【車田 千津葉Ⅱ】
《私は悪魔に身を売ったらしい。少なくとも彼らは軍人じゃなかった。でも彼らは言った。「仇を討たせてやる」今の私にはそれで十分だった》
私はどこかの研究ラボ、その会議室らしきところに連れてこられていた。
「…………」
開戦したあの日。
自衛官だった彼は連邦の電撃作戦によって命を落とした。私の世界は色を失い、深淵よりも深い闇に染まった。
しかし、私の世界は再び照らされる。憎しみという光によって。
だから私は、今ここにいる。彼の仇を討つために。
でも、ここはわからない事だらけだった。見る限り何かの研究施設なのだろうけど、それ以上に気になったのは私と同じように集められたその顔ぶれだった。
私以外はどう見ても子供で一人はまだ中学生くらいのボブヘアーの金髪美少女。背格好も年相応のただの少女といった感じだ。
もう一人もまだ成人には満たないであろう、素朴な青年。
二人ともこの場所にいるのが激しく場違いだった。うつろな表情をして、何故自分がここにいるのかすら、この子たちはわかっていないようだ。
……それは、私も同じなのかも知れないけれど。
本当にこんなところで彼の仇を討てるのだろうか? 私の胸の中には一抹の不安がよぎった。
不安で私が唇を噛みそうになった瞬間、小気味のいい音でドアがノックされ部屋の扉が開かれた。
「やぁ、諸君はじめまして、私はイリヤ・マーカー。以後、よろしく」
陽気な声でしゃべるその初老を迎えたばかりであろう、ひょろっとした体型で白髪オールバックに丸メガネの男は、一見元気なただの一科学者に見えた。
ただそれは、すぐに私の誤った認識だとわかるのだけれど。
「私は何を隠そう、君らの愛しい人達を奪ったヴェレスの産みの親だ」
両手を広げて高らかに、この男は今なんと言った? 同じ室内にいた私達は思わず耳を疑った。
他の二人もさっきまでは一様に無関心だったのに、その目は今やあの男に向けられている。
「素晴らしい、実に素晴らしい! その目だ、その憎しみだ! 私も同じ憎しみを抱えている。あぁまさか、こんな形で私のヴェレスが使われることになろうとは!」
大仰に悲しみを語る、この男の真意を私は計りかねた。この男は私達と同じだと言った。
だけどその目は、決して私たちのように負の色合いには染まっていなかった。
その目は、何かに期待するように、鈍く、歪んで、輝きを放っていたのだ。
「だから私は、君らに願いを託そうと思う! 私はヴェレスが、私の子らが、これ以上世界を壊す様など見ていられない! そして君達は、愛する者の仇を討ちたいはずだ! ならば……話は簡単でしょう?」
この男は何かを企んでいる。それは確実だった。
でも、私に彼を奪った奴らに復讐する力をくれるらしい。
――確かに話は簡単だった。