べれたらこの代金もチャラにしてあげる!」


そう言って出してきたのは、原型はショートケーキだが見た目が別物になっている。

純白だったはずの生クリームは、粉唐辛子により真っ赤に染められ、真っ赤ないちごは赤唐辛子2本にすり替えられている。

見ているだけで辛いとわかる程に赤いスペシャル裏メニューを見た夢乃、想朱、幻華、未來は見ていられなくなり視線を外す。

頼んだ本人は、先程の未來の姿が重なって見えるほどに瞳を輝かせていた。

それからフォークで先端を切り、口に運ぶ。

ご丁寧に中にあるホイップも唐辛子入りとなっている。


「あ〜辛くて美味しい、絶妙に甘くないし辛さを堪能できる」


「ちなみにこのスペシャル裏メニューは、日替わりよ」


パクパクと食べ進める実を見ながらルティがそう呟くと、実はルティを見て「また来ますね」と答える。

同じものを食べていた過夜も食べ進めながら頷く。


「仕方がないからまた来る」


「あら嬉しい、新規で常連になってくれるなんて」


手の平を合わせながら嬉しそうに笑うルティに、「私も常連になります!」と言って手を上げる夢乃に続き、未來、想朱、幻華が常連になると宣言する。

それを聞いたルティは涙を拭うような仕草をしながら「また来てね」とだけ返す。

それから少しすれば各々で頼んでいたものを食べ終え、店を出た。次はついに寮である。


「寮の部屋の広さはどれくらいかな?」


「そうですわね……5人1チームは恐らくわたしたちとは別の1年生でも同じはず、つまり1年生は確か40人が1クラス、それが3つあるから全員を足せば120人。チームを組めば24組、そこに特別クラスのわたしたちを足せば、27組いることになるから……少し狭いかもしれませんわね」


「なるほどね……そう言えばあたしたちの場合は先生を含め6人パーティーになってるわけでしょ?じゃあ普通のクラスの場合はどうなるのかな?」


「わたしたちの場合は監視も含まれていると思うから、普通のクラスにまで先生を1組ずつに入れるくらいなら前線に向かわせたいと考えているのではないかしら」


「確かに1人の魔女が抜けた穴は残りの魔女で埋めようにも埋められないからな、恐らく3人くらいならつけているじゃないかと思う」


歩きながらそう話す未來、実、過夜の話に耳を傾けてはいるが会話に参加しようとしない想朱と幻華は夢乃と一緒に3人の後ろを歩く。


「そう言えば夢乃、部屋の鍵はどんな感じなの?」


「ホテルキーみたいな感じかな?でもホテルキーとは別物だってすぐにわかるよ」


そう説明しながら夢乃は、ローブのポケットから部屋の鍵を取り出す。

夢乃のローブに付いているポケットは、実と未來特製の異空間収納が付与された物で同じポケットに100個は入る優れものに加え、取り出したいものは念じるだけでポケットに入れた手に握られる。

そんなポケットから出した部屋の鍵を幻華に見せる。

意見普通の鍵のようにも見えるが、目を凝らせばうっすらと魔力に包まれているのがわかる。


「すげ〜、この鍵魔力登録が付与されてるのか」


「ほんと、けれどこれで落としたとしても所有者が誰なのかわかりますねぇ」


「落とすことは無いと思うけど、でもほんとに安全だよね」


想朱の言葉にジト目で軽く反論しつつ幻華は部屋の鍵を夢乃に返す。部屋の鍵を受け取った夢乃は、鍵と一緒に付いているストラップに視線を向ける。

ストラップは白と透明のマーブル模様で、光にかざせば透明の部分が淡く光っているように見える。


「……星の27号室」


「?星の27号室?」


「部屋の番号ですかぁ?」


左右にいる想朱と幻華が再び部屋の鍵を見つめていると、前を歩いていた過夜が反応を示す。


「星の27号室は、普通の部屋よりも広い部屋だね……なんて言えばわかりやすいかな?んー、皆が一度でも見てる部屋の広さの方がわかるよな」


腕組みをし、悩みに悩んだ末に出した答えを過夜は言う。


「村長と村人の部屋の差かな?ほら、恐らく村長の部屋と村人の部屋の広さは違うだろ?そんな感じで、そこの星の27号室は村長クラスで広いんだ」


過夜の説明により何となく広さを理解した5人は「なるほど」と口を揃えて言う。

そうこうしているうちに寮の前まで辿り着き、割り当てられた部屋に向かおうとした時だ。

丁度寮の中から5人の少女たちが出てくる。

見るからに新入生で、夢乃たちは初めて同学年に遭遇した。


「あら、問題児の皆様ご機嫌よう」


そう挨拶をしてきたのは、リーダーらしき人物。

夢乃もそう判断し、リーダーとして挨拶をする。


「ご機嫌よう、皆様は同じ1年生かと存じます…私たちも同じ1年生、また会うことがあれば仲良くしてくださいませ」


「……ふふ、いいわ仲良くしましょ」


不敵に笑う相手に、夢乃は微笑み返して相手が立ち去るのを待つ。姿が見えなくなるとやっと歩き出し、寮の中に入る。


「さっきの人、馬鹿してて嫌な感じ」


「まぁまぁ幻華、言いたいことはわかるけど今はあたしたちの部屋に向かうよ」


「夢乃ちゃんはあんな感じ言われていましたけど、何か感じるものはあったの?」


「私は別に何も……あの人がチームの皆のことを傷つけたり、悪口言われたらそりゃあ怒るけど今回は元々吹枝先生が言っていたことだからね」


夢乃がそう話せば意外そうな顔で幻華と想朱は夢乃を見ていると、実と未來は小さく微笑みながら補足をする。


「2人は気づいていたか知らないけど、夢乃が言ったのはここにいるメンバーに被害がなければそれでいいと言っているんだよ」


不敵笑う実に幻華は首傾げた。

そして実に続くように未來も口を開く。


「つまりは、わたしたちに何らかの被害があればそれは夢乃の怒りに触れるのよ……昔一度だけ夢乃の怒った姿を見ましたけど、あれ程怖いと思ったことがありませんわ」


未來の遠い目を見た想朱が青ざめる。

一体何が起こったのだろうっという考えが今、幻華と想朱の頭の中を締めている時、最後尾を歩いていた過夜が尋ねる。


「実際何をしたんだ?」


その問いに誰もの視線を先頭を歩く夢乃に向けるれた。視線に気づいた夢乃は、上に向うためにエレベーターのボタンを押すと、2台のうち既に来ていたエレベーターの扉が開きエレベーターに乗る。

扉は締り、行き先のボタンを押してようやく夢乃は口を開く。


「べ、別に大した事はしてないよ……ムカついたからちょっと力の制御ができなくてクレーターを作ったくらいだよ」


恥ずかしそうにそう答える夢乃に又も補足するように実が口を開く。


「隣国から送られてきた偵察兵1人と、その周辺の半径1メーターの森を犠牲にしてな」


「てことは夢乃は」


「守るためと言っても人を殺してる、3人くらい」


「3人って、残り2人は」


実の言葉にもっと聞こうとした幻華だったが、タイミングが悪くエレベーターの到着したポ〜ンッという音に遮られてしまう。


「あ、着いたみたいね……それじゃあ部屋を探しましょうか、確か星の27号室だったわよね?夢乃」


「うん、そうだよ」


未來の問いに笑みで答える夢乃が再び先頭を歩き始める。

夢乃が先に行ったことを確認してから実は自身の口元に人差し指を立てて囁く。


「夢乃が寝た頃にまた話そう」


「え、なんで」


「わかりましたぁ、ではこの話題は夢乃ちゃんが寝てからということでぇ」


「え、ちょっと想朱?」


幻華が言っている途中で割って入ってきた想朱に驚きながら抵抗しようとする幻華に、想朱は滅多に見せない真剣な顔で左右に頭を振る。


「夢乃ちゃんの前で話せない何か何です、ここは実ちゃんの言う通りにしましょう」


「___っ、わかったわよ」


少し拗ねがちだが何とか了承を得た実は「ありがとう」と言って、夢乃の側まで走っていく。

残された幻華と想朱も後に続き、エレベーターを降りた。

廊下を端近くまで歩いた時だ。ピタリと夢乃の歩みが止まり、1つの部屋の扉を指差す。


「ここみたい、皆いる?開けちゃうよ?」


辺りを見渡し、きちんと全員がいるか確認してから夢乃は鍵穴に部屋の鍵を差し込み右回りに回せば、ガチャッとロックが解除される音が鳴る。

誰もが緊張する中、夢乃がゆっくりと扉を開ける。

最初に見えたのは短い廊下と扉だ。

扉の真ん中は曇ガラスで、うっすらとオレンジ色の光が抜けて廊下を照らしていた。

5人は玄関で靴を脱ぎ、扉を開ける。

まず見たのは広々とした空間、ここはリビングだろう。そしてリビングを見渡せるオープンキッチン。

左右には廊下があり、各部屋の扉がある。


「広」


「ま、まさかここまでだなんて」


「お〜星の27号室ってこうなってるのか……家具も木製、ソファーもふかふか」


「過夜先生は在学中どこだったんですか?」


探索始める実、想朱、幻華を放おっておき夢乃がそんな質問をする。それを過夜の隣に立っていた未來が興味があるらしく、過夜の方に視線を向けた。


「ん?あたし?あたしは君たちと同じく問題児クラスの桜の29号室だよ……まぁ、何十年も前の話さ」


「桜の29号室?それはここよりもまた違った感じなんですか?」


「まぁね、何ていうのかな?簡単に言うなら金持ち風?」


未來の質問にそう答えた過夜に対し、探索をある程度終えた実が合流してくる。


「なるほどね、ちなみに星の27号室、桜の29号室て言うことは間の28号室も問題児に与えられる部屋ですか?」


「そう、名前は確か……空の28号室だったかな?でも違うのは家具だけで、広さは然程変わらないかな」


「なるほど」


「ねぇねぇ、部屋割りしようよ」


「そうね、先に部屋割りをしてから各自荷物整理、それからまたこのリビングに集合しましょ」


幻華の言葉に未來は頷きながら、今いるメンバーを確認する。今リビングにいるのは未來、夢乃、幻華、過夜の4人。


「想朱、実、部屋割りするから集合なさい!」


叱責するように未來が呼ぶと、どうやら2人は一緒に奥の部屋を見ている最中だったようで、バタバタと慌ただしくやって来る。

これで全員がいることになり、部屋割りを開始する。


「それじゃあまずは、皆はリビング側か壁際どっちが良いかしら?」


「私はリビングの近くがいいかな」


「あ、それならあたしは夢乃の隣の部屋がいい」


未來の問いにすぐに答えた夢乃に続き実が答える。

未來はそれを持ち歩いていたメモ帳に記入していく。夢乃と実に続くように、幻華が挙手しつつ口を開く。


「わたしは壁側がいい!」


「想朱はリビング側がいいかしらぁ」


「じゃあこっちで、過夜先生はどこが良いですか?」


「あたしはどこでも、余った場所でいいよ」


「じゃあこうしよう……よし、できたわ」


全員の意見をまとめ、メモ帳で部屋が決まり大きく頷く。


「決まったから言うわね、まず右側の方は夢乃、実、幻華…それから左側の方が想朱、わたし、過夜先生の順の部屋割りにしてみたんだけどどうかしら?」


「それでいいと思う!」


「うん、いいんじゃないかな」


「想朱もいいと思うよぉ」


「ふふ、部屋割りしてるだけなのに楽しくなるね」


「それじゃあこれで決まり!各自荷物整理したら リビングに集合、解散!」


未來のその合図と共に自室となった部屋に駆け出したのは幻華で、その後ろに続いて夢乃と実が歩き出す。

残った想朱、未來、過夜もそれぞれが部屋に向かって歩き出す。

再び全員がリビングに集合したのは、それから2時間後のことだった。


「あれ私で最後だったんだね、おまたせ」


リビングに顔を見せた夢乃は、2つあるソファーに座っているメンバーを見て、自身が最後であったことに気づく。

夢乃に気づいたメンバーも、「お疲れ」と迎える。夢乃も空いていたソファーに座る。


「なんか話してたの?」


「そう、今晩どうしようかって話てたんだよ……あたしはなんでもいいんだけど」


「んー、なんか持ってきてたかな?」


そう呟きながら夢乃はポケットに手を入れて探る。

その間に他の5人も話を進めていく。


「わたしは皆が楽しんで食べられる物がいいわ」


「あ、ならパーティー風に色々な食べ物を出すのは?」


「それかぁ、各自食べたい物を用意するとか?」


「それなら、各自好きな食べものを用意、それから皆でそれらを食べ合うのはどうだろう。

これなら皆が楽しめて、パーティーみたいで、好きな物が食べられると思うが」


過夜の全てをまとめた提案を聞いた4人は頷き、ある程度話はまとまった。

そこで次に視線を集めたのは夢乃だ。

5人が話し合っていた間ずっとポケットに手を入れて何かを探していた。その結果が今目の前に山のように積み上がっていた。


「夢乃、お前どれだけの果物をポケットに入れてたんだよ」


「こっちに来る1日前に取って、小腹が空いたら食べようかと思ってたの」


「それでもこの量を1人で食べるのは無理だったんじゃないの?」


「皆で食べようと思ったの、これデザートで出せない?」


「あ、この果物知ってる」


「あら、こっちも知ってるわぁ」


果物から知っている物を手に取りながら幻華や想朱は、知らない果物を興味深そうに手にとって見ている。


「これならわたしたちの村の果物も持ってこれば良かった」


「そうねぇ、そしたらまた違った楽しみ方ができたのにぃ」


「あ、この寮に小さいけど購買があるみたいだからそこで何か買いに行きましょ、それから夢乃が持ってきた果物をデザートに出しましょ」


机の上にあったパンフレットをさっと目を通していた未來が購買について言うと、幻華は瞳を輝かせており、想朱は少しそわそわしている。

それを見た未來は実と過夜を見て夢乃を見た時、疲れが出たのか眠たげな夢乃の姿があった。


「眠そうね、わたしたちが買い出しに行っている間夢乃は寝ていて」


「ん〜ん、一緒に行く」


「……でも結構眠そうだし」


「あ、じゃあ夢乃はあたしが見てるから4人で買い出し頼める?」


不安げな未來に救いの手を差し伸べるように実がそう言うと、未來はホッと安心する表情を見せる。


「というわけで、夢乃はあたしとお留守番だ……さぁ、あたしの腕の中で寝るがいいよ」


「わぁ〜、実の腕の中安心するぅ〜」


ほぼ寝ぼけた発言の夢乃に対して、とても満足そうに大切に夢乃を包み込む。

それを見届けて、4人は購買へと向かった。





夢を見た。

暗い道を夢乃1人だけが、歩いていた。

周りには誰もおらず、ただ一本道をひたすら歩いた。

しばらく歩いていると、遠くの方から差し込む一筋の光が見えた。夢乃はその光に向かって歩き続けた。

すると見えてきたのは、実や未來、幻華に想朱、そして過夜のチームラビットのメンバーの姿だった。

皆は楽しそうに会話をしており、夢乃もその中に混ざろうと駆け出した。

だがそこで違和感を感じ始める。

いくら走り続けても不思議と皆の側に近寄れない。それどころか皆が逆に遠ざかっていく様にも見える。いや、これは本当に皆は遠ざかっており見る見る離れていってしまう。


「待って、おいて行かないで!」


夢乃も精一杯に皆に追いつこうと走った。だが、既に見えなくなっており再び暗闇だけが残されていた。けれど夢乃は止まることなく走り続けた。

呼吸は荒くなり、幾度となく足はもつれながらも必死で走った。

随分長く走り続け、ついに1つの情景が広がる場所へ出た。

そこにあったのは皆が血溜まりを作り倒れている情景。


「えっ」


その情景を見た夢乃はその呟きしかできず、倒れて今もなお血を流す仲間の姿を見ていることしかできなかった。否、夢乃の頭の中は真っ白だった。

何故皆が血を流しているのかわからず…

何故皆が誰にやられたかもわからず…

何故今の自分は助けるために動けないのかわからず、ただじっとしている自分が嫌になる。


「ダメ、やだ」


何もできない自分に絶望し、息絶えていく仲間を見殺しにすることに絶望した。


「あっ……ッあ」


涙は溢れ、何とか動こうともがくが動かず、焦る心に限界を迎える。


「あぁぁあっ」





はっと目を覚ました夢乃はすぐに立とうとしたが、体に力が入らず、ソファーからずり落ちる。

するとどうやら買い出しから帰ってきていた4人が驚いた表情を見せる中、未來はすぐに夢乃に寄り優しく声をかけようとした時だった。


「やぁぁあっ」


涙を流し、夢乃がそう叫ぶ。

その姿を見て状況を察した未來は、夢乃を抱き起こしては少し強めに抱きしめて、背中をさすりながら耳元で訪ねた。

 

「どうしたの?何か怖い夢でも見たの?」


しばらく背中を擦っていると、段々と落ち着きを取り戻しつつある夢乃が答える。 


「みっ、皆が……っ死んじゃうっ」


「え、わたしたちが死ぬ?」


「これまた物騒な夢を見たわねぇ夢乃ちゃん」


「ゆーめの、大丈夫だ…皆死なないし、生きてるぞ」


そう言いながら姿を見せたのは自分の部屋に何かを取りに行っていた実だった。

実は未來に抱きしめられたままの夢乃の側に、そのまま歩き、そして夢乃の目を多いながら自身にもたれ掛かるように仕向ける。


「夢乃、それは悪い悪夢だ……忘れても大丈夫な悪夢だよ」


「死んじゃう、皆が、死んじゃう」


「大丈夫だ、約束する……チームラビット全員がずっと側にいると」


「でも___っ」


「大丈夫よ夢乃、何も心配することはないわ」


そう返した未來は実と頷き合うと、実は手にしたベルを一定のリズムで鳴らし始める。

チリ〜ン  チリ〜ン  チリ〜ン

少しの間そうやってベルを鳴らしていると、寝息が聞こえてくる。未來と実は夢乃がきちんと眠っていることを確認してから夢乃を部屋に連れて行く。


「落ち着いたから部屋に連れて行くよ」


「えぇお願いね」


「未來、夢乃どうしたんだ?」


「あの取り乱し様、何かあったの?」


「……」


実が夢乃の部屋に入るのを確認してから、幻華と想朱が訪ねてくる。過夜も何か言いたげにしているようだが、何も言わずに未來を見ている。

一斉に尋ねられた未來は、小さく微笑み説明を始める。


「皆は聞いた事があるかしら、“夢見姫”という名称を」


「夢見姫って国に使えている、国を守るための人材だよな?」


「確か予知夢を見る珍しい人だと記憶しています」


「…夢見姫とは、予知夢を見る方の名称であり、夢見姫のお陰でこの国が今もここで栄えている。

自然災害、人害の国に関係するものの一部を夢として見て国に伝える。それが主に夢見姫の役目だ」


「流石は過夜先生、その通りです……恐らくこの先授業で習うはずのことです

夢見姫の出身はわたしたちの村です、10代に1人、20代に1人、30代に1人、40代に1人、国には計4人の夢見姫が仕えていて大体同じ時期に同じ夢を見て確率を測る。4人が同じ夢を見ればそれはほぼ確定で起こる出来事、そして4人全員が別々の夢を見れば大体20%の確率で起こる出来事だから対策は建てられる……こうしてこの国は他の国に対抗できているの」


未來の説明を聞いていた幻華と想朱は目を見開き「まさか」と呟く。過夜はなるほどっと言うようにそっと目を閉じた。


「夢見姫は国宝とも言える程の人物。他国は暗殺者を派遣し、夢見姫を始末しようとするわ

けれど対策として、夢見姫は護衛を付けて行動する……もう理解していると思うけれど、夢乃は夢見姫よ…そしてわたしと実は護衛なのよ」


「え、でもそれじゃあ何で夢乃は学園に通ってるの?」


幻華の疑問は想朱と過夜も感じていた。

そこで夢乃の部屋から戻ってきた実が説明を引き受け、空いているソファーに座り再び説明を開始する。


「簡潔に言うなら夢乃の場合は他の夢見姫とは違うからだな、理由は他の夢見姫は国に関する夢を見る、そしてそれを王族又は王に伝えるんだけど夢乃の場合は、自身の親しい人に関する夢しか見ないんだ。しかも他の夢見姫と比較にならない程の的中率」


「例えるなら他の夢見姫の4人が同じ夢を見て起こりうる出来事の%は、約95%に対して夢乃が見た夢の起こりうる出来事に関しては約98%……小さい差かもしれないけれど、それでも3%という数字はとても大きの」


未來がそう言ってから実はそっと幻華の方に視線を向けて尋ねる。


「幻華、夢乃が殺した人について聞きたがっていたな」


「え、あぁ、うん…知りたい」


実の突然の問いに、一瞬戸惑ったがすぐに頷き返した。その答えを聞いた実は一度目を閉じ、軽く深呼吸をしてから話し始める。


「話すなら最初からだな……あの日、夢乃がまだ5歳の頃、両親が死ぬ夢を見たと泣きながらあたしの家にやって来た事がある。その時丁度、夢乃の両親もあたしの両親も隣国が攻めてきたため、休暇中であったけど駆り出される羽目に成る程に追い詰められていたんだ」


「あぁその戦いにはわたしの両親も駆り出されてた」


「想朱の両親も」


「あたしは丁度学生の身ではあったけど、参加していた」


実の話に思い出すように各々が呟く。


「わたしの両親は丁度村長が体調を崩し、目が離せない程に緊迫した状況下にいたから、たまたま実の家にいたわ。そこに泣きながら夢乃がやって来てその日は3人で寝たの」


「次の日に傷によく効く万能薬を作るための素材を取りに近くにある森へと向かった。普段から入り慣れていたから何も警戒しなかった……それが駄目だった」


悲しげな瞳で語るその日の後悔を映しており、幻華や想朱は静かに実が語る話に耳を傾けるしかなかった。


「森の入り口から少し奥に行った場所には泉があって、そこに咲いている花が万能薬の薬になると両親から聞いていたから、3人でその花を取り向かった。

その道中、たまたま偵察に来ていた隣国の兵とばったり遭遇した。当然あたしも未來もまさかそこに敵兵がいるとは思ってなかった、もちろん相手もそうだと思う。

殺られる前に殺らないとって必死にあたしは持っていた短剣で切りつけた、けれど子供の力は高が知れていた。あたしはすぐに手首を切られて短剣を握られなくさせられた、未來もすぐに応戦しようとしたけどすぐに敵兵に横腹を切られた……すぐにでも手当しなければ死ぬ程の深手を負ったんだ

その現状を目の当たりした夢乃は敵兵に激怒した……それも最悪な方向に」


そこで一度、実は夢乃の部屋の方を見てから話を続ける。


「これも授業で習うと思うけど、“魔女落ち”という言葉、聞いたことはない?」


「魔女落ち?」


「聞いた事がないわ」


「あたしは少しだけ……確か最強にして最恐の化け物であり、後悔・絶望・怒り・憎しみこのいずれかの感情が暴走した結果、魔力が逆流し、魔女落ちすると聞いている」


「そう、本来であれば落ちるはずのない事だった…けれどタイミングが悪かった、夢乃は前日に両親を亡くす夢を見て、不安定の状態だった。

そのタイミングに、あたしや未來の深手を見た。

そして魔力が逆流し、魔女落ちの状態になりその敵兵を殺した。腰にぶら下げていた剣を抜いて振り降ろしただけでクレーターが出来る程の威力、当然敵兵の遺体はほぼ残されなかった。

そこに騒ぎを聞きつけ、尚且つ夢乃を1人残したことが心配だった両親と未來の両親が駆けつけた……未來の両親はすぐに瀕死の状態の未來に気づいて治療を開始した、けれど魔女落ち状態の夢乃に敵味方の判別はできずに未來の側にいた未來の母親を刺し殺そうとした。その時、間に入り刺されたのは夢乃の父親だった……

夢乃は一瞬自我を取り戻したけど、すぐにまた感情の渦に飲み込まれそうになっていた。あの時の夢乃はとても苦しそうだった……

そこに飛び出したのは夢乃の母親だった。

夢乃の母親は夢乃を抱きしめて安心させようとしていた」


そこで再び目を閉じて、何か感情を押し殺すかのように少しの間、目を閉じていた。その間に深呼吸をして、再びそっと目を開けて説明を開始する。


「夢乃はそんな母親を拒むかのように突き飛ばしてすぐに手にしていた剣で切りつけた、その時あたしには夢乃のお母さんが殺されるのを受け入れているように見えた。

それから切りつけてから夢乃はようやく自我を取り戻した、だけどまたタイミングが悪かった。自分の手で殺した両親の遺体が目の前に倒れているのを見た夢乃は壊れかけた」


「壊れかける?」


「なんの感情もなく、ただの夢見る道具に成り果てることよ」


「え、そんなのダメに決まってるだろ」


幻華の言葉に実は頷き、説明続ける。


「だからあたしは夢乃が両親を殺したという記憶を書き換えて、夢乃の両親は戦死したことにした」


「記憶改善!?そんなことができるの?」


「夢乃だから出来ること、あたしや未來を信じ切っている夢乃だからこそ出来ることであって、本来はできないと思う……それで、あたしは書き換えて本来の記憶を封じた。

これが幻華が知りたがっていた夢乃が殺した3人、敵兵と両親の話だ」


「この話を聞いた皆にお願いするわ、今日と同じように接してあげてほしいの」


未來からのお願いを聞いた幻華や想朱は少しの間沈黙していたが、先に過夜が答えたことにより追う様に2人も答える。


「あたしは別に、今の夢乃しか知らないから接し方は変わらないさ」


「わたしも!わたしも変わらない、確かに実や未來を守るために殺したとしてもそれを含めて夢乃なんだならね」


「想朱も変わらないわ、だって想朱の学園で最初の友達になってくれた人だから」


「……っ、ありがとう」


「ありがとうございますわ、皆」


3人の言葉に嬉しそうに微笑みながら実と未來は感謝した。

そしてその日はもう時間が遅くなっていたため、解散となった。






人気のないカーテンの締め切られた部屋の中、円卓に座る10人の人物。暗い部屋の中、明かりも付けずに向かい合っている。


「それで、これからどうするわけ?」


「どうするも何もこのまま見守るだけの話だ」


「でもこのままでは意味がないのでは?」


「意味はある、そのための準備期間なのだから……今は焦ることはない、このまま見守るのみだ」


はっきりと誰かがそう宣言すれば、誰も何も言わなくなる。誰もが様子を窺う中、誰かの呟きが部屋の中に響く。


「全てはあの方のために、全てを順調に進めなければ」


その呟きに誰もが頷き返している。


「さぁ、話を進めよう」


誰かのその発言に誰もが緊張した気配を感じつつ、話を進めて行く。その場の誰もが求める結果に向けて

最後まで読んでくださり、ありがとうございます。

読者が楽しく、読んでくだされば嬉しいです。

次回も読んでくだされば、幸いです。

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