【カリン・フォードウェルⅡ】
《あたしはなぜここにいるの? なぜまだ生きているの? 生きる意味も、理由もないのに》
あの男と出会ってから二ヶ月。
あたし達は身体中至る所までいじられた。苦痛、だったかもしれない。でもよく覚えてない。
苦痛っていうのは生きていてこそ感じるものだから。あの時のあたしは生きているようで死んでいたから、だから覚えてないの。
ただ身体中をいじられすぎて自分がもう人間の姿をしていないんじゃないかって、思った時期もあった。
でも、周りからは『強化人間』って呼ばれてたから少なくともそんなことはなかったみたいだけど。
何故、自分が今も生きているのか。あたしにはその理由がわからなかった。
それを考える気も、もはやあたしには起きなかったし。
だからあの時、あの男の言葉を否定も肯定もしなかった。その結果が強化処置。ある時、
「あなたを生かした私を恨んでいますか?」
医務室で、あの男があたしに注射をうちながら聞いた。
あたしは無言のまま頷く。
もうこの世界には、おじいちゃんもおばあちゃんもパパもママも、お兄ちゃんもいないんだから。
あたしにはこの世界に生きている理由がもうなかったのに。
知らず、涙が溢れていた。
「ならば私が与えてあげますよ、貴女の生きる意味を」
そう言ってあの男はあたしの涙を指で拭った。
「殺せばいいんです、貴女をこんな境遇に追い込んだ奴らを」
あの男は笑った。
「簡単でしょう?」
――その後のことは、よく覚えてない。
※
「いいわね? 突入したら各個撃破。基地を制圧する必要はないから全て破壊して」
通信モニターで千津葉が真剣な声色で喋ってる。あたしは今、コックピットに座っていた。
人型戦闘兵器『スヴァローグ』のコックピットに。
難しいことは全部わからない。わかる必要もない。あたしはただ、
「あたしの敵をみんな殺す。殺し尽くす」
それだけ。
「行くわよ、カリン。秀二君」
あたしは先行する千津葉の後に続いた。あたしが、これからも生きていくために。